65話「怪しいバイト」
「結城さんの目的……か」
昼休み。校舎の屋上では葛西蒼司が外の景色を眺めながら、ひとりそう呟いた。
(あんだけの力があって、強え仲間も居て、経歴が不明。たしかに疑問だらけだな。普通に考えれば何か目的があるんじゃないかと疑っちまう……)
先日の龍海との会話を思い出しながらソージは考える。
幸助の正体と目的、今後の自身の在り方について……。
「……ま、どうでもいいか。悪い人じゃないだろうし。とりあえずは恩返しが優先だな」
しかし、ソージの結論はすぐに出た。
いつのまにか校内で最大の不良グループを取り仕切る立場になっていたソージは、本能的に善人と悪人を見分ける才能が身についている。その事はソージ自身も自覚しているため、信頼に足る人物かどうかの判断に迷いはないのだ。
また、恩は必ず返すという義に厚い性格な事もあり、今後の幸助との在り方に一切の迷いはなかった。
「ん?人か?」
突如聞こえてきた屋上の扉を開ける音。それを聞いたソージは慌てて物陰に身を隠す。
(ミスった!あまり聞かれたくない事考えてたから、つい隠れちまった……って、結城さん!?)
屋上に現れた男女。1人は知らない女性だったが、もう1人はソージのよく知る人物、結城幸助の姿だった。
(ヤベェ、どうすっかな……)
ソージは出ていくタイミングを完全に見失い、物陰で静かに息をひそめるのだった。
◇
「急に連れ出しちゃってごめんね」
「別に良いですけど、何の用ですか?」
本当になんの用だろう?花園先輩はテレビで見た事があるけど、実際に会うのは初めてだ。もちろん話した事など一度もない。
「噂で聞いたんだけど、結城くんって相当強いんでしょ?番長だった葛西くんを舎弟にしたり、熊殺しの大男を素手で倒したりしたって聞いたよ」
「そんなわけ……無くもないですね」
ソージを舎弟にした覚えは一切ないけど、熊より強そうな大男を倒した事は……あるな。『溶解』の異能で服を溶かして公然わいせつの刑に処した覚えがある。
というか、ソージって番長だったのか。
「なるほどね。それじゃあさ、ちょこっとバイトしてみない?」
え、なに?怖い。強いかどうか聞いてから紹介されるバイトとか、絶対怪しいやつじゃん。
「お断りします」
「えっ、どうして!?」
「だって、絶対怪しいバイトじゃないですか。怖いですもん」
「全然怪しくないよ!護衛!ボディガードのバイト!私のお母さんがお店をいくつか経営しててね。その従業員の護衛をお願いしたかったの」
「ちゃんと本業の人たちを雇えばいいじゃないですか」
「それが、どこも予約でいっぱいみたいなの」
ボディガードの繁忙期なのか?
「ちなみに給料は結構良いよ。時間は日によって変わるかもだけど、1時間でなんと1万円!1ヶ月間の短期契約。どう?」
「時給1万!?」
怪しい。怪しすぎる。だが……時給1万か。
平日はあまり時間が取れないけど、それでも3時間は働ける。そうすれば日給3万だ。それが1ヶ月……今までの出費を補って余りありすぎる金額だ。
「1万……時給1万円……。花園先輩、やります」
「そうこなくっちゃ!あと、私のことは敬意を込めてリサ先輩と呼んでいいからね」
「かしこまりましたリサ先輩」
俺の返事を聞いたリサ先輩は、嬉しそうに段取りを説明してくれた。
「それじゃあ、学校終わったら札幌駅に集合って感じでいい?お母さんの部下の人が迎えに来ると思うから」
「わかりました。よろしくお願いします」
とりあえず、バイトを探す手間は省けたな。どんな仕事かは分からないけど、全力で頑張ろう。怪しい仕事だったら逃げよう。
そんな事を考えながら教室へ戻ると、殺気と質問責めの嵐に見舞われた。すぐさま逃げた。
◇
「結城さん……あれだけの力を持っていて、金欠?」
謎すぎる幸助の金銭事情を知り、ソージの疑問は深まるのだった。