逆転勝利
現代に暮らしていた中学生4人。同じ日本という国にいながらも別々の場所に暮らし、これからもお互い関わり合うことがなかっただろう少年少女。
しかし、ひょんなことから異世界の女神に勇者とその仲間として召喚され、一緒に魔王討伐することになった。
女神は言った。
「魔王を倒すため、あなたたちにひとつだけ欲しい力を授けましょう。」
勇者に選ばれた少年は選んだ。誰にも負けない最強の剣技を振るう力を。
頭脳明晰な少年は選んだ。すべての魔法を自由自在に操る力を。
優しい少女は選んだ。どんな怪我でも治せる奇跡の力を。
「で、や…。」
勇者に選ばれた少年は、最後の少女をじっと見つめる。見つめるというより、睨んでいるといったほうがいい。
少女のほうは何か悪いことでもしたように正座をさせられながら、勇者の少年から必死で目を逸らしている。
「わいら魔王討伐に呼ばれたんよな。」
「はい…。」
「で、女神から魔王を倒すための好きな力やるといわれたわけや。」
「ですね…。」
「そいでや、おまえの選んだ能力は?もう一度わいに聞かせてくれんか?」
「えー、この件につきましては様々で多種多様な多彩さを持つ十人十色の事情がありまして…。私としましては」
「事情は後で聞くさかい、もう一度お前が願った能力いってみ?」
「か…『関西弁を喋る奴を呪い殺す力』です。」
異世界から呼ばれた4人とそれをサポートする巫女が集まる一室に沈黙が落ちる。
「なんやねんそれ!」
大声でその空気を破ったのは勇者だった。
「だって腹立つじゃないですか関西弁。聞いてて腹が立つ。」
「腹が立つからってそんなの選んだんかい!今も腹立っとんのかい!俺とか殺す気満々かい!」
勇者は関西出身だった。
「そんなことありません。それなりにしかありません。」
「それなりにって、かなりあるやんけ!少々以上あるやんけ!」
「でも!満々以下です!」
「満々以下かて、少々以上やん!十分やん!」
「私的には不十分ですけど。」
「それ満々やんけ!殺す気か!」
「うーん…実はさっきから試してるんですけど。」
そう言いながら、テーブルの下で勇者のほうに手を向けている少女。
「試すなや!」
「あ、もっとこう指で印を組む感じで。」
アドバイスする巫女。
「お前も教えんなや!」
ぜぇぜぇ
叫びすぎたせいで息を切らして、テーブルにつっぷす勇者。癒しの少女が差し出したお茶をずずーっと飲み何とか一息つく。
「もうええわ。わいと二人と巫女さんがいればなんとかなるやろ。お前荷物持ちせい。」
「む~。」
不満げな顔で勇者に手を突き出し、少女は何やら念じはじめる。
「あからさまにわいに能力を使おうとするのやめんかい!」
「あ、もっと腰を入れて。」
「だからアドバイスすんなや!こいつに能力の使い方教えるの禁止!」
「ちっ」
「舌打ちすんなや!」
そういうわけで、5人で魔王討伐に旅立つことになった。
5人の行く手にはさまざまな困難が待ち受けていた。襲い掛かる魔物、過酷なダンジョン、そして魔王の刺客である魔族たちとの戦い。
勇者の剣と魔法使いの魔法で立ちふさがる敵を打ち倒し、ピンチを癒しの力で乗り越え、迷った時は巫女が導き、みんなで力を合わせ試練を乗り越えていった。
辛く厳しい旅だったが、弱音をはくものなど一人もいなかった。
「私まくらが代わると寝れないんですけど。」
「お前も少しは協力せんかい!」
勇者の装備したハリセンが荷物持ちの少女の頭を叩く。
そして5人はついに魔王が住む地獄の城まで辿り着いた。
魔王城へ突入する前の最後のキャンプ、5人は焚き火を囲みいろんなことを話した。
「僕は今まで勉強ばかりしていて、まわりの奴らを下らない人間だと見下していた。でも、この旅で君たちと接していくうちに、自分が今までどれだけ狭い世界に住んでいたのかわかったんだ。
それで思い出したんだ。自分が必死に勉強しようとしていた本当の意味を。
僕の母親は病気で亡くなったんだ。難病でうちみたいな貧乏な家じゃ手術費を払えなかった。だから偉くなってお金を稼いで、もう二度と大切な人を失うことがないようにしたい。
そう思っていたはずなのに、いつの間にか僕はそれを忘れていた。周りを見下し遠ざけて、大切な人すら持つことが出来ないようになっていた。
でも君たちのお陰で、僕は大切なものを取り戻せたよ。ありがとう。」
「へへ、最初会った頃は鉄面皮の冷徹野郎とおもっとったのに、臭い台詞言うようになったわ。でもこっちのおまえのほうがええわ」
「ふふ、明日の戦い、みんなでがんばって絶対勝とうね!」
「微力ながら私もお手伝いします。」
「関西弁で手加減無しに突っ込まれると殺意沸きますよね。」
もちろん最後のセリフはあの少女だった。
「お前は少しは空気読んで話さんかい!」
もちろん突っ込んだのは勇者だった。
魔王城の最深部、魔王の間の扉の前、ついに5人は辿り着いた。
「厳しい道のりやったな。」
「でも、もう最後です!」
「結界を張っておいた。ここで準備を整えよう。」
「誰か怪我してる人いる?今のうちに直すよ。」
癒しの少女が見回すと、例の少女が手をあげている。
「お前戦闘ぜんぜんしとらんやんけ。どこに怪我する要素あるねん。」
「どうしたの?足でもひねった?」
あくまで心配そうに聞く癒しの少女に、例の少女は言った。
「ミシン針が指に。」
「なにしとんねん!おまえ!」
「みなさんのために皮のコートを。」
「いらんわ!ここ地獄やねんぞ!めっちゃ溶岩とか流れてるねん!ここ熱いねん!嫌がらせか!」
「ほら、勇者さんの分が完成です。」
「いらんいうとるやろ!しかもイニシャル入ってるし!」
「気を利かせてみました。」
「どう気を利かせたらそうなるんねん!」
「まあまあ、勇者さま落ち着いて。準備ができたので行きましょう。」
ギギギーッ
準備をすませた5人は、魔王の間へと続く最後の扉を開けた。鉄の重い扉が、軋み悲鳴のような音を響かせる。
そしてついに5人の目の前に魔王が現れた。
「ふっふっふ、ようここまできおったなぁ。褒美におまえらを恐怖のどんぞこに陥れる話を聞かせてやる。わいの皮膚にはどんな剣での攻撃も効かんのや。そしてわいの纏うオーラはどんな魔法でも吸収してしまう。おまえらがわいに勝てる要素はない。
さらにわいには時空を渡る能力がある。ここでおまえらを返り討ちにし、この世界を支配した後は、おまえらの世界も支配しちゃる。
その証拠として勇者、お前の故郷の言葉を習得してきてやったわ。どうや、恐ろしいやろ!」
魔王の話す言葉に5人のパーティーは沈黙する。
「はっはっは、おそろしゅうて言葉も出せへんか。」
魔王は大阪のおばちゃんみたいな大声で笑う。
三人の目が勇者を向く。勇者はこくりと頷いた。
勇者の承諾を得た巫女があの少女に、身振り手振りで何かを教えていく。
「なにしとんねん、おまえら。妙なことしてないで、さっさとかかってこんかい。わいはお前らの闘ってきた魔族とは比べ物にならないほど強いで!」
巫女のレクチャーを受け終わった少女は関西弁を話す魔王に手を向け
「えい」
とだけ叫んだ。
「ぐはっ」
すると心臓発作を起こし、魔王は死亡した。
「……。」
4人はうつぶせに倒れて動かなくなった魔王を見つめる。魔王の間に盛大な沈黙が落ちる。
少女はてこてこと歩いてきて、魔王を倒せたことを確認すると、勇者に向き直りピースサインを作り言った。
「ぶいっ」
「なんでそうなるんねん!」
いつも通り少女に突っ込みをいれた勇者を、魔王討伐の旅で最大の危機が襲ったことは後の伝説には記されていない。
関西の方ごめんなさい。関西弁も滅茶苦茶で二重の意味でごめんなさい。
昔思いつきで書いたものが、筆が止まってしまい、今適当に書いてみたら完成したのですが、他に行き場所もないので公開してみます。ルール的には良くないとわかってますが、後で正気に戻って消すかもしれません。