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「ケンケンの星」を改題。
#42 跳ねまわる取引
 ところ、ソーダの星の貿易宇宙船(帰路の途中)。
 ケンケンせいの住人達は非常に温和な気質であり、異星人からの評判もおおむね良好であった。利口なケンケン星人は様々な言語を網羅しており、異星人からスムーズなやり取りが可能であることも評価されて貿易も盛んに行った。
「彼らは私たちを小馬鹿にしていたのでしょうか」
 その日はじめて貿易宇宙船に搭乗し、ケンケン星に訪れたソーダ星の住人〈コナール〉は言った。
「ふむ。君ははじめてだからそう不快になるのも無理はない」コナールの上司である〈マユガン〉はせせら笑った。「彼らはふざけてなどいない。あれが彼らにとっての会話のスタンスだ」
「しかし…」
「まぁそのうち慣れるさ。彼らに悪気がないのは、彼らの容姿をみれば把握できたはずだ」
「気味の悪い姿でした」
「彼らからしたら我々の姿こそ醜悪かもしれないじゃないか。美のセンスの誤差だ」マユガンは厚い瞼をこすった。「やれやれ、苦言はそれくらいにして操縦に集中してくれ。私はすこしばかり休憩をとらせてもらうよ」
「…了解」
 コナールは舵をぎゅっと握り、ケンケン星の住人の姿を反芻した。たちまち背筋を悪寒が走った。しかし、彼らは決してを悪意を感じる存在ではないというのはコナール自身、とっくに理解していた。


 ところ、ケンケン星(取引中)。
「それ以上は安くできませんねえ」マユガンの容赦なしの値下げ交渉にケンケン星の住人〈キョムキョム〉は渋面をうかべた。苦々しい表情とは裏腹に、嬉々としてぴょんぴょこと片足立ちで跳ねている。「こちらとしてもこれが限界です」
 しかし、マユガンは引かない。「そこをなんとかできませんかね。我々の仲じゃないか」
 キョムキョムは、ううむ、と顎をなでて唸った。あからさまに好意をみせられるとたじたじになってしまうものである。
「もうすこし、もうすこしだけでいいんです。次の貿易の際には私が上に口利きをして…」
「わっかりました」マユガンが言い終える前にキョムキョムはなごやかに応えた。今度は表情から読み取れる感情相応──楽しそうに、ぴょんぴょこと飛び跳ねる。まるで無垢な幼子のようである。
「そうですか。ありがとう、ありがとう」マユガンはキョムキョムの手をとって頭をさげた。
「いえいえ、こちらこそ」にこり。「では次回から、よろしく頼みますよ」
「ふふふ」
「ふふふ」
 生まれた星は違えど、彼らは商人としての老獪さを得ていた。
 取引は無事に事なきをえたが、終始片足をもって跳ねまわるキョムキョムをマユガンの隣でみていたコナールの気は荒れた。


 ところ、ソーダの星の貿易宇宙船(帰路の途中)その二。
「すまんすまん。思ったより長く休息をとってしまったようだ。操縦を変わろう」
「いえ、それはいいのですが」
「ん?」ただ先をみつめ操縦をするコナールの傍らの席に座してから、マユガンは眉をよせた。「なにか気に留めることでもあったかね」
「次の貿易では口利きをするといっていたじゃないですか。大丈夫なんですか? そんな勝手な契約をかわしたりして」
 マユガンは、ははっ、と短く笑いをもらして、
「構わんよ。あんな口約束、彼らは覚えちゃいないさ」
「え」
「彼らは人がよすぎる。そして利口だ。それゆえに白痴でもある」
「どういうことでしょうか」
「彼らはずっと進化していない。不憫な姿のまま、不憫な生活をしている。知恵はあるが、それだけだ」
「はあ」わかったようなわからないような、そんな気分である。彼らの容姿をみる限り、確かに進化をしているとは思えなかった。猿が人になっていったように、人類とは常に進化の道をあゆむはずなのだが。
「ちなみに私は貿易の度に値下げを要求している」
「それって…」
「毎回、同じセリフを吐いているが彼らは覚えちゃいない」


 ところ、ケンケン星(取引後)。
「ただいま」
「おかえりなさい。キョムキョム」
「ただいま。ユコリン」
 キョムキョムは迎えてくれたスタイル抜群の妻〈ユコリン〉に軽いキスをしようとした。だが、思惑は外れキョムキョムの、むちゅうう、とつきだした唇は空をきった。「ユコリン。君の唇はどこだい」
「まあ」ユコリンは笑った。「いいわよキスなんて。恥ずかしいわね」
 キョムキョムは自嘲気味に一笑した。「それもそうか。年甲斐もなく調子にのってしまったよ」
 ただいまのキスを諦めたキョムキョムの鼻孔をユコリンが丹精込めたつくったとおもわれる手料理の芳しいかほりが刺激した。今日は好物であるマカダミアンショートケーキのあぶら炒めのようだ。キョムキョムを上着の裾でよだれをぬぐった。
「今日は良い取引ができたよ」
「それはよかったわね」
 ごんっ、とキョムキョムは壁に頭をぶつけた。
「…うがっ」
「大丈夫? 気をつけなさいよ。引っ越したばかりなんだから、ちゃんと目をつかって歩きなさい」
 いててて、とキョムキョムは右耳の上あたりをさすった。「それもそうだな」
 キョムキョムはおもむろに靴下を脱いだ。それから取引の際にもみせたら例のポーズ──片足をかかえるようにしてぴょんぴょこと跳ねだした。ユコリンも同じように、ぴょんぴょこ。
 キョムキョムははっきりとしながらも、上下にぶれる視界の中でユコリンの唇をみつけ、そおっと──否、跳ねる音をちらし近付いた。
 キョムキョムはユコリンにかすめるような一瞬のキスを送った。
「んもうっ」と口では不快そうだが赤面するユコリン。「いったいいくつだと思ってるのよ」
「心はいつまでも若いままさ」と気取るキョムキョム。
「照れるわ」
 キョムキョムはユコリンを抱きしめたくなったが、かかえている片足の逆──その足の裏が愛の衝動を止めるように主張した。「むっ、むれるな」
「そうね、今日は暑かったからね」といってユコリンは足早にぴょんぴょこと先を行った。
 廊下に座り込んで靴下を脱ぎ捨てたキョムキョムは思考した。
 まず、風呂に入って汗を流して、それから湯あがりに一杯キンキンに冷えたビールをきゅっと飲もう。うまいぞ、間違いなくうまいぞ。だって今日の取引はすばらしかったものな。ふふふ。
 ほくそ笑むキョムキョムの鼻孔をまたマカダミアンショートケーキのあぶら炒めのかほりが襲った。そうだ、これもあったんだ。楽しみだ。
 上機嫌のキョムキョムの鼻唄は少々離れた位置にある鼻の穴(スピーカー)から奏でられた。おおよそ人間でいうところの目の位置である。
 では、ケンケン星の住人たちの目は何処に…?
 キョムキョムはバスルームで一肌の温度のシャワーを足の裏に浴びせながらごちる。「ああ、気持ちいいなあ。目にしみるなあ」


 ―終―
 小生の稚拙な文を最後まで読んで頂き感謝感謝です。
 この話の構想はずっと前からありました。以前、 『空想科学祭』というイベントに「なんかよう分からんけど誘ってくれてる人もいるし、いっちょやってみっかなあ」という極めて軽い感じで参加したときに生まれた話です。だから多分一年ぐらい前かな?
 ぼくらが呼ぶ宇宙人(異星人)の普遍的な日常を書こうというテーマを勝手にきめていくつか短編用の話を夏の暑い日に考えたのを覚えています。
 そのうちの一つがこれで、そんで没になったのがこれで、採用されたのが『ソーダの星』という短編なわけです。なぜソーダの星を投稿用に採用したのかはよく覚えていません。どうせ私のことだから頭つかうのが面倒になって、より日常的な話であるソーダの星を選んだのだと思います。雑な人ってキ・ラ・イ。「うるせえ!」
 とまあこんな経緯で一年間眠った短編SF。書いてて思いましたが、この短編のほうがとっつきやすくてオチもわかりやすいから採用するならこれだったなあ、と今になって後悔。でもね、過去にはもどれない。最近SFを読んでるから白痴のワタシでもそれぐらいは理解しています。だから後悔は意味がないから中断して剥ぎとって、部屋の隅にあるスヌーピーのゴミ袋に放り投げてやりました。目にはみえませんがゴミ箱インしたと思います。

 最近なぜだか分かりませんが、あとがきが長い傾向にあります。読まれる可能性の低いあとがきに力を入れるならその分を小説にまわせよって話ですね。「うるせえ!」
 実際はこんな乱暴な口調じゃないので悪しからず。

 ではでは、また。
作者の残念なブログはこちらです。
拍手、激励、感想、美味しいカレーの作り方のみ大歓迎。