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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第263話 昔、ホットドッグの衣装を来た犬を見かけましたが、どう対応して良いのか謎でした

 家に戻り、扉を開ける。中からは何かを煮ている良い香りがする。


「ただいま戻りました」


 そう告げて、キッチンに向かうとリズとティーシアが料理に奔走していた。


「あ、おかえり。用事は済んだの?」


 リズがこちらに気付いたのか声をかけてくる。


「うん。終わったよ。何か手伝える事は有る?」


「んー。大丈夫。あ、タロの食事をお願い出来るかな。そこのお肉を切り出して欲しいかな? 血と内臓は期待出来ないね。明日から子爵様の町でしょ? 帰ってからはお父さんに頼むようにするね」


 リズの言葉に返事をして、テーブルに置かれた肉の塊から、タロの分を切り出す。一緒に骨も用意されていたのでそれは隠し、肉を皿に乗せて持って行く。皿が有ると言う事は、リズが用意するつもりだったのかな?

 部屋に戻ると、クンクンと部屋の匂いを嗅ぎながら体を擦り付けているタロがいた。ふむ。お勤め中かなと眺めていると、匂いに気付いたのか、たーっと近付いてくる。


 ちょこんと目の前にお座りして、はっはっと息を荒くして、きちんと待つ。皿を置いて数秒。動かないのを確認して、良しと声をかけると、肉に齧り付く。今日はちょっと質素な感じだが、タロにとってはあまり関係なさそうだ。食べられるだけ幸せな感じで快の気持ちが流れてくる。

 食べ終わって皿まで舐めたのを確認して、水を生む。一生懸命水を舐める姿を眺める。結構大きくなったなぁ。もこもことした感じはかなり狼っぽい。マズルも大分伸びた。昔の丸っこいのは可愛かったが、少しずつ精悍になっている。


『まま、んー』


 水を飲み終わったのか、懸命に擦り寄って、膝の上に乗ろうとする。結構犬って駆け回って遊ぶ記憶が有ったが、タロは食事後はまったりしたい派らしい。抱きかかえて、机に向かう。椅子に座り膝の上に乗せる。くるりとしっぽを巻き込み、くてんと丸くなる。


『ままー』


 温もりを感じながら微睡むのが好きなのか、くわっと欠伸をすると、ゆったりしっぽを揺らしながら、目を瞑る。可愛いなと思いながら、今回の旅の報告書を書き込んでいく。


 この手の視察において、上司への報告として最も重要なのは既存計画からの変更点だ。設計通りなら進捗良しで済むが、変更部分に関しては予算運用が変わる。下手をしたら別予算にかかる可能性が有るので情報共有は極めて重要だ。

 温泉掘り従事者に対する褒賞、温泉の一部経路の変更、温泉宿の改善案や海の村の大幅な計画変更、人魚さん達との新規契約……。書き出していくと切りが無い。と言うか、早めに現場に足を運んで正解だった。工期の後の方にこんな事言い始めたら、まず混乱は必至だ。

 書き出す度に、出会いや話した内容を反芻する。私情を挟む気はないが、現場側の要件とその根拠は記載していく。これが無いと、計画変更の妥当性が判断出来ない。幾ら自分の領地とは言え、独断で好き放題出来る訳では無い。誰かの部下である限り、説明責任と変更に関わる結果への責任は生まれる。これは日本だろうがどこでも同じだ。法治国家で無くて責任を負わなくて良い国が有るなら知らないが、ここでは通用しないのでメモを確認しながら書き出していく。最終的にはカビアの情報とも合わせて、最終調整かな。


 大項目の書き出しに、各要件を当てはめて、根拠を記載していく。特に人魚さんに関する内容は前後の経緯が複雑な為、細かい内容になる。下手したら部下の独断専行だ。懲罰の対象になり兼ねない。人間としての最低限の尊厳を守る為の部分を強調し、まとめていく。後は別で注釈として西側の漁村の対応の不手際に対する疑義も投げておく。正直、向こうの事は分からないのでノーウェ側で調査して欲しい。何かの陰謀に絡んでいたら、また面倒な事になる。

 一通り書き上げて、見直す。内容に問題が無い事を確認し、木で作った下敷きみたいな板に挟む。流石にフォルダが無いと面倒この上無いので、薄手の木材を購入して規格に合わせて切り出してもらった。このまま棚に入れても良いので、楽だ。そう考えると日本のオフィスは恵まれ過ぎている。付箋紙とか欲しい……。


 首を曲げ肩を鳴らし、目頭を押さえる。蝋燭の明かりで細かい文字を書くのは流石に疲労が溜まる。何気ない事で明かりが揺れるので、目が疲れる。昔の人間ってよくこんな状況で仕事出来たなと、純粋に感心する。

 動きに反応したのか、タロが目を覚ます。そろそろアストも帰ってくるし、ご飯だろう。それまで遊んでやるか。


 隠していた骨を取り出し、目の前で振ると、凄い反応で咥えに来る。それを避けると、目が輝く。ひょいひょいと避けていると本気になったのか、前脚が出る。それには降参し、咥えさせて、引っ張り合いを始める。程々に遊ぶと納得したのか引き下がるので骨を渡す。

 丁度そのタイミングでリズの呼ぶ声が聞こえる。タロを見ると、骨に噛みついて、後ろ足でけしけしと蹴っていたので、もうちょっと一人遊びをするのかなとそのままにしておく。


 キッチンに戻ると久々のアストが座っていた。


「お帰りなさい。狩りは如何(いかが)でした?」


「こちらがお帰りなさいだがな。まぁ、順調だ。今年は森の実りが良かったのか、この時期でも痩せて来ていない。結構な大物がかかっていた」


 アストが余裕の有る感じで微笑む。初めて会った頃のどこか憔悴した余裕の無さはもう無い。気の良いおじさんと言う感じだ。


「まぁ、積もる話は有るだろうが、食事にしよう。流石に腹が減った」


 アストがそう言うと、食事が始まる。


「そうそう。香り付きの石鹸有るでしょ? あれも結構高めで販売し始めたんだけど、もう凄いの。あっと言う間に無くなっちゃって。それに油かすももう定番商品ね。冒険者が卸でもするのかって量を買っていくわ」


 ティーシアが楽しそうに近況を伝えてくる。どうも借金の方は予定より早く完済と言う事になったらしい。香り付きの石鹸の価格を上げたのが要因で、一気に返せたらしい。これで忌み職の大部分は払拭出来た。生き死にはどうしようもないが、少なくとも村に迷惑をかけて生きている訳では無い。アテンが帰って来ても同じように生きれば少なくとも忌み職として扱われる事は無い筈だ。


「これも全部、アキヒロのお蔭ね。ありがとう。家族一同から感謝するわ」


 ティーシアがそう言うと、皆が頭を下げようとする。


「いやいやいや。家族の為ですから。当たり前の事です。お気になさらず」


 そう言うので、精一杯だった。はぁ、異世界で家族か。うん、良かった。家族として、マイナスを全て消してこれからプラスだけを考えて生きていける環境になったのが純粋に嬉しい。


「でも、お母さん、まだ覚える事って有るの?」


 リズが隙を狙ってか、ティーシアに問う。しかし、ティーシアの目が光る。


「当たり前でしょ。まだ何も覚えていないじゃない。まだまだよ」


「えー。結構覚えたよー?」


「それじゃ足りないの。きちんと全部覚えてもらうわよ」


「うわー。言うんじゃ無かった……」


 リズがテーブルに突っ伏して、ぼそっと呟く。それを聞いてしまい、吹いて()せた。


「リズ?」


 前の話を思い出しながら、ちょっと笑いつつ確認の声をかける。


「分かってる。頑張る。けど、ちょっとずつ?」


「リーズー?」


 ティーシアは本気の圧力だ。リズが再度突っ伏す。そうやって賑やかな食事も終わり、樽にお湯を生んで、お風呂となる。

 温泉の話も出たので、『リザティア』が出来たら、是非楽しんでもらわないといけない。


 後片付けを終え、溜まっていた洗濯を済まし、部屋に戻る。空を見る限りは雲が無い星空だ。気温は低いが何とか乾いて欲しいかな。駄目なら送風で無理矢理乾かすしかない。

 ふと、タロの方を見ると、がじがじと骨を齧っている。歯磨きはしていたが歯の調子はどうかなとそっと唇を上げる。んー。なんか綺麗になっている。あぁ、鳥の骨とかそのまま与え始めたからか。

 骨を噛み砕くようになると、歯が綺麗になるって聞いた事が有る。まぁ、それでもと、骨をちょっと預かり端切れを湿らせて歯肉に近い辺りから歯を拭っていく。恍惚と言った顔でじっとしている。歯磨きを嫌がらない良い子だ。

 全ての歯を拭って引っ繰り返すと、物足りないのかさかんに擦り寄ってくる。わしゃわしゃと全身をくすぐると、身を捩らして楽しそうにする。

 くたっとなった辺りで手を止める。そのまま箱に戻すと毛皮にもぞもぞと潜り込む。ふむ。木工屋に行った時にもう少し大きな箱を買えば良かった。完全に忘れていた。まぁ、タロも気に入っているし町に行く間は良いか。


 次々とお湯の声がかかり、樽を満たす。リズの手前でリズにタロが連れていかれ、ホットタロが帰ってくる。そのまま毛皮の中に入れるとスヤァと眠り始める。


 少し経つと、リズが風呂から出てくる。


「んー。やっぱり、大きなお風呂に入るとちょっと物足りないかも?」


 物凄い贅沢な事を言い出した。まぁ、樽風呂が良いかは確かに有るが。


「まぁ、普通は毎日入れないから、十分贅沢じゃないかな?」


「うん、それは分かっているんだけど。知ってしまった悲しさ?」


 分からんでもないが、流石に浴槽の維持はアテンには不可能だろう。


「まぁ、もう少しで『リザティア』も出来るし、それまでの我慢だよ」


「うん。いつもありがとう、ヒロ」


 そう言うリズの頭を撫でて、お風呂に向かう。

 さっと体を洗い、浸かりながら今日の事を思い出す。取り敢えず、ベティアスタの件は良くも悪くもだな……。厄介事に変わりは無いが知らなかったらそれはそれで問題だ。国をどう動かすかだが、手札が無いのが痛いな。国を動かす手札までは流石に用意は出来ない。やっぱり出たとこ勝負かな……。


 そう思いながら、樽から出て、体を拭い、服を着る。後片付けを終えて、部屋に戻るとリズがベッドに寝転んで髪の毛を弄っていた。


「あれ? 髪型変えるの?」


「いや。ヒロが結ってくれたのがどんなのかなってやっていたけど、全然分かんない。凄い複雑な事した?」


 んー。シニヨンっぽいけど、結構特殊な編み方だからな、あれ。正直、大分髪の毛長くないと無理だ。実際にあの髪型にするなら、腰以上はいると思う。


「ちょっと複雑かも。一人だと無理だよ」


「えー。見て見たかった。残念」


 ベッドに座り、頭を撫でる。


「また、機会が有ったらね」


「それはしてくれない約束だ……」


 じーっとこっちを見てくる。その表情が可愛らしく、愛おしかったのでそのまま口付ける。その勢いのまま、そっとベッドに押し倒す。


「まぁ、温泉宿が動き出してからだね。それか、結婚式でも良いかな?」


「そっか、もう、結婚だね……」


「教会が出来て、町が動き出したらさっさとやらないと後がつかえちゃう」


「あは、そうだね」


「と言う訳で」


「訳で?」


「結婚の予行演習をします」


「あ、こら、結構良い事言っていたのに。あん、首くすぐったい。分かったから、そっと、そっとで」


「中々、機会が無かったからね。ロットとフィアを見習った方が良いのかな?」


「それは私が倒れちゃうかも」


「そっかぁ。残念」


 そう言いながら、蝋燭を魔術で消す。暗闇の中、冷たい空気を少しずつ温めながら、夜は更けて行く。窓の外では、風の音が鳴り続けていた。

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