第28話〜決意を胸に〜
二日目は大人数で旭川へと移動。
この日も初日とほとんど同じで、各自、仲のいい者同士で行動を共にする。
札幌の時との一番の違いは、
おそらくほとんど全ての生徒が、旭山動物園へと足を運ぶことだろう。
僕たちもその中のグループに含まれており、男3人で動物園へと足を運ぶ。
相変わらず華のない僕らにとって幸運かあるいは不幸の始まりか、
見覚えのある人の集団があちこちに歩いている。
手を繋いで歩いているカップルから、僕らと同じように華のないグループ。
男女混合ではしゃいでいるグループ、僕らと同じような連中はともかく、
他の人たちはどうやら楽しんでいるようだ。
僕らがさして興味はないものの、ペンギンを見る為に移動していると、
後ろから僕の名前を呼ぶ聞き覚えのある声がした。
「横山、お前らもペンギンを見に来たのか」
僕が言うよりも先に川野が横山に話しかけていた。
ようやく出来た女性と絡む機会を得たせいだろうか。
明らかにさきほどまでの5割増しの笑顔になっている川野とは対照的に、
僕は驚きを隠すことが出来ず、笑顔で彼女を迎えることが出来なかった。
横山と一緒に行動していたのは女子生徒ばかり。
横にいたのは以前カラオケで横山と行動を共にしていた野口、
そしてもう一人、大野がいた。
「石橋。ちゃんと寝てないでしょ?明らかに顔に出てるよ」
「川野君、そんな格好で寒くないの?」
相変わらず明るい横山。
僕の知っている横山と何一つ変わっていない。
大野は横山にまだ告げていないのか?
そんな疑問が僕の頭を支配しはじめる。
顔見知り同士だからか、あるいはお互い異性がいなかったからか、
暫くの間、彼女たちと行動を共にすることになった。
僕を除いた2人は初日の重苦しい空気は何処へやら。
笑顔が絶えずに積極的に横山たちに話しかけている。
横山たちもまた彼らに同調し、笑い話が絶えないまま30分が過ぎようとしている。
僕は平静を装いながら、大野と横山の様子をチラチラ伺っていたが、
彼女達の間に溝があるようには見えない。
寧ろ、僕の知っている暗いイメージの大野が、
以前よりも明るく話すように見えるくらいで、
その自然な彼女達の関係が僕には違和感でしかない。
「俺ちょっとトイレ言って来る」
川野がそう言いトイレへ行くと、僕と大野を除く全員がトイレへと足を運び、
大野と二人で彼らが戻ってくるのを待つことに。
…
…
なんともいえない気まずい空気が僕と大野の空間を支配していた。
そんな中で大野が口を開く。
「私、横山さんに言ったよ」
1ヶ月近く僕を不眠症に陥れたものの答えを突然彼女が口にした。
「そうか、それで?」
平静を装い僕はそう言う。
「横山さんは驚いていたけど、許してくれたよ。本当にいい人だね。横山さんは」
「そうか、良かったな」
僕は彼女たちの友情にヒビが入ることなんて望んじゃいなかったし、
本心からそう思った。
「安心して。石橋君のことは横山さんには言ってないよ」
続けて出る彼女から告げられる言葉。
僕は頭の中で今までのことを整理してみる。
大野が横山に事実を告げ謝る。
横山は大野を許し、友情に亀裂が入ることはなかった。
大野がどう横山に真実を伝えたのか分からないが、僕のことは話していないので、
横山はその事件に僕が絡んでいることは知らない。
こんなところだろう。
「いやー出すもの出すとスッキリするね。お待たせ」
最初に川野が戻ってくると、続いて他の3人も戻ってきた。
僕と大野のこの話題は、
僕が事件に絡んでいたことを横山が知らないと分かったところで終了だ。
それから僕らは昼食をとるため、園内の適当な飲食店へと足を進める。
「うわー、凄い人…」
横山が行列の出来ているレストランを見て呟く。
「他に空いてそうなとこ探すって言ってもなさそうだし、我慢するしかなさそうだね」
待つこと30分ほど。
僕らは初日の感想や明日のスケジュールの話題で時間を潰し、
ようやく席に着く。
「僕はドリアを」
メニューを眺めながらウェイトレスに注文する。
「石橋、ドリア以外頼まないの?」
横山が僕をからかうように言ってきた。
「えっなんでそう思うの?」
「だって一緒にファミレスとか行くときも、いっつもドリアじゃない?」
「そうだっけ?」
確かにファミレスに行くとドリアを注文することが多いけれども、
何も毎回ドリアを頼んでいるわけではないのだが。
「ちょ。お前ら二人でファミレス行く仲なのかよ」
川野が僕と横山の間に入ってくる。
そういえば川野は横山が気になっているんだったな。
「塾の帰りとかに行ったくらいだよ」
僕が横山の表情を気にしながらそう答えた。
彼女は僕との関係を友人としか思っていないのか、
川野の言葉に全く照れる気配すらないその顔に少し落胆する僕。
間もなく食事が始まると、
途切れることのなかった会話がぶつ切りになりがちだったが、
僕は相変わらず違和感を感じていた。
動物園で会ってからの大野は昔までと違い、
表情も明るく会話にも積極的に参加している。
塾で一緒に食事をしたときとは大違いだった。
横山に打ち明けたことで大野の中の何かが変わったのだろうか?
そんなドラマのみたいにうまくいくはずはない。
人はそんな簡単に変われるはずなんてないはずだ。
レストランでの食事を終え、午後も彼女たちと一緒に園内を回る。
マリンウェイと呼ばれる円柱の水槽を泳ぐアザラシを見たり、
ロープを渡るオランウータンの写真を撮ったり・・・。
愛嬌のある動物達を見ることは今までの観光名所のものよりも楽しめるものだったが、
僕は動物達への興味よりも、動物がアクションを起こすたびに
無邪気にはしゃぐ横山への興味が尽きなかった。
午後3時を迎えるころ、旭山動物園を去る彼女たちと僕たちのグループは、
それぞれ別の場所へと足を進めることになる。
「それじゃあ、また」
「バイバイ」
手を振って、彼女達と反対の方向に歩き出す。
彼女達と明日もまた会う約束をして別れを告げ、男3人の会話へと戻る。
「よう、誰が好みだ?」
川野が僕らを詮索するように言い出す。
「俺は野口かな?」
中島がそう言ったあとに、まあ敢えていえばだけど、と付け足した。
「俺は横山だ。となると石橋が大野となればみんなで仲良くトリプルデートじゃないか!!」
「ちょっと待て。勝手に決めるなよ」
僕も横山狙いだなんて言える筈のない僕が抵抗する。
「なんだよ、結局お前横山が好きなのかよ」
「いや…」
僕は川野の問いかけに口を濁すしかなかった。
「冗談抜きで大野って石橋に気があるんじゃね?なんか石橋のこと見ていることが多かったのような?」
中島が余計なことを言い出す。
それにおそらく大野が僕のことを気にしていたのは、
好意でなく、僕の様子を観察していただけだと思う。
「おー。それじゃあやっぱり決まりだな。石橋大野カップル誕生おめでとう」
川野からうれしくもなんともない拍手を貰い、
僕は不機嫌な顔を浮かべながらラーメン屋へと足を進めた。
ラーメンの味は僕らの期待とは裏腹にイマイチ。
決してまずくはないのだが、このラーメンよりうまいラーメンをいっぱい知っているし、
わざわざ横山達と別れてまで食べる価値のあるものだったのかと問われれば、
"NO"と答えるレベルだ。
「旭川ラーメンはイマイチだったなぁ・・・」
「旭川ラーメンがイマイチなのか今の店がイマイチなのか判断が難しいところだ」
「確かに」
動物園のときの明るい雰囲気はどこへやら。
初日と同じく、帰りは重い空気でホテルへ到着。
ホテルに着けば、初日と同じようにいつもの変わりないメンバーが揃い、
笑い話が絶えなくなる。
「なんだかさ、修学旅行の思い出って何処かに行ったときよりも、
こういうホテルで遊んでいるときのほうが良い思い出として残りそうだな」
川野も僕と同じ気持ちだったようだ。
就寝前にベットに寝ながら僕に話しかけてきた。
「ああ、僕もそう思う」
同じくベットで布団に包まりながら僕は答えた。
「なあ、石橋。お前横山の事好きだろ?」
「いきなり何を言い出すんだ?」
「横山と一緒にいるときのお前の雰囲気を見ていたらそう思うぞ」
そんなに僕は分かりやすいタイプなのか?
川野にそう思われているのならば、
横山にもそう思われているということなのだろうか?
そう考えると僕の一挙一動が急に恥ずかしくなる。
「ま、そう思うならそう思ってくれ」
「相変わらず本心を隠したがるねぇ。でも最近のお前は特にそうだけどな」
「ん?どういうことだ?」
「何を悩んでいるのか知らないけどさ、相談くらいならいつでも乗るぜ」
相変わらず、よく分からないタイプの人間だ。
鈍そうに見えて、こういう鋭い面があったりする。
「サンキュー、親友」
「はは、ま、お前が思っているほど人間嫌な奴ばかりじゃないし、お前も良い奴だよ。俺が保証してやるよ」
「そうかね?」
「誰にだって良い面もあれば、嫌な面もあるだろう。喧嘩するときもあれば間違えるときもある。そんなこんなで反省したり仲直りしたり、そうやって人間関係って出来ていくものだろう」
川野の言う通りだと思った。
僕と川野だって今まで何度も些細なことで喧嘩もしてきたけど、
なんだかんだで今でもこうやって語り合える仲だ。
お互い自分の感情を隠し合って、上辺だけ仲良いフリして築く友情なんかじゃない、
本当の友情だ。
僕は横山とも川野と同じような関係でいたいと思っている。
上辺だけじゃない、本当の友情、あるいは愛情を。
「そうだな、川野。お前の言うとおりだ。良いこと言うな」
「なんだよ。気持ち悪いな。明日も早いし俺は寝るぞ。じゃあな、おやすみ」
彼はそう言って僕のベットと反対向きに顔を向けると、
間もなく寝息が聞こえてくる。
僕が悩んでいたことの答えを川野は知っていた。
いや、僕自身も分かっていたことだったはず。
それを自分自身で隠してしまい、見失っていただけだ。
いつか言わなきゃいけないと思っていたこと。
いつかじゃない、明日言おう。
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