40話「うるさい」
ゴールデンウィークが明け、いつもの日常が戻ってきた。
だるいけど、今日からまた学校だ。
「ふぁ〜、ねみー」
「ふぁ〜、ねむー」
俺のあくびにつられて、頭の上の妖精もあくびをしている……って、妖精!?
「なんでお前、当たり前のようにいるんだよ!?」
「なんか、ご主人様の頭の上が居心地いいんだよね〜。だからついてきちゃった」
まじか、あまりにも自然すぎて気がつかなかった。
今から戻る時間もないし、このまま学校に連れて行くしかないか……。
「この前みたいに見える人がいるかもしれないから、絶対に姿は現すなよ」
「大丈夫大丈夫!もうあんなミスはしないよん!」
めちゃくちゃ信じられないんだが……まぁいいか。見える人なんて早々いないだろうしな。
「それはそうとニア、まだその虫捕まえてたのか?」
「ハイ、コノ虫ハトテモ興味深イデス。見タ目ノ精巧サモ凄イデスガ、ソレ以外ノ点モトテモ興味深イデス」
「そ、そうか。気が済んだら放してやれよ」
理由はよく分からないが、ニアは昨日のお花見帰りに捕まえた金色のコガネムシをいたく気に入っている。
ロボット形態となり、今も鞄の中でコガネムシと戯れているのだ。
ま、コガネムシも元気そうなので、もうしばらく放っておいても大丈夫だろう。
「さてと、上靴……ん?」
そんなことを考えていると、突如としてそれは起こった。
上靴に履き替えるために靴箱を確認すると、中に手紙らしきものが入っていたのだ。
「こ、これは……」
恐る恐る中を開けてみると、手紙には拙くも可愛らしい字で簡潔な文章が書かれている。
『放課後、さっぽろテレビ塔の前で待っています。来てください』
「こ、これは!」
急いで靴箱を確認する。
「間違イアリマセンヨ。ココハマスターノ靴箱デス」
ニアの言う通り、確かに俺の靴箱だ。間違いない。
ということは、これってもしかして……。
「ご主人様やっる〜!それってラブレターっていうやつじゃない!?」
妖精の言葉に、俺は静かに頷く。
どうやら、俺にも春が訪れたらしい。
◇
放課後。霧のかかったとある公園には、2人の少女の姿があった。
「本当にごめんね。お姉ちゃんにもお父さんにも話したんだけど、なぜか協力してくれなくて……」
「全然大丈夫なのです。潤奈ちゃんが協力してくれるだけで心強いのです!」
謝罪を示す黒髪の少女は水上潤奈。それに答える金髪の少女は、親友のアウルである。
「アウル、私は結界を維持しなきゃいけないから全力での戦闘はできないわ。相手はアウルの偵察用使い魔を振り切る手練れよ。もしも戦いになったら、気をつけてね」
「大丈夫なのです、無茶はしないのです。それに、私にはこの子達がいるのです」
そう言いながら、アウルは頭上を飛び交う2つの光の玉を見つめる。
「そうね、余計な心配だったわ。どれほどの手練れだとしても、アウルを傷つけることなんて出来やしないものね」
アウルの自信に潤奈は同意を示す。
同じ精霊術師であり親友でもある彼女の実力を、潤奈は誰よりも理解しているためだ。
「来たみたいね」
「まずはちゃんと話し合うとするのです」
2人は話し終えると同時に、霧の中を悠然と歩いてくる1人の少年へと向かい合うのだった。
◇
「あ……」
放課後。指定された通りテレビ塔の前まで来たのだが、痛恨のミスだ。
「差出人が誰だかわからない……」
浮かれすぎた。なぜ今まで気づかなかったんだ……。
「手紙には差出人書いてなかったもんねー。っていうかご主人様、着替えないほうがよかったんじゃない?」
「た、たしかに」
妖精の言う通りだ。
一旦帰って制服から着替えて来たのだが、むしろ制服のままのほうが目印になって良かったかもしれない。それも失敗したな。
「でも、今から戻ると時間かかるから、このままでいるよ」
手紙の相手が私服の俺を見つけてくれることを祈ろう。
「見つけた!!」
「見つけたのです!!」
「えっ?」
そんなことを考えていると突然、人混みの中から2人の少女が飛び出してきた。
1人は短いおしゃれポニーテールの女の子……あ!委員長の妹の潤奈ちゃんか!
もう1人の金髪少女は……昨日のお花見でぶつかった子だ!
「もう逃がさないわよ!」
「おとなしくお縄につくのです!」
「ええっ!なんで!?」
どういう事だ?呼び出したのはそっちだし、そもそも逃げてないし……。
「『霧幻結界』!」
「結界!?」
こちらの都合は完全無視で委員長の妹が霧のような結界を張った。テレビ塔の付近に居た観光客や通行人は、自然と結界の外へ出て行く。
なるほどなるほど、これは人避けと外部からの認識阻害効果がある結界らしいな。
「習得習得」
にしても、いったい何がどうなってるんだ?呼び出されたから来ただけなのに、逃げてるとか言われて否応無く結界に囲われて……わけがわからない。
「ご主人様!」
「え?あぶねっ!」
妖精の言葉で咄嗟に避けると、直前まで立っていた地面に水の槍が突き刺さっていた。
「外したっ、さっきよりも反応がいいわね」
「潤奈ちゃん……あの人、さっきと雰囲気が違う気がしないです?服装も制服じゃないのです……」
「アウル何言ってるの?私達はあいつに殺されかけたんだよ?油断しちゃダメだよ」
「そ、そうだったのです。ごめんなのです」
「取り敢えず今はあの人を倒そう。話はそれから聞けばいいんだよ」
「はいなのです!サンダ、『ショットバレット』!グラン、『ソーサーブレード』なのです!」
2人が何か話していると思ったら、金髪少女のほうが雷の散弾と岩でできた皿状の刃を飛ばしてきた。
「いきなり、エグいなぁ……」
無数の散弾と刃による拡散攻撃は躱す余地などかけらも無い。
普通ならね。
「『強化』!」
思考速度と筋力を強化し、高速で飛来する雷の弾と岩の刃を全て躱す。
「防ぐんじゃなくて、躱した!?」
「そ、そんな対応されたの初めてなのです!」
2人が驚いている。ふはははは!『強化』の熟練度は毎日上げているのだよ!異能や術は『強化』すると威力が上がりすぎて加減できなくなるが、身体能力の強化はほぼ完璧に調節できるようになったのだ!
「すごい身体能力だけど、さすがにこれは避けられないでしょ。ディーネ、『ランス』!」
委員長の妹が回避のために飛び上がった俺の着地点に水の槍を放ってきた。なかなか良い狙いだ。
だが、甘い!
「『散炎弾』!」
たとえ空中にいようとも、足の裏から散弾を放って回避できるのだ!靴と靴下はダメになるが、背に腹は変えられーーー
「ーーーん?いでっ!」
足に描いておいた術式は一切反応せず、普通に着地して水の槍が普通に直撃した。
『強化』のおかげでかすり傷程度で済み、『身代り札』の効果で傷跡も残っていない。
だがーーー
「ーーーなんで『散炎弾』が発動しないんだ?」
『強化』も『身代わり札』も問題なく使える。だが、『散炎弾』はうんともすんとも言わない。
「今なのです!サンダ、グラン、『ブラストランス』!」
「くっ!」
考える間も与えないつもりか。ならば!
「『三重結界』!」
迫り来る雷と岩の槍を結界で……って、結界も発動できない!?
「ちっ、『玩具』!」
槍が直撃する寸前に土人形を複数作り、身代りにした。
着弾した槍は爆散し、地面人形は全て吹き飛ばされる。だが、俺自身は無傷だ。
「『術』は使えないけど、『異能』は問題なく使えるのか。一体どうして……」
『術ノ発動時、マスターカラ霊力ヲシッカリト感ジマス。霊力ノ有無デハナク、流レニ問題ガアルト思ワレマス』
ニアが分析してくれたが、流れの問題ってどういう事だ?いつも通り使おうとしているはずなのだが……。
『あ、それ私のせいかも!なんかー、さっきからご主人様の魔力が流れてきてる感あったんだよね〜。でも、どうにもできなかったからとりあえず吸収してた。てへぺろっ!』
「てへぺろじゃねぇ!」
「ひええっ」
俺が叫ぶと、妖精が驚いて姿を現した。
「妖精、どうすれば前みたいに術が使えるようになるんだ!?」
「う〜ん。たぶん、ちゃんと契約すれば使えるようになると思うよ」
「契約?」
「うん。今の私とご主人様は、ただの遊びみたいな中途半端な関係だから」
言い方。
「だから、ちゃんと契約を結べば術を使えるようになると思う」
「どうすればちゃんとした契約を結べるんだ?」
「たぶん、名前かな。名前付けてくれたら良い気がする!妖精って呼ばれるの、なんか味気ないし」
「名前か……」
クロの時もそんな感じだったな。妖や妖精の世界では、名付けで主従契約的なものを結ぶのだろう。
「よし、それじゃあ名前を与えるとしよう」
「ほんと!?」
「ああ、実はちゃんと考えていたんだ」
クロ達に名付けを行っていた癖で、妖精の名前も無意識に考えていたのである。習慣とは恐ろしいな。
「はやくはやくっ!なまえなまえ!」
凄い喰いつきっぷりだな。さっさと教えてやろう。
「お前の名前は、『ウル』だ」
「ウル!きゃー、良い響き!意味とかあるの?由来とかは!?」
「あ、あぁ。あるぞ」
テンションが上がったのか、顔の周囲を凄い速度で飛び回っている。羽根がかすって痛い。そして、うるさい。
「その名前に近い名前の豊穣の神とか過去を司る女神とかがいるんだよ。他にも、アルティメット(究極)の頭2文字を日本語読みしたら『ウル』になるとか……まぁ、由来は色々だ」
「おお!凄い!さっすがご主人様!」
どうやら気に入ってくれたらしいな。よかったよかっ……!?
「ひゃっほーーう!!」
「えっ?ちょっ!ウル!?」
名付けによる作用なのかウルが突然七色の光を放ち……何事もなく光は収まった。
「な、何が起きたんだ?」
「あ、驚かしてごめんね!大丈夫、契約が完了した合図だよ!」
びっくりした、爆発でもするのかと思った。
「それよりも、これでご主人様は『術』が使えるようになってると思うよ!」
「お、まじか。それはありがたい」
習得した技の中でも、陰陽術である『散炎弾』さんには特にお世話になっているからな。いざ使えないとなると少し不安だったのだ。
「ふっふっふ!究極妖精ウルちゃんの力を見せつけてやるぜーー!!」
「お前も戦うつもりなのかよ」
まぁ、こんだけはやく飛べるなら邪魔にはならないか。危なくなったら結界にでも閉じ込めてやろう。
「究極妖精〜ウル!ふふふっ」
『ウル』っていう名前を本当に気に入ってくれてるみたいだな……凄い罪悪感が込み上げてくる。
「ご主人様、どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
これは、言えないな。名前の由来である単語が、もう一つあるという事を……。
1ヶ月以上も音沙汰がなく、まことに申し訳ございません。
ペースは遅めですが、更新再開します!