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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第二章「異能編」
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27話「奥の手」




 市内のとある路地には、1人走る雫の姿があった。


『雫、あなたが捕まったら世界が終わるかもしれない。だから、あなただけでも逃げなさい!』

『安心しろ、後でアカリと一緒に追いかける。心配すんな』


 雫は、自分を逃がすために残った2人の言葉を思い返し、走りながら涙を拭う。


「お姉ちゃん、ソージくんっ……」


 自分が捕まれば、世界が組織の手に落ちるかもしれないという重責。アカリとソージと過ごす何気無い日常を、また送りたいという希望。

 様々な思いを抱えながら、雫は助けを求めて必死に走る。

 

「警察は……組織の手が及んでるかもしれないっ。スマホは壊されたから、ユイさんとも連絡が取れないっ。どうしよう、どうすればっ」


 しかし、そんな彼女の思いを阻むように、大男が眼前に立ちはだかる。


「いやはや、驚いたっすよ。君にまで『付与』がかかってたんすね。逃げられた時はヒヤヒヤしましたよ」

「!?」


 目の前に現れたディエスの存在に、雫の表情は絶望の色に染まる。

 ディエスが追ってこれたということは、自分を逃がすために残ったアカリとソージが捕らえられたことを意味していたためだ。


「あ、もしかして、あの2人を心配してますか?大丈夫、生きてますよ。ソージくんの方はちょっと怪我してますけど、お姉さんの方は無傷っす。『付与』使いすぎて気絶しちゃってますけどね」


 2人の生存に安堵すると同時に、雫は別方向へ逃げようと足を踏み出す。


「おっと、大人しくしてほしいっす。『結合』の異能を持つあなたが、一番重要なんで」

「くっ!」


 だが、一瞬にして雫は組み伏せられた。ディエスとの距離は10メートル以上開いていたにも関わらずだ。

 ランクAの異能による規格外の現象に、雫は再度驚愕する。


「だ、誰か、助け……」

「おっと」


 ディエスは雫の首裏を小突き、気絶させる。


「ふぅ、危なかったっす。まだ工作員の配置が完了してないんで、誰かに聞かれたらやばかったっすわ」


 無情にも、雫が発した助けは誰にも届く事はなかったーーー


「さてと、帰るとしま……」

「あの、何してんすか?」


ーーーただ一人を除いては。











 ニアの案内のもと、雫さんを見つけたのだが……。


「なんだこの状況?」


 見つかった雫さんは大男に組み伏せられ、助けを求めていたのだ。

 俺の姿を見た瞬間に大男が距離をとったため、雫さんは今、俺の腕の中にいる。


「気絶してるが、無事みたいだな」

「バイタル正常、外傷モ見当タリマセン。無事デス」


 えっ、バイタルチェック機能あるの?ニア凄いな。

 おっと、今は目の前の大男に集中だ。


「さてと。お前、何者だ?どうして雫さんを捕まえようとしたんだ?」


 大男を睨みながら疑問をぶつける。


「ふっ、そんな演技はいらないっすよ。事情なんて、こちらが説明しなくても理解してるんじゃないですか?」


 え、理解してませんけど?だから聞いたんだが……ドヤ顔でなに的外れなこと言ってんだこいつ?


「それにしても、ここであなたと会えるとは思わなかったっすわ」


 え、どこかで会ったっけか?

 こんな大男の知り合いは居なかったはずだが……。


「チエさんからは関わるなって言われてるんすけど、この状況じゃ仕方ないですもんね」


 不敵な笑みを浮かべながら、大男が拳を構えた。なるほど、こちらの事情は関係ないわけね。

 雫さんを気絶させたのは許せないし、そちらがやる気なら受けて立つとしよう。


「ニア、雫さんを見守ってやってくれ」

「了解シマシタ」


 雫さんを道の隅へ寝かせ、その横へ鞄とニアを置く。

 そして、俺も拳を構える。

 

「いくっすよ!」


 素早い足運びとともに、いきなり眼と喉を突かれた。痛ってえ!問答無用かよ!


「陰陽術を使う暇は与えないっす。前みたいに、気が付いたら留置所なんて嫌っすからね」


 気が付いたら留置所?何言ってんだこいつ?

 訳のわからないことを言いながらも、的確に膝や鳩尾を突いてくる。

 最初の構えからボクシングかと思ったが、違った。ジークンドーか!


「タフというより、ダメージが無効化されてるみたいっすね。それも陰陽術ってやつなんですか?」

「企業秘密だ!」


 この前のシルクハットと違って、こいつは『陰陽術』を知ってるみたいだな。まぁいいか。

 先ほどから死んでもおかしくないほど急所を突かれているが、『身代わり札』のおかげで無傷だ。

 しかし、枚数には限界がある。やられっぱなしではいずれ負ける。


「こちらも反撃させ……ゴハッ」

「だから、反撃の暇は与えないっすよ」


 首を掴まれ、アスファルトに叩きつけられた。背後には、重機ロボの鉄拳と同じくらいのクレーターが出来上がっている。

 なんだこの馬鹿力!?化け物かよ!


「まさか……異能か!?」


 観察すると、こいつも異能者だった!

 『強化』。自身の身体能力と触れている物体の性質を強化できる異能か。


「あれ?今気づいたんすか?最初っから知ってると思ってたんすけど……ま、いいっすか」


 大男はそう呟くと、首を掴んだまま俺を地面に押し付け、反対の腕で拳を放ってきた。

 

「おらぁ!」


 だが、黙ってやられるつもりはない!首を掴む大男の腕を掴み返し、巴投げの要領で大男を蹴り飛ばす。


「結構力持ちっすね、そういう術があるんすか?」

「教えるわけねーだろ!」


 『異能』も『陰陽術』も使えることは、秘密にしろとクロに言われているからな。

 それ以前に、いきなり襲ってくるような不届き者に教える義理など、ない!


「攻撃の無効化に怪力ですか。報告では、空飛んだり斬撃飛ばしたりもできるって聞きましたし、厄介っすね」


 困ったようなセリフを吐きながらも、大男の笑みは深まっていく。なにこいつ、バトルジャンキーか?

 というか、『飛ぶ斬撃』や『散炎弾』も知ってるってことは、この前襲ってきたシルクハットの仲間か!


「それじゃあ、第2ラウンドといきますか!」

「ちょっ、まっ!」


 大男は、こちらの意向など無視して容赦無く攻めてくる。

 空手にムエタイに中国拳法!?技のデパートかよ!しかも、そのどれもがかなりのレベルだ。


「がっ、ぐはっ……」

「あれ?この程度なんすか?」


 『強化』が覚えたてというのもあるが、神様が強化してくれた身体能力に『強化』の異能を重ね掛けしても、パワーはやっと互角。

 その為、純粋な武術の熟練度で押し負けている。


「くそっ!」

「多少は武術の心得があるみたいっすけど、無駄っすよ!」

「がはっ」

 

 俺が放つ拳も蹴りも、難なく躱され倍になって返ってくる。

 その度に繰り出してくる技を習得してはいるが、その技は相手の体格と体重に馴染んだ動きなため、俺が使用すると僅かなズレが生じる。

 動画で習得した技も同じだ。オリジナルには敵わないのである。


「ちくしょう。こんな事なら、ちゃんと練習しとけばよかった」


 俺の身体に馴染んでいる技は、今のところ『男女平等拳』しかない。他の技の熟練度は、この大男に遠く及ばないのである。


「だったら、『溶解』!」


 放ってきた拳をギリギリで躱し、腕を掴んで『溶解』を発動する。


「これは、メルトさんの『溶解』と同じっすか。陰陽術ってこんな事もできるんすね」

「なっ、溶けない!?」


 服の袖が溶けただけで、大男の腕は無傷だ。

 肉まで溶かすつもりで使ったのだが……強化で耐久性をあげてるのか!


「甘いっすよ。その程度の術じゃ、俺は傷つけられないっす」

「くそっ」


 『溶解』はまだ全力で使っていない。

 たぶん、本気で発動すればこいつを倒す事はできる。だが、そうなると骨や内臓まで溶かしてしまいそうだ。

 雫さんを気絶させたのは許せないが、さすがに殺したくはない。


「……仕方ない、か」

「ん?」


 俺の覚悟を察したのか、大男が少しだけ距離をとった。なかなか鋭いな。


「このままだと負けそうなんでな。奥の手を使う事にした」

「……どうやら、ハッタリじゃ無いみたいっすね」


 当然だ、ハッタリなどではない。

 周辺に人が居そうな場所で、『溶解』を完璧に調節できる。という2つの条件が必要だが、成功すれば勝利は約束されている。それほど強力な奥の手だ。


「先に言っておく。これが成功すれば、お前に勝ち目はない。負けて恥をかく前に、大人しく帰ってくれないか?」

「ふっ、むしろ望むところっすよ!」

「そうか……」


 ならば、存分に味わってもらうとしよう。




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