#8 エイプリルフール廃止!
「え? エイプリルフールって無くなっちゃったの?」ハイエナのように噂話を求める目つきの主婦達が溢れかえっている昼過ぎのファーストフード店で、人目を気にせずに真智が言った。真智の肩まである真っ直ぐで触れずとも潤いが伝わってきそうな黒髪が上下に揺れている。
「真智、知らなかったの?常識だよ常識」言い終えた後、手にとったハンバーガーを口に含む。体には悪そうだが、味としては悪くはない。
「全然知らなかったよ。フミはどこで知ったの?」
「今朝のニュースで、大臣って人が言ってた」口の中ですり潰されていく牛肉と萎びた野菜、そして三日間砂漠に放置されたような潤いの欠片もないバンズが混ざっていく。
「へえ、じゃあ私みたいにエイプリルフールが無くなったことを知らない人たちは大変だね」真智はそう言いながら、食べ終えたハンバーガーの包み紙を頷きながら四角に畳んでいく。
「大変? どうして?」
「だって、嘘ってついちゃいけないものでしょ」真智は畳み終えた包み紙を宙に浮かすように優しく投げた。包み紙は私の額に当たった後、店員がモップ掛けをしたばかりの床に落ちた。
翌日、四月二日のニュースを見て私は愕然とした。「エイプリルフール廃止!」という文字が新聞の一面を飾っていたからだった。老眼鏡をかけ、時折納得したように頷きながら新聞を読んでいる父親から新聞を無理矢理奪い取り、活字体の群れに目をやる。
「ハネムーンを終えたばかりの新婚夫婦がエイプリルフルールに離婚届を出し、本当に離婚成立?」馬鹿としか言いようがないな、と私は溜息交じりに呟いた。
次の群れに目をやると「世紀の発見は捏造だった!責任逃れからか、所長失踪!」と書かれていて、やはり金星人の化石は嘘だったのかと肩を落とした。
新聞を読み進めていけばいくほど、どれほど社会が大混乱に陥っているのかが直接頭の中で絵となって浮かんでくるように解った。額からは汗が垂れ、生唾を飲み込む。「私って嘘の天才だったんだ!」
報道陣はエイプリルフール廃止を連日連夜取り上げた。廃止を唱えたと噂されている大臣には何本ものマイクが向けられた。
大臣はマイクを向けられる度に、一度咳払いをし、「記憶にございません」とだけ答えていた。
―終―
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