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マスクマン
作:ばよひ



第20話〜恋に落ちて〜


夏休みが終わるとすぐに期末テストが始まった。
二期制の我が校では夏休みの後、すぐに期末テストが始まり、
期末テストが終わるとまたすぐに新しいイベントが続けて待っている。
その1つ目のイベントの文化祭が始まろうとしていた。

僕は大野に問いただしたあの日から横山とは一度も会っていない。
すぐにテスト期間に入ってしまったし、
その後の文化祭の準備期間にしたって、
クラスの出し物としてわたあめを作る程度しかやらない僕と違い、
彼女は生徒会副会長としての最後の大仕事の為に、
忙しい充実した日々を過ごしていたのだろう。

彼女だけではない。
去年、文化祭のライブでバンドを組み準優勝に終わり、今年こそ優勝を狙っている青田。
冬の国立目指して部活動に励む川野。
大石や中沢も高校最後になる文化祭を最高の形で終える為、
教室の飾り付けや、配置などを細かく調整していた。

僕だけだ。
僕だけが時間を持て余していた。
ふと、友達が僕を置いてどこか遠くに行ってしまうような感覚に陥りそうになる。
なんだか僕の家で鍋パーティーをやったことがいやに懐かしく感じる。


この日も僕は居残りで教室に飾る大きな看板作りの作業をしているクラスメイトを置いて、
さっさと作業を切り上げて家に帰る。
自転車置き場にとめている自転車の鍵を外し、
自転車を押しながら進んでいると、
横に見える教室にクラスメイトの姿が映る。

青田と川野、大石に中沢、池田。
いつも僕と一緒にいる5人が笑顔を見せながら円を作って話し込んでいる。
ただ一人僕だけを除いて。

ひどく寂しい気持ちになった。
彼らにとって僕はなんなのだろうか?
僕がいようといまいと彼らにとって何が変わるのだろう?
なんだか自分が不必要な存在に思えてくる。


家に帰るなり、僕は一直線に洗面所に向かう。
顔を洗って鏡を見ると、そこには見慣れた顔が写る。
今までと何一つ変わらない僕の顔。
どんなに精神状態がおかしくなろうとも、僕の表情は何一つ変わりやしない。

ベッドの上に転がり込んだが、なかなか眠りにつけない。
眠れないとき頭の中は横山のことばかり考えている。

初めて会ったときの彼女の明るい表情。
塾で一緒に勉強していたとき、教科書を真剣に見つめる彼女の横顔。
ファミレスで食事をしたときの彼女の無垢な笑顔。
カラオケで自分の持ち歌を披露したイタズラな笑み。

頭の中で様々な表情を見せる彼女。
だけど…僕は始業式依頼、彼女と会っていない。
期間にすれば数週間程度会っていないだけだし、元々そんなに会っていた訳でもないのに・・・。
だけど僕は彼女に会いたくなった。

携帯電話を手に取り彼女のアドレス帳を開く。
発信ボタンを押せばすぐにでも彼女の携帯電話を鳴らし声を聞くことが出来るだろう。
だけど、僕はそのボタンを押すことが出来ない。
妙なプライドと理性が僕を押さえ込んでいる。

一向に寝つけない僕はPCの電源を入れ、
学校の裏サイトへとアクセスする。

僕はあの大野に問いただした日からマスクマンのアドレスを消した。
もうPCを開いたところで新着メールのお知らせは来ない。
大野が裏サイトかなんかで僕の正体をバラすのではないか?
という考えも少しあったが、今のところそういった噂は流れていない。

「相変わらず、誰かの悪口ばかりだ」
僕は掲示板を眺めながら一人愚痴った。
僕がメールアドレスを消去したところで、この世界は何も変わらない。
こちらの世界でも僕は不要な存在か・・・。

PCの電源を切り、再度ベッドの上に転がり込む。
なんだか、自分が惨めで情けなく思える。
頭を悩ませても浮かんでくるのはネガティブな考えばかり。
そんなとき、僕の携帯電話が鳴る。

――着信 横山友美――

慌てて携帯電話を手に取る。
彼女のアドレスと番号を教わってから初めての電話だ。
僕は彼女から電話が来たことがうれしくて仕方なかった。

「もしもし〜。久しぶりだね。元気かい?」
相変わらずの明るい口調で話す彼女。
電話越しからでも彼女の顔が浮かんでくる。

「ああ、久しぶり。元気ってほどでもないけどね」
今、落ち込んでました。なんて口が裂けてもいえない。

「そっか。いやさ、最近全然会ってないじゃん。だから何してるのかな?って思ってね」
「そうだね。そっちはどうなんだい?文化祭の準備で忙しいんでしょ?」
「うん。私の最後の仕事だと思ってるし、完全燃焼するつもりだよ」
「みんなは元気?智子とか川野君とか」
「ああ、相変わらずだよ。そっちはどうだい?」
「うん。みんな元気だよ」

みんなの中に大野は入っているのだろうか?
少しだけそんなことが頭を過ぎったが今はそんなことどうだっていい。
彼女と会話が出来たことが何よりも嬉しい。

それから暫く、この前のテストがどうだったとか、
文化祭の僕のクラスの出し物の話をした。

「そっか、それじゃあまたね。高校生活最後の文化祭。楽しんでね」
「ああ、そうするよ」
彼女が電話を切ろうとしたとき、僕はそれを止めた。

「あっ、ちょっと待って」
「ん?」
止めたものの、次に繋がる言葉が出てこない。
だけど、今言わなかったら・・・。

「ん?どうしたの?何かあったの?」
「いや・・・」
僕は言葉に詰まってしまった。
彼女も何も言わない。
まるで、僕が何かを言うのをジッと待っているように。

「電話してくれてありがとう。文化祭、頑張れよ」
僕の出てきた言葉。
僕の思いとは違う言葉だ。

「うん。ありがとう。それじゃあね」
「バイバイ」
僕が会いたかった人、話したかった人から電話があった。
だけど僕はまた言えなかった。
次に彼女と話すときはあの事件のことを話すときと決めたのに、
僕は最後の一歩が未だに踏む出すことが出来ず、地団駄を踏んでいる。

うれしさと自分自身の情けなさと半々の感情を抱きながら、僕は眠りについた。
さきほどまで寝付けなかったのが嘘のようにすぐに眠りにつくことが出来た。

朝起きて空を見る。
雲ひとつない澄み切った空だ。
僕は確信した。

もはや迷うことも悩むことも何一つない。
横山が好きだ。












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