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私の実体験に基づく大峰村旅行記、ハラハラな展開にドキドキして下さいね(擬音ばっかでごめん……)
第6話 高市駅
 泣き出しそうな夜空だった。少なくとも私にはそう見えた。
 標高が高いせいか、この時間になると何かひんやりとしたものを感じる。
 私は思わず身震いした。

 ガブリエッラはあたりを見回していた。出迎えの車を探しているのだ。
 当初の約束では、この高市駅の正面に、バルディ家の運転手が車を回してくれるはずだった。
 だが、それらしき車の姿はない。
 まあ、それももっともな話、なにしろ、茶谷くんたちのせいで、予定が大幅に狂ってしまったのだから。

 それにしても――私は閑散とした夜の街を見わたした。
 まるで人々から忘れ去られたかのような山裾の町。
 身体カラダの芯までしみいるようなその静寂――

 車が一台、私の目の前を通り過ぎていった。
 私はハッとして我に帰った。
 ガブリエッラはしきりにケータイ携帯をいじっていたが、両親との連絡は一向につかないようだった。
 バルディ家の別荘のある大峯村は、峠二つ向こうの山の中――もしかすると、電波が届かないのかも知れない。
 21世紀にもなって、この日本にそんな僻地があったなんて……。
 私は何かそら恐ろしいものを感じていた。
 どう見たって、このあたりに4人が泊まれそうなホテルなどありそうにない。
 まさか、駅で一晩を明かすなどということになりはしないだろうか?

「ああ、先生。どうしたらいいのかしら?」
 ガブリエッラは泣き出しそうな顔で私に訴えた。
「どうしても家族と連絡がつかないんです」
「そう……困ったわね」
 私は慰めの言葉すら思いつかず、中途半端な表情を浮かべたまま、バスの待合室の引き戸に手をかけた。

 ガラガラガラ……
 
 立てつけの悪さに辟易しながらも、私は小屋の中に足を踏み入れた。
 こんな時でも茶谷くんは、街灯の明かりの下で柳田やなぎだ理科雄りかおを読んでいる。
 ああ、なんて非協力的な男……夫にはしたくないタイプだわね。
 冷え冷えとした雰囲気の小屋の中には、中年のサラリーマン風の男性と老婆、そして帽子をかぶった中学生くらいの少年が、ベンチに腰かけてバスを待っていた。
 こんなところからバスに乗って帰宅する人がいるなんて――
 私にとっては、そのこと自体が不思議というか、意外だった。
大峯口オオミネグチ……」
 行き先を声に出しながら、壁の時刻表を両目で追う。
 こうなったらしょうがない、行けるところまでバスで行ってみよう。
 ここにいたってしょうがないのだから。
 案外、終点まで乗っていけば、大峯村に着いてしまうかも知れない。

 その時、私と入れ替わるように、中年の男がベンチを立って小屋を出ていった。
 
 ジリジリジリ……

 何かが焦げるような音を立てながら明滅する、待合室の蛍光灯。
 そのあかりの下で、私は奇妙な錯覚にとらわれていた。
 煌々と点されたこの小屋の灯りは、眠りについたこの世界に、ただ一つ残されたともしびなのではないか――と。

 ビリビリビリ……

 窓ガラスが震える音。
 それを聞いて、私はバスが到着したことを知った。
 老婆はおもむろにベンチから立ち上がると、そのままスタスタと待合室から出ていった。
 やがてエンジンの音が遠ざかり、あたりは再び沈黙に包まれた。
 私は改めて時刻表を見た。大峯口まで行くバスはすでに終わっていた。
 ただ、同じ大峯方面行きの最終バスが、まだ一本残されていることがわかった。
 大峯口までは無理でも、終点の岩森イワモリというところまでは、このバスで行けるようだ。
 私はベンチに腰を落ち着けた。とりあえず、岩森というところまで行ってみよう。
 もしかしたら、そこから大峯口まで行くバスが出ているかもしれない。

 ガラガラガラ…… 

 唐突に外の冷気が、私の皮膚をかすめる。
 駅の職員が一日の後片づけに回ってきたのだ。
 その時、バスのディーゼル・エンジンの振動が小屋全体を揺るがした。
 窓の外には大きなタイヤの影が浮かんでいた。
 これが今日の最終バス――大峯方面岩森行き。
 私はベンチを立って、待合室を出た。
 ガブリエッラ、茶谷、アシュケナージ――三人の視線が私の顔に注がれた。
「さあ、乗るわよ、三人とも」私は言った。
「これを逃したら、もうバスはないんだから」
 私は、半ば強引に3人をバスへと乗り込ませた。
 でも、こうする他はなかったのだ。

 こうする他は……



 私たちが乗り込んだバスは、大峯方面岩森行き――この日最後のバスだった。
 薄暗い車内――私とガブリエッラは通路右手の2人掛けの座席に、茶谷くんとアシュケナージちゃんは通路左手の1人席に、それぞれ腰かけていた。
 胸に直に響くエンジンの振動が、私の鼓動をかきたてる。
 乗客は私たちを含めて7人。私たち以外はみな地元の住人に違いない。
 1人は年配の男性、もう1人はハタチ前後の女性、そして先ほどからずっと待合室に座っていた少年――
むろん、そこに会話などはなく、ディーゼル・エンジンの抑えようもない騒音だけが、不規則なリズムで時を刻んでいた。
 後から乗ってくる客は、終点まで1人もいなかった。
 もうこんな時間、無理もない……。

 私は、寂れた街の風景をじっと見つめていた。
 暗くて確かなことはわからなかったが、
 バスは川沿いに、山間へと向かって走っているようだった。
 どこまで行くのだろう?
 終点の岩森からバルディ家の別荘までは、どれくらいあるのだろう?
 まるでわからない。
 よく揺れる狭い道だった。その上り坂の途中にある停留所で、バスは初めて停車した。
 年配の男に続き、若い女性がそこでバスを下りていった。
 残る乗客は5人。今、2人減った。
 バスは再び動き出した。
 あたりは静けさを増してゆく。
 真っ暗な外を眺めていると、車内に響くエンジンの音さえ虚ろに感じられる。
 しばらくの間、私は自分がどこにいるのかさえもわからなくなっていた。
 ああ、私はどこへ向かおうとしているのだろう……
 次第に人家が絶えてゆく。
 ガブリエッラも茶谷くんもアシュケナージも……誰もが押し黙ったまま、窓の外の暗闇を見つめていた。

 どれくらい揺られていたのだろうか?
 気がつくと、バスは舗装道路から外れ、折り返しのために小高い台状の空地へと乗り上げていた。
 そこが終点だった。
 私は財布を取り出すと、小銭の勘定を始めた。他の3人も私にならって動き出した。
 あれ――私はあたりを見回した。
 私はそこで気がついた。私たちがこのバスの最後の乗客だということに。途中で降りたのは確か2人――そこまでは覚えている。
 いつの間にかもう1人も途中下車し、私たちだけが残されていたのだ。
 どっと不安がこみあげる――

 私たち、これからどうすればいいんだろう?

                                  第6話 終
ちょっぴり怖くなってきた「エステル」。
みなさんなら山の中に置いてけぼりにされてしまったら、どうしますか?
これ、ぜんぶ実話なんです…(;_:)
私、とある山の中でみらのさんたちと同じ目に…。
しばらく実話が続きますので、リアルに怖がってくださいね(;O;)

もともと中学生向けに書かれたお話です。
高校の文芸部などの方にも読んでいただけると嬉しいのだけれど☆彡
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