#43 余生回廊孤島
肌がストレスを感じている。
肌が悲鳴をあげるのも億劫だよと訴えている。
太陽のせいだった。
これまで雨には出逢っていない。それが幸運なのかは正直判らない。だって現在進行形の私には喉の渇きも空腹感もないのだ。それなのに危機感がないのは、さしずめ慣れという名の疫病に侵されているからだと私は安易な考えをもつことにして異常を正常化してどうにかこうにか今もこうして生きながらえている。
「これでここでは何本目?」
私は今しがた地面から引き抜いたばかりの小人をしげしげと眺めながら、
「どうでもいいけど」
小人はキャッピー!、と甲高い声を発しながら私の手の中でもがく。「キャッピー!」
私は小人についた橙色の土を払いつつ、ふむむ、と頭をひねってみる。
こいつは誰だっけ?
地面から緑色の葉をだして滞在する小人たちはいつもこうして私を悩ませる。抜いてホイ、抜いてホイ、はいはいサイナラサイナラ、といかないのが常で私は軽い頭痛を感じながら記憶を甦らせるのだ。
「あんた誰?」
「キャッピー!」
「うん。みんなそう言う」
「キャッピー!」
私は小人の頭から生えた葉をぎゅむっと掴んで、振りかぶって、それから地面にビターン!
キャキャッピー…、と力なく鳴く小人の拳ほどの頭をかかとで踏む。大変気持ちがいい。
「答えなさい」
土に口をふさがれているような態勢になっている小人の沈黙は不可抗力なわけだけどそれを許すか許さないか、また、それは生意気か生意気じゃないか、ってのは別の問題なわけ。だから私はまた小人の後頭部を、血液でつくった熱をにじませたかかとで、ぎゅむっ。
ギャギャッッピー!
これが断末魔のなんとやら。これまで何度もきいた音声。新鮮味皆無。
目標完全に沈黙。
しかしいつも心が痛まないのに、あゝ無情、なんかセンチメンタルじゃん。
たぶんたった今、私のサド欲求を満たすために絶命した彼は私が普通の暮らしに徹していた頃に大事な人だったんだな、と遅ればせながら感慨深く思っちゃうけど、やっぱ時既に遅し。死んじゃった人は生き返らないのだ。七つのボールを集めて龍をよべばなんとかなるかもしれないけど、〈ここ〉はそんな冒険的な要素はなくて、ただただずっと呼吸をするように小人を引き抜いて、
「これ誰だっけ?」
と疑問符と戦い続ける孤高の戦士ショーのみが存在する。
しかも大体答えは出ないで、さっきみたいにイラついて地面にカツオの叩きよろしくペット虐待よろしくな感じで殺してしまう。罪悪感皆無。
第一答えがでたとしても確証はない。なぜなら〈この孤島〉にいるのは私だけなのだから、当然、
「正解っ!」
と赤いハットをかぶったアナウンサーくずれはいないし、
「十っポインツ!」
と心地よく気前よく叫んでくれる芸人もいないのだ。
すべては私のさじ加減。
当たってるっぽい。
これは当たってるといえなくもない。
こんな曖昧な永遠のクイズ。
やってられるかバカヤロー!
なんて太陽に吠えたところで、負け犬さながらの反旗は残念賞的な終焉によってぽっきりおられてしまう。
受け入れて私は、ずっと、受け入れ続けて、この亜空間ともいえる不可思議な孤島でクイズを続ける。
この目下の状況に陥ったのは私に罪があったからなのか。
それとも何もない平坦な道で突如なにかに躓いてこけてしまうようなものなのか。
とりあえずここにきて時間感覚もないから私はいくらでも物事を考えるようになった。私はこれまで何百人、いや何千人という人たちと出会ってきた。道ですれ違っただけなのを出逢いとよぶのならその何倍もの人たちを意識したことになる。
でも、
私は、
その人たちのことをほとんど覚えていない。
自己紹介という交わりの儀式を行ったにも関わらず、顔をみただけでは思い出せない。ああ、でもこれは言い訳なんだって思っている一面もある。おそらく名前をいわれても、住所をいわれても、いきなり殴りつけられても、思い出せないものは思い出せない。開き直り。
高校生の頃、漢字テストをうけているとき私はどうしても、〈鯛〉が思い出せなかった。シャーペンの尻を鼠さながらがじがじ噛んでも思い出せなかった。しまいには貧乏ゆすりが加速して机をゆらして私は、
「あああああああ!」
って酔狂な不快表現をしそうになった。そんな私をみかねた当時の担任、同時に現国の教師が私に言った。
「一瞬で思い出せないものは、いくら思い出そうとしても思い出せないよ」
私はぽかんと開いた口がふさがらない状態。場所が教室じゃなくて湖だったら確実にパンクズをほうりこまれていると思う素晴らしい出来。口ぽかん。目てーん。
「忘れる。つまり、思い出せないっていうのは、もう記憶にないって事なんだ。ないものは生み出すことはできても、そこにあったことにはもう二度と出来ない」
「私は思い出せないだけなんです。今、今だけ思い出せないだけなんです」
「欺瞞はやめなよ。忘れるのは別に悪いことじゃないよ。人間の脳ってのは要らない情報を削除するシステムなんだから当然なんだ」
「忘れてません」
私は意地になる。「思い出せないだけ。忘れるなんて残酷な真似はしない…」
「じゃあ幼稚園の先生の名前を全員言える?」
「えっと…」
「いいんだ。もういいんだ。思い出せないだろう?」
「今はちょっと」
「今だけじゃない。これからもずっと思い出せない。過去は塗りつぶしていく、今を尊重する。それが殊勝な人間のやり方だ」
「私は…」
「君は賢いだけだ」
「でもこの〈たい〉が思い出せないと……」
教師は微笑んだ。「赤点だね」
結局私は〈たい〉を書けなかった。無感情なチャイムがテスト終了を告げて私は夏休みの補習を覚悟した。
現在、私は補習を受けているのだろうか。答えを教えてくれることのないテスト? フェアじゃない。誰と? しらない。でもこんなのってない。
嘆息をついてから私は腰をあげる。次の葉の前に移動する。
ぎゅむっ。
小人が鳴く。「ギャラッピー!」
引き抜いた小人と対面。
「あ、」
私は目を瞬いて、額をたれる汗までが固定されるように時が止まる。
「あんたは…」
小人が鳴く。「ギャララッピー!」
私は沈思黙考する。喉まで出かかっている。この小人の顔は覚えている。
「あ、あんた誰?」
私は定型句を吐く。喉には魚の骨が刺さっているような異物感があって、それを取り払うにはこの顔と一致する名前を記憶の森林から探し当てなければならない。
「あんた私と付き合ってたよね?」
小人はギャッピ?、とちいさく鳴いてから筒のような体型にどうにか備えられている首を傾ける。それからもう一度、
「ギャッピ…?」
「そう。そんな風によく戸惑う顔をしてた」
付き合った異性のリストを脳内でひろげる。十人はいる。その内、付き合っていた期間があまりに短期だったせいか名前がない男が三人。名前もなにもそもそも記憶にまだあるのかすれすれの絶妙で黒いスペースだけの男が二人。
しぼられたのは五人。
「クイズらしくなってきたわね」
しぼられた選択肢の中にどうでもいい男が二人いる。この二人にはずいぶん悩まされた。主に金銭問題とか金銭問題とか、あと金銭問題で。
だからよく覚えている。この二人とこの小人は違うと言い切れる。
「△×○?」
「ギャッピー!」
当てずっぽいで名前を言ってみる。小人の鳴き声のトーンが高かった気がした。はずれっぽい。
「じゃあ×☆♂?」
「ギャッピー!」
引き続き、適当に言ってみる。小人の鳴き声は変わらない。
私は残った最後の一人の名前を唱える。
「上上下下左右左右○×?」
突如、私の手の中で首をかしげていた小人が、
にやり、
そして、内側から破裂した。必然的に私の顔面に肉片、焦げた葉、紫色の臓器が飛び散ってきた。生々しい臭気が鼻孔を襲う。私は硬直してやおら顔に触れる。熱い。熱い。熱い。脳が沸騰していく。記憶が擦過音と共に掘り起こされていく。ミスタードリラーススムクンだ。ミスタードリラーススムくんの侵攻だ。私の記憶がざっくざくと埋蔵金を掘り当てる夢をもつ白痴の挑戦の場と化している。熱い。熱い。熱い。記憶がほられ、ほられ、ほられていく。
「このマンガ面白いよ」。当時の彼氏が言う。「こないだ読んだけど結構面白かった」
「あー、それ読んだよ」
「あ、そうなん?」
「うん。ここで買った」ヴィレッジヴァンガードだ。「おすすめってポップがあったから」
「やたら推されてるもんな。店員から」
「うん。別に欲しいものがなかったんだけど目についたからなんとなく買った」
「そのなんとなくで買った本は面白かった?」
「普通」
「普通ってなんだよ」
「普通だった。ふーんって感じ?」
「それつまらんって言うんやねえの?」
「つまらないってのとは違うよ。普通」
「でも、ふーんだったんだろ?」
「うーん」私は思考する。「面白さを理解できなかった」
「なんで?」
「安っぽい憂鬱に酔ってる人ばっかで成立する話は嫌いだから」
「俺そういうの好きだけど」
「私は嫌い」
アット・ザ・ドライヴインが店内に流れている。激情の中、私たちの冷淡な言い争いは酷く浮いている。
「そっか」
「そう」
「じゃあ、つまらんってことやな」
「なんでそうなるの? つまらないとは違うっていってるじゃん」
「わかったわかった。もういいから」
「嘘」
「機嫌直せよ」
「嫌」
「帰りにアイス買ってやるからさ。お前の好きなハーゲンダッツ二つ買ってやるからさ」
彼氏と別れた夜に私はそのマンガを燃やした。それもライターを使わずにキッチン備え付けの魚焼きグリルでじりじりと執拗に責めるような燃やし方をした。間違っても小人のように鮮やかに刹那的な破滅はくださなかった。責めるように、燃やした。
それにしても小人が爆発するなんて孤島にきて初めて見た。彼らが私の暴力以外の執行方法で絶命する瞬間自体初めて見た。
なんかちょっと感動した。
感動ついでに、
「おええええええええええ」
屈んで無秩序の代表格を茂みに吐きながら私はセンチメンタルな気分に満たされて、それもなんかちょっと叙情的な感じで、
嫌い嫌い嫌い
好きより嫌いのほうが多い
どっちも迷惑
嫌い嫌い嫌い
好きと嫌いの違いって何?
どっちも理解できないくせに…
どっちもすぐ忘れちゃうくせに…
つかだ☆ちひろ
こんな散文が浮かんでしまって赤面。恥ずかし。恥ずか死。死因そのものが恥辱。こんなの思い浮かべていいのは目に星が入ってる女の子だけ。
恥ずかしい散文を生産している間に私の体は落ちていった。足元が円状に裂けたのだ。宇宙のような空間をすべるように私は落ちていく。風もない。感情もない。それでも私は落ちていく。真理をみたような感覚をだいて、宇宙空間のように摩擦との因果をもたないすべりだいを落ちていく。
落ちていく
こんな状況なのにさあ
スカートを気にするって変かなあ
つかだ☆ちひろ
また散文が光る。詩人にでもなったつもりか、と私は頬をつねった。それで、
目が覚めた。
夢だったのか。
全部、夢だったのか。
軽佻な終焉を迎えたのか。よかった。これでよかった。もう、
「ギャッピー!」
夢なわけなかった。目覚ましにしては少々耳障りで、聞きなれた鳴き声で私は現実を認識した。夢なわけない。そんなのが許されるのは現実だけ。
しかし、情景は変わっていた。それまではわざとらしく単調な孤島だったのに、今、半身起こした私の目に映る情景はすこしだけ色彩を得て、生茂る木々と梢が久しく肌に感じる風によって揺らされている。
「ギャッピーピピー!」
おまけに小人の鳴き声のレパートリーが増えている。
「あんた抜かれなくてもいるんだね」小人は土に埋まっておらず、はじめからそこにあるようにすくっと立っている。そして悠然と私と視線を交錯させている。「気持ち悪い」
小人はへらへらと笑う。「ギャッピピ」
「短足」
小人はなおも笑う。「ギャッピピピー!」
「おまけに短小」
小人は笑う。「ギャ」笑う。「ピピ」笑う。「ギャッピー!」
「ごめんね。あのときプレゼント突っ返して。傷ついたよね。それから浮気してごめん。ほかの人を好きになってごめん。途中で愛せなくなってごめん」
随分前の彼氏の顔をした小人は鳴く。「ギャッピ…」
「最後まで愛せなくてごめん。勝手に諦めてごめん」
「……」
「好かれると疎ましく思ったりする私は…」言葉を詰まらせる。「きっとさ…」
「ギャッピピピー!」
私は小人を抱きしめる。小人はなにがなんだか判らずといった様子で混乱し私の胸の中でじたばたと犬かきをはじめる。それでも私は小人を抱きしめる。抱きしめ続ける。
これは断罪?
あるいは謝罪?
どっちでも私にとっては重要なわけでそれを否定することは彼を否定するのと同義でこの状況においてそれは私自身を否定することとなるのは見え見え、あきらか、ばればれ、私は私の過去を忘れてしまっているのは確かだ。許しを請うて激痛をうけいれる。人間味ある叙情。
「でもあんたが人を殺そうとしたのは私のせいじゃないから」
この小人は、
私の元彼氏は、
人を殺しかけた。
「あんたがむしゃくしゃして、嫉妬して、憤って、鬱憤はらすために人を傷つけて、あげくのはてに自殺しようとして。あんたって一体なんなのよ。それって全部私のせいなの? 私が謝らなかったから? 私があんたを拒んだから? それともあんたが私を殺すほど憎めなかったからその当てつけで赤の他人の傷つけたの?」
私は頭をかきむしる。頭皮に爪が刺さっているのにもかかわらず痛みはない。痛覚さえ今の私にはないのだ。
ないものは、ない。
「そんなのってバカげてる。バカバカバカ。バカのすること」
小人は小さく鳴く。私の胸に押しつぶされながらも喉を揺らす。小人がなにをいって、小人が理解しているかなんて私には判断のしようがない。第一、この小人は彼とは違う。
だから、こんな風に私がもっともらしい台詞吐いているのも意味が、ない。
素直になれ。素直になれ。私は今、ここでなら素直になれる。素直になれ。
「私のせいだね」
素直になって、素直になることが私を肯定することになるのだ。
「そう。全部私のせい。見ないようにしてきた。逃げてきた。新聞であんたの名前を見たときに私は真っ先に、それこそ仕事なんかやめて、あんたを支える為に生きる決意をしなくちゃいけなかった。それなのに私は…」すべる。口がすべっていく。「あんたを忘れた。忘れちゃったんだ。忘れようとしなくても忘れちゃったんだ。いらない記憶にしたんだ。都合よく、自分勝手に」
「ギャッピ…」小人は顔をあげる。赤だ。血色の悪い顔をした小人。
「たぶんあんたが本当に人を殺してたら、ここで、今、ここであんたを見ても思い出そうとしなかったと思う」
私は、
私と、
対峙することばかり考えていた。
それが正義だと信じていたから……。
ああ、目が熱い。なんか滲んでるよ。「私、死んじゃったのかなあ?」
小人は無言だ。無言のまま時が過ぎるのを待っている。
そして、
粒子になって消えていった。私の胸の中で。私の薄い胸の中で消えていった。
「あーあ」
私は再び落ちていく。地面がぱっくり割れてまた、真空の中をすべるように下へ下へ下へ、あるいは上へ上へ上へ。方向感覚なんていらない。必要ないものを削っていく。
私は必要ないものを削っていく…。
これまでも、これからも。
それから私は色んな孤島を転々とした。河のある孤島。推定体長三十メーターはある猫のいる孤島。空がない孤島。永遠にフローリングが続いていく孤島。
すべてに共通していたのは私以外の人間がいなかったということだけ。それと小人が用意されていたことだけ。
高校のときの担任の小人にもあった。その小人は妙に貫禄があった。私がお久しぶりですと挨拶するとその小人は手をあげたり、私がとつとつと語ると相槌をうつように頷いてみせた。懐かしくて泣きそうになった。
「先生、私先生を覚えててよかったです」
先生は私の膝の上ではねた。「キュラップー!」
そして、
先生は爆発した。
私はこれまで何体もの小人の死をみつづけてきたけど先生の肉片が顔にベチャってグミみたいに張り付いたときはやっぱり胸に痛みを覚えて、おまけに頭痛もして、
「あああああああ!」
って嗚咽もらして、小便もたらしちゃって、冷静に、
「あ、私まだこの機能残ってたんだ」とか思っちゃって怖くなった。もうやだって思った。
でも私はまた別の孤島に飛ばされるのだ。
「キュポー」
「あんた誰?」
「キュキュキュー」
「そんな寂しい顔しないでよ」
「キュ…」
私は答えに詰まっている。またまた人の顔と名前が一致しないという無礼極まりないけど、それでいてそれが当然なんだ、と諦念を抱いてにやにやしている。
愉しい。
すごく愉しい。
最近私は楽しくて仕方がない。毎日毎日、といっても寝てもいないし食欲もないからずっと一日を続けているようなこんな状況だけど、私の現状は似ているのだ。
──子どもの頃に埋めたタイムカプセルを掘る当日の高揚感に似ているのだ。
毎日掘る掘るススムクン。
私の余生は上々だ。
悪くない悪くない悪くない。こんな境遇において愉しみを感じる私は酔狂なんだろうか。はたしてそれは目に余る?
不快感?
または強靭な失望?
答えをくれる人はいない。私について語るのは私自身しかいない。
私は寸胴体型の小人の首をぎゅむっっと掴んで囁く。「あんたは誰?」
「キュキュー!」
私は五本の指に思いっきり力をこめる。そうすると頭に緑色の葉をそなえた小人は首から血しぶきをまきちらし、私の手の中で絶命していく。紫色の血がだらだら。血が私の白い指に付着して、まるでマニキュアみたい。下手くそなオシャレね。下手くそで汚いオシャレね。
「はい、次」
私は腰をあげて次の小人の元に歩む。小人はあぐらを組んで私と対峙する。
この顔は、
見たことがあるぞ。
私は正解を予感して思わず唇をぬらす。すっかり血色悪くなった舌がじゅるり、ぺろり、そんで私はお金がとれるとびっきりの笑顔ニコリ。
思い出せる。思い出せる。確実に思い出せるよ、きっと。
「答えでてこい答えでてこい」私はぽかぽかと自分の頭を叩く。一見乱暴だけど自分の頭に生えたばかりの、
それには危害をくわえないように実は慎重に叩いていたりする。さわりさわり。それが私の手の甲にふれる。さわりさわり。
私はたくさんの人を忘れている。
私はたくさんの人を忘れていることさえ忘れている。
小人が鳴く。「キュウーポー!」
私は笑う。「Ωβα」
小人は正解というように内側から破裂して肉片をとばす。すっかり日常化した残酷性。
私の体はまた真空へと落ちていく。ぽっかり空いた真空へとすっぽりはまったように落ちる。
ふと、
私は、
遠ざかっていく太陽に手をのばす。
太陽ってあんなに小さかったっけ?
私の腕ってこんなに細かったっけ?
真空にはないはずの風が私の頭に一切の違和感もなく生えてきた、
それを揺らして、
そして、真空にはないはずの圧力も、
私のそれをぎゅっと掴む。
私はだれかに掘り起こされてしまうんだろうか。
もうすこしだけ、
もうすこしだけでいいから、
この余生を楽しんでいたいのに………。
―終―
最後まで読んで貰えたようで幸いです。感謝。
この話は私が以前見た夢が元ネタ。その夢は、無人島(それも妙に清々しく美しい島)で私が地面から生えた小人を引き抜いて永遠殺していくだけ、という無残な内容。悪夢です悪夢。
そんな悪夢を流用する私の賢明さと軽薄さ、言葉になりません。
この話の女性は他の短編の登場人物とイヤンウフンな関係(過去形)。他の短編を読んでいない方も、読んだけれど一年以上前の短編なんて覚えてねえよバカヤローな方にも楽しんでいただければなあ、と思います。
作者自身覚えてませんでした。「ああ!」って言っちゃいました。
ではでは、また。
作者の残念なブログは
こちらです。
拍手、激励、感想、美味しいカレーの作り方のみ大歓迎。