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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第五十五話 予備隊隊統率者本隊

五五話が消失してしまったため書き直しました。

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたm(  )m

 カーン部隊長率いる部隊と遊撃隊を見送ったグラート王子率いる予備隊は針路を北に向けてゆっくりと進軍していた。予備隊の構成は騎兵200、重装歩兵200、歩兵200、弓兵200、魔法士200と万遍なく兵科が揃っており、その運用さえ間違わなければどのような状況にも対応できるものであった。彼らは全員が王都守護騎士団の人間であり、グラート王子と共に王都アルトナから出張ってきた者たちである。そして実質的な指揮官は1000人の騎士を束ねるムトス部隊長。王都守護騎士団の中でも遊撃部隊を束ね、数々の魔獣討伐で名を挙げている部隊長で、『魔獣キラー』の異名を持つ指折りの前線指揮官である。彼に付き従う10人の小隊長たちも単独でCランク魔獣と渡り合えるのではないかと言われるほどの猛者たちであった。


「部隊長。北東の偵察隊だけが戻ってきません。」


 騎兵20騎を5組に分けてエレベ山脈側に派遣していた騎兵の小隊長から報告が上がる。


「統率者は北東か・・・・・・」


 ムトス部隊長は北東の方角を睨んで言う。自らの部隊に半端者はいないと信じるムトス部隊長は、機動力に優れる騎兵4騎が少数の低ランク魔獣に後れをとるとは思っていない。彼らが戻って来ないということは少なくともCランク以上の魔獣に遭遇したか、低ランクの群れに囲まれたかのいずれかだと判断した。そしてこの『山崩し』の戦場に置いてその相手は統率者率いる本隊に違いないと確信する。


「北東に向けて隊列を組み直せ。出るぞ!」


「はっ!」


 予備隊の名目上の指揮官はグラート王子だが、彼には魔獣討伐に随行したことはあっても騎士団を指揮した経験はない。だから実際の戦場に置いてはムトス部隊長に全権が委ねられている。


 ムトス部隊長の指示によって統率された予備隊1000名は真北へ向けて組んでいた隊列を右45度へと素早く展開する。先頭に立つのは重装歩兵200、その後ろに歩兵、魔法士、弓兵の順で並び、騎兵は2手に分かれて歩兵の左右につく。


「聞けぃ!」


 号令から数秒で隊列を整えた部隊に満足したムトス部隊長が声を張り上げた。


「我々はこれより統率者率いる敵本隊を討ちに出る。これまでの情報で敵は統率者の他にCランク魔獣のフォレストベアーが10、Dランク魔獣のロックアイベックスが200はいると思われる。」 


 ムトス部隊長は敵戦力を隠すことなく全員に告げる。敵は強大だが、それに臆する者などこの中にはいないからだ。


「確かにこれだけの数を一度に相手にしたことはない。だが、俺たちならやれる。そうだろ?」


 ニヤリと笑うムトス部隊長に予備隊の面々は笑顔で応える。全員が獰猛な笑みで。


「よし。行くぞ!」


 配下の反応に気を良くしたムトス部隊長を先頭に予備隊は行動を開始した。





「報告! 前方の雑木林の奥に魔獣の影を発見。」


 予備隊が北東に向けて針路を取ってからおよそ30分で先行偵察に出ていた騎兵から報告が上がってきた。


「見つけたか。雑木林の手前100メートルで一旦停止するぞ。平地に誘き出してから叩く!」


 素早く周囲の地形と味方、敵の戦力を脳内に描いたムトス部隊長は指示を出す。しかし、そこに口を出す者がいた。


「ムトス部隊長。敵は突進力に優れたロックアイベックスが200はいるはず。平地で停止しては奴らの突撃をまともに受け止めねばならないのでは?」


「ええ、アーガスの言う通りだと思いますわ。それを避けるにはこちらから雑木林に飛び込むべきでは?」 


 アーガスとアリスの2人であった。その後ろではグラート王子が口こそ挟まないものの同様の意見を持っていることを表情が物語っている。それを見たムトス部隊長は面倒だと思いながらもその意図を説明する。


「確かにロックアイベックスは突進力と硬い表皮を活かした突撃が最大の武器の魔獣です。ですが、我が隊の重装歩兵であればそれを受け止めることが出来ます。」


 事実、防御に特化した重装歩兵は1対1でロックアイベックスの突撃を受け止めるだけの実力はある。


「数に目を奪われてはなりません。我々が気を付けなければならないのはCランク魔獣であるフォレストベアーとBランクと思われる統率者です。フォレストベアーはその名の通り森を住処とする魔獣であり、奴らの方に地の利のある雑木林の中で戦うことは避けねばなりません。」


 雑木林の中では騎兵は役に立たないし、弓兵や魔法士の攻撃も射線が確保できない。そして防御に特化した重装歩兵は攻撃手段に乏しく、実質的に歩兵200で攻撃をしなければならず火力不足である。


「戦闘では相手を見るだけではなく、自軍の戦力や士気、地形や天候と様々な要素を検討した上で判断をしなければなりません。」


 それが出来なければ死ぬ確率が上がりますから、と続けるムトス部隊長にアーガスとアリス、そしてルード王子は肝を冷やす。ムトス部隊長の冷ややかな視線と本当の死線を潜り抜けたことのある者特有の空気に中てられたのだ。


「そ、そうか。戦場での指揮は全てムトスに任せる。」


 グラート王子が指揮権の全てをムトス部隊長に委ねる。グラート王子の言葉にアーガスとアリスも異論を挟まない。普段はムトスの無骨で気品に欠ける振舞いを苦々しく思っていたのだが、彼は武人なのだとはっきりわかったのだ。貴族であり政治が本職であるアーガスとアリスとは生きる世界が違う。そしてここは戦場であり、ムトス部隊長の生きる世界である以上は彼に従わざるを得ないことを理解したのだった。


 グラート王子と側近の2人はムトス部隊長の指示で最後方へと下がっていった。そしてすぐに部隊が所定の位置につく。


「敵の親玉の姿は確認できるか?」


 ムトス部隊長は視力を強化している兵に声を掛けた。


「いえ。向こうもゆっくりと雑木林の中をこちらに移動しているようですが、まだ確認できません。」


「っち。もったいぶりやがって。」


 ムトス部隊長が悪態を吐く。統率者の正体が不明のままでは戦闘の方針が決まらないのだ。Bランク魔獣だとは思っているが、その種類は多い。火、水、風、土のどの種類に耐性を持っているのか? 剣が有効なのか魔法が有効なのか? 敏捷型なのか剛力型なのか? それによってぶつける戦力が変わってくるし、取るべき陣形も変わる。


「まもなく先頭のロックアイベックスが雑木林を出ます。」


「フォレストベアーと思われる巨体を確認。その数10。情報通りです。」


 雑木林の手前100メートルで停止する予備隊の前に次々と魔獣が姿を現した。  


「統率者の本隊で間違いないな。さて、統率者はどこだ・・・・・・」


 魔獣の群れはロックアイベックス200を先頭にし、その後ろにフォレストベアーが横に並んでいる。


「中央に新たな影発見! フォレストベアーの後ろです!」


 魔獣の群れは雑木林を出てすぐに停止し、ロックアイベックスはまるで主を迎えるかのように身体を縮めていた。そして統率者が姿を現した。


「プレーリーレオ・・・・・・」


 百戦錬磨の部隊に僅かな動揺が走る。草原の覇者、百獣の王とも呼ばれるライオンの魔獣化した姿は雄々しい。オスであることを示す立派な鬣は威圧感を感じさせるし、魔獣化したことで身体が2回り大きくなって全長4メートルはある。


「騒ぐなっ!」


 部隊が浮足立つのをムトス部隊長が威圧を籠めて抑える。戦闘において弱気は死に直結する。そのことを理解するムトス部隊長の声に小隊長たちも続く。


「我らが一丸となれば問題ない。」


「臆するな。首級がプレーリーレオなら褒美は期待できるぞ。」


 それぞれの言葉で部隊の動揺を瞬く間に鎮静化させた。王都アルトナ近郊の魔獣スポットを転戦するムトス部隊長の隊は魔獣討伐に関していえばハンザ王国内で最も経験豊富であり、その立ち直りは早かった。だが、すぐに新たな影が現れたことで再び部隊に動揺が走る。


「なっ! 新たに2頭のプレーリーレオが! メスが2頭です!」


 視力を強化していた兵が声を上げるが、すでに魔獣の群れは雑木林を出ており、ムトス部隊長の部隊との距離は100メートルを切っている。全員が目視にて確認できる距離だった。


「Bランク魔獣が3体・・・・・・だと!?」


 さすがのムトス部隊長も一瞬動揺に包まれる。ムトス部隊長自身はCランク魔獣なら1対1で戦えばほぼ間違いなく勝てる。小隊長たちも五分の戦いは出来る力量を持っている。だからオスのプレーリーレオが現れても僅かな動揺で済んでいた。多少の犠牲は出るだろうが、全体とすれば勝利の可能性の方が高いという思いが根底にあったからだ。しかし、Bランク魔獣が3体となると話は違う。良く言って五分五分、相手が戦略性を持つ統率者であることを考えれば不利だとも言える状況になったのだ。そして知性を持っていることを示すかのように統率者は予備隊が動揺している隙を突くかのように攻撃を開始した。


「っく! 重装歩兵構え! 大盾を撃ち込めっ」


 オスのプレーリーレオの咆哮を合図に地面に伏せていたロックアイベックスが突撃を開始したのを見て、それを防ぐべく予備隊の先頭にいる重装歩兵に防御の構えを取らせる。


 重装歩兵の大盾の下部には尖った杭が付いており、それを地面に突き刺すことによって簡易柵にするのが敵の突進を食い止める常套手段であった。ムトス部隊長の指示によって条件反射的に大盾を地面に突き刺した重装歩兵200。訓練の成果が出たことで最初の一撃を辛くも受け止める重装歩兵に予備隊全体が安堵する。しかし、戦えると気を取り直した瞬間に予備隊の後方から悲鳴が上がった。


「何があった!?」


 ロックアイベックスが一旦下がって再度突進の助走に入ろうとする姿を視界に収めながらムトス部隊長が声を漏らす。


「ロ、ロックイーグルの奇襲です!」


 傍らに居た騎士の1人が後方上空を指差す。その指に導かれるようにムトス部隊長が視線を向けると、そこにはおよそ30のロックイーグルが上空を舞い、そして何かを落としてくる姿が目に入った。


「人を持ちあげて落としているのかっ!?」


 ロックイーグルは猛禽類と呼ばれるものの1つだ。鋭い爪と嘴を持ち、他の動物を捕食する習性のある鳥類の総称であり、翼を広げると3メートルを超える大型鳥類である。そして高次捕食者である猛禽類は空の王者とも呼ばれる。 

 

「弓隊、魔法隊はロックイーグルを牽制しろ! 重装歩兵と歩兵は前面のロックアイベックスに集中! 騎兵は左右に展開してロックアイベックスの突進を受け止めた瞬間を狙って横撃せよ!」


 ムトス部隊長は素早く指示を出すが、予備隊の混乱は中々鎮まらなかった。正面からはロックアイベックスが突進力と硬い身体を活かした突撃を繰り返し、上空からは空の捕食者が攪乱し、追いついたフォレストベアーが腕力にモノを言わせて大盾を砕きにかかる。


 騎兵が左右に展開して敵の分断を図るが、プレーリーレオの統率が行き届いた魔獣の群れは騎兵には目もくれずに突撃を繰り返していた。


 重装歩兵はなんとか敵の突進に耐えているが、ここにきてムトス部隊長は統率者の狙いに嵌ったことを認めざるを得なかった。


 プレーリーレオは自身の姿が畏怖を抱かせることを知っていたのだ。だから登場シーンを演出した。雑木林の暗がりからゆっくりと姿を現し、そして遅れるように2頭のメスを登場させてこちらの動揺を誘ったのだ。そしてそれを確認してから威圧を籠めた咆哮を発し、配下のロックアイベックスを突撃させた。しかし、それすらまだ狙いの全てではない。前面に意識を集中させたところに上空からの奇襲。


 予備隊は自分たちが統率者の群れを狩るつもりでこの場に来た。だが、今の状況はどうか? 狩る立場に立ったのは間違いなく統率者率いる魔獣の群れだ。予備隊は防戦一方であり、本来は重装歩兵が突進を受け止め、そこを剣や槍を持った歩兵や弓を持った弓兵と協力して魔法士たちが手傷を負わせるといういつもの戦いは出来ていない。弓兵と魔法士は上空のロックイーグルに気を取られているし、歩兵もフォレストベアーの膂力で開けられた重装歩兵の穴を埋めるのに必死だ。辛うじて騎兵だけは攻撃に専念できていたが、統率者の指揮能力が高いためか、ロックアイベックスを攪乱するという役目は果たせていなかった。


「くそっ! 一旦立て直さなければ・・・・・・」


 狩りに来た身としては癪であるが、一部の重装歩兵が食い破られ、乱戦に移行しつつあるのを見てこのままではプレーリーレオが参戦すれば壊滅する恐れもあると考えて大声を出した。ムトス部隊長はこのままでは削られるだけだと判断して一旦陣形を防御型に変えることを決断したのだ。


「方円に移行する!」


 方円の陣とは、大将を中心として円を描くようにして兵を配置し、全方位を警戒する防御陣形である。この陣形は奇襲警戒用の陣形であり、普通なら今のような平地で交戦中に取る陣形ではない。だが、ムトス部隊長は重装歩兵の防御能力を信じたこと、そして今一度全兵を自らが鼓舞する時間が必要だと感じてこの陣形を選んだ。それに加え、グラート王子という守るべき対象がいることもあった。王子を方円の陣の中心に据えて彼を守る必要があったのだ。




「被害報告急げ。」


 ロックアイベックスが突撃のための助走に入ったタイミングで素早く全軍が後退して陣を組み替えたムトス部隊長は怒りの表情を浮かべる。戦場を下げたことで味方の兵の倒れている姿が多数確認出来たのだ。


「200は減ったか・・・・・・」


 ムトス部隊長の見立て通り、この時すでに予備隊1000名の内200名あまりが戦闘不能もしくは死亡しており、方円の陣を組んだのは騎兵を除く600程であった。


「このまま引き下がってたまるか。」


 断続的に繰り広げられるロックアイベックスの突撃とロックイーグルの牽制を防ぎながらムトス部隊長は後方で戦況を見つめるプレーリーレオたちに憎悪の視線を叩きつけていた。






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