42話「ヒャッホーウ!」
ヒャッホーウ!
「……というわけで、俺は『妖精種』とかいうものは知らないし、君たちを公園で襲った覚えも全くない」
お互いの自己紹介も交えつつ、俺の無実の主張がようやく終わった。
今俺たちは地下鉄大通り駅の改札横にあるカフェへ来ている。立ち話もなんなので、静かに話し合えるところをと探した結果ここでという事になったのだ。
「そうだよー!ご主人様は告白されるんじゃないかってソワソワしながらずーっと待ってたんだから!あなた達が手紙で呼び出された公園には絶対に行ってないよ!」
「う、ウル!余計なこと言うんじゃありません!」
告白されるかもとは思っていたけれども、そんなにソワソワはしていなかったはずだ。このお喋り妖精め、今日のおやつは抜きだな。
「サンダも嘘をついているようには見えないと言っているのです」
「それじゃあ、公園で襲ってきた人と別人だっていうのは少なくとも本当みたいね」
お!ちゃんと説明したお陰かやっと信じてくれたみたいだな。
「本当に申し訳ございませんでした!」
「申し訳ございませんなのです!」
そして、謝罪祭りが始まった。
ものすごい勢いで頭を下げる2人の少女と、頭を下げられる高校生男子。見ている人はいないけど、すごい絵面だなコレ。
「わかってくれたなら全然いいよ。だから頭あげてくれっ」
「いえ、勘違いで大怪我をさせるところだったんです。何かお詫びをさせてください」
「そうなのです。これは私たちの責任なのです、ちゃんとお詫びをさせて欲しいのです」
「お詫びって……」
あ!それならこの機会に、術とか妖精の事とか色々と教えてもらおうかな。気軽に調べられる事でもないし。
「そしたら、お詫びに色々と教えてもらってもいいかな?妖精の事とか、この結界術の事とか。フリーの術師をやってると、こうやって他の術師の人と話す機会が少ないからさ」
以前クロから、どこの組織にも所属していないフリーの術師もいるという話を聞いた事があった。なので、今回はそれで話を通したのである。
実際どこの組織にも所属はしてないから間違ってはいないしな。
「全然いいですよ。まずは、結界から説明しますね。この『霧幻結界』は人避けと隠蔽の効力を持つ結界です。なので、局所的に使用すればこんな事もできるんです。中の声は外に漏れないので、気兼ねなくなんでも話せますよ」
カフェの一角に張られた霧のような結界を見ながら、妹委員長こと潤奈ちゃんが教えてくれた。
この結界は先ほどの大通り戦でも使っていた『霧幻結界』という結界であり、潤奈ちゃんが使える結構すごい結界術なのだそうだ。
自席だけを囲うようにして張ると、このように個室のような空間を作り出す事もできるらしい。便利だな、今度勉強するときとかにやってみよう。
「次は精霊術師についてですけど……幸助さんも精霊術師なんですよね?」
「たぶんそうなんだけど、ウルと出会ったのが一昨日だから、精霊術って何なのかよく分からないんだよね」
「一昨日!?」
「そしたら、一昨日その精霊さんと契約を交わしたばかりなのです!?」
「まぁ、そんな感じかな」
契約をちゃんと交わしたのはさっきだけどな。
「す、凄いのです。契約したてなのに、あんなに多彩な術を行使できるなんて、聞いた事もないのです」
「見たこともない綺麗な結界とか石のゴーレムとか、なんて術かわからないですけど相当高度な術ですよね!アウルの『黄金巨兵』を操った術も凄かったです!」
ゴーレムというか……石畳人形は異能による産物で、金ピカ巨人を操ったのはニアなのだが、勝手に術のせいだと勘違いしてくれたらしい。
ニアの事を話すとややこしくなりそうだし、『術』も『異能』も使えることは黙っておいたほうがいいとクロに言われたので、このまま話を合わせるとしよう。
「でも威力が上がりすぎて、まだうまく制御ができないんだ」
「それは仕方ないのです。精霊術は自然界に存在する魔力を利用するので、威力も規模も大きくなるのです」
「それほど強力な精霊と契約しているのなら、制御も相当難しいんでしょうね」
「強力な精霊?」
三色の光の玉と戯れているウルを見やる。
光の玉達はウルに逆らえないようで、 肩や手足をマッサージさせられている。
「ご主人様どしたのー?」
「いや、何でもない。それと、その光の玉達をコキ使うのはやめなさい」
「はーい」
こんな偉そうなお喋り妖精が強力?聞き間違いだろうか。
そんな事を考えながら2人を見ると、口をパクパクさせながら驚愕していた。
「どうかしたのか?」
「いえ、本当にその精霊と契約しているんですね」
「お、驚いたのです。それほど強力な精霊と対等に言い合える精霊術師なんて、初めて見たのです。凄いのです」
俺がウルと対等に言い合っていることに驚いていたのか。
こんなお喋り妖精に敬意を払う必要なんてないと思うが……。
「ご主人様、なんか失礼なこと考えてない?」
「いや、ウルは優秀な妖精だと思っただけだ」
さすが妖精、なかなか鋭いな。
「そういえば、そもそも『妖精』と『精霊』ってどう違うんだ?それすら知らないんだけど……」
俺はウルのことを妖精だと言っているが、2人は精霊と発言している。何気ない会話の中でふと、その違和感に気がついた。
「妖精と精霊は、単純に格が違います。妖精は長い年月をかけて精霊へと昇華し、さらに長い期間を経て大精霊へ昇華すると言われています」
「見分け方としては、私たちと契約しているグランとサンダ、ディーネちゃんのように光の玉のような姿をしているのが『妖精』。人や動物のようなはっきりとした姿をしていれば『精霊』と考えていいのです。ほとんどの精霊術師は妖精と契約していて、精霊と契約している精霊術師はとても珍しいのです」
「なるほど」
そしたらウルは『妖精』じゃなくて『精霊』なんだな。知らなかった。
「というより、そんなに強力な精霊と契約しているのは珍しいの域を超えていますけどね。どこでウルさんと出会ったんですか?」
「どこでと言われても、うちの庭で生まれて、その時に出会った感じかな」
「「生まれた?」のです?」
2人が首を傾げながら聞き返してきた。
「知らない人から子供の拳くらいのサイズの種を渡されてさ、それに触ったらウルが生まれたんだよ」
「「た、種から生まれた!?」のです!?」
「う、うん」
そんなに珍しいことなのだろうか?いや、精霊自体が珍しいけども。
「それって……」
「たぶん、間違い無いのです……」
2人が顔を見合わせた後、こちらを見つめてくる。どうしたんだ?
「結城さん。たぶん、ウルさんが生まれたっていうその種が……」
「私達が探している『妖精種』なのです」
「……え?」
聞くと、ウルが生まれた謎の種と『妖精種』とやらの特徴が完全に一致した。
妖精が生まれる種っていう意味で『妖精種』なのか、納得した。
「ということは、『妖精種』はもう存在しないのですね……」
詳しく聞くと、『妖精種』はアウルちゃんの所属する魔術組織の至宝で、計り知れないほどの価値のあるものだったらしい。
「マジか……」
ガラスコップについた水滴でお絵かきを楽しんでいるウルを横目で見やる。
「ご主人様、どしたの?」
「いや、意外と絵うまいな。それニアか?」
「そうだよ!えっへへー、結構似てるでしょ!」
うん、似てる……って!そういう事じゃない!軽く現実逃避してしまった。
その後はアウルちゃん……いや、アウルさんに精一杯の謝罪をした結果、ウルの様子を定期的に報告する条件で許していただいたく事ができた。『妖精種』から『精霊』が生まれるという事例自体が初めての事らしく、その後の経過を知りたいらしい。
そんな事で許してもらえるのならいくらでも報告しますとも。いやはや、本当によかった……とんでもない額の賠償金とか請求されたらどうしようかと思った。
「『妖精種』を盗んだ真犯人はまだ捕まっていません。今回私達を仲違いさせたのも、おそらく犯人達による罠でしょう」
「結城さんが今後も狙われる可能性は充分にあるのです。気をつけて欲しいのです」
「わかった、気をつけるよ」
その後、今後のウルの様子を知らせるために2人と連絡先を交換した。
「ご主人様、鼻の下伸びてる〜」
「伸びてないわ!」
美少女2人と連絡先を交換できて少し嬉しいと思っただけだ。鼻の下など伸ばしたつもりは決して無い。
ウルのおやつは明日も抜きだな。
「まだ手掛かりが残っているかもしれないので、私達は行くとしますね」
「何かわかれば連絡するのです!」
そう言い残して2人は去っていった。もう少し犯人の捜索を続けるらしく、待ち合わせに指定された公園や逃走ルートをもう一度見て回るのだそうだ。
「また会えるといいねー」
「中等部ハ校舎ガ分カレテイルタメ、会エル確率ハ低イデス」
「確かにな。ま、縁があればまた会えるだろう」
そんな雑談を交わしながら、俺とウルとニアも家路につくのだった。
◇
「クロム、あなたはいったい何をしていたの?」
「申し訳ないのでござる。イオ殿が見つけてくれた少年がとんでもない精霊術師で、戦いに割り込む隙がなかったでござるよ」
札幌駅に隣接する高級ホテルの一室では、イオに頭を下げるクロムの姿があった。
「まぁいいわ、あなたは戦闘向きの術者ではないものね。荒事に関しては、私とフェルムが行うとするわ」
「いやぁ、お手間を取らせて申し訳ないでござる」
「任務の後にしっかりと責任はとってもらうわよ」
「ひいっ」
魔力の篭ったイオの怒声に、クロムは身を震わせながら後ずさる。
「さてと。クロム、あなたは学校に潜入して情報を集めなさい。いいわね?」
「わ、わかったのでござる」
「私はフェルムと共に機会を伺うとするわ。フェルム、いいわね?」
イオは部屋の隅で佇む黒いローブの少女へと声をかける。
「……了解」
黒いローブの少女はそう一言返し、静かに魔力を研ぎ澄ませるのだった。
◇
翌日。
今日は『宿泊レクリエーション』のための交流会が体育館で行われるらしい。
外部受験で入学したため知らなかったのだが、宿泊レクリエーションは高等部の1年だけでなく、中等部の3年生達も各班に振り分けられるらしいのだ。
そして、中等部の後輩達と仲を深めながら共に2泊3日を過ごしていくというイベントらしい。
「お!きたきた」
滝川が興奮した面持ちで体育館の入り口を見ている。
見ると、中等部の後輩達が続々と入場してきた。
「Eの1はココでーす!ここ、ここ!」
滝川の叫びを皮切りに、他の班も班名を叫んで後輩達を呼び込んでいる。
うちの高校にはAからEまで5つのクラスがあり、各クラスには約40人の生徒がいる。班のメンバーは5人1組のため、各クラスに8班存在する事になるのだ。
ちなみに、俺たちはE組の1班なので班名は『Eの1』となる。
「おっ!中等部の子達も動き出したみたいだよ!」
相原さんの言葉の通り、中等部の子達も自分達の班を探し始めた。
高等部のどの班に組み込まれるかはくじ引きで決められるらしく、先程引いたであろうくじの紙を見ながら続々と移動している。
「あいちゃんもテンション高いね」
「だって、どんな子が来るか楽しみじゃん!」
横では相原さんと委員長が楽しげに話し合っている。
たしかに、どんな子が来るのか楽しみではあるな。
「なんだあの2人、めっちゃ綺麗……」
「かわいっ!」
「すごーい、アイドルみたい!」
そんな中、一際注目を浴びる2人組の美少女がいた。
1人は美しいショートの金髪に人形のように整った顔立ちの美少女。もう1人は、セミロングの黒髪を後ろ手に結ったショートポニテ美少女だ。というか、アウルちゃんと潤奈ちゃんだ。
あの2人、中等部の3年生だったのか。
「Aの3班でーす!」
「Cの5班はココだよー!」
「Dの2班の人ー!」
2人の登場と同時に、高等部男子共のテンションが一段と増した。
すでにメンバーを見つけた班は大人しいが、まだ見つかっていない班はあの2人が班員である事を期待して必死に呼び込みをかけている。
「ここは何班ですか?」
「Bの6班だよ!」
「そうですか。違いました、失礼します」
「あ、うん……」
自分達の班ではないと分かった途端、男性陣は次々とうなだれていく。あれ?なんかこんな光景見たことある気がする。
「滝川、あの2人へ声を掛けに行かなくてもいいのか?」
男性陣の視線を一身に集める2人を見て、石田がからかうように滝川へ問いかけた。
「別にいいよ。ウチには学年人気上位の水上さんと相原さんが居るからな。これ以上求めるのは罰当たりだろ……」
「「えっ?」」
滝川のまさかの返答に、石田と俺は驚愕する。
普段の滝川なら「言われなくても行くに決まってんだろ!ヒャッホーウ!」とでも叫びながら突っ込んで行くだろうに。今日はやけに謙虚だ。
こいつ、本物の滝川か!?
「なんてな!言われなくても行くに決まってんだろ!ヒャッホーウ!」
本物だった。
「Eの1でーす!Eの1班でーす!」
2人の周囲に群がる男性陣を押しのけ、滝川が班名を叫びながら突っ込んでいった。
「お、戻ってき……!?」
帰還する滝川の背後の光景に、石田と俺はさらなる驚愕を示す。なんと、アウルちゃんと潤奈ちゃんの2人が滝川についてきているのだ。
「2人とも、Eの1班だった!」
滝川のその一言に、聞き耳を立てていた周囲の男性陣は項垂れていく。
項垂れる男性陣を掻き分けながら美少女2人を連れ歩く滝川は、どこか神々しく見えた。
「あ、お姉ちゃん!と、結城さん!?」
「結城さんもEの1班なのです!?知っている人がいて嬉しいのです!」
2人は俺と目が会うや否や、滝川を置いて俺の元へと駆け寄ってきた。
周囲の男性陣からは血涙の出そうな目で睨まれる。完全なるデジャヴだ。
「結局幸助かよ!」
その一言を残し、滝川は俺の脛を蹴ってどこかへと走り去っていった。
痛い。
こんなに更新の遅い作品ですが、皆様の応援のお陰で書籍化が決定いたしました!本当にありがとうございます!
詳細は追って活動報告等に書かせていただきます。
書籍化に伴って『なろう』での投稿を中止するという事はありませんので、これからも暇つぶし程度にお読みいただけると嬉しいです。
今後とも『異世界転生…されてねぇ!』を宜しくお願いします!