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バルディ邸での優雅な暮らしにうっとりのみらの先生だけど……
この後、エステルのトンデモ発言に波乱が!?
素敵なディナーが台無しにー(;_:)
第17話 おうち、ください
 夜――
 三時のおやつもきっちりいただき、それでも私は食べる気まんまんでディナーに臨んだ。
「ミラノ先生、ワインのほうはお好きですか?」
 バティスタ氏は一本のビンを手に取った。
「私の故郷、トスカーナ州の赤ワイン、キァンティ・クラシコ・リゼルヴァ『ラ・プリマ』――カステッロ・ディ・ヴィッキオマッジオを代表するフルーティーなワインです」
 私の返事を待たずに、バティスタ氏はなみなみとワインを注ぎだした。
 どうしよう。私、飲めることは飲めるんだけど、そんなに強くはない……
「お口にあえば嬉しいのですが」
「あ、ハイ。私、いただきます」
 勧められるがままに、私はゴキュゴキュと飲み始めた。
 たくさん飲まなきゃ悪いと思って、一気にほとんど飲み干してしまった。
「大丈夫ですか、ミス・ミラノ」心配そうなバティスタ氏の声。
 う……あんまり大丈夫じゃないかも……
「このワインはフィレンツェの南方、ヴィッキオマッジオという城の中で生産されたものです。ご存知ですか? この城を設計したのはレオナルド・ダ・ヴィンチ―― 一説には、モナリザもこの城の一室で描かれたとか」
「えっ……」私はバティスタ氏の顔を見た。
 そうか、バティスタ氏、私のために、わざわざダ・ヴィンチにゆかりのあるワインを……
 それなのに私ってば。
 私はしょんぼりとした顔でとなりのエステルを見た。
「あっっ!」
 その瞬間、私は思わず叫び声をあげた。
 エステルが……エステルがワイン飲んじゃってる!
「ちょっ、ちょっとアシュケナージちゃん!」
 私はエステルの手からワイングラスを取り上げた。
 ああ、こんなことが表に出たら、私は教授をクビにされてしまう!
「何をするのよ、ミラノ」エステルは私をにらみつけた。
「私、お酒なんて全然平気よ? 子供扱いするなんて心外だわ」
「あ、あなたねえ?」私は思わず拳を握りしめた。
「まあまあ、今の一杯だけは大目に見てあげては? ミス・ミラノ」
 バティスタ氏は私をなだめるようにほほえんだ。
 まあ、彼がそう言うんなら私はかまわないけれど……。
 食卓には火屋野さんの姿もあった。
 火屋野さんはバルディ家の家令かれいのような人。
 家のことは、みんな彼に一任されているようだ。
 若いわりにはしっかりしているものね。
 ただ、次女のガブリエッラだけは火屋野さんに対して生意気な態度を取り続けている。
 きっと幼い頃から火屋野さんにさんざん甘えて育ってきたのだろう。
 そこへいくと、姉のマリーアは対照的で、火屋野さんに対する感謝と信頼とが態度ににじみでている。
 年は二十歳はたちくらいかしら、このひと……
 そして長男のヨシュア君。エステルと同じ十二歳の美少年。
 さっきからチラチラと私の顔を覗っているようだけど……
 もしかして私のことを……キャッ、どうしよう?
 それはそうと――昼間から茶谷くんは、口を開けば株の話ばかり。
 バティスタ氏も快く答えてはくれているけれど、いい加減、そのうちキレちゃうんじゃないかしら。
「私はもう悠々自適の身です。私自身が関係しているファンドもいくつかありますが、最近では別の投資信託会社にも分散した資産の一部を任せてありますので――」
 執拗にくりかえされる茶谷くんの質問に対し、バティスタ氏は苦笑まじりに言った。
「ただ―― 一度動き出したアジアの個人マネーはもう止まることはないでしょう。日本人も日本企業も、今では洗練されたマネーゲームの手法でグローバルマネーを操縦するようになりました。かつてのITを柱としたポスト産業資本主義の産業構造が転換しようとしている一方で、新規投資家の数はピークに達しつつあります。そろそろまた売り始める人が出てきますよ」
 それよりも今は料理を楽しみましょう――バティスタ氏は促すように言った。
 大人しくバティスタ氏の言葉に従う茶谷くん。
 そう、彼には意外と素直なところがあるのだ。
「まあ、せっかくですから」付け加えるようにバティスタ氏は言った。
「後でファンド筋が注目する面白い銘柄をいくつかご紹介しましょう。どれも一般投資家の買いが集まったところで売り抜ければ、それなりの差益は保証できます」
「え、本当ですか」茶谷くんは目を輝かせた。
 バティスタ氏もお人好しだ。
 何もそこまでしてくれなくても……ちょっと迷惑だ。
「それにしても茶谷先生」バティスタ氏はおもむろに訊いた。
「どうしてあなたは株などを? あなたには小説があるではありませんか。それとも、何かあなたなりの哲学があって市場に飛び込もうとされているのか……」
「哲学……ですか」フォークを握る茶谷くんの手が止まった。
「そう、哲学」バティスタ氏は言った。
「もともと近代資本主義はピューリタニズムから生まれたものではありませんか。ジャン・カルヴァンの召命しょうめい論的な職業観が合理的な近代の経済人を産みだした―――むろん、結果論的にですが」
 ピューリタン? カルヴァン? 
 ああ、なんか高校の世界史で習ったような気がする。
 カルヴァンってスイスかどこかで宗教改革をやった人だっけ? 
 ハッキリ言って興味なかったけれど……
 まあ、要は厳格なプロテスタントの宗教観に基づく職業倫理が、逆に健全で合理的な経済体制を作り出したってことね。
 でも、何かおかしいわね? 
 じゃあ、なんで今の資本主義社会がこうもマネー・ゲーム的な功利主義に走っちゃってるわけ?
「それは資本主義から肝心のピューリタンの宗教倫理が抜け落ちたからです。もっとも、カトリックである私が言うのもおかしなことですが」
 バティスタ氏は私の方を見て言った。
「ですが、面白いことに、野心的投機家といわれる連中ほど、初期のピューリタニズムを思わせるような禁欲的な人物が多いのです」
 投機家? 
 茶谷くんみたいに株とかの値動きで利ざやを稼ごうとしている人たちのことか。
「禁欲というのは実に合理的な生活態度です。成功を収めている投機家というものは、みな極度の合理主義者です。もっとも、マックス・ウェーバーが説くように、投機的・冒険的な資本主義はピューリタンの堅実な市民的資本主義とは相容れないものであったはずですが、21世紀の超資本主義的な経済形態の中では、その境界は消滅したも同然――いや、逆転現象を起こしているとさえ言えます」
 私は横でウンウンうなりながらバティスタ氏の話を聞いていた。
 ああ、難解。
 でも今の話、大学の社会学の講義で普通に聞いたような気が……
 これって、もしかしてただの常識?
「もともとこの手の投機的ビジネスを得意としたのは――そう、ユダヤ商人」
 バティスタ氏は確認するように私の顔を見た。
 ユダヤ人……ユダヤ人ってどんな人たち? 
 そうだ『アンネの日記』のアンネちゃんだ。
 ナチスに迫害されて大量虐殺されて……大変だった人たちのこと。
「ご存知でしょう? イギリスの名家が全て没落したとされるワーテルローの戦い――その時に起こった株価大暴落――そこで逆に自己資産を数千倍に拡大し、英国公債と優良銘柄を一気に買い占めたネイサン・ロスチャイルド。あるいは相次ぐ通貨危機を利用して数十億ドルを稼ぎ出したジョージ・ソロス」
「あ、知ってますよ、ジョージ・ソロス。ジム・ロジャーズのパートナーだった人でしょ?」
 茶谷君の言葉に、バティスタ氏は頷いた。
「どんなビジネスにだって多かれ少なかれ投機的な材料はあるわ」
 私のとなりからエステルが顔を覗かせた。
「逆境こそがチャンス、他人のやらないことに敢えてチャレンジする――それがユダヤの民族性なの」
 挑むようなエステルの目を、バティスタ氏は正面から受け止めた。
「ミス・アシュケナージ。私は別にそのことを批判しているつもりはないが……」
「どうかしら」エステルは口をとがらせた。
「だいたい、今どきウェーバーなんて古いわ。それにあなただってあこぎな投機でずいぶんともうけてきたんでしょ?」
「ちょ、ちょっとアシュケナージちゃん!」私は思わず彼女の口を押さえた。
 エステルはまだモゴモゴと何かを言い続けていた。
「落ち着いて、ミス・アシュケナージ」バティスタ氏はおかしそうに笑った。
「もちろん、君の言うことは正しいよ、エステル。だが再三言っている通り、私は何も投機的な手段で利益をあげることが悪いなどとは思っていない。むしろ、彼らからはずいぶんと学ぶところが多いとさえ思っているくらいだ」
 バティスタ氏はなだめるように言った。
「だがソロスを見たまえ。1990年にはポンドを売り浴びせてイングランド銀行を震え上がらせ、97年にはマレーシアのマハティールから東南アジアの経済を破壊した男として名指しで糾弾された。それはなんでも少しやりすぎとは思わないか?」
「それはそうかもしれないけど」エステルは私の制止を振り切って続けた。
「でもソロスには哲学があるわ」
「哲学?」バティスタ氏の顔から笑みが消えた。
「ソロスは慈善事業のための財団を設立したわ。哲学者カール・ポッパーの説く新しい社会のモデル――開かれた民主的社会、自由で公正な市場経済、そして異質なグループ同士が平和的に共生するための組織のために。2008年のリーマン危機の時だって、国際的な金融管理機関の設立を訴えて」
「なるほど」バティスタ氏は頷いた。
「だが、その新たな自由思想と国際化思想が世界中に広まることによって、ソロス自身、さらなる利益追求が可能になる――そういうことでもあるね」
「世界は自らの力で変えるものなの」エステルは言った。
「それもユダヤ人の信条よ」
「確かに」バティスタ氏は言った。
「かつてイエスを輩出したのも、共産主義を作り出したのもユダヤ人だった。それによって世界は大きく変化した」
 ああ……私は頭を抱えた。
 せっかくの楽しいディナーがわけのわからない議論で台なしになってしまった。
 投資家とか学者とかって本当にわけのわかんない人種よね。
 しかし聞けば聞くほどユダヤ人のメンタリティってすごい。
 私みたいに人と同じことをしてないと不安になるタイプとは全然ちがうんだ。
 もっとも私の場合、人と同じことをし続けた反動から作家になっちゃったようなものなんだけど……
 だとすると、案外に私向きなのかも。
 うちの県民性って「日本のユダヤ人」って言われてるし……
「でも私」まだ何か続けようとするエステル。
「私はピーター・ドラッカーのような人のほうが好き」
 ドラッ……カー?
 今度は誰だろう?
 ドラッグとかをやってる人?
 彼女の話によれば、ドラッカーというのは現代経営学の創始者のような人で、やはりユダヤ系の経営学者なんだそうだ。
 もっとも彼は、自称「社会生態学者」……なにそれ? 
 ヒトラーを怒らせるような論文を書いたり、ケインズ経済学に反抗したりと、まさに反逆のカリスマぶりを発揮したユダヤ人。
 また、ナチスによるユダヤ人大量虐殺を予見し、その救出活動を支援した人物……らしいわよ?(エステル談)
「ドラッカーは現代資本主義の行き過ぎた功利主義には否定的だったわ」
「確かにそうかも知れないが……」
 バティスタ氏は再び口もとに笑みを浮かべながら言った。
「だが彼の話は時々よくわからなくなるね。それというのも彼が日本の禅画をコレクションしていたせいなのか――彼の言葉には禅の公案のようなところがあった。私にはあまりよく理解できないね。確か私がまだ現役だった2005年の秋頃に亡くなられたと記憶しているが」
 彼は口直しにワインのグラスをあおった。
 どうしよう、バティスタ氏、怒ってないかしら……
「ところでエステル」彼はエステルに訊ねた。
「君は確か東洋美術を専攻しているのだったね?」
 ああ、ようやく話題が変わる――これで難解な議論から解放される。
 私はホッと胸をなでおろした。
 さすがに私のヲタ知識をもってしても、この手の話題は理解不能。
 世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるものだ。 
「たとえばこのカップ――」
 バティスタ氏はそれを手にとって言った。
「言ってごらん。君はこの絵付けから何を連想する?」
柿右衛門かきえもんね」エステルは即答した。
「大きく余白を取った乳白色の磁胎と赤絵のコントラスト、そしてこの図柄……柿右衛門をコピーしたフランスのシャンティ窯の作品――すてきだわ」
「気に入ってもらえたようだね」バティスタ氏はほほえんだ。
「よかったらエステル、そのカップ一式は今日の記念として君にプレゼントしよう。もちろんミス・ミラノ、そしてミスター・チャタニにも」
「ええっ、本当ですか!」私は思わず声をあげた。
 こんなすてきなカップをもらえるなんて夢のようだ。それも結構な年代モノを……。
 それにしても――カキエモンって陶芸家だったんだ。
 ホリエモンとは違うわけね。
 おフランスの工房がパクるくらいだからよほどすごい人だったに違いない、カキエモン。
 それにしたって、思わぬ収穫。
 このカップをお店でお客さんに出してみるのも楽しそうね。
 割られでもしたらたまんないけど……
「でも、いいんですか?」私は訊いた。
「これ……高価なものなんですよね?」
「かまいません。あまりお気になさらずに」
 バティスタ氏は私の言葉をさえぎった。
「前にも言ったでしょう? この家の家具のほとんどは前の持ち主の置き土産だと。このカップにしても、もとは食器棚の中で何十年もほこりをかぶっていたものです。私が引き取らなければ、館と一緒に取り壊されていたでしょう」
 そうだったんだ……壊されなくてよかったわね、カキエモン。
「さあ、エステル。君にも受け取ってもらえるね?」
 バティスタ氏はエステルの顔を覗った。
 さすがに彼は大人。
 あんなことくらいでヘソを曲げるような子供じみた人間じゃない。
 だけど、エステルは違う。あの子はまだ十二歳の子供……。
 でも――だからといって許されることとそうでないことがある。
「ミスター・バルディ」エステルは言った。
「私、柿右衛門は遠慮させてもらうわ」
 せっかくの好意を無にするかのようなエステルの言葉。
 事件はその直後に起こった。
「そのかわりおじさま――私、このおうちがほしい」
「えええっ?」私は思わずカキエモンを落としかけた。
「ねえミラノ、あなたからもお願いして? 私、このおうちが気に入ったの。ねえ、いいでしょう? この家だって私に住んでもらえたほうが喜ぶと思うの」
 私の袖を引っ張りながら、エステルは言った。
「このおうち、私にちょうだい」
「ふ、ふざけたこと言ってんじゃないわよ!」
 私は思わずエステルの手を振り払った。
「すいません、バルディさん。この子、たまにわけのわからないことを口走るんです。たぶん、黒いジョークか何かのつもり……」
 私はあわてふためきながら謝った。
「ほら、あんた。あんたも謝るのよ! ああん、もうっ、ホント、ごめんなさい」
 私はエステルの頭を押さえつけ、強引にそれをテーブルに押しつけた。
 ああ、こんなお金持ちを怒らせたら後でどんなことになるやら……
 もしかしたら、この世から消されてしまうかも!
「かまいませんよ、ミス・ミラノ」
 バティスタ氏はおだやかな口調で言った。
「ピーター・ドラッカーの言葉にこんなものがあります。『選択において大切なことは、分析ではなく勇気である』――エステル、君は思い切りのいい子のようだね」
「すいませんでした」私はもう一度頭を下げた。
 向こうでガブリエッラがすごい形相でエステルを睨んでいる。
 いつか、とっくみあいのケンカになるわね、この子たち……。
 長女マリーアが困惑げな表情で火屋野さんを振り返る。
 それには答えずに、火屋野さんは、じっとガブリエッラの横顔を見つめていた。
 彼も気が気ではないはずだ。
 そして茶谷くんは……彼は物珍しそうにカキエモンに見入っていた。
 裏をひっくり返したり、絵柄を眺めたり……そういうところは私とそっくりだ。
 ともあれ、いささか不安な要素を残しながらも、私たちは初日のディナーを終えた。
 こんなに疲れた夕食も久しぶりのことだ。気疲れね。
 それにしても、エステルはなぜあんなことを言い出したのだろう?
 まさか、あの七地蔵の話――王妃を迎えにきたクセルクセスの七人の大臣。

 私は七人の大臣に迎えられて王妃のような幸せな結婚をするの。
 そして素敵なおうちで、なに不自由のない暮らしをおくるの……

 あの子は本気でそう思い込んでいるというのだろうか?
 そう考えるとゾッとする。
 あの子は私以上の妄想狂、それも強引で凶暴な――
 ああ、もう考えるのはやめ。憂鬱になっちゃう!!

 これからの自由時間、私は自分の好きなように楽しませてもらうつもりでいた。
 さあ、何をして過ごそうかしら……それを考えるとワクワクする。
 このお邸には、図書室もあれば、防音のピアノ室だってある。
 ビリヤード場やギャラリー、トレーニングルームやサウナだってあるのだ。
 まずはやっぱり図書室かしら……そう決めて歩み出そうとしたその時だった。
「少しよろしいですか、ミス・ミラノ」
 私を呼び止めるバティスタ氏の声。
「なんでしょうか、バルディさん」私は振り返った。
 バティスタ氏は、右手にアタッシュケースのようなものを下げながら、私の背後に立っていた。
「ミス・ミラノ。これは私からあなたへの個人的な贈り物です。どうぞお受け取り下さい」
「えっ」私は驚きをあらわにして叫んだ。
「先ほどのものはみなさん全員への記念品です。これは私からあなたへの気持ち―――さあ、開けてごらんなさい」
 言われるがままに、私はケースを開けて中のものを確かめた。
「わあっ」私は再び驚きの声をあげた。
 中に入っていたのは豪華きわまりないティーカップとお皿のセット。
 カキエモンとはまた違う、ヨーロピアン・スタイルのお洒落なデザインのそれだった。
「先日フィレンツェから届いた Richardリカルド- Ginoriジノリの特注品です。日本ではリチャード・ジノリと言ったほうがわかりやすいですか」
 リチャード・ジノリっていえば、ウェッジウッドやロイヤル・コペンハーゲンに匹敵する有名ブランドメーカー。
 その特注品ってことは……何十万円!
「ごらんなさい。“トスカーナの白い肌”と謳われたこのボディ、そして“イタリアン・フルーツ”の名で親しまれているこの花柄のパターン……ロレンツォ・ジノリの昔から続く伝統的なスタイルです」
 ああ……もう何が何だかわからない。
 こんな夢のような出来事があっていいのだろうか?
 私は、完全にこれらの品々のとりこになっていた。
 まるで未知の欲望が次々と目覚めるように――
 私はバルディ家での生活に抗いがたく魅了されていた。
「あとでこのセットを使ってハーブティーを楽しみましょう。今宵ならではの面白い趣向を用意してあります。あなたにとってもきっと興味深いものだと思いますよ」
 バティスタ氏は自信たっぷりにほほえんだ。
 今宵ならではの趣向――なんだろう?

 私の心は新たな期待に高鳴っていた。

                                                                              第17話 終
贅沢の味を知ってしまったみらの先生。
人間、こうして物質主義の甘い罠の虜になってゆくんですね……(:_;)

次回は「ワルプルギスの夜」。魔法の一夜です☆
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