#15 カフェ≠オレ
ストローでコップの中をかき混ぜると、氷とコップが子どものようにじゃれた。
カランカロン──。
七割を占めるミルクと褐色のコーヒーが混ざっていく。二つともスーパーの特価品だ。ミルクに関しては賞味期限切れで半額以下だった。
カランコローン──。
「カフェオレってさ」手に持ったコップを僕は見つめる。
「ん?」
「何でもない…」
「嘘。今なんか言おうとしたじゃん」
皮のソファーに座る彼女は「言いなよー、言いなよー」と駄々をこねた。
「うーん…」
唸りながら、コップをテーブルに置くと、『くの字』に曲がったストローの先からまだ残っていた微量のカフェオレがテーブルに一滴垂れた。
「眠い」
「話を逸らさないでよ!」
彼女は強い口調とは裏腹に顔には笑みを浮かべ、二人はゆうに座れるスペースのあるソファーで猫のように、ごろんと横になった。
「別に、たいしたことじゃないよ?」
「いいから、いいから」
嬉々とした表情の彼女は依然としてソファーに横たわり、気だるそうにはやし立てた。
「カフェオレってさ。何か混ざりきれてない自分みたいだなあ、って思ったんだ」
「混ざりきれてない? 何と?」
「他人と」
と、答えると彼女は一瞬だけ目を点にして、我を忘れたように狂った笑い声をあげた。
あはは──。
「な? たいしたことじゃなかったろ? 笑われるから言いたくなかったの。臭いし」
「そうじゃなくて」彼女は苦しそうに、途中途中笑いを混ぜながら言った。
「なんだよ」
彼女は足をばたばたと地団駄踏むように動かし、腹を抱えて笑い声をあげる。「そもそもアンタは人間じゃないし!」
彼女は狂人のように笑い続ける。笑いすぎて涙目になっている。
僕も彼女につられ、同じようにおかしな笑い声をあげながら、頭にある尖った縞々の角を軽く撫でた。
舌のように、ざらざらとした角──。
ひとしきり笑い終えると二人同時に、テーブルの上に置かれたコップに手を伸ばした。取っ手のないシンプルなデザインのコップには水滴がびっしりと付いていた。ストローでかき混ぜると、また小気味良い音が聞こえて、ほっと一息ついた。
本当に混ざりきれていないのは、人間を理解しようとする自分とそうじゃない自分なのかも知れない…。
カフェオレが飲み干されたコップには氷だけが残った。所々、角が尖った氷だけが──。
―終―
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