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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第二章「異能編」
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32話「暇つぶしに『身代わり札』」




「『擬似・水療波』」


 ギブスに包まれたソージの腕と足が、光の波に包まれる。


「よし、これで骨折は治ったはずだ」

「えっ……ほ、本当だ!本当に治ってます!」


 少し歩きづらそうにしながらも、ソージはギブスをつけたままの足で立ち上がる。

 そして、折れていた右腕を何度か振り、腕の状態を確かめた。


「では、その少女を抱えて儂の背中へ乗るのだ。外まで運ぼう」

「は、はい!すぐに……なっ!」

「……どうやら、このまま帰してはくれないようだな」


 クロが部屋の入り口を見ると、2人の男女が入ってきた。


「私の名はチエ、こちらはセフェクよ。あなたは一体、何者なの?」」

「ふむ。儂の名はクロ、この者達を助けにきた者だ。おとなしくそこを空けてくれるとありがたいのだが」

「それは無理ね。こちらにもメンツがあるの。ただで帰すわけにはいかないわ」

「そうか……」


 戦闘態勢をとるクロへ、ソージが話しかける。


「クロさん、あの2人はランクAと言われるとんでもない異能者です。女のほうが『感知』、男のほうがっ……」

「それ以上は、話させませんよ」


 セフェクの発動した『捕縛』により、ソージは動きを止められた。


「なるほど、その異能でビルの倒壊を止めたのだな。儂に使ったときは、本気ではなかったということか」

「あなたに、使った……?」

「む?気づいていなかったのか。これが前に会った時の姿だ」


 クロはそう言いながら、黒猫の姿へと変わる。


「その姿は!なるほど、あなたがセフェク達を倒した黒猫だったのね」

「その通りだ」


 チエの言葉に、クロは頷く。


「あの時は捕らえきれませんでしたが、今度こそ!『捕縛』!」


 黒猫の姿となったクロを見た瞬間、セフェクが『捕縛』を発動した。今出せる全力を注いだ捕縛である。

 しかし、身動きを封じられたクロの表情には、一切の焦りはない。


「ビルの倒壊を止めながらこれほどの異能を使えるとは、相当な手練れのようだな」

「買い被りすぎですよ。ビルを止める労力を抜きにしても、あなたを止める事は出来そうにありませんからね」


 平常心を装いながらセフェクは返答したが、内心ではクロの異常性に驚愕していた。

 呼吸だけでなく、心臓の動きすらも止めるよう『捕縛』を発動しているのだが……クロには効いている気配が無いためである。


「ふむ、それならば大人しく帰してはくれないか?人質の救出さえできれば、こちらとしては問題ないのだ。力は充分示せたしな」


 ズレてしまった天井を見ながら、クロは呟く。


「確かに、あなた達の力は強大だわ。今まで組織が見つけられなかったことが不思議なほどにね。でも、だからこそ、このまま何の成果もなく帰すわけにはいかないのよ!」


 チエはクロの警告を無視し、拳銃を取り出す。狙いは、クロの背後で動きを止められているソージだ。


「させるわけがなかろう。『擬似・防御結界』」


 放たれた弾丸は、見えない壁によって防がれる。


「それは陰陽術なのかしら?それとも、妖術?まぁ、どちらでも構わないけど、ね!」


 銃弾を防がれたことなど気にもとめず、チエは銃を乱射する。


「無駄だ。その程度の武器で、この結界を貫くことなど……!?」


 瞬間、クロは驚愕した。背後から迫った一発の銃弾が、クロの頬を掠めたのである。


「無駄、ではなかったみたいね」

「ふむ……それがお主の異能の力なのか?」

「そうよ。私の『感知』は、あなたの発する生命力も正確に感じ取ることができるの。その生命力によって作られている結界の弱点も、簡単に見抜くことができるわ」


 クロの使用した『擬似・防御結界』は、攻撃が集中する箇所の強度が上がるよう調整されている。だが、攻撃が集中していない箇所の強度は落ちるという大きな弱点があった。

 チエは結界の前面に銃撃を集中すると同時に一発だけ室内の壁を跳弾させる事で、結界の背面に存在する一番脆い点を撃ち抜いたのである。


「同じ原理で、あなた達の使う術も発動前に予測する事ができるわ。ただでやられるつもりはないわよ」

「ふむ……」


 結界を破られた事実よりも、クロはチエの一連の言動について考える。

 そして、「ただでやられるつもりはない」という言葉から、感じていた違和感が確信へと変わった。


「お主、儂に勝つ気がないな?」

「な、何を……」

「『捕縛』の異能は儂に効力が薄く、お主の『感知』も決定打にはなり得ない力だ。協力すれば儂を止める事はできるかもしれないが、倒すことはできない。今の跳弾も、結界を少し強めに張れば済む話だしな」


 クロが張った防御結界は、全力ではない。本気を出せば、ミサイルの直撃ですら傷がつかないほどの結界を張ることも可能なのである。


「だが、お主はそれを理解したうえで挑んできている節がある。それは何故だ?」

「……」


 策が看破されかけている事実に、チエは押し黙る。


「おそらくだが、下の階で待機している仲間も関係しているのではないか?そして、お主の胸ポケットに入っているその機械にも、意味がありそうだな」

「!!!」


 待機している仲間の存在を既に見破っていた事実と、それを踏まえたクロの鋭い予測に、チエは驚愕し目を見開く。

 そして、閉ざしていた口を開いた。


「……そうね。もう気づいてそうだから、正直に話すわ。私達は、あなたに勝てると思っていない。実際、戦えば確実に負けるでしょうね」

「そうだな。セフェクとやらがビルを支えていなくとも、儂には負ける要素が見当たらん」


 事実、クロは『捕縛』を無効にする手立てをいくつも所有しているのだ。


「でも、あなたの能力さえわかれば対処のしようがあるわ。下の階にいる部下には、私と同じ『感知』の異能を持つものがいる。そして、胸ポケットの機械は戦闘を記録するための小型カメラよ」


 チエの胸ポケットに装着されているカメラ映像は、本部のPCと繋がっている。そして、待機している『感知』の異能者は、最大で数百メートル以内の情報を感じ取る事ができるため、この戦闘を観察する事が可能なのだ。

 これらの備えによって本部にクロの情報を知らせる事こそが、彼女の最大の目的だったのである。


「なるほど。勝てない相手に挑む愚者かと思ったが、未来へ可能性を託す英雄だったようだな。考えを改めるとしよう」

「改めて貰わなくてもいいわよ。全力で戦ってくれるならね!」


 会話はここまでというように、チエは銃撃を再開する。

 しかし、先ほどよりも強めに張り直された結界は、弱点への着弾でも傷一つつかない。


「儂にも意地があるのでな。見られていると分かっていて、普通に戦うのは癪なのだ」


 クロの言葉を聞きつつも、チエは装填する銃弾の種類を変えながら銃撃を続ける。


「敬意を払い、本気は出そう。だが、それを見て儂の能力を理解できるかはわからんがな」

「!?」


 クロの言葉と同時に、引き金を引くチエの指が、止められる。


「な、なんで!?指がっ!」


 そして彼らは、神と崇められるにまで到った『化け猫』の実力を知る事となるのだった。









「何故なのである。何故お前も、飛ぶ斬撃を放てるのである!?」


 あっという間に解体された5体の機械人形を目にし、トイは叫ぶ。

 残りの機械人形は3体。対して、シロは無傷。この時点で既に、勝敗は決していた。


「カーカカーカ!」

「……言葉がわからないのである」


 「お前に勝ち目はない、大人しく降伏しろ!」というシロの決め台詞は、トイに届くことはなかった。


「だが、このまま終わるわけにはいかないのである。せめて1人だけでも、道連れにさせてもらうのである!」

「!」

 

 トイの覚悟を感じ取り、シロは咄嗟に距離をとる。しかし、何も起こらない。


「やー!地面ドロドロ〜」

「カ!?」


 シロが慌てて振り向くと、既に腰までが地面に沈んでいるリンの姿が目に映った。

 道連れにするために狙われた対象は、リンだったのである。


「もう、地面に潜るの大変なんだからね〜」


 その言葉とともに、リンの背後の地面から機械人形に乗ったメルトが現れ、鉄拳を放った。


「カ!」


 メルトの存在を忘れていた事を悔やみながら、シロはリンのもとへと向かう。だが、シロの速度をもってしても、至近距離で放たれた鉄拳には間に合わない。


「……むー、クロとシロに、勝手に斬っちゃダメって言われてるのー」

 

 そんな状況の中、マイペースに独り言を呟くリンは、鞘に納めたままの短刀を頭上へ構える。そしてーーー


「だから、斬らないのーーー!」

「えっ、ぐへっ!」


ーーー勢いよく短刀を振り下ろしたのである。


「しょ、衝撃波!?なぜあの幼女も、カラスと同じ衝撃波を放てるのである!?」


 リンの振り下ろしによって発生した衝撃波は、メルトと機械人形を溶けた地面ごと吹き飛ばした。

 結界に叩きつけられたメルトは気絶し、至近距離で衝撃波の直撃を受けた機械人形は四肢がバラバラとなっている。

 その光景を目撃したトイは、開いた口が塞がらないほどの驚愕を示した。


「カーカ」


 そんなトイのもとへ、シロが静かに降り立つ。そして、「もう勝敗は決した、降伏しろ」というように、鳴き声を発した。


「くっ、もはやここまでなのであるな……」


 今回は言葉の意味を理解できたトイは、残っていた機械人形を車の状態に戻し、両手を挙げて降伏のポーズをとった。


「トイさんとメルトさんが、負けた!?」

「ランクAに近いあの2人を倒せたってことは、あの幼女とカラスは、ランクAの異能者ってことかよ!」

「む、無理だ。俺も降伏する」

「わ、私も!」


 その光景を目撃していた戦闘員達は次々と武器を捨て、トイと同じく両手を挙げる。


「カー!」

「勝ったー!」


 そして、1人と1匹の勝利の叫びが結界内にこだまするのだった。



「……カ!?」


 しかし、シロはビルの上層階に起きた異変にすぐさま気づく。


「おおー!すごーい、おおきー!」


 シロだけでなく、その異変にはリンも気が付いた。


「えっ……」

「変形……してる?」

「な、なんなのである?……あれは、何なのである!?」


 戦闘員とトイも次々と気付いていき、その光景に目を奪われる。

 

 彼らが見つめる視線の先には、巨大ロボットに変形しつつあるビル上層階の姿があった。





 






「まだ帰ってこないのか……」


 クロとシロが出かけてから1時間が経とうとしている。

 さすがに、リンの行方が心配になってきた。

 

「あ!ニアに探してもらえばいいじゃん!」


 監視カメラのハッキングはダメだと言ったが、今回はやむを得ない。ニアに頼んで探してもらうとしよう。


「ニア、ちょっと頼みが……ニア?」

「……」


 返事がない、ただのスマホのようだ。


「またネットサーフィンかな?」


 ここ2日で知ったのだが、ニアは集中していると普通のスマホのようになってしまうのである。


「こうなると、ひと段落するまで周りの声が聞こえないんだよなぁ……」


 これではリン探しを頼めない。とりあえず、ニアのネットサーフィンがいち段落するのを待つしかないか……。


 眠っている雫さんを見守りつつ、暇つぶしに『身代わり札』を作りながら待つ事にした。





 少しだけ解説します。


 シロとリンが『飛ぶ斬撃』と『衝撃波』を使えるのは、名付けによる効果です。

 名付けによって2体の繋がりが深くなったため、それぞれの能力の一部が共有された状態になっています。

 20話で名付けと同時にリンが声を出せるようになったのも、これを示唆していたりします。そして、リンが人を避けてビルを斬れたのも、シロの超音波探知に近いものが使えたためです。


 本編で説明が入れられず、申し訳ありませんでした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 陰陽師の時もそうだったが、こいつら自分の能力説明しないとダメな制約でもあるのか?何故自分から情報アドバンテージを捨てるんだ。 主人公はちゃんと能力の秘匿に気を使うというのに
[一言] ニアがネットサーフィン中は、スマホが使えないの?何て、不便な!
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