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心残りの路

作者:キュウ
3分程で読めるミニ短編です。
お茶とかコーヒーとか、カフェオレ片手にごゆるりどうぞ。
お話自体はあまりごゆるりしてませんけどね(笑)
 慌ただしく人の声響く騒然とした街中を通り抜け、もの静かな中でもどうにも人の気を感じさせる住宅街を抜け、少年は、町外れの路なき路までやってきた。
 辺りには、いばらなんかを通されるように耳障りな、夏虫の声が響き渡っていた。それは、わずかに彼の心で形作られていた鬱屈を、まるで地に落ちて弾け跳ぶ雫みたく、瞬く間に拡がらせた。その苛立ちを追いかけて、背後の日射が身を突き刺してきていた。
 少年は何日も同じ路を辿っていた。視線を気怠く浮かせていくと、数羽の小鳥が群を作って飛んでいるのが見えた。鳥は陽光を遮り、冷たい地面へ入れ替わり立ち代わり影を這わせた。
 歩く。歩く。次々歩く。周りの景色が徐々に徐々に歪んでいっているような心地がする。……否応無しに家が近付く。それを認識する度に、歪みはいっそう大きく、膨れ上がっていった。
 草木が生い茂る森へ入った。日射は遮られ、途端に夜になったように視界が青く染まった。そんな中で目につくわずかな木漏れ陽さえも、ザワザワと葉鳴りを起こす風が去ったのちに、別の葉によって遮られて、再び黒く染められた。
 森を抜け、海原のように草が波打つ丘に出た。住宅地に近接するその丘からは、ずっと先まで何軒もの家が眺められたが、丘の真ん中にも、一軒だけ小さな家が見える。そこが、少年の帰り路の目的地だ。
 空はいつの間にか暗雲に覆われており、森を抜けたそばで大粒の雨へと換わって、少年の頭上に降り注いだ。すぐさま歩くのが億劫になるほど地面はぬかるんで、靴の底へじわりじわりと水が染みこんでくるのを感じた。しばし歩いてみると家の様が鮮明に見えだす。窓には雷のようなヒビが入り、壁は黒ずみ、屋根にはぼこぼこと穴が空いていた。
 扉の前までやって来た。その、錆ついて、ぽろんと今にも取れそうなドアノブから視線を滑らせ、強風が吹けばバタンと勝手に開きそうなほど頼りなさげな、ドアそのものを眺めた。雨は相も変わらず降りしきり、少年の行く路を踏み鳴らし続けた。
 ザアザアという雨音に混ざり、小さく笑い声が聞こえた。そちらを見やると、そこには男と女と、両人と手を繋いだ子どもが、一本の傘の下で、三人肩を並べて楽しげに住宅地の路を歩いていた。彼等が路地裏へと消えていくのを見届けて、少年は再び視線を戻した。
 ドアを開いて中へ入る。明かりとなるランプは割れてしまっていて、わずかに窓から射す灰色の光のみが部屋を照らしている。テーブルは横倒しで、ベッドのシーツはビリビリに裂かれて、壁にはあちこち、引っ掻き傷のような痕が付いていた。
 それらの景色全てに目も暮れず、少年は椅子に腰掛けると、昨日と同じように、あるいはいつものように、重たい瞼の瞳で部屋中を眺め回した。両手を力無く床に向けて垂らし、脚は投げ出し、視線を移すのに連動するように、首を壊れ人形のようにくねらせた。
 そして、幾度目かの言葉を呟く。
「父さん。母さん。僕は、どうしたらソチラにゆけるのでしょうか……」
 かつての少年の目には、姿の見えない両親の姿が映っていた。彼にとっては、毎日の朝陽や涼しげな風、そして網のような木漏れ陽の景色をおいて、それだけが糧だった。
 しかし、いつしか両親の姿は真っ暗な影へと移り変わり、終いには、何度も目にしてきた二つの墓標へと変貌した。
「自分で何もかもを絶とうとしても、どうしてか僕はそれを怖がるのです。二人の死以上に怖いものなんて、在るはずが無いのに……」
 墓参りまでの路で傷ついてしまった身体が、毎晩毎晩声を荒げる。それらはみな、同じ路を行ったり来たりする不毛な日々に残る、唯一の産物だった。その路には足跡だってつかないというのに。このままであれば、いつしか僕は死んでしまうだろうと、少年は頭の片隅でそう考えていた。そのまま黙祷を捧げるように目を閉じて、いつの間にか眠ってしまった。
 その背後では、仄かに光を帯びた二つの人影が、少年のことを見下ろしていた。

 また今日も、少年は同じ帰り路を歩いていた。
 慌ただしく人の声響く騒然とした街中を通り抜け、もの静かな中でもどうにも人の気を感じさせる住宅街を抜け、少年は、町外れの路なき路までやってきた。辺りには、いばらなんかを通されるように耳障りな、夏虫の声が響き渡っていた。
 そんな景色の内で、来る日も来る日も考えるのに全く答えが解らない、不思議に思うことがあった。
 なぜかは判らないが、あんなにも傷だらけだった腕や脚が、翌朝になると決まって癒えていた。まるで、誰かがこっそりとお世話をしてくれているようだ。
 また、産まれてより何年の時が経ったのか知れないが、いつの日からか空腹を感じないようになっていた。体は妙に軽いし、肌もずっと白いままだ。
「お父さん、お母さん。未練というのは、どうすれば断ち切れるものなのでしょうか」
 ――森の木漏れ日が、風に揺られて少年の目に射してくる。眩しげに目をつむって、そちらへ目をやると、未だに温かい日の光が、彼を照らしているのが見えた。彼の瞳に、背後の影無き地面は映らない。
お疲れ様でした♪
HP(→http://kyunote.blog.fc2.com/)にて
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