#3 急がば事故れ
「急いで来いよ。間に合わなくなるぞ!」
「はいはい、分かった分かった」友人の気だるさが電話越しからでも伝わってくる。
再度友人を急かすような言葉を言うと、「もし俺が事故ったら責任取ってくれるんだろうな」という返事がきた。
「取ってやるよ!」乱暴に電話を切った。
来栖に友人の事故を伝える知らせの電話がかかってきたのは、友人から荒く電話を切られた十五分後のことだった。
「あの馬鹿…!」血の気が引くよりも先に怒りが沸いた。そして、その怒りよりも先に体は動き、電話を切った直後、来栖は家を飛び出した。友人が搬送された病院へとバイクを走らせた。
到着した病院は慌しく、泣き声と嗚咽、時折笑い声が混ざっていた。あの馬鹿は大丈夫なのか、バイク事故は死亡率が高いとよくメディアなどで聞く為、来栖は友人のことが心配で仕方なかった。『受付』の文字を見つけ、すぐさまそこに向かい駆け出す。
「すいません、事故で友人が搬送されて友人がバイクで病院が…!」
「落ち着いてください!」受付係と思われる女性が宥めるように、「落ち着いて話してください」
来栖は呼吸を整える。「友人がバイク事故を起こして、この病院に運ばれたと聞いたのですが」
「先ほど運ばれた患者さんのことですね。病室は○×号です」
「ありがとうございます!」来栖は雑なお辞儀をし、言われた病室へと向かう。階段を上がる途中に重大なことに気づき、再び受付に戻った。「すいません、何階ですか?」
「三階になります…それと」受付の女性は不意に迷惑そうな顔をした。
「それと?」
「病院内ではお静かにお願いしますね。走らないでください」
「お前なぁ」ベッドで横たわる友人に向かい、呆れ顔で溜息交じりに来栖は呟く。「心配したんだぞ」
「だって、お前が来るの遅いからさ」友人は悪びれることなく、「俺のほうから出向こうとしたってわけよ」
「お前はいつも急ぎすぎなんだよ。まったく、『急がば回れ』ということわざを知らんのか」不恰好で大きな絆創膏を顔中に貼っている友人を説教するかのごとく説いた。
「逆に、お前はいつも急がなすぎなんだよ!」
「なんだと! 今日は下痢してて遅れただけだ!」事故を起こしたとは思えない程に元気な友人に掴み掛かる。友人も負けじとギプスを装備した腕で対抗した。
不意に病室のドアが勢いよく開けられる。「静かにしてください!」
この醜い争いのおかげで、友人の入院期間が少しばかり長くなったのは言うまでもないのだった。
―終―
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