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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第三章「魔術編」
52/133

49話「製鉄の歴史」

2019/3/17

 大幅に内容を変更したので49話を差し替えました。

 申し訳ございません。







 トイレから戻ってきた委員長も合流し、みんなで黙々と土器や石器を作ることで宿泊レクリエーション1日目のイベントは無事に終了した。


 夜は青年の家の食堂でカレーを食べーーー

 

「滝川さん、カレーです!」

「うむ、くるしゅうない」


ーーー大浴場で風呂に入りーーー


「滝川さん、お背中お流しします!」

「うむ、くるしゅうな……いでででで!力強い力強い!」


ーーー石田と2人で滝川の労をねぎらいながら割り当てられた部屋へと向かう。


「俺たちは2階の207号室だから、ここか」


 全員同じ部屋のようだ。


「結構立派じゃん!」

「そうか?結構質素に見えるが……」


 滝川と石田が真逆の感想を呟いている。

 部屋に入ると、6畳ほどの広さに二段ベッドとシングルベッドが1つずつと小さな固定机が3つだけある簡素な内装の部屋だった。

 んー、どちらとも言えないな。


「よっしゃあ!ベッドの位置賭けて大富豪やろーぜ大富豪!すごろくゲームもあるぞ!」

「滝川、用意良いな」

「そなえよつねにだからな!」

「え、なんて?」

 

 滝川の発言はスルーしつつ、さっそく大富豪で盛り上がる。


「はい上がり」

「俺も上がりだ」

「ぎゃー!」


 結果は1位が俺、2位が石田、3位が滝川の順だった。


「上の段に寝たかったー!」

「えっ、上の方が不便だからシングルベッドにしようと思ってた」

「俺も同じ理由で、2段ベッドの下を狙っていたぞ」

「そしたら、俺が上の段でいいのか?」

「「どうぞどうぞ」」


 賭けの意味はなく、俺がシングルベッド、石田が2段ベッドの下、滝川が2段ベッドの上に決まった。


「も一度やろうぜ!次は……ビリになった奴は好きな人を暴露すること!」

「滝川、バスでもここでも負けっぱなしなのにすごい自信だな」


 俺の言葉に、滝川はキメ顔で返してくる。


「ふっ。勝負以前に気持ちで負けてたら意味ないだろ?」

「それは負け続けてる奴のセリフじゃないだろ」


 石田のツッコミが炸裂しつつ、ゲームは続くのだった。


「ん?」


 そんな中、ふと違和感を覚えた。

 楽しそうな事にはどんなことでも割り込んで来たがるウルが、なぜか大人しいのだ。


『ウル?』


 見ると、机に置いたスマホ形態のニアの上に、実体化したウルが座っている。

 石田と滝川には見えていないので、2人には聞こえないよう霊力糸を介して話しかける。


『なにしてるんだ?』

『ご主人様。今集中してるから話しかけないで!』

『あ、ごめん』


 なんで怒られたんだ?


「革命!」

「うおっ!」

「なにっ!」


 やばい、滝川が絶好調だ。とりあえず、ニアとウルは気にせずゲームに集中するとしよう。







「砂鉄……たくさん……集まった」


 旭川市内の森の中にある青年の家。その駐車場では、黒いローブを身に纏うひとりの少女と波打ちながら蠢く巨大な砂鉄の塊があった。


「これで存分に……『製鉄の歴史(アイアンヒストリー)』……使える」


 フェルム。その名が示す通り、彼女は鉄を操作する魔術師である。

 金属を僅かに動かす程度の効果しかないランクCの『金操』という異能を所有する彼女は、鉄を操作する『製鉄工場(アイアンファクトリー)』という魔術の術式をその身に刻んでいる。

 そしてイオと同じく本来ならば交わらない2つの力を融合術式によって共存させる事で、フェルムは範囲内の鉄を自在に操作し加工できる『製鉄の歴史(アイアンヒストリー)』という別次元の魔術を使用できるのであった。


「ゴーレム……精製」


 フェルムの言葉と共に、大量の砂鉄は人間サイズの鉄製ゴーレムへと姿を変える。

 その数は200体。一体一体が高い自立戦闘能力を持った自動人形である。


 『製鉄の歴史(アイアンヒストリー)』は既に加工されている鉄であっても魔力を込めることで操作することができるが、加工のし易さを考慮して彼女は地面に含まれている砂鉄を好んで使用しているのである。


「ターゲット探すの……面倒。全員拘束してから……妖精種、ゆっくり探せば……いい」


 フェルムの意思に呼応し、鉄人形は幸助の泊まる青年の家へ向けて静かに動き出す。


「待つのです!」


 だが、そんな鉄人形の行く手を阻むよう、闇夜に紛れて2つの人影が現れた。


「そちらから出向いてくれて助かったのです」

「周辺を警戒しておいて正解だったわね」

「……!」


 人影の正体。精霊術により巨大な探知結界を張り巡らせていたアウルと潤奈が、フェルムの存在を察知して駆けつけたのである。


「水上家の次女とアウル様……少し面倒」


 青年の家へ向かわせようとしていた鉄製ゴーレムを待機させ、フェルムは警戒を強める。


「やはり妖精種を盗んだのはあなた達だったのですね。フェルム!」


 アウルは声を荒げ、漆黒のローブを身にまとうフェルムを睨みつける。


「アウルの知り合い?」

「私と同じ『黄昏と夜明け団』のメンバーなのです。ただし、彼女は私達とは思想の違う強硬派のメンバーなのです」

「強硬派って、たしか神様を殺そうとか考えてる集団だったわね」

「そうなのです。危険な思想を持って活動している集団なのです」


 潤奈の疑問に答えつつ、アウルは自らの魔力を静かに高めて行く。


「それは……違う。神を滅して……人の世に溢れる不公平……なくす。神の采配に支配されない世界……造る!」


 フェルムも鉄人形へ込める魔力を増やし、臨戦態勢へと移行する。


「平和的な解決は無理そうね」

「やっと見つけた手がかりなのです。ここで捕まえるのです!」


 潤奈とアウルも互いの妖精達へと魔力を流し、精霊術の準備をおこなう。


「『製鉄の歴史(アイアンヒストリー)』!」


 先手を取ったのはフェルムだった。周囲の砂鉄を無数の剣へ加工し、高速で射出する。同時に、潤奈とアウルの周囲を囲んでいたゴーレムも2人へ向けて進撃を開始した。


「ディーネ、『グレートウォール』!」

「サンダ、グラン、『グレネードショット』!」


 潤奈は激流の壁で鉄の剣を全て防ぎ、アウルは破裂する雷と土の弾で迫り来る鉄人形を破壊した。


「次はこちらの番なのです。サンダ、グラン、『ブラストランス』なのです!」

「ディーネ、『ランス』!」

「くっ……『製鉄の歴史(アイアンヒストリー)』!」


 迫り来る3属性の無数の槍を、フェルムは砂鉄による鉄壁で防ぎきる。

 しかし地中の砂鉄だけでは足りず周囲の鉄人形からも砂鉄を集める結果となってしまったため、鉄人形の数は半数にまで減ってしまう。


「アウル様の技術……面倒。水上家次女の魔力放出量も……面倒」


 一撃は与えられると考えていた攻撃を全て防がれた上に、攻め手を減らされるほどの反撃を受けた事実にフェルムは愚痴をこぼす。


 高い技術によって2属性の精霊術を同時行使するアウル。莫大な魔力放出量によって発動する術の威力を底上げできる潤奈。

 フェルムはイギリス国内でも屈指の戦闘力を誇る魔術師だが、精霊術師2人のコンビネーションはフェルムと互角に渡り合えるほどの実力を誇っていた。


「このままジリ貧は……まずい」


 フェルムの呟きの通り、このまま戦闘が長引く事は彼女の敗北を意味している。

 この場まで砂鉄を集めながら移動していたフェルムは、すでにそれなりの魔力を消費している。対して、精霊術師であるアウルと潤奈は自然界からの魔力供給が可能なため、戦闘が長引くほど2人に有利な状況となっていくのである。


「短期戦で……決める」


 フェルムは残り100体の鉄製ゴーレムに魔力を集中させた。同時に、黒い土の混じった砂鉄が鉄人形へと纏わりついていく。


「周囲の土とゴーレムを合成している?」

「合成……まさか!」


 同じ土属性の魔術を行使するアウルはその光景からフェルムの意図を見破った。


「気付いても……遅い。行け!」

「くっ、『グレネードショット』なのです!」


 先ほどと同じようにアウルはゴーレムを迎撃するが、体の一部が欠ける程度ですぐに再生してしまう。


「ディーネ、『グレートウォール』!」


 潤奈は先ほどとは明らかに異なるゴーレムの強度に驚きながらも、激流の壁を作り出すことで進行を阻んだ。


「どういう事なの?明らかにさっきより頑丈になってない?」

「おそらく、地中の炭素と鉄を一定比率で結合させて鋼鉄を作り出したのです。その上で込める魔力量も増やしているようなのです」

「凄い芸当ね。だから動きも耐久性も再生速度も、さっきとは別物になったのね」


 進撃する鉄製ゴーレムを激流の壁で抑えながら、潤奈は苦い表情で呟いた。


「100体近いゴーレムを同時強化できる技術はとんでもないのですが、それ相応の魔力が必要な筈なのです。きっと、フェルムも相当無理をしている筈なのです」


 アウルの分析の通り、100体ものゴーレムを同時強化した事によってフェルムの魔力量は半分を切っていた。

 また、精密過ぎる魔力操作によってしばらくは鋼鉄のゴーレムを維持することしかできないほどの精神的負荷も受けていたのである。

 2人は気づいていないが、100体のゴーレムによる進撃をアウルと潤奈が凌げるか否かがこの戦闘の勝敗と直結しているのだった。

 

「行け……!」

「『グレートウォール』!」

「『ブラストランス』なのです!」


 多方向から迫る鋼鉄人形を潤奈が足止めし、アウルが迎撃していく。魔力消費を無視した高威力の精霊術によって徐々に鋼鉄ゴーレムの数を減らせてはいるが、攻めの勢いは一向に衰えない。


「このままではまずいわね。ディーネ、『グレートウォール』!『ランス』!」

「『黄金巨兵ゴーガン』が使えればなんとかなるのですが、術式を構築する暇が無いのですっ。サンダ、『ブラストランス』!グラン、『グレネードショット』!」


 拮抗した状況下で攻め手である鋼鉄ゴーレムが減っていく中、フェルムは焦ることなくその状況をただ見つめ続ける。そしてーーー


「舞いなさい……『製鉄の歴史(アイアンヒストリー)』」


ーーー静かに魔術を発動した。


「なっ!?」

「砂鉄が舞い上がったのです!?」


 現状のフェルムの集中力では新たな鉄人形や鉄の剣を作る事は出来ない。しかし、散った砂鉄を舞い上がらせる程度の事は造作もなく行える。


「視界が悪いのですっ!」

「水で周囲を洗い流……アウル!危ない!」


 僅かな隙が命取りになるほどの激しい攻防の中、フェルムはこの一瞬だけを狙っていた。

 砂鉄による目くらましと同時に、他の個体よりも多めに魔力を注ぐ事で機動力を上げておいた鋼鉄ゴーレムを特攻させたのである。


「もらった……」


 標的となったアウルへ鋼鉄ゴーレムの拳が迫る中、フェルムは勝利を確信した。

 鉄塊が何かに衝突する鈍い音が、青年の家の駐車場に響き渡る。


「……!?」


 しかし、目くらましを解除したフェルムの目に映った光景は、予想に反したものだった。


「なぜ……私のゴーレムが、同士討ちしてる……?」


 フェルムが特攻させた鋼鉄ゴーレムを、別の鋼鉄ゴーレムが殴り倒しているのである。

 この状況はアウルと潤奈も予期していなかったため、フェルム同様驚愕の表情でその鋼鉄ゴーレムを見つめていた。


「青い雀の……式神?」


 そんな中、鋼鉄人形の頭上に留まっている青い雀型式神の存在に気がついたフェルムは、状況を理解し驚愕に顔を歪ませる。


「まさか、操作権……奪われた!?」


 操作権の剥奪。

 魔力糸を無理やり接続し、他者が使用する式神やゴーレムの操作権を奪い取る高等技術である。

 フェルムの所属する『黄昏と夜明け団』の術師にも同じ技を使える術師はいるが、これほどの速度で操作権を剥奪できる術師をフェルムは知らなかった。


「水色の雀型式神……あれは、水上家の術式のはず……まさか」


 魔力糸を鉄製ゴーレムへと付着させた雀型式神の姿から、フェルムは術師の正体に気がつく。

 同時に、よく見覚えのある式神の姿から、潤奈もその術師がとある人物である事を確信した。


「これは、お姉ちゃんの式神!でも操作権の剥奪なんて技、お姉ちゃんが使えるの見た事ないし……いったいどういう事?」

「状況は理解できないのですが、とにかく助かったのです」


 青い雀型式神の術師が少なくとも敵では無いと判断したアウルと潤奈は、僅かに警戒心を解きながらもその動向を伺うように距離を取る。


「面倒だけど……次は……あなたが相手ね」


 フェルムは操作権を剥奪された鋼鉄ゴーレムを睨みながら呟く。


「水上家次期当主の実力……試させてもらう」


 操作権の逸脱した1体の鋼鉄ゴーレムと、未だ健在の鋼鉄ゴーレム約50体。

 圧倒的な戦力差を伴った戦いが、幕を開けたのだった。







「ふっふっふ。それでは、ビリの石田くんに好きな子を発表してもらいまーす!」


 なんと、大接戦の末に滝川が石田を負かして2位の座を奪ったのである。

 ちなみに1位は俺だ。気のせいかもしれないが、神様に生き返らせてもらってから運の関わるゲームに強くなった気がする。


「気になる子でもいいぞ〜」


 勝てて嬉しいのか、ここぞとばかりに滝川が石田を急かしている。


「気になる人はいないが、好きな人はいるぞ。多分、名前を言ってもわからないと思うがな」

「「えっ、いるの!?」」


 てっきり勉強一筋で色恋沙汰には興味がないと思っていた。滝川も同じことを思っていたようで、俺と同じく驚愕している。


「ちなみに歳上だ。3個上だから、今は大学1年だな」

「「歳上!?」」


 同級生どころか同じ高校ですらない上に、大学生!?歳上!?


「それと、すでに付き合っている。気が早いと思うかもしれないが、結婚を約束しあっている仲だ」

「「つ、付き合っ……結婚?結婚!?」」


 この日、ゲームの結果など忘れてしまうほどの驚愕に見舞われつつ、俺と滝川は心の中で同じことを考えていた。


 石田は……大人だ。


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あれ?じゃあ本当に滝川の隠れた能力だったって事?͡° ͜ ʖ ͡° ) what?
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