35話「シロの妹」
異能組織『ディヴァイン』本部の司令室では、組織の総責任者であるメナスと、各部門の長を務めるフレア、フォンの3名が会議を行っていた。
「メナス様、ブレイブシリーズの整備が完了しました。『結合』の捕獲は私が……」
「フォンよ、もうよい。結城幸助を含め、『結合』『付与』『寒熱』への接触は禁止とする」
「なっ!」
メナスの言葉に、フォンは驚愕する。
『付与』と『寒熱』は諦めるとしても、『結合』の異能者は組織の目的を達成する上で必要不可欠な存在であるためだ。
「な、なぜですか?長年かけて集めた『神力』を『結合』の異能によって我々に融合させれば、神へと至る事ができるのですぞ!?」
あと一歩のところまで迫った『神へと到る道』。それを目前にして諦めきれないフォンは、メナスの決定に異を唱える。
「フォン、メナス様に失礼よ。控えなさい」
「だ、だが」
「フォン!」
「……メナス様、申し訳ありませんでした」
そんなフォンを、フレアが諌めた。
「よい、お主の意見はもっともだ。だが、今回の一件で結城幸助と彼の家の住人達がいかに危険な存在であるかがわかった。故に、これ以上関わるのは得策ではない」
「しかし……」
歯切れの悪い返事をするフォンを納得させるため、メナスは説明を続ける。
「フォンよ、結城幸助の存在を確認するきっかけとなった事件を覚えているか?」
「ディエスが凶悪犯として勾留され、結城幸助がディエスを捕らえたスーパー高校生としてメディアに取り上げられた件ですね。忘れるはずがありません」
事件に関わった警官や記者の証言から、記憶を操作する異能や術による大規模改竄が行われた事件として、組織内では有名な一件となっていた。
「うむ。それでの、その際に関わった記者と警官数名を監視していたのだが、彼らは『事象の書き換え』を受けている可能性が高いという結果となった」
「そ、それは本当ですか!?」
メナスの言葉に、フォンは驚愕する。
「本当だ。彼らを観察したが、改竄された記憶が戻る気配はなかった。つまり、世界の修正力による影響を受けていないという事になる」
「そんな……それが本当だとすればーーー」
「ーーーうむ。記憶を改竄できる『神の異能』もしくは、『神術』を使える者が結城幸助の身近にいるという事になる」
メナスの説明を聞いていたフォンは、信じられないといった表情を浮かべながら言葉を続ける。
「つまり、彼らの背後には神の域へと至った『記憶改竄』の異能者か術者がいるという事ですか?」
「うむ、そういう事だ」
メナスの説明を理解したフォンは、驚きのあまり言葉を失った。
それが事実だとすれば、組織が長い年月と多くの労力をかけても未だ成し得ていない『神へと到る』という目的を、既に達成した者がいるという事になるのである。
「まだ確定ではない。様々な異能と術を組み合わせ、『事象の書き換え』に近い現象を再現しているだけの可能性もある」
「仮にそうだとしても、それほどの戦力を有しているという意味で、結城幸助とその周辺への干渉は危険ね」
メナスの説明を、フレアが補足した。
「それだけではない。道内の各機関に潜入させていた工作員が、このタイミングで次々と逮捕されている。これ以上作戦を続行すること自体も難しいのだ」
「そ、そうだったのですか?」
「うむ。おそらくだが、情報操作に長けた使い手もいるのだろうな」
「物理戦闘だけでなく、情報戦に対応できる存在まで……」
ここまでの説明を聞き、フォンはどれほどの存在を相手にしていたのかを認識したのだった。
「フォン、メナス様のお考えがわかったかしら?」
「わかりました。そこまで考えが至らず、申し訳ありません」
納得した様子を示すフォンを見て、メナスとフレアは頷く。
「それでは、結城幸助とその周囲への干渉は今後禁止とする。それで良いな?」
「「はっ!」」
メナスの決定に、フォンとフレアは賛同した。
「さてと、私達も業務に戻りましょうか」
メナスが退室した後の会議室では、フレアが立ち上がりながら口を開いた。
「……」
「フォン、どうかしたの?」
返事のないフォンの様子に、フレアは怪訝な表情を浮かべながら声をかける。
「いや、なんでもない。業務に戻るとしよう」
「……そうね」
フレアは不思議に思いながらも、特に追求する事なく部屋を後にした。
「神に……私は、神に」
この時、フォンが抱いていた野心に気づいた者は、誰もいなかった。
◇
「おーい、リンゴジュース飲むか?」
「カー!」
シロが元気な返事を返してきた。
異能組織をボコったおかげで、自信を取り戻せたのかな。よかったよかった。
「はい、クロは青汁な」
「ぬおっ!何故だ!?」
何故だ!?って、罰だよ罰。
助ける時に安心させるためとはいえ、俺の正体バラした罰だ。
『困っているところを偶然助けただけだから!』と、嘘ではないけど詳細は話さないスタイルの言い訳で取り繕うのが、どれほど大変だったか……。
「青汁……」
ま、異能組織へ殴り込んだこと自体は俺のためにしてくれた事だから、感謝はしている。
「む?意外といけるな。うまい」
なので、リンゴやバナナでちゃんと味を調節している。ドロドロ感と色はえげつないが、味は良いはずだ。
「おっと、そういえば忘れていた。先ほど、手紙が届いておったぞ」
青汁で口元を汚しながら、クロが封筒を差し出してきた。なんだろう、ネットの請求か?
「普通の手紙みたいだな。『こんにちは、ユイでーす!たすけてくれたおれいにこれつくりました、おくりまーす!』か」
ユイって、どこかで聞いたことある気がするな。まぁいいか。
それにしても、酷い字だ。下手なうえにひらがなばかりで読みづらい。
「ん?他にも何か入ってる」
取り出してみると、『結城リン』という人物の戸籍謄本と住民票のコピーだった。
「ゆうきリン?」
これってもしかして、リンの戸籍と住民票か!?
しかも実親が俺の両親になってる。生年月日的に、俺の妹って事になってるじゃねぇか!
「な、何だこれ」
委員長のお父さんなら権力に物言わせてできそうだが、俺の正体は知らないはずだ。となると、別の誰かの仕業である可能性が高い。
「一体誰が……」
「ふむ。それは、あの3人の恩人とやらが送ってきたものかもしれんな」
「あの3人って、雫さん達か?」
「そうだ。彼らの恩人はなんでもできるらしい。今は遠くにいると言っていたが、その者ならば戸籍とやらを作ることも可能なのではないか?」
「確かに、異能とか使えば可能なのかもな」
何らかの異能を使って、俺がリンの戸籍と住民票をどうにかしなければと思っていた事を知って、それらを改竄して作り出したということか。
『たすけてくれたおれい』というのは、雫さん達を助けた事に対してなら納得がいく。
「便利な力があるんだな」
「お主ほどでは無いと思うがな」
確かに。
「にしても、リンが妹か。シロの後に生まれたんだから、むしろシロの妹な気がするけどな」
「カー」
そう呟くと、シロが静かにひと鳴きした。
「となると、お主はシロとリンとニアの親に当たるわけだな」
「それ、なんかややこしいな」
だが、言われてみればその通りだ。
まだ高1なのだが、いつの間にか親になっていた。
「とりあえず、これは貰っておくとするか」
電話台となっている棚の大切な書類用引き出しへ、リンの戸籍謄本と住民票を仕舞う。
「それを送ってきた者について、もう少し考えなくてもよいのか?」
「いいよ。今考えても多分わからないだろうし」
手紙の字が下手だったのは、筆跡を隠すためにわざとそう書いた可能性が高い。だとすれば、相手はこちらに素性を知られたくないのだろう。
この予想が正しければ、ユイという名前も本当かどうかわからない。
「そもそも、特定したからといってどうこうするつもりもないしな。むしろリンの戸籍を作ってくれた事は素直にありがたい」
親への説明は大変だけどな……。
「っていうか、どうしても気になったら雫さん達に聞けばいいしな」
「確かにそうだな」
クロも納得してくれたようだ。
「それよりも、俺には考えるべき事がある」
「考えるべき事?」
クロだけでなく、話を聞いていたシロ達も首を傾げている。
仕方ないな、教えてあげるとしよう。
「それは、『宿泊レクリエーション』用のお買い物へ着ていく服だ!」
「「「「……」」」」
みんなが『そんな事か……』といった目を向けてくる。
とりあえず、次の土曜のお買い物へ向けて、俺は静かに服選びをするのだった。
◇
シロは考える。
『シロの後に生まれたんだから、むしろシロの妹な気がするけどな』
幸助が何気なく発したその一言が、妙に胸に残っているためだ。
「カー……」
何かを忘れているような奇妙な感覚に襲われながら、シロは首を傾げる。
いくら考えても思い出せないが、誰かを探していたような、そんな焦燥感だけが込み上げてくるのだ。
「ただいまー」
そんな時、買い物から帰宅した幸助の声が家の中に響きわたる。
「カー!」
その声を聞いた瞬間、シロの焦燥感は消え、元気に主人の帰宅を迎えるのだった。
謎を残すような終わり方で申し訳ないですが、これにて第二章『異能編』は終了です!
幕間1話と二章のキャラクター紹介を挟みつつ、三章へと入る予定です。
それと、投稿頻度がまた下がってしまいそうです。本当に申し訳有りません。
また、感想への返信もできておらず、重ね重ね申し訳ないです。
それでも感想欄は全て見させていただいているので、感想やご指摘等あれば遠慮なく書いていただけると嬉しいです。
現実とうまく両立できるよう頑張りますので、今後とも本作をよろしくお願いします。