「あぁーヤバイ…
給料日まで、まだ一週間もある…」
そう朝からブツブツ呟いているのは、頭に真っ赤なリボンのカチューシャを付け、
指には大量のチョコレートやらアイスクリームやらのリングをしており、高校生とは思えない金髪の姫カットの女………
城川 ルリだ。
高校三年生 18才
フツーの女子高生である。
………いや、待て
コイツはフツーじゃなかった。
見た目も強烈だが、性格がなぁ……
「ねぇー、
ねぇーってばぁ、
亜紀ちゃんさぁ、さっきから心の声、まる聞こえなんですけどー
ってゆうか、あたしがフツーじゃないってどういう事よ」
ルリは笑いながら、こっちに向かって歩いてくる亜紀に言った。
「あ、ルリ、おはよ
聞こえてた?」
亜紀もつられて笑った。
「聞こえるも何も、完全に声に出してたじゃん」
ルリは某アニメの同人誌を読みながら、亜紀に抗議した。
「いやぁ、だってあんたさぁ、そういう本読んでる時、たいてい人の話聞いてないじゃん。」
「聞いてる聞いてる」
「また、そうやって、適当に流すしー」
亜紀は、ため息をつきながらルリの隣の席に座った。
「あんたさぁー、朝から
よく同人誌なんか読めるよねー………しかも18禁だし……」
「亜紀ちゃんは分かってないなぁ!!
萌えというものが!!」
ルリは手に持っていた同人誌をパタッと閉じ亜紀の方へ向き人差し指を立てながら、そう言った。
「あー、興味ないなぁー
萌えもアニメも同人も、一生分からないまま死んでいくよ。あたしは。」
「えぇーそんなの勿体ないよ!!
そうだ!明日、秋葉行こうよ!」
「あんた先週、ゲームのソフト、バカみたいに買ったの忘れたの?!」
「あ…亜紀ちゃん…
それは言わない約束でしょー」
「生憎、そんな約束した覚えはない!!
また、あんたの事だから秋葉なんて行ったら暴走するに決まってるんだから」
「亜紀ちゃんの意地悪」
「あたしは、ルリの為を思って言ってんの!
月末に金が無いって泣き付いて来んのは誰よ。まったく!!」
「いやぁーゴメンゴメン」
「あんた、反省してないでしょ」
「してるしてる!」
「今日の昼、ルリのチョココロネ買ってやんなーい」
「ま…待って!!
は……反省してます!!
ごめんなさい!!亜紀様!!」
「単純だな…オイ」
チョココロネで、こうも人が変わるとは、またマンガにでも影響されたな…コイツ…
亜紀は、半ば呆れていたが、毎回ルリの事が放っておけず、今日のお昼も奢ってあげる事に決めた。
朝のホームルームが始まり、出席をとり、いつもの様にルリは髪型や、その他諸々、担任に注意されていた。
すみませんね、適当な説明で
平和だなぁ…。亜紀はいつもと変わらず朝が、大好きだった。
というか、ルリが担任に注意されてる時の顔を見るのが好きなんだけど。
…うわぁ、なんちゅうサディスティックな見方をしているんだ、あたしは!
亜紀は心の中で叫んだ。
勿論、声には出してませんよ。
授業中も、ルリは何か考え事をしているみたいだった。
まぁ、どうせ、
「あれ?あたしアニメ録画してきたっけ?」とか、
「今日、ゲームソフトの発売日じゃん!!」とか、多分そんな感じでしょ。
ルリの事は、他の誰よりもあたしが1番分かってる……はず…!!
授業が終わり、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。
すると、1番、授業を真面目に受けてなかった奴が勢いよく立ち上がり、開口一番、あたしにこう言ってきた。
「亜紀ちゃん!!!
お昼だよ!!チョココロネだよ!!」
「……訳分からん」
ルリの意味不明な言葉に、クラスメートが全員こちらを向いた。
視線が痛い……
「ルリちゃん…良い子だから、もう少し、声抑えてくれるかな?」
亜紀は、そう言いながら席を立った。
「チョココロネッ♪
チョココロネッ♪♪」
ルリは満面の笑みを浮かべていた。
先程の事を注意しようと思っていた亜紀は、ルリの笑顔を見て、まぁいいかと、許してしまった。
二人は廊下に座り込んでお昼を食べ始め、亜紀は笑顔で好物にかぶりついているルリを見て少し嬉しくなった。
「美味しいですかー?」
「美味しいですー!!」
ルリは口をモゴモゴさせながら、答えた。
「思ったんだけど、ルリは、お弁当持ってこようっていう考えは無い訳?」
「いやぁ、朝は苦手なもんで…早起きとか、無理」
「よく言うわー!
イベントやら、即売会やらの時は、めちゃめちゃ早起きするくせに」
「…うーん…
人間って不思議な生き物だよねぇ…」
「あんたが、一番不思議じゃ」
ルリと話していると、あっという間に時間は過ぎ、午後の授業が始まる時間まで5分をきっていた。
「ルリ、行くよ」
そう急かすと、ルリは眉間にシワを寄せ、こう言った。
「…亜紀ちゃん。
立てない……。」
またコイツは…
授業サボる気だな
「ルリー!サボろうったって、そうはいかないよ。早く立ちなさい。」
「…ゴメン。亜紀ちゃん…ほんと…」
そう、言った直後、ルリはその場に倒れてしまった。
「え……ちょ、ルリ?!どうしたの?!」
ルリの丸くて大きい瞳は閉じており、髪も汗で乱れていた。
亜紀は、担任に報告し、ルリを病院に連れて行く事にした。
普通なら、ルリの両親を呼ばないといけないのだが、ルリは家の人と仲が上手くいっていないらしく、一応、学校側から連絡をいれてみたのだが、案の定繋がる事はなかった。
しばらくすると、救急車が学校に到着した。
予想してた通り、その光景を見ていた生徒達は、何事かとざわつきはじめた。
亜紀は正直、事を大きくしたくなかった。
救急車のベットに寝かされ、色白で金色の髪のルリは、まるでフランス人形の様だった。
亜紀はルリの傍を離れたくなかったので、自分も乗せてもらう様頼んだ。
病院に着き、ルリは集中治療室に入れられた。
「…ルリ………」
ルリは、あれからずっと眠ったままだった。
亜紀は、ルリが倒れた後も学校には行っていたが、授業に身が入ることはなかった。
ルリがいない生活に、慣れることはなく、何の変化もない機械的な毎日を送っていた亜紀にうれしい報告が届いた。
集中治療室から出られたルリとの、面会が許されたのだ。
亜紀は急いで病院へ向かった。
「ルリーー!!」
亜紀は病院だという事を忘れて、大きな声を出してしまった。
「あ、亜紀ちゃん!!」
いつもと同じ声。
いつもと変わらない顔。
…そして、手には同人誌。……18禁ね。
亜紀は、笑ってしまった。
「相変わらず、18禁にこだわるのね。あんたは」
「亜紀ちゃんも読む?
萌えをおすそ分け♪」
「お断りします」
以前と変わる事のない会話に二人は、笑ってしまった。
「それより、身体の調子はどう?平気なの?」
「大丈夫大丈夫!あぁーイベント行きたいー
ゲームやりたいー」
「その様子だと平気みたいね。
じゃあもう、面会時間終わっちゃうから、あたし帰るけど、また明日も来るからさ。そんな本ばっか読んでないで、早く寝なさいよ」
「分かってますー
……あ、そうだ。亜紀ちゃん!今度、絶対一緒に秋葉行こうね!!」
「ハイハイ。」
亜紀は、笑顔のルリに手を振り病室をあとにした。
その夜、亜紀はルリと久しぶりに話せたことが嬉しくて、なかなか寝付けなかった。
次の日、亜紀は学校が終わると、真っ先にルリのいる病院へ向かった。
「今日は何の話をしよう。また、あいつの事だから、萌えについて熱く語るだろうな」
亜紀は、そんなことを思いながら、自転車を漕いでいた。
病院に着くと、急ぎ足で病室に向かった。
「失礼しまーす」
ルリのいる病室の扉を開けると、看護士が一人居るだけで、あとは誰もいなかった。
「あの、すみません
この部屋に城川ルリって子いませんでしたか?」
亜紀が、看護士に尋ねると、逆に向こうから尋ねてきた。
「あなたが、城川さんのお友達の神代亜紀さん?」
「え、あ…はい。そうですけど」
「ちょっと、私に着いて来て下さい」
そう言った途端、看護士は私の前をすり抜け、足早に歩きだした。
「えっ………ちょっ…」
亜紀は不審に思いつつも、看護士の後を追った。
霊安室。
看護士が足を止めた部屋の扉に書かれていた文字だ。
「あの、私は城川ルリさんに会いに来たんですけど」
亜紀は意味も分からず連れて来られて、少し苛立っていた。
看護士は無言で、その扉を開け、亜紀に入るよう促した。
「………何?…」
部屋に自分だけ入れられ、亜紀は、変な気持ちになった。
「…何なの…一体…」
明かりを付け、周りを見渡すと、霊安室とは思えない光景が目に飛び込んだ。
部屋は一面、天使の壁紙が貼ってあり、床は大量のテディベアと本の山で埋め尽くされていた。
その、部屋の中心には、天蓋付きの豪華なベットが置かれていて、誰か眠っていた。
亜紀は、ベットに近付き、顔を覗き込んだ。
「……ルリ……?」
亜紀は一瞬、自分の目を疑った。
「…どうして、ルリがここにいるのよ…
…ここ、何処だか分かってるの?…死んだ人が入る部屋なんだよ…
どこでも寝る癖、直しなさいって、あれほど注意したのに……
……秋葉、一緒に行くんでしょ?束は守りなさいよ……バカ……」
亜紀は、その場に崩れ落ちた。
そのあと医師から、亜紀は全てを聞いた。
あの日、足が動かなくてルリが倒れた日。
既に悪性の腫瘍が転移していて、もう、そんなに長い間生きられない事を医師はルリに告げていたらしい。
そして、昨日。
ルリは、自分の命が短い事を悟ったのか、本当はまだ集中治療室にいなくちゃいけなかったのに、私に会いたいと、医師に泣き付いたそうだ。
「…城川さんは、いつも、あなたの事を思っていましたよ。
最初は、面会させる事に反対でしたが、あなたに会って話している時の城川さん…一番輝いていました」
「最期に、城川さん何て言ったと思います?
「亜紀ちゃんの事は、あたしが世界で一番分かってる。間違ったらちゃんと叱ってくれる。いつでも、本気で接してくれる。両親はそんな事してくれなかった。
亜紀ちゃんは、あたしのママなの。」ですって」
亜紀は黙って聞いていた。
「本当、面白い子でしたよ。城川さんは。」
亜紀は、ようやく口を開いた。
「うちの、ルリがお世話になりました」
亜紀は涙を見せないように深く頭を下げた。
親は強くなくっちゃね…
自分に言い聞かせる様にして、亜紀が頭を上げる頃には目が真っ赤に腫れていた。
家に帰り、亜紀は自分の部屋へ真っ先に向かった。
お気に入りの写真立てに入っているルリとの写真を見ながら、亜紀は声に出して呟いた。
「ねぇ、ルリ…あたし、あんたの事何にも分かってなかった……ごめんね……守ってあげられなくて…本当ごめん……でも、一つだけ胸を張って言えることがあるの………ルリ、世界で一番愛してる……あたしの可愛い娘…」
亜紀の顔は、涙でぐちゃぐちゃだったけど、確かに笑顔だった。
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