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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第一章「陰陽術編」
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4話「お前、喋れるのか!?」





「ふう、終了っと」


 休みを丸一日使い、引越しの荷解きと新居の掃除がやっと終わった。


「それにしても、広いよなぁ……」


 家の中を見回りながら、改めてそう思う。

 都会の学校に入りたいがために勉強を頑張り、中々の偏差値を誇る札幌の高校に入学できたお祝いとして、祖父母が昔住んでいた家に住んで良いと言われたのだ。そのため、この家に住むこととなったのだが、二階建てで30坪ほどもある。

 1人で住むには広すぎる。


 そして、悩みはそれだけではない。


「はぁ……やっぱり見える」


 見えるのだ。目を凝らすと、さらによく見える。

 たくさんの白い玉のようなものが、フワフワと飛行している。


 気付いたのは2日ほど前のことだった。

 神様が『身体能力は強化しておく』と言っていたのを思い出し、視力がどれだけ良くなったのかを試していたところ、白い玉が飛んでいるのが見えた。

 他にも、半透明の人や小さいおっさんなんかも見える。たぶん、幽霊とかそういう類の存在なのだろう。

 単純に視力もいいのだが、そこまでは見えないで欲しかった。おかげでここ2日寝不足だ。


「どうしよう、除霊とか頼もうかな」


 そんな事を考えていると、白い玉が玄関から出て行くのが見えた。他の玉もそれに続いている。


「なんだ?」


 疑問に思いつつ扉を開けると、1匹の黒猫が倒れていた。怪我を負っているようだ。

 その黒猫の周辺を、光の玉が忙しなく飛び回っている。


「放っては、おけないよなぁ」


 家の中へ入れ、軽く体を拭いてやり、傷口の汚れも水で洗い流して包帯を巻いておいた。正しい処置なのかはわからないが、しないよりはマシだろう。

 そこまで深い傷でもないようだし、ひとまず大丈夫なはずだ。









 都内に建つとある寺院。そこの地下に存在する会議室では、1人の青年が声を荒げていた。


「猫神を捕らえられなかっただと!?お前ら、一体何をしているんだ!」


 怒りをぶつける男の名は、火野山業(ひのやま・ごう)

 日本を守護する五大陰陽一族。その一角を司る、火野山家の現当主である。


「誠に申し訳ありません。総勢50名の陰陽術師を向かわせたのですが、猫神様は予想以上の力を有しておりました。殆どが重傷、残りの者達にも無傷の者はおりません」


 怒声を浴びせられながらも、火野山の部下である男、三鶴城幽炎(みつるぎ・ゆうえん)は現状を淡々と伝える。


「しかしながら、報告では猫神様にも深手を負わせたとの事でした。ですので、周辺の神社仏閣に人員を配置し、傷を癒しに来るであろう猫神様を待ち伏せさせています」

「ちっ、まぁ良い。土地神であるあの猫が居なくなれば、あの土地は悪霊の巣窟となるはずだ。そうなれば、水上一族の権威は失墜する。ふはははは!そして、潤叶(うるか)は俺に頼らざるをえなくなる!」


 青年の言葉を不快に思いながらも、部下である三鶴城は表情を変えずに傾聴する。


「だが、あの猫は従魔として是非とも欲しい。何としても探し出せ!」

「…かしこまりました」


 三鶴城は眉を顰めながらも、猫神捕獲に向けた新たな策を練るのであった。















「お、目が覚めたか」


 保護してから数時間、黒猫が目を覚ました。あたりをキョロキョロと見回し、俺へと視線を向けている。


「怖がらなくてもいいぞ、ここは安全だ。ほら、ミルクだぞー」


 人用のではない。近所のスーパーで買ってきた猫用のミルクだ。


「ちょうど喉が渇いていたところだ、助かる」


 そう言い、黒猫は平皿に入れられたミルクを舐めはじ……くぁwせdrftgyふじこlp!!


「お前、喋れるのか!?」

「む、つい普通に話してしまった。驚かせてすまないな」


 ほへー。まぁでも、幽霊とか神様とかいるなら、話せる動物がいてもおかしくないか。


「話せる動物もいるんだな」

「あまり驚かないのだな」

「ああ、もっと不思議な体験をした事があるからな」


 神様に蘇生させてもらったとかね。


「なるほど。若いのに苦労をしているのだな」

「あ、うん」


 なんか、貫禄を感じる。こいつ何歳だよ。


「ひとまず、助けてくれた事には感謝する。この恩に報いたいところだが、ここに居ては其方にも迷惑がかかる故、お暇させてもらう。すまない」


 そう言って黒猫は外へ出て行こうとした。まだ体力が回復しきってないのか、フラフラしている。


「まてまてまて、そんな体で外とか危ないだろ。まだここに居て良いぞ」

「しかし…」

「せっかく助けたのに、外でてすぐに死なれたりするほうが迷惑だ。せめて傷が治るまでゆっくりしてけ」

「む……そうだな。其方の善意を無下にするところだった。其方が構わないのであれば、もう少し邪魔させて貰いたい」

「おう、一人暮らしには広すぎると思ってたんだ。気に入れば、いつまででも居て良いからな」


 ここにいる事に決めた黒猫は、先程まで寝かせていた座布団の上に戻った。そして安心したのか、倒れるようにしてまた眠りについた。

 もうだいぶ遅い時間だ。バスタオルを毛布がわりに掛けてやり、俺も自分の部屋で寝るとする。


 誰かと一緒にいる安心感からか、この日は久しぶりに熟睡できた。



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