38話「また遅れたー!」
家の裏庭で『三重結界』を弄りながら、何気なく呟く。
「昨日食べたソフトクリーム、美味しかったなぁ……」
「むー!」
俺の呟きに、リンがむくれた。
「カー……」
「ソフトクリームか……」
シロとクロも不満げだ。
「わかったわかった、今度埋め合わせするよ。みんなでどこか出掛けよう」
俺の返事を聞いて、リンもシロもクロも喜んでいる。
白髪の幼女に白いカラスに黒い猫。少し目立つメンバーだが、何とかなるだろう。今はゴールデンウィークだし、みんなでお花見も良いかもしれない。
「それはそうと、準備はこんなもんでいいかな?」
「問題アリマセン。コレダケ強力ナ『結界』ヲ張レバ、万ガ一ノ事態ガ起キテモゴ近所ヘノ影響ハ無イデショウ」
ニアの分析でも問題無さそうなので、作業を開始するとしよう。
今俺は、水筒のような物を『三重結界』でガチガチに囲い、裏庭に設置している。『三重結界』の中には水筒だけでなく、気合を入れない『玩具』で作った小さな木製人形も入っている。
気合を入れて作るとニアのような存在となるが、うまく力を抜きながら作ると、言う事を聞くだけの意思のない人形を作り出せるのだ。
「よし。木製人形、その水筒みたいなのを開けてくれ」
「……」
俺の命令を聞き、木製人形が水筒の蓋を開け始める。
特に鍵はかかっておらず、金具を外せば簡単に開く仕組みだったようだ。
「よし、開いたな。次は中身を慎重に取り出してくれ」
木製人形は小さな腕を水筒へ入れ、中身を慎重に取り出した。
木製人形が手にしていたのは、子供の拳ほどの大きさの種のようなものだった。
「クロ!ニア!」
「任せろ」
「オ任セクダサイ」
水筒の中から取り出された種のような物を、結界越しにクロとニアが観察する。
「儂の感覚では、危険性を感じないな」
「僕ノ分析デモ、危険ヲ感ジマセン」
なるほど。クロとニアがそう感じるのであれば本当に大丈夫なのだろう。
「それじゃあ結界を解除するぞ」
三重結界を解き、種のようなものを掴み上げる。
「大きなクルミみたいだな。ん?」
何かを吸われるような奇妙な感覚に襲われた瞬間、種が徐々に光り出した。
「え、なんで!?」
赤、青、黄、緑、茶、黒、白の七色の光を放ちながら、種はどんどん光量を増していく。
「その種を放すのだ!」
「マスターノエネルギーガ吸ワレテイル可能性ガアリマス!」
「ええっ!?」
危険性はないんじゃなかったのかよ!
慌てるクロとニアの姿に、様子を見ていたシロとリンも焦り出す。
そんな中、俺は急いで種を放り投げた。
「おぉ、光が弱まっ……!?」
俺の手から離れて光が収まったと安心した瞬間ーーー
「また遅れたー!」
ーーー種が割れ、手のひらサイズの女の子が謎の叫び声をあげながら現れた。
◇
「受け取り人を間違えたですって!?」
札幌駅南口すぐ横にある高級ホテルの一室では、谷間が見えるほど首元のゆるいブラウスを纏った女性が、赤茶色の長い髪を靡かせながらニット帽の男を怒鳴りつけていた。
彼女の名は『イオ』。イギリスに拠を構える魔術組織、『黄昏と夜明け団』に所属する魔術師である。
「受け取り人の特徴と同じ格好をしていた上に、『神様、感謝します』という取引開始の合言葉を呟いていたのでござる。さらに、4度目の『神の存在を、信じるか?』という問いかけに肯定で答えるという条件を満たしていたため、間違えてしまったのでござる」
イオの怒声に答える男は、黒いパーカーに灰色のジーンズを纏っている。深くかぶったつば付きのニット帽によって、その表情は見えない。
彼の名は『クロム』。イオと同じく、『黄昏と夜明け団』に所属する魔術師である。
「受け取り人と同じ格好に、合言葉ですって……!?」
イオはクロムの返答に驚愕する。
その話が本当だとするならば、取引の情報が外部に漏れていたという事になるためだ。
「街中をぶらついている『フェルム』を今すぐ呼び戻しなさい!どこの組織かは知らないけど、何としても『妖精種』を取り返すのよ!」
「り、了解でござる!」
イオの剣幕に圧倒されながら、クロムは駆け足で『フェルム』を探しに出掛けた。
「触れた術者の適性属性と同じ属性の妖精を生み出す種……『妖精種』」
ホテルの一室に残るイオは、静かにそう呟く。
彼女の呟きの通り、『妖精種』とは触れた術者に合った妖精を生み出す妖精の種なのである。
精霊術には多くのメリットがある反面、いくつものデメリットが存在する。
その一つに、『自身と属性が合う妖精や精霊としか契約を結ぶ事が出来ない』という条件がある。
簡単に思える条件だが、実際に行うのは困難を極める。
精霊の下位に位置する妖精でさえ、見つけることは困難を極めるためだ。また、妖精を見つけて属性が合ったとしても、気まぐれで契約を交わしてくれない事もある。
それ故に、精霊術師を目指しながらも自身と合う妖精や精霊を見つけられずに生涯を終える術師も少なくないのだ。
『妖精種』はその条件を難なく解決できる。まさに、魔法のアイテムとも呼べる代物であった。
「神を殺すためには、『妖精種』で強力な精霊術師を生み出す必要がある。横取りした連中を何としても見つけなければっ」
イオはそう決意し、外を飛ぶ鳩へ向けて自らの魔術を行使したのだった。
◇
「旬じゃないけど、中々美味しいわね!うまー!」
いま俺の目の前には、テーブルの上に我が物顔で座る虹色の羽が生えた女の子がいる。
毛先が七色に輝くセミロングの金髪を揺さぶりながら、パック詰めのカットリンゴを頬張っている。
「ふぃー、食べた〜」
自身と同じくらいの体積のリンゴを食べ終え、女の子は少しだけ膨らんだお腹に身を委ねてテーブルに寝転んだ。
食べた量とお腹の膨らみは明らかに大きさが合わない。ファンタジーだ。
「じゃっ、おやすみぃ〜」
「まてまてまて」
そのままテーブルの上で寝ようとする女の子を、指で突いて無理やり起こす。
本当に小さいな、俺の手のひらほどの大きさしかない。
「なに〜?」
「なに〜?じゃねーよ。お前は何者なんだ?寝る前にそれくらいは答えてくれ」
種の中からこいつが現れた直後、『お腹空いたー、お腹空いたよぉ〜』とうるさくて何も聞けなかったのだ。そのため、今晩のおやつにする予定だったカットリンゴを食べさせたのである。
正体くらいは寝る前に何としても答えてもらう。
「何者って言われてもわかんなーい。わかるのは、あなたが私のご主人様って事くらいかな」
「ご主人様?」
謎が増えたんだが……。
「恐らく、其奴は妖精の類だろうな。昔、妖精を生み出す種があると聞いたことがある」
クロが教えてくれた。
手のひらほどの大きさで虹色の羽、葉を縫い合わせて作ったかのようなドレス姿。たしかに妖精っぽいな。まるでティン◯ーベルだ。
「それそれ!妖精!私はたぶん妖精だよん!」
大の字で寝転がりながらクロを指差し、ドヤ顔で女の子が叫んだ。
前言撤回だ。ティン◯ーベルではなく、休日のおっさんだ。
「そして、私はあなたの妖精!よろしくねご主人様!」
寝転がり、尻を掻きながらドヤ顔をキメる妖精を見て俺は考える。
妖精って、森の中に放しても良いのだろうか?
勘違いで主人公が受け取ってしまった例のブツ、『妖精種』の取引について解説します。
今回の取引の条件は
①受取人がクロムと真逆の色合いの上下を着ている事。
②「神様、感謝します」という言葉を、サッポロファクトリーにある休憩用のベンチで呟く事。
③4度目の「神の存在を、信じるか?」という問いに肯定する事。
です。
合言葉には、『4度目で神を肯定する』➡︎『神の死を肯定する』という意味を込めてまして、イオが最後に呟いた「神を殺す」という目的に繋っていたりします。
まとめると、4度目の問いに肯定さえすればどんな返答でもよかった。という感じです。
取引の合言葉について感想をくださった方々、ややこしい取引条件で申し訳ございません。稚拙な説明ですが、納得していただけるとありがたいです。
そして、更新が遅くて本当に申し訳ございません。