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#2 僕のヒーロー
 ある晩のこと。
 寝室で家族三人で寝ていると突然、窓に小石が当たったような音がしました。
 はじめは無視をしていましたがコンコン、という音は鳴り止まず、窓の一番近くで寝ていたお母さんが「うるさいわね」と言って起き上がりました。
 左側で寝ているお父さんのほうを横目で見ると、まだ寝息を立てていました。
 お母さんが窓に近づいていき、鍵に手を伸ばしたその時です。

「あぶない!」寝ていたはずのお父さんが立ち上がり、大きな声で言いました。
 お母さんはその声に驚き、その弾みで鍵を開けてしまいました。
 ガッシャーンガンガガンガシャン、と大きな音と同時に窓が割れ、口元と目元だけが開いたマスクを被った大柄な男が家の中に入ってきました。
 お母さんは壁の隅に吹き飛ばされてグッタリとしていました。いくつかの小さなガラスの破片が体に刺さっているように見えます。
「おじさん、誰なの?」
「こんばんは。殺し屋です」
 小学五年生の僕にも分かりました。「この人はたぶん悪い人だ」

「殺し屋さんは悪い人でしょ?」
「殺し屋には二種類の殺し屋がいる」
 人からお金を貰ったら誰でも殺してしまう殺し屋、人を殺すのを生き甲斐にしている殺し屋がいると説明しました。
 僕はどちらも悪い人だと思いました。
 お父さんは倒れたお母さんの介抱をしています。
「大丈夫か! しっかりしろ!」そういった言葉が聞こえてきました。
 お父さんにこの男の人は悪い人だ、と伝えなければならないと思いお父さんのほうに近づこうとしたら、横から伸びてきた大きな手に腕を掴まれました。
「逃げちゃダメじゃないか」
 昨日の国語の小テストで出た「絶体絶命」という四文字熟語が頭をよぎりました。
 大柄な男、つまり殺し屋に腕を引っ張られて捕まってしまいました。
 首筋にナイフを突きつけられました。
 それを見たお父さんは抱きかかえていたお母さんをそっと布団の上に寝かし、僕達のほうへ向かってきました。
「目を瞑ってろ。すぐに助けてやる」お父さんがそう言って何秒と経たない内に、僕の体は殺し屋の腕の中からお父さんの腕の中へ移動していました。

「お前、いま何をした!」
「ちょっとね」
 チッと舌打ちをして、殺し屋さんは勢いよく迫ってきました。
「目を瞑ってろ」
 またしても僕が目を瞑っている間に、不思議なことが起こりました。殺し屋が地べたに倒れているのです。
 ぐぅああ、と殺し屋さんは唸り声あげています。痛がっているようです。

「殺し屋に二種類の殺し屋がいるように、ヒーローにも二種類のヒーローがいる。世界の平和を守るため昼夜を問わず闘うヒーローと、家族の平和だけを守るヒーローだ!」
 そう言うとお父さんは僕にいつもの優しい視線をくれました。
 そして、お父さんがまた「目を瞑ってろ」と言い、そこで僕の意識は途切れました。

 僕が目を覚ました頃には、すでに朝になっており、お母さんは朝食の準備を、お父さんは仕事に行く支度をしていました。
「昨日の殺し屋さんはどうなったの?」と僕が目を擦りながら言うと二人とも驚いた顔をしたのです。不思議に思いました。
「まだ寝ぼけているのね。はやく顔を洗ってらっしゃい」お母さんはとぼけたが、お母さんの腕に何かが刺さったような小さな傷があるのが見えました。
「あれは夢じゃなかったんだ…」
 寝室の窓から隙間風が吹いてきて、それが顔に当たり確信に変わったのでした。


─――「…だから、お父さんは僕のヒーローです。これで僕の発表を終わります」
 直後、教室は拍手と歓声で湧いた。
 先生は「素晴らしいわ」と褒め、多くのクラスメイト達は他の話も聞かせてとせがんで来た。
 教室の黒板には白く大きな文字で「今日の国語の授業は『創作文』の発表です」と書かれていた。


―終―
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