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G・ガール!
作:りき



G・ガール! 10



 ぬか漬けよこせだの、みそ汁はないのかだの、散々なリクエストをしてはみた徳二郎だが、結局爽汰が用意した、トースト二枚と牛乳を胃袋に入れてともかく家を出た。
 爽汰の提案で、まずはバッティングセンターに行ってみる事にした。
「なんで、バッチングセンターさ行くんだ?」
 二人は海に近い大河の上に架かる橋を渡りながら、その対岸に見える大きなスポーツセンターに向かい歩いていた。
「うん……。この事態が起きた発端は、昨日の球場でしょ。だから、なんかバットを打つ音とか、ボールの匂いとか、そういう昨日と似た雰囲気に近づいたら、もしかして、と思ってさ」
 川の上空に吹く強い風に思いのほか体を取られ、足踏みをした爽汰は、そこに居るはずの理沙子の姿が見えない事に気づいた。
「あれ?」
 そのまま振り返ると、数メートル後ろで、橋の手すりに体を持たれて立っている理沙子を見つけた。
「石崎さん……、じゃないや、じいちゃん、どうしたの。……って、ちょっと!」
 来た道を歩み戻ろうとした爽汰の目に写った光景は、その足を思い切り走らせた。
 徳二郎は、手すりの上部に飛び乗り、そこに腹部を乗せ天秤のように頭と足でバランスを取っている状態だった。そのまま、外にすこし体重をかければ、大きく深い海のような川へと落ちてしまう。
「おっとっと……」
 足をブラブラと浮き上がらせながら、徳二郎は真下に見える川面をわざと見ていた。
 駆け寄ってきた爽汰に、その手を想いっきり握られた徳二郎は、特に慌てるようでもなく、トンと地面に飛び降りた。
「何やってんの、危ないだろ!」
 怒鳴る爽汰を、驚くような顔で見返す徳二郎は言った。
「何って、おめ。ここから落ちそうになったらよ、びっくりしてお嬢ちゃん出てくるんでねかと思ってよ」
 爽汰は大きく息を吐く。
「もう、じいちゃん……。その、何か試してみようと思ってくれた気持ちは嬉しいけどさ、出来たら、一声かけてからにしてくれない? いたるところで自殺まがいのことされてたら、俺、心臓持たないよ」
 徳二郎は、何を思ったか急にしおれた顔をして、涙声になって言った。
「ううう、爽汰。おめは、そんなにじいちゃんの事心配さしてくれたのか。わかった。爽汰がそんなに言ってくれんなら、じいちゃんも気をつける」
 びしっと約束してくれたのはいいのだが、爽汰としては、心配した対象は理沙子の体だっただけに、少々複雑になりながらも頷いて言った。
「まあ、どっちにしても、死なれたら困るし……」
「どっちにしても、ってなんだべ」
「……なあんでもない」
 そんなこんなで、二人はスポーツセンターの屋上に設置されている、バッティングセンターに改めて向かった。  
 午前中の早い時間にも関わらず、全国的に休暇モードに入る時期だけに、数人のお客さんがバッティングマシーンで各々快音を鳴らしている。
 二つ空いている打席は、一つが初心者用と書いてある六十キロ。もう一つは、大リーガー用と銘打たれた百四十キロの速球だそうだった。
 爽汰はその二つを見比べながら言う。
「さすがに、大リーガーは、無理か」
 いい音でホームランクラスの球を打ち返し続けている、中年の男性を惚れ惚れ見ていた徳二郎は、口をあんぐりあけながら聞く。
「言っとくが、ワシは野球なんかやった事ねえぞ? 昔はよくテレビ中継さ、観てたがなあ」
「別にやった事なくても、大丈夫だよ」
 そう言うと爽汰は、初心者用の打席に入って行った。
「こっちにしようか」
 どうするのかと見ていた徳二郎を、手招きする。
「爽汰。ワシは打てねんだよ?」
 緑色の防護ネットをくぐり、打席の中に入って来た徳二郎は、もう一度念を押した。
 それは問題ではないとばかりに、聞き流しながら、爽汰は後ろのポケットに入った財布から、小銭を取り出した。
 チャリン、チャリンと百円玉を二枚投入口に入れると、まっすぐ先に見えるバッティングマシーンが、離れた所で起動音をあげる。
 徳二郎はもちろん、爽汰もバットを手に持たないないまま、さっそく第一球目が投げ込まれた。その球は丁度二人の間を通り抜け、後ろのネットに当たり地面に転がった。
 元来た方向に加速しつつ戻って行くその球を、目で追うものの徳二郎は未だ要領を得ない。
 待った無く、次の球が投げ込まれたのを見ながら爽汰はあっさり言った。
「じゃ、当たってみて」
 徳二郎は何か、聞き間違いだと思った。
 最近になって、遠くの声がなかなか聞き取りづらいと、歳を感じてきたところだ。
 いや、でも今は、十代の若者の体のはず。
「なんだべ?」
 爽汰は真剣な表情で、今度はもっとはっきりと言い直す。
「だから。後頭部に、ボール、当ててみて」
「殺す気か!」
 広々としたバッティングセンターに、その大声は響いた。定期的に刻まれていた、打音がその時だけはぴたっと止まる程。
「だって! 石崎さんが意識を失った時と同じ刺激をもう一度与えたら、今度は元に戻れるんじゃないかって、普通思うでしょ!?」
「こっだら早いボールに当たったら、意識が戻る前に命が無くなんべ、ばかもん!」
 爽汰は、なかなか引き下がらない。
「だから、初心者用にしたじゃない……」
「あのなあ。バットで打つなら、初心者用のスピードでも、頭で受けるとなれば、十分、全盛期の江夏並のスピードだ」
 爽汰は、ん? とちょっと戸惑う。
「豪速球って事だべ」
 今で例えるなら、クルーンと言うべきところだろうが、徳二郎のボキャブラリーだとそうなるらしい。
「まったく……。とんでもねえことを言い出す孫を持つと、驚かされる」
 先ほどの川に飛び込もうとした自分の行動は棚に上げ、ひどい事をさせる、などと悪態をつきながら打席から出て行く。
「ちょっと、じいちゃん。待ってよ……」
 こちらも、橋では危ないと怒ったくせに、なぜボールを頭に当てるのはいいと考えたのか。
 簡単に言えば、似た者同士と言う事なんだろう。  












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