34話「リアリストめ」
『昨夜、札幌市中央区のビルが倒壊するという事故が……』
「チャンネル変えよう」
「うむ、そうだな」
クロとシロとリンが帰ってきてから一夜明け、今はみんなで朝食中だ。
オムレツにご飯と味噌汁そしてサラダ、いつもの朝の風景である。
「……もう一度確認したいんだけど、昨日の話は本当なんだな?」
「む?昨日の話?」
「クロ達が異能組織にお灸を据えてきた事とか、雫さん達が異能者だった事とか……」
「うむ、本当だ」
うむ、本当なのか。
昨日、日が暮れてからクロ達が帰ってきたので、何をしていたのか聞いたところ……俺にちょっかいをかけてきた異能組織の連中をボコってきたらしい。
さらに、組織の根城となっていたビルも倒壊させてきたらしいのだ。
「そして、アカリさんとツンツン不良を救い出したと」
「うむ。雫とかいう娘は、ちゃんと2人のもとへ届けておいたぞ」
雫さんはまだ眠っていたが、無事にアカリさん達のもとまで運んでくれたようだ。よかったよかった。
「そういえば、アカリさんやツンツン不良に俺の正体はバレていないよな?」
「う、うむ……大丈夫だ」
なんか歯切れが悪い気がするけど……まぁいいか。
「ところで、俺ってなんで襲われてたんだ?異能組織とやらから恨みを買った記憶なんてないんだが……」
「戦いが終わった後に聞いたが、彼ら3人を捕まえようとした際に、お主がそれを邪魔してきたから。と言っていたな」
クロから聞いた話だと、雫さん達は珍しい異能を持っているらしく、それが理由で狙われていたらしい。
だが、捕まえるのを邪魔した記憶は……全くない。結局、勘違いか何かだったのだろう。
それでも、雫さん達を助けられたのは幸いだった。
「『次に何かしてきたら、この程度では済まさんぞ!』と言っておいた。またお主や彼らにちょっかいをかけてくる可能性は、低いはずだ」
「な、なるほど……」
ビルの倒壊で、この程度ね……。俺だったらもう関わりたくないわ。
「思いっきり巻き込まれたのに知らぬ間に解決してたってのは釈然としないけど……もう襲ってこないなら、とりあえずよかったかな」
クロとの雑談を終えると同時に、学校の支度も終えた。
「んじゃ、いってきます」
「イッテキマス」
「うむ、気をつけていってくるのだ」
「カー」
「いってらー」
帰宅途中で異能者に襲われないよう祈りつつ、今日も元気に登校するのだった。
◇
とある寺院の一室では、部下の報告を聞く水上龍海の姿があった。
「各機関に潜入していた工作員の捕獲が、先ほど完了しました」
「お疲れ様、さがっていいよ」
「はっ!」
部下が退室したのを確認し、龍海は気の抜けた声を漏らしながら椅子の背もたれに体重を預ける。
「ふぅ〜。それにしても、驚いたなぁ……」
昨晩、クロとシロとリンが仮設支部へ襲撃を仕掛けた日の夜。
龍海のもとへ一通のメールが届いたのである。
『コレ、危ナイ人達ノ情報デス。捕マエテクダサイ』
そう書かれたメールの中には、道内の各機関に潜入している工作員の詳細情報が添付されていた。
龍海は慌ててその真偽を確認すると、そこに書かれた全ての人員に経歴を改竄した跡が見つかり、道内へ潜入していた異能組織のメンバーであるという事実が発覚したのである。
そこからは、信頼できる警察職員や術師たちの力を借り、徹夜での作戦の末に見事、工作員全員の捕獲を行う事が出来たのであった。
「また、結城くんに借りができてしまったなぁ」
工作員の捕獲と同時にメールの送り主について調べた結果、幸助のスマートフォンから送られていたことがわかったのである。
そのため、龍海は今回の情報提供者が幸助であると考えていた。
実際は、クロ達が異能組織へ乗り込んだ後に自分も何か出来ないかと動いたニアの仕業なのだが、龍海はそれを知らない。
「今度、水上家の秘術でも教えてあげようかな」
そんな事を本気で考えながら、龍海は今回の事件に関する報告書をまとめるのだった。
◇
「石田、滝川、おはよう」
「おはよう」
「おはよう幸助!朝のニュース見たか!?」
「朝のニュース?」
学校へ行くと、滝川のテンションが妙に高かった。ニュース?なんかあったっけか?
「中央区に立ってたビルが、突然倒壊したんだってさ!瓦礫を調べてみると、ビルが両断されたような跡が見つかったらしいんだ!ビルがだぞ!?」
「へ、へぇ〜。そうなんだ……」
そのニュースね。知ってる知ってる、誰よりも知ってる。
「なんだよ。幸助は興味なさそうだな」
「いや、めちゃくちゃあるよ」
だってそれ、うちの子達が原因ですもん。
「倒壊する時、瓦礫がたまたま平らな断面になっただけだろ。確率は低いだろうが、偶然で起こらないこともない」
石田が冷静な意見を言った。
確かに、偶然で起こらないこともないだろう。
実際は、うちの子が斬ったんですけどね。
「ちぇっ、リアリストめ。もっと夢がないと女にモテないぞっ。いでででで!」
滝川が指をビシッと突き出し、石田がその指を逆方向へ曲げた。
朝から何をやっているんだか……。
「結城さん、いるか?」
そんな中、教室の入り口から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。誰だ?
「あっ、結城さん!」
ツ、ツンツン不良!何故ここに!?っていうか、結城さん?
「いきなり教室に押しかけて、すんません。それと、昨晩はありがとうございました!」
「えっ」
昨晩って……異能組織から救い出した件か?
「それだけが言いたかったんす。それじゃっ」
「あっ、ちょっ」
俺が止める前に、ツンツン不良はそそくさと教室から出ていった。
「葛西くんが頭下げてるの、初めて見た……」
「結城って、マジですげえ奴だったんだな……」
今の光景に、クラスのみんながざわついている。
うわぁ。これは、取り繕うのが大変だぁ。というかーーー
「クロ……」
ーーー俺の正体、絶対バラしてるじゃねぇか!