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マスクマン
作:ばよひ



第5話〜揺らぐ心〜


その日、
僕はいつものように学校の駐輪所に僕の自転車を止めようとしていると、
中沢の姿が見えた。

「やあ、おはよう」
僕は彼女に声を掛けた。

「あっ、おはよう」
彼女は僕に気付いていなかったのが、少し驚いた表情で僕を見て言った。
僕が自転車に鍵をかけていると、その横で彼女が僕を待っている。

なんだかカップルみたいで周りの視線が少し気になるな。
そんなことを思っていたときだった。

「あっ、友ちゃん。おはよう」
僕が鍵をかけ終えようとしていたときだった。
中沢が"おはよう"と言った相手は僕にとって思わぬ人物・・・。
僕に嵌められ停学になった横山友美だった。

「やあ、智子。おはよう」
彼女は中沢の横にいる僕をチラリと見た。
よく知らない男が知り合いの横にいれば誰だって気にはなるだろう。

対する僕はもちろん彼女を知っている。
生徒会副会長としての彼女、
そして僕が停学に追い込んだ対象者だと言うことを。

「あっ、こちらは同じクラスの石橋君」
中沢が横山に僕を紹介するようにそう言った。

「どーも、こんにちは」
僕は小さく頭を下げて遠慮がちな挨拶をした。
正直、僕はあまり彼女とは関わりたくない。

「始めましてかな?横山です」
彼女は明るい表情で僕に言う。

「でも、なんだかやるせない気分だよね。同級生なのに始めまして。なんて・・・」
彼女が僕に対してなのか中沢に対してなのか分からないがそう呟く。
僕はその言葉に何ともいえない違和感を覚えた。

お前はそんなことを気にする女じゃないだろう。
教師に媚売って一流大学に推薦を貰えればそれいい。
そういうつもりで学校に通っているんじゃないのか。
それなら自分にとって利益のない同級生を気に掛ける必要なんてないだろうに・・・。

「1800人もいる学校だからね。仕方ないんじゃない?僕も顔と名前が一致する人なんて半分もいやしない」
僕は吐き捨てるように言う。

「そうなんだけど・・・。なんだかそういうのって少し寂しくない?私は嫌だな。
同級生の名前も分からないまま卒業するなんて」

僕の彼女に対するイメージと大きく違う。
なんだ、この不快感は。

もちろん、彼女がこうして僕と話をしているのは
表向きに付き合っているだけなのかもしれない。
人の本心なんて分かりやしない。
そんなことはよく分かっている。

表向きでは仲いいフリして、目の前にいなくなると途端にそいつの悪口をぶちまける。
そんな人間を沢山見てきた。
だけれども彼女は少なくとも自分の利益にならない人間に興味がない。
というような人に僕には見えなかった。

「それじゃあ、また」
彼女は自分のクラスへと歩いていった。

「明るくていい人でしょ?」
中沢が僕に言った。

「ああ、そうだね」
僕は本心でそう思った。

なぜ、彼女が何者かに恨まれ、停学処分にならなければいけなかったのだろう・・・。
彼女を停学に追い込んだのは間違いなく僕だ。
彼女のことをろくに知らないこの僕が、
周りの噂や風評に流されて、
"彼女は教師に媚を売って点数稼ぎをしているクソ野郎だ"
と思い込み、彼女を陥れた。
噂話や世間の風評に流されるのを嫌っている僕がだ。

「何を迷っているんだ僕は・・・。自分がやりたかったからやった、それだけの事だ」
僕は自分にそう言い聞かせた。
それ以上考えると、自分の中の何かが崩れそうだった。



「ただいま」
学校での授業を終え、家に戻りいつものように言う。
いつものように誰からも返事がこない。
僕は部屋にカバンを置き、PCの電源を入れた。

"新着メール13件"

相変わらず、見る気のしないメールマガジン。
そしてマスクマン宛のメールが4通。

内容はどれもつまらないもので、
"あなたは誰なんですか"
なんてものもあった。
なんでお前に教えてやらなければならないのか。
人に聞く前に自分が答えるべきだろう。

元々、知る人ぞ知る存在で宛先を知っている人間は極わずかだったはずだ。
しかし最近ではマスクマンの名前が頻繁に出ており、
マスクマンは誰なのか?
なんて内容まで出てきている。

「そろそろ潮時かな」
僕は本気でそう考えていた。
事が大きくなれば正体もバレる可能性は高い。
そんなのはゴメンだ。
僕は学校生活とこんな生活が混ざり合うようなことは勘弁願いたい。

メールに一通り目を通した後、
裏サイトの掲示板を眺めていると、
"推薦入学ダービー"
というタイトルのスレッドがあった。

僕の通っている高校では推薦入学を巡る醜い争いが非常に多い。
横山もその当事者の一人であったわけだが、
誰がどこの推薦を希望しているかが漏れると、
途端に友情が嘘のように消えていくことも度々ある。
特にW大やK大の推薦となれば尚更で、多くの人間が狙っている超激戦枠。
その有力候補となれば標的にされ、あらぬ噂が飛び交ったりする。

僕も横山を妬む人間に利用されたのではないか?

僕は僕に依頼してくる人なんぞ、自分で実行出来ないから人に頼む腐った連中だと思っている。
僕は腐りきった学校で、腐った人間同士の醜い争いに加担し、
その腐った連中の望みを叶えてやる。
そんな事を楽しんでいた。

ところがどうだ。
フタを空けてみれば、とても腐った人間とは思えない横山を陥れ彼女に無実の罪を着せた。
そして、僕にそれを依頼して来た腐った人間は今頃、微笑んでいるのだ。
そんな考えが頭を過ぎる。

僕は横山が消えたW大の推薦枠の現在の有力候補が誰なのか気になった。
ひょっとすると、この中に依頼者がいるのでないか。
そう思わずにいられなかった。

掲示板の情報によると、
現在の有力候補が横山と同じクラスのB-3所属の人間だということが分かった。
「そういえば、あの時のメールは同じクラスの横山を・・・と書いてあったな」

その人物の名前とは?

"大野麻子"

またしても女か。
彼女も多くの同級生がそうであるのと同じように、
同級生でありながら僕とは全く面識のない人間だ。

もし仮に彼女がデマカセを言って僕を利用したんだとしたら・・・僕はどうするんだ?
彼女からしてみたら本当に横山が教師に媚を売っているように見えたのかもしれないし、
横山が媚を売るような人間だという事も、
全面的に否定出来るほど僕は横山の事もよく知らない。

僕は一人であれこれ自問自答した。
考えても答えなんて出てこない。
だけど、僕は真実を知りたくなっていた。

「こんな掲示板を見たところで真実なんて分かりやしないか」
僕は自嘲的に笑い、PCの電源を落とした。












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