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不気味すぎる七地蔵を調べるエステル。
私も若い頃は怖いもの知らずにも各地のあやしー石とか塚とかを調べ歩いてました……。
今は退官した大学教授とともに、さらなる壮大な仮説に向かって調査の手を広げているところなの……。
第9話 七地蔵
「七地蔵……ですね」
 気がつくと、いつのまにかアシュケナージが私のとなりに立っていた。
「珍しいんですか、先生?」
 私は黙ったまま首を縦に振った。
「では私、写真に撮っていきます」
 アシュケナージはデジカメを向けた。
 
 パシャッ
 
 暗闇を切り裂くフラッシュの光。
 ああ……止めるべきだった。私は後悔を覚えた。
 激しい光は霊たちを刺激する。何か取り返しのつかないことが始まってしまったのではないか―――
 私はそんな恐怖にとらわれた。
「神野先生、ここ……」
 アシュケナージは平然とした口調で私を呼んだ。
 彼女はケータイ携帯の画面を開き、その明かりで地蔵の側面を照らし出していた。
「何か文字が彫ってあります。大……」
「ちょっと、よしなさい、アシュケナージちゃん」
 私は眉をひそめながら言った。
「この地蔵、何か変よ。下手に関わらないほうがいいと思うんだけど(マヂで)」
「大正……十四年……ですね」
 アシュケナージは私の言葉を無視するように続けた。
「それからこっちはきっと人の名前ね……マ……リ……? あ、となりのも同じ日付……」
 大正十四年? マリ? 誰なのだ、それは?
「これは何て読むのかしら、ミズ・カミノ? 真善美しんぜんびの『善』……それから木村拓哉の『哉』?」
「よしや……かしらね」私は呟いた。
 まさか善哉ぜんざいではないだろう。
 彼女が触れていたのは、左から数えて六番目と七番目の地蔵。
 そこには「マリ」と「よしや」という二人の人名(?)が刻まれていた。
 私は何か薄気味の悪いものを感じていた。
 墓地や葬儀場に六地蔵を祀るのは日本特有の信仰だ。
 地蔵尊は極楽往生できなかった衆生を救済する仏――
 だから日本では、六道輪廻のそれぞれに六種の地蔵がいるとして、六地蔵を祀る習俗が生まれた。
 逆にいえば――こんなところに六地蔵、いや七地蔵があるということ自体がヤバイのだ。
 恐らくここは何らかの霊的スポット――でなければ地蔵など祀られはしない。
 通常ならば六体で事足りるはずの六地蔵。
 そこにあえてもう一体を加え、結界を強化した理由とは……?

 どうして?



 車の中でも――私はそのことばかりを考えていた。
 私の異変を感じ取った長女は、その場の雰囲気を変えようと、気を利かせてラジオのボタンに手を伸ばした。
 何か陽気な音楽でも聴いて――そう思ったのだろう。

 ガッ……ガガガッ

 沈黙を切り裂くラジオのノイズ。
「あら、変ねえ」おばさんは首をかしげた。
「このあたりの電波は良いはずだけど」
 そうだろうか? 私にはそうは思えない。
 だって、ガブリエッラがケータイで家族に連絡をとろうとした時だって、まったく電波がつながらなかったではないか。
「お母さん、きっとあれよ」
 娘は、暗い雰囲気を打ち消すような明るさで言った。
「『しいなちゃん、せいこさんのラジオ、混んだ?』――」
「ああ、おばあちゃんのあれね」
 母親がため息まじりに呟く。
 おばあちゃんのあれ? ラジオが混んだ? 何のことだろう?
「すいません、わかりませんよね、こんな話」
 娘は、笑いながら説明を始めた。
「うちに101歳になるひいおばあちゃんがいるんですけど―――」
 彼女の話はおおむねこういうことだった。
 その101歳のひいおばあちゃんには、意味のわからないうわごとのような口癖があるのだという。
 それがさっきの言葉――しいなちゃん、せいこさんのラジオ、混んだ?
「しいなちゃん」……そして「せいこさん」。
 いったい誰のことなのだろう? それにラジオが混むって一体……?
 韓国語放送とかが、上にかぶってきちゃうとか? 確かにあれは邪魔だけど……。
「せいこさんって『誓う子供』って書くらしいんですよ? ほら、俳人の山口誓子やまぐちせいしの誓子」
「誓う……子……ああ、それで誓子せいこさん」
 私の言葉に、娘は頷いた。
 せいこさんが「誓子」なら、しいなちゃんは……やっぱり「椎名」だろうか。
 しかし何なのだろう、これは?
 まるで暗号のような言葉……

「ほら、着いたわよ」
 いくぶん弾むような母親の声が、私たちの会話を遮った。
「そこに見えるのが峠の休憩所ね」
 私はハッとして顔をあげた。
 数本の街灯に照らし出された休憩所の建物――それは村営の観光案内所のようなものだった。
 建物自体は意外に新しく、デザインもシンプルでモダンだった。
「ごめんなさいねえ、私のうち、ここから大峯とは反対方向なのよ」
 おばさんは申し訳なさそうに言った。
「いえ、とんでもないです」私は頭を下げながら言った。
 車の中で親しくなった一家の長女が、名残惜しそうに私の顔を見つめていた。
 彼女は、休憩所のベンチまで荷物を運ぶのを手伝ってくれた。
「ありがとう、助かったわ」私は礼を言った。
「いえ、いいんです」彼女はほほえんだ。
「それよりも――」
 彼女の表情がいくぶんこわばった。
 何だろう?
 彼女は何を言おうとしているのだろう?
「もしかして――神野かみのみらの先生……ですよね?」
「えっ」
 突然の問いかけに、私は言葉を失った。
「やっぱりそうだったんですね」
 彼女は、咲き誇るような笑顔に戻って言った。
「私、先生の小説が大好きなんです。わあ、信じられない。こんなところで神野みらの先生に会えるなんて……!」
「え、あの……どうも」私は照れながら応えた。
「これ、私のケータイ携帯番号です。困ったことがあったら電話してください。自宅まで戻れば、私、自分の車、もってますから」
 彼女は嬉しそうに言った。
「そんな……悪いわ」
「いいんです、私」
 彼女は本気のようだった。
 でも、これ以上の迷惑はかけられない……私はそう感じていた。
 そういうことについて、私は厳しくしつけられて育ったのだから。
 もっとも、その抑圧の反動からヲタクの道に足を突っ込むことになり、そして今では全身でドップリと浸かっている人生――皮肉なものだ。
 ピッと警笛を鳴らして向きを変える一家の自動車。
 次第に遠ざかるテールランプを見送りながら、私は心なしか寂しさを感じていた。
 私は腕時計を見た。 

 午後11時10分――そう読めた。    

                               第9話 終
深夜にこんなのを読んでいる、あなた。
そんなことしていると、夢にでちゃいますよう〜(・。・;
舞台になっている村、実在なんです。
地元の人ならわかるのじゃないかしら?
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