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みらの教授(28歳・処女)と天才少女エステルの楽しくも悲しい長編スリラー、でも、中学生向けの読みやすい娯楽小説だから安心してね☆
第3話 センポ・スギハラ
「そうですか、うまくいっているようで安心しました」
 飢野うえの教授は目を細めながら頷いた。
「でも私、期待されるとやる気をなくすタイプなんです」私は言った。
「だからもう、投げ出したいような気分でもあるんです」
「そういうところは、昔と全然かわりませんね」
 飢野教授は笑いながらココアのカップに口をつけた。
 ここは、《ラピュタ》という名前の喫茶店、アール・ヌーヴォーの香り漂う瀟洒なお店。
 で、実を言うと―――私はこの店に住みついている。
 住みこみのバイトから始まって、かれこれ6年―――
 けっきょく私はこの店から離れられず、奥の母屋の一室を間借りして生活を営んでいる。
 それもこれも、ぜんぶ宮崎みやざき駿はやお監督のせい。
 私は彼の『天空の城ラ●ュタ』が大好きだから。決してスイフトの原作のほうではない。

「ところで、みらのさん」飢野教授は言った。
「この台はまだ動くのでしょうか?」
 彼は店の片隅のゲーム機の台をコツコツと叩いた。
「今どきインベーダー・ゲームの台が置いてあるなんて……一つの奇蹟ですね」
「そうなんですか?」
 インベーダー? 何それ、私は知らない。
「1970年代の終わりに流行ったゲームです。ほら、タイトーというメーカーは知っているでしょう?」
「ええ、まあ……」私は曖昧に答えた。
「インベーダーがヒットした時、私はまだ2歳でした。私が小学校くらいの頃にはまだそこかしこで見かけたものでしたが……独特な無機質なサウンドがまた印象的で」
 飢野教授は懐かしそうにインベーダーの画面を見つめていた。
「ところで先生」私は話題を変えて質問した。
「センポ・スギハラって何ですか?」
「センポ?」
「ええ」私は言った。
「実は私の教え子に、アメリカ人の女の子がいるんです。とても流暢な日本語を話す子で……それで私、どうして日本に興味をもったのか、それを訊いてみたんです」
「それで……センポ・スギハラですか」
「ええ」私は続けた。
「センポの国を訪ねてみたかった――こう言うんです。私がセンポなんて知らないって答えると、なんだかとても意外そうな顔をして」
「そうですか」
 彼は苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
「アメリカ人の学生がセンポ・スギハラを知っていて、当の日本人がそれを知らないとは――その学生もさぞかし呆れたことでしょうね」
「えっ」私は思わず声をあげた。
「センポ・スギハラというのは、在リトアニア日本領事館の領事代理を務めた外交官の名前です。ナチスに追われてリトアニアに逃れてきたユダヤ人難民に独断でビザを発給し、六千人もの人々の命を救った人物――杉原すぎはら千畝ちうねのことです」
「はあ……そうなんですか」
 ふーん、そんな人がいたんだ。
 でも私、歴史とかノンフィクションとか、そんなに好きじゃないから……全く興味がないというわけでもないけれど。
「私は残念です」飢野教授は言った。
「私は高校生の頃、センポ・スギハラを題材にした舞台を見て、激しく心を揺り動かされました。21世紀に入り、彼の知名度もようやく世界的なものとなりました。それなのに、教育者であるあなたがそれを知らないとは……」
 彼はさみしそうに首を振った。
 だって……そんなこといわれたって、私は自分に関係ないことには無関心なほうなんだから。
「そんなことよりも、先生」ごまかすように私は言った。
 いや、その言い方は正しくない。
 本当を言えば、センポさんよりこれから話すことのほうが私にとっては重要な関心事。
 それは――私は続けた。
「実はその子、まだ12歳になったばかりの女児なんです」
「女児?」飢野教授は驚きに身を起こした。
「いわゆる天才児だと思うんです」私はすかさず話を続けた。
「なんでもその子、その年でもうアメリカの大学院の博士課程を修了してるらしいんです。
あとは論文を書いて博士号を取るだけとか――」
「なるほど…… PH.D.cand ――博士号候補生ですか」
「それだけじゃないんです」私はため息まじりに言った。
「その子、日本でいえばまだ小学生だっていうのに、胸だってもうこーんなだし、手足だってニョキニョキだし……まだ身長150センチくらいのちびっこのくせに、スーパーモデルばりの体型なんですよ?」
「あなただって十分に美人じゃないですか、神野さん」
 飢野教授はなぐさめるように言った。
「それはそうですけどぉ」私は臆面もなく言い切った。
 だってそれはウソじゃない。私は基本的には美形なんだもん。
 ただ、性格がちょっとだけイタいというだけで……。
「でも、あの子のブロンド美女ぶりを見ちゃうと――ああ、日本人って損ですよね、ビジュアル的にも体型的にも」
 私はコンプレックス丸出しでそう呟いた。
 ああ、私、なんでこんなことしゃべっちゃったんだろう?
「しかし神野さん」飢野教授は言った。
「あなたの話を聞いていると、劣等感というよりは、むしろ、楽しんでいるように聞こえるのですが。本当は好きなのではないのですか、その子のことが?」
「えーっ」私は不満の声をあげた。
「私、そーゆー趣味ありませんから。そりゃあ、ちょっとは萌えるけど……あら、いけない」
 思わず本音を言ってしまった。
 ま、いーか。この先生は何でもお見通しなんだから。
「ところで先生」
 私はもう一度話題を変えた。このまま萌え続けていてもしょうがない。
「実はゴールデン・ウィークのことなんですけど」
「ゴールデン・ウィーク? それがどうかしたのですか」
 淡々と訊く飢野教授。私はかまわずに先を続けた。
「あの、実は学生の一人から実家の別荘に招待されているんです、私」
「ほう」彼は驚きの息を漏らした。
「いいじゃないですか、みらのさん。行ってらっしゃい」
「はい、私もそのつもりなんですけど――」
 しかし、そのお宅というのが少し変わっているのだ。
 なにしろ一家そろって私のドロドロ小説の大ファン。
 おまけにその別荘というのが、山奥の村に建てられた場違いな洋館とか何とか――完っっ璧にゴシック・ホラーの世界!
「先生、私、すでに何かに巻き込まれちゃったりとかしてるんでしょうか?」
「そんなことは知りません」悪魔学者はすげなく答えた。
「なんでもその洋館、明治か大正の頃にアメリカ人の貿易商が建てたものらしいんですって。実はその、私を招待してくれた女子学生っていうのも、西洋の人とのハーフで……顔は純和風で清楚な美少女なんだけど」
「結構じゃないですか」飢野教授は皮肉な笑みを浮かべた。
「これで誰かさんの英語嫌いが治れば、私としても安心です」
「そんなわけないじゃないですかっ」私は悲鳴をあげた。

 カラン、カラーン――

 来客の訪れを告げるカウベルの音。今日は定休日なのに……
「こんにちは、プロフェッサー・カミノ」
「あれ、あなた……」
 意外な来訪者の姿を見て、私は驚きに目を丸くした。
 彼女だ。例の12歳の天才少女……それもちょっとグラマーなセクシー美女児(!)
「えーっと、あなたは確か……」
Estherエステル・ Ashkenazyアシュケナージです、ミズ・カミノ」
「え? アシュラゲージ?」
 あ、ダメだ私。こういうインテリ系の名字って覚えられないかも。
「おや、みらのさん。噂をすれば影ですか?」
 飢野教授はやさしくほほえんでいた。
 そう、彼からすればこの子は孫弟子……かわいい教え子の教え子なのだ。
「いえ、先生」私は否定した。
「彼女は洋館のお宅の子じゃなくて……」
「わかっています。センポのほうでしょう?」彼は言った。
 そう。このアシュラ……アシュケナージっていう子は、確かにセンポ・スギハラについて私に話してくれた学生。それは間違いない。
 でも、どうして飢野教授にはそれがわかるのだろう?
 あ、そうか、顔を見ればわかるんだ。
 洋館の子はハーフだけど容貌は日本的だって言ったばっかりだった。

 飢野教授はただほほえむばかりだった。

                                   第3話 終
天才は天才を知る――悪魔学者・飢野教授と天才児エステル。
天才と変人は紙一重だと、天才に接し続けてきた私は、本気で思っています…(-_-;)
そんな私は、天才じゃなくてただの変人です。残念('∀')☆
では、自称・天才の方、怖がらずに名乗り出てくださいねm(__)m
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