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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第三章「魔術編」
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37話「罰は当たらない筈だ。たぶん」




 5月。市内の雪はすっかり溶け、半袖で出掛ける人達も増えてきた。


 そんな暖かなお日柄に合わせて選んだ服は……灰色のパーカーに黒のジーンズという地味な服装だ。

 ファッションに興味が無かった弊害だな。灰色と黒を無意識に選んでしまう。


 と、そんな事はさておきーーー


「着いたー!サッポロファクトリー!」


ーーー叫び声の主は俺ではない、滝川(たきがわ)だ。

 今は班のみんなで、来週に迫った『宿泊レクリエーション』用の買い物に来ているのである。

 うちの班のメンバーは、俺と石田と滝川と委員長と相原さんの5人だ。


「それにしても、サッポロファクトリー……あいかわらず大きいな」

「どこに何あるのかよく分からないよね」


 俺の言葉に委員長が返してくれる。


 サッポロファクトリーとは、ショッピングモールなのか娯楽施設なのかよく分からない巨大施設だ。

 とにかく大きく、広いアトリウム内に庭園までもが存在する。都会、すげぇ……。


「ソージの我儘で付いてきちゃってごめんね。人数多くて動きづらくない?」

「全然大丈夫だよ!むしろ、アカリさんが来てくれて超ハッピー!めっちゃ動ける!」

 

 そんな事を考えていると、後方から楽しげな会話が聞こえてきた。

 声の主はアカリさんと滝川だ。珍しい組み合わせだな。


「チッ」

「ひいっ!」


 アカリさんと滝川の談笑に気を悪くしたのか、ソージが滝川を威嚇している。


「結城くん。止めなくても、いいのかなぁ」

「大丈夫大丈夫、滝川はタフだから」


 雫さんが不安そうに聞いてきたが、たぶん大丈夫だろう。まだ付き合いは短いが、ソージは暴力に訴える性格ではないのだ。


 この場にどうしてアカリさんやソージ、雫さんもいるのかと言うと、買い物はうちの班だけでなく、雫さん達とも一緒に来ているためだ。

 そのため、今回のお買い物は総勢8名の大所帯である。


「あ!結城さん、荷物持ちましょうか?」

「ソージ、ほんと大丈夫だから。そんなに気使わなくていいからっ」


 ツンツ…ではなかった。ソージが滝川を威嚇したあと、ぐいぐいと俺のほうへ迫ってくる。

 なぜこんな事になっているのかというと、クロが俺の正体をバラして以降、ツンツン不良ことソージが俺に恩返ししたいと付き纏うようになってしまったからだ。


「何かあれば遠慮なく言ってください」

「いやいや、ほんと大丈夫だから」


 そのため、今回のお買い物にもソージが付いて来たいと言い出し、ついでにと雫さん達も付いてきたのである。


「プライベートはある程度許すけど、学校では付き纏うなよ」

「気をつけます」


 気をつけるんじゃなくて完全にやめてほしいんだが……。

 ちなみに、ソージと呼ばないと毎朝家まで迎えに来ると言い出したので、今は仕方なくソージと呼んでいる。


「コントはそれくらいにして、そろそろ行くぞ。土曜でただでさえ混んでいるんだからな」

「そだね。はやく行こ行こっ」


 べつにコントをしていたつもりはなかったんだが……石田と相原さんが急かしてくるので、そろそろ入るとしよう。

 大きな自動ドアをくぐり、みんなでサッポロファクトリーへと足を踏み入れるのだった。

 そしてーーー







ーーー今俺は、女性服店前のベンチに1人腰掛けている。


「なぜこんな状況に……」


 ま、理由は簡単だ。色々なお店を回る中で次々とメンバーが消えていったのである。

 ソージはジャケット屋の前でいなくなり、石田は本屋の前で消えた。そして、滝川と相原さんはアウトドアの話題で意気投合し、アウトドアショップへと向かって行ったのだ。


 そのため俺は、委員長、雫さん、アカリさんの3人と行動を共にする事になったのである。

 年頃の女子が3人集まれば、ファッションの話になるのは必然。


『結城くん、ごめんね。少しだけ服見てきてもいい?』


 という言葉をアカリさんが残し、今の状況へと至るわけである。


「暇だ……」


 少しだけと言いつつ、かれこれ20分は経つ。

 3人が入って行った服屋には際どい下着も置いてあるため、俺は入りづらい。

 暇だ……。


「あ、そうだ」


 委員長達には悪いと思いつつも、神様に強化してもらった聴覚を『強化』でさらに強化し、店内の会話を少しだけ聞いてみる。

 こっちは待たされているのだ、これくらいしても罰は当たらない筈だ。たぶん。


「お姉ちゃん、恥ずかしいよぉ……」

「何言ってんの、その服超似合って……って!雫、また胸大きくなってない!?」

「ほんとだ!雫さん大きいね」

「うぅっ……」


 雫さんとアカリさんと委員長の楽しげな会話が聞こえてくる。

 委員長と月野姉妹の絡みは今回が初めてらしいが、だいぶ馴染んでるな。そして、なかなかに興味深い内容だ……悪いとは思いつつも、もう少しだけ聞かせていただこう。


「雫、あんた胸のサイズいくつなの?前はEカップのブラ付けてたわよね?」

「う、うん。今も同じブラだから、サイズは変わってないよ」

「嘘つけ!胸の膨らみが不自然なのよ!胸潰しながらブラ付けてるでしょ!」

「うぅっ……」

「そ、そしたら、雫さんFカップもあるの!?凄い、私なんて毎晩マッサージ頑張ってるのに、Cカップ……」

潤叶(うるか)ちゃん、Cもあれば十分よ。私なんて、マッサージも食事も睡眠もちゃんと調べて実践してるのに……Aなのよ。雫、あんたが私の栄養横取りしてるんじゃないの!?」

「お、お姉ちゃん、そんなに強く揉まないでっ」


 ……とんでもない話を聞いてしまった。

 アカリさんがAカップ、委員長はCカップ、そしてーーー


「ーーー雫さんは、Fカップ……!?」


 お姫様抱っこした時も大きめだとは思ったが、まさかそれほどとは……。

 巨乳好きとかではないが、そこまで大きいとさすがに気になってしまう。女性は視線に敏感と聞くので気をつけなければっ。

 とりあえずーーー


「神様、感謝します」


ーーー校内で彼女にしたいランキング上位3人のカップ数を知れた偶然に 、感謝を捧げた。

 そして『強化』を解除する。これ以上聞くのはさすがに悪い。


「さてと、もう少し大人しく待つ……」

「神の存在を、信じるか?」

「!!?」


 突然、隣の席に現れた男性に話しかけられた。


「神の存在を、信じるか?」

「えっ、神様の存在……ですか?」


 怖っ!というか、いつの間に!?全く気がつかなかった。

 男は黒いパーカーに灰色のジーンズを履いており、俺の上下と真逆の色合いだ。つば付きのニット帽を深く被っているため、顔は分からない。


「神の存在を、信じるか?」


 な、何この人?勧誘?めちゃくちゃ怖いんですけど!


「神の存在を、信じるか?」

「いや、そりゃ、信じてますけど……」


 あまりにもしつこいので、思わず答えてしまった。

 まぁ、本当に信じてますよ。実際に会ったし。


「そうか。これが例のブツだ」


 男はそう呟きながら、何かが入った紙袋を俺の横に置いた。そして、静かに立ち去っていく。


「ちょっ!」


 慌てて追いかけようとしたが、もう姿がない。


「なんだったんだ、今の……?」


 いきなり現れたりいきなり消えたり、あまりにも不思議だ。

 もしかすると『陰陽術』や『異能』による現象だったのかも知れない。そうだとしても、咄嗟だったので習得できなかった。

 勿体無い事をしたな。


「にしても、なんなんだコレ?」


 置かれた紙袋の中を覗くと、水筒のようなものが入っている。


「爆弾とかだったら……怖いな」


 なんにしても、何もせずここに置いておくのはまずいだろう。


「結城くん、待たせてごめんねー。お詫びに雫の胸のサイズ教えて……」

「お、お姉ちゃん!」

「アカリさん、ちゃんと謝らなきゃダメだよ。結城くん、待たせてほんとにごめんね」


 そんな事を考えていると、アカリさんと雫さん、委員長の3人がお店から出てきた。

 水筒のようなものを慌てて紙袋へしまい、3人を迎える。


「あれ?結城くんも買い物してたの?」

「え、うん。ちょっとね」


 委員長に聞かれ、咄嗟に嘘をついてしまった。仕方ない、持って帰るとしよう。

 危険な物かもしれないから、届けるつもりはなかったしな。


「『三重結界』」


 紙袋の中に小さな『結界』を張り、水筒のようなものをガチガチに囲っておく。

 万が一危険な物だとしても、これでなんとかなるはずだ。


「……」

「潤叶ちゃん、どうかしたの?」

「……ううん、なんでもない。気のせいかな」


 前を歩く委員長が怪訝な表情をしながら振り向いてきた。アカリさんの言葉に『気のせい』と返答していたので、『結界』を張ったことには気づいてはいないはずだ。そう思いたい。

 今後、『陰陽術』を使うタイミングは気をつけよう。


「お、幸助ここに居たのか……って!なにハーレム作ってんだよ!」

「結城さん、ここでしたか!」


 そんな中、滝川とソージを先頭に散り散りになっていたみんなが集まってきた。

 先ほどの男と水筒らしき物体は気になるが、今はみんなとの買い物を楽しむ事にしよう。


 サッポロファクトリーの裏にある有名店のソフトクリームを食べながら、その日は楽しく終わっていった。

 


 待っていてくださった方々、お待たせして本当に申し訳ございませんでした。

 これより、第三章「魔術編」スタートです!

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