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図書館在住
作:田中M氏



図書館在住・三 協力


『図書館に住んでるんです』
なんて、言えるはずもなく。
しかも勝手に落ちてきた本に埋まったなどとも言えない。
「………っ」
冷や汗だらだら、視線の泳ぐフレアは男の着るフロックコートが上流階級の着るものだと知っていた。貴族の最先端ファッションであり、今はまだ貴族のうちですらそんなに浸透していないが、卑しい者にはとても着られない事は確かだった。
(や……やばーい…)
貴族に見つかる!思い付く限りの最悪の結果だ。
「…………」
「…………」
互いに何も言わずにしばらくたつと、あちらがすっと立つと、踵を返した。
「……見逃してくれんの!?」
驚いて思わずフレアが声をあげると、男は首だけをこちらにむけて言った。
「興味が失せた。私にはやるべき事がある。」
短くそれだけ。
またゆっくりと歩き始める。
「ま…待って!」
今度は立ちどまっても振りかえりはしなかった。だが聞く気はあるようで、フレアはその背に言った。
「やるべき事って…何?わたしでよかったら手伝うよ?」
助けてもらいうれしかった……のもあるが、謎の男の謎の任務(?)。
そんな興味本位と、暇だから…いい暇つぶしになるかなと。
返事もせず押し黙る男にフレアは
(コイツまさか立ったまま寝てんじゃ…)
と思って男の眼前までまわりこんだ。
男は思案顔だったが、眉によったしわが剣呑な顔つきにも見せて怒って見える。
身長差もあって見下す視線になんだかいたたまれなくなる。
(わ〜…余計な事言わなきゃよかったかな〜………)
遠い目をするフレアにはどこからか波の引く音が聞こえた気がした。
「……それも、いいのかもしれない」
「……?」
独白のように呟くから、承諾の意にはとれなくてフレアもまた怪訝に思い眉をよせる。
「私にもわからないのだから。」
なにがとかどのようにとか言わずに、なおも独白のように。
「えっと〜〜…私が、協力してもいいって……事?」
おそるおそる上目遣い(身長差的に当然だが)でうかがうように聞く。
「ああ…。できればそうしてもらいたい」
今度はフレアの真正面にむきあって、小さく頷くと彼は目付きが悪いながらも真剣そうな瞳で言った。


男は名をラックと言った。
フレアも名と、何故自分が夜中の図書館にいるかはふせて、ざっと自分の身分を説明した。
ラックの身分等を聞くのはためらわれたため(顔こわいから)放っておいた。
そして肝心なやるべき事とは何かと問うと、黙りこんでしまうのだった。
「…………何から話せばよいか……」
顎に手をあて思案モード全開。
(まさか機密文書を運ぶとか犯罪級にやばい事でじゃないよな……)
いやでもこの人身なりいいわりに顔怖いし!とかなりの変な偏見の目でラックを見ているフレア。
しかしきりがないのでこちらから聞いてみる事にした。
「とりあえず今現在困ってる事とかってあんの?」
これくらいは答えてもらわないと。
それなのにラックは「あ」と言ってフレアの肩ごしに視線をやった。
「ちょっと、聞いてん……ぐふっ」
フレアの頭に重い本の角がヒットした。
「危ない」
「遅いっ!てゆうか何これ!?」
フレアと、ラックの周りには宙に浮く数々の本。第四棟に押しやられるだけあってどれも重厚なつくりでひとつひとつが大きく重い。
それらがフレアたちを囲うように浮かんでいた。
浮かぶ書籍はフレアたち目掛けて飛んできた!
「わああっっ!!」
あんなのが全部当たったらただじゃすまない。
二人はとりあえず浮かぶ書籍が少ない方へと走る。
「コレ」
「何がっ!?」
緊急事態に何を呑気に言ってるんだといささかガラの悪い顔でラックを見ると、さっきまでいた位置を指差している。
そこには飛びかう本たち。
「………」
「………」
入りくんだ部屋を走りながらもう一度フレアは背後を振りむいた。
「本に狙われてんの!?」
「ああ」
目を見開いたフレアを見もせず、淡々といつもの不機嫌顔で。ラックは答えた。
「ええーーーーー!!??」
フレアの叫び声だけが夜空にこだました。
晴れた夜の月が、笑ったような気がした。












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