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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第三章「魔術編」
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41話「アルティメット〜タックルー!」




「アウル……」

「わかってるのです、凄いプレッシャーなのですっ!」


 『てへぺろじゃねぇ!』という言葉とともに現れた精霊の威圧感に、潤奈とアウルは身動きをとれずにいた。

 2人の頭上を飛ぶ妖精達も動揺を隠しきれずソワソワと飛び回っている。


「なにか、話し合ってるみたいね」

「何を話しているかはわからないですが、今がチャンスなので……す!?」

「なっ!?」


 直後。精霊から発せられた七色の光に、二人は息を飲む。


「アウル!」

「はっ!思わず魅入ってしまったのです。不覚なのです!」


 敵の姿に魅入ってしまったというアウルの言葉を、潤奈は叱責しない。

 なぜなら、彼女自身も目の前の光景に魅入り、感動すら覚えてしまっていたためだ。


「今のオーラで結界内が不安定になってる。早く決着をつけないと、結界が解けるわ」

「わ、分かったのです。ちゃんと戦うのです!」

 

 潤奈の言葉にアウルは気を引き締める。だが同時に、胸の奥に抱えている疑問が深まるのを感じていた。


(やっぱりおかしいのです。さっき公園で戦った時は、あんなに強力な精霊を連れ添っている気配なんて全くしなかったのです。なにより、雰囲気も少し違うのです……)


 公園に呼び出し、いきなり攻撃を仕掛けてきた先程の様子とは明らかに異なっている。

 そんな疑問を抱きながらも、アウルは次なる魔術を発動するため妖精へと魔力を受け渡すのだった。




 





「イェーイ!これでご主人様も術が使えるよーん!たぶん」

「たぶんかよ!」


 ウルのボケだか本音だかわからないセリフにツッコミを入れつつ、裸足になって極小出力の『散炎弾』を放ってみる。


「うおっ!?」


 問題なく放てたが、地面が少しだけ吹き飛んだ。

 線香花火程度に抑えたつもりだったのだが……加減を誤ったみたいだな。


「ご主人様、くるよ!」

「え?」


 ウルの言葉に前を見ると、雷の散弾や水の刃がものすごい勢いで迫ってきている。やばい!


「さ、『三重結界』!!」


 三重に重なり合った透明の光の壁が、迫り来る攻撃を全て受け止めた……のだが。


「ご主人様の結界きれー!すごーい!」

「あ、あぁ、そうだな」


 たしかに綺麗だが、問題はそこではない。

 いつもより輝きが増している上に結界一枚一枚が分厚くなっているのだ。


「ウル、お前なにかしたか?」

「え?何もしてないよ。ご主人様が『術』を使おうとするときにあたしの体を魔力が通過していく感じがするけど、それだけー」


 いやいや絶対それ原因だろ!

 理屈は分からないが、ウルを通して『術』を発動する事で威力が跳ね上がっているようだ。

 今までと同じ感覚で『散炎弾』なんて発動した日には、大通公園がめちゃくちゃになりそうだな。


「さて、どうするか……『三重結界』!」

「ご主人様ナイス防御!」


 2人の攻撃は手数が多いだけで大した威力ではない。分厚くなった『三重結界』を使えば余裕で防げ……ん?よく見ると、目を凝らさないと見えないほど薄い4枚目の結界が出現している。


「これじゃあ『四重結界』だな」


 なんて事を言っている場合ではない。

 4枚目をよくよく観察すると、只ならぬ気配を纏っているのだ。ちょっと怖いな、『三重結界』も使わないほうがいいかもしれない。


「とりあえず、襲ってきている理由くらいは聞き出さないとな。でなきゃ納得できん」


 ウルブーストのかかった術全般は危険すぎるし、話し合うなら接近する必要がある。

 となればーーー


「ーーー『強化』!」


 思考速度と筋力を強化し、無数の攻撃を避けながら2人へと接近する。


「ち、近づけさせないのです!サンダ、グラン、『ショットバレット』!」

「ディーネ、『バレット』!」

「うおっ!」


 視界を埋め尽くすほどの雷と石と水の散弾が迫って来る。

 『三重結界』で……とも思ったが、知らぬ間に『四重結界』となったあの技では何が起こるかわからない。なのでここはーーー


「ーーー大通公園ごめん!『玩具』!」


 大通公園の石畳を素材として人形を複数体作成し、壁にしながら2人へ突撃する。

 石畳が一部剥げてしまったが、2人の魔術で既にボロボロなので大目に見てもらいたい。


「手数の多い攻撃じゃ倒せない!」


 妹委員長が水の散弾を放ちながら悔しがっている。

 石畳人形が予想以上の耐久力を見せてくれるお陰で苦戦を強いられているようだ。この隙に遠慮なく接近させてもらう!


「仕方ないのです……潤奈ちゃん、時間稼ぎをお願いするのです」

「アレをするのね。ディーネ、『グレートウォール』!」


 妹委員長がそう叫ぶと、巨大な激流の壁が出現した。


「うわっ、結構頑丈だな」


 石畳人形の突進では威力が足りないらしく、激流の壁を突破できない。


「このままじゃダメか。普通の『強化』でも突破できるか分からないし『術』も使えない……少し痛いけど、アレしかないな」


 『強化』を使用し、筋肉と骨を強化。そしてーーー


「ーーーさらに『強化』!」


 右腕の筋肉と骨格に『強化』を重ね掛けする。

 

「いててててっ」


 限界以上に『強化』された筋肉と骨に挟まれ、右腕の神経が悲鳴をあげる。

 懐かしい痛みだ、成長痛に近いな。


「おっと、感慨にふけっている場合じゃない」

 

 強化を重ねた拳を振りかぶり、激流の壁を思い切り殴り飛ばす!


「『男女平等拳・破(テレフォンパンチ)』!」


 強烈な爆裂音が鳴り響き、発生した衝撃波が激流の壁を吹き飛ばした。


「なっ!ただのパンチで私の『グレートウォール』を破ったの!?」

「その通りだ!」


 『男女平等拳・破(テレフォンパンチ)』は俺の持つ近接技の中で最も威力の高い技である。

 今は右腕だけだったが、全身に『強化』を重ね掛けすれば巨大なクレーターを作り出すことも可能だろう。

 ただし、大きな隙と右腕を犠牲にする必要があるため、溜めの時間を取れる状況下で『身代わり札』を貼っているという2つの条件が必要となってくる。あと、強化した部位がしばらく痛くなる。


「『三重結界』に防音効果を付けて、家の庭で練習した甲斐があったな……」


 異能者の襲撃によって俺は学んだのだ。平穏に生きるためには、充分に備えておく必要があるのだと!

 そのためにも、『男女平等拳・破(テレフォンパンチ)』以外にいくつか新技を開発しているのだが、そんな話はどうでもいい。それよりもーーー


「俺はこれ以上戦うつもりはないんだ。いきなり襲ってきた理由を説明してくれ」


ーーー今の状況を理解する方が重要だ。


「いきなり襲ってきたですって?それはこっちのセリフよ!」


 え?


「私達の靴箱に手紙を入れて、『妖精種(フェアリアルシード)を返して欲しければ指定した公園まで来い』って呼び出したのはあなたじゃない!そしていきなり襲ってきた。はやく盗んだ『妖精種(フェアリアルシード)』を返しなさいよ!」

「手紙?『妖精種(フェアリアルシード)』?」


 状況が理解できない。呼び出されたのはこっちだし、そんな名前の物を盗んだ覚えなどない。


「ちょっと待って、わけがわからない。俺も靴箱に手紙が入ってて、ここに呼び出されたんだ。『妖精種(フェアリアルシード)』とかいう物を盗んだ覚えもないし、そもそもそんな物知らない!」

「で、でもさっき公園で私達に襲いかかってきたじゃない!危うく殺されるところだったんだからね!」


 さっきって……さっきからずっとここに居たんだが、一体どうなっているんだ?


「……潤奈ちゃん、時間稼ぎありがとうなのです。やっと詠唱が終わったのです」


 そんな中、委員長妹の陰に隠れていた金髪少女から不穏なセリフが聞こえてきた。

 詠唱が……オワタ?


「あなたが誰かは分からないですが、大人しく捕まってもらうのです。『無上・黄金巨兵グレイテスト・ゴーガン!』


 金髪少女がそう叫ぶと、全長5メートルはあろうかという黄金の巨人が現れた。

 武器はなく、簡素な鎧を着た骸骨のような姿だが物凄いプレッシャーだ。


「うわー、ヤバーイ!強そー!」

「たしかに、ちょっとヤバイかも……なっ!?」


 瞬間、俺の周囲を固めていた人形たちが粉々に吹き飛ばされた。

 黄金巨人の拳を見ると、石畳人形の破片が僅かについている。あの巨人がやったらしいな。見た目に反して尋常じゃない速度だ。


「は、早すぎー。ご主人様、今の見えた?」

「ああ、一応見えた」


 目では追えるし回避できないほどではないが、石畳人形や強化で太刀打ちできるかは不安だな。術は使えないし、どうするか……。

 

「大人しく捕まって欲しいのです。そうすれば、これ以上手荒な真似はしないのです」

「捕まってって……」


 そんなことを言われても、捕まるような事をした覚えはないしなぁ。

 それに、こちらの言い分をちゃんと聞いてくれないのに大人しく捕まるのは、なんか癪だ。


「マスター、ココハ任セテクダサイ。僕ガマスターヲオ守リシマス!」

「ニア!?」


 黄金巨人への対抗策を考えているとニアが胸ポケットから飛び出し、捕まえていたコガネムシを黄金巨人へ向けて飛び立たせた。

 ん?見ると、ニアとコガネムシの間に霊力糸が繋がっている。あのコガネムシって式神の類だったのか!


「あ、あれは!私の使い魔なのです!?」

「アウルの使い魔がどうしてここに!?」


 2人も驚いているが、今はそれどころではない。

 飛び出したニアを慌ててポケットへと隠す。


「ニア、危ないからポケットの中に入ってなさい!」


 ニアにも『身代わり札』を貼ってはいるが、生物なのか機械なのか微妙なラインにいるニアに効力があるかはわからないのだ。

 そのため、ニアを危険に晒すことはできるだけ避けたいのである。


「大丈夫デス。モウ終ワリマス」

「もう終わります?」


 ニアの言葉の直後、コガネムシが付着した黄金巨人の動きが止まった。そしてーーー


「え?なに?なんで私達を掴むの!?」

「わ、わからないのです!『黄金巨兵ゴーガン』の制御が効かないのです!は、離すのです!なんで私達を掴むのです!?」


ーーーその巨大な手で妹委員長と金髪少女を掴み上げ、拘束したのである。

 どうゆう事だ?状況が理解できない。


「アノ巨人ノ制御権ヲ奪イマシタ。今アノ巨人ハ僕ノ制御下ニイマス」

「僕の制御下にって…」


 そんな事もできるのか、ニア凄いな。


「アウル、悪いけど『黄金巨兵ゴーガン』を壊させてもらうわよ」

「構わないのです、私もそのつもりだったのです。グラン!サンダ!」


 まずい!あの巨人を破壊するつもりか!


「そうはさせないよ!アルティメット〜タックルー!」

「ウル!?」


 魔術が発動する直前、2人の頭上を飛ぶ光の玉達に向かってウルが高速タックルをかました。


「ディーネ!」

「グラン!サンダ!」


 光の玉達はピンポン球のように飛んでいき、魔術が発動されることはなかった。とりあえずよかったよかった。


「さてと……」

「ア、アウルには手を出さないで!何かするなら私にしなさい!この、ケダモノ!」

「だ、ダメなのです!今回の件は私の責任なのです!辱めるなら…私を辱めるのです!」

「いや……」


 ケダモノとか辱めとか、どんな奴だと思われてんだよ……。


「とりあえず話し合おう。ニア、2人を放してやってくれ」

「了解シマシタ」

「「えっ…?」」

「えっ…?って、別に2人をどうこうするつもりはないから。ただ話し合いたいだけだからっ」


 巨人から解放した事で少しは信用してくれたのか、攻撃する素振りは見せてこない。

 疲れた。これでようやく話し合うことができそうだな。



 

 

 







 とあるビルの屋上には、霧のかかった大通公園を見下ろすひとりの男がいた。


「驚いたでござる。まさか、あれほどの『精霊術師』が隠れていたとは……」


 彼の名は『クロム』。幸助の姿でアウルと潤奈を奇襲し、2人と敵対させた張本人である。


「大精霊に匹敵するほどの気配を持つ精霊を使役できる存在……こんなに面白い相手が見つかるとは、わざわざ下駄箱に手紙を入れて、少年に変装しながら逃げ回った甲斐があったでござるな!」


 ツバ付きのニット帽を深くかぶりながら、クロムは高らかに笑う。

 その表情には久しぶりに面白い存在と出会えた喜びがこれ以上ない程に表れていた。


「イオ殿には悪いでござるが、なかなか面白くなってきたでござる」


 イオの魔術によって『妖精種(フェアリアルシード)』を横取りした犯人が幸助だと判明し、クロムはその奪還を任されていたのだが、クロムの中にその目的を果たすという考えはすでに無い。代わりにーーー


「強力な精霊を使役するだけでなく、尋常ではない体術を駆使し、見たこともない結界術や回復術を行使する少年……ふっふっふ、必ずあの少年の正体を突き止めてやるのでござる!」


ーーー幸助の正体を突き止めるという目的だけが頭の中を埋め尽くしていた。


「はぁ……その前にイオ殿に怒られてくるとするでござるかな」


 そう呟くと同時に、クロムの姿はビルの上から消えたのであった。







 作者は生きてます!

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