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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第二章「異能編」
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26話「複雑な家庭事情」




 今日もいつも通り、平穏な1日だった。


「いつも通り平穏な……平穏?」


 スマホで調べてみる。

 平穏とは、『変わったことも起こらず、穏やかなさま』らしい。うん、いつも通りではないが、今日はほんとに平穏だ。間違ってはいない。


「マスター、大丈夫デスカ?」


 心配したのか、スマートフォンのニアが話しかけてくれた。さっそく変わったことが起きた。

 はい、平穏終了。


「あ、大丈夫だよニア。それと、人前ではなるべく話さないようにな」

「了解シマシタ」


 授業終了直後でよかった。授業終わりの余韻で教室がざわついているため、ニアの声は誰にも聞こえなかったようだ。


「それにしても、平穏かぁ……」


 平穏に生きたいという俺の人生設計は、最近狂いっぱなしだ。

 陰陽術の試合に出させられたり、異能者に襲われたり。そもそも、死んで神様と会ったりしてるし。


「まてよ?それに比べれば、スマホが話すとか普通だな」


 うん、さっきのはノーカンだ。今日はまぎれもなく平穏な1日だな。


「結城くーん、いるー?」

「!!」


 声のほうへ振り向くと、立派な剃り込みの入った不良くんが教室を覗き込んでいる。

 あれは、いつぞやの剃り込み不良!


「葛西さんが呼んでんだけどー。結城くん、どこ?」


 滝川と石田は俺に向かって手を合わせている。この薄情者共め!


「こ、ここです」


 薄情な2人を横目で睨みながら、俺はおずおずと手をあげる。


「ちょっと来てくんね?」


 剃り込み不良に、俺は体育館裏まで連れていかれた。

 はい、平穏終了。











「入学したばっかの時、体育館裏で脅かしてすまなかった」

「え?」


 また前回のように不良達の前で恥をかかされるのかと思いきや、体育館裏にはツンツン不良とアカリさんと雫さんしかいなかった。

 そして、ツンツン不良が頭を下げて謝ってきたのだ。え?なにこの状況?


 ちなみに、俺を呼び出した剃り込み不良はさっさと帰っていった。


「ごめんね結城くん、許してあげてもらえる?こんな怖い顔つきだけど、これでもソージは反省してるの」

「アカリ、顔つきは余計だろ。それに、お前らが謝れって言ってきた……」

「反省してるのよ、ね!」

「……あ、あぁ、反省してる」


 アカリさん凄いな、ツンツン不良を尻にひいてらっしゃる。


「頭上げてください……」

「結城くんも同い年なんだから、ソージなんかに敬語使わなくていいのよ。もちろん、私たちにもね」

「あ、それじゃあ……」


 遠慮なくタメ口でいかせてもらおう。


「本当にもう気にしてないから、頭上げてくれ」

「許してくれるのか?」

「ああ」


 平穏とはかけ離れた日々のお陰で、入学初日のことなど、今となってはあまり気にしていないのである。

 ま、ちょっとだけトラウマだったりはしてたので、そのぶんの謝罪は受け取っておこう。


「そうか。すまなかったな……じゃあなっ」

「あ、ちょっとソージ!ごめんね結城くん。またね」


 ほんとに、ただ一言謝るためだけにここへ呼び出したらしい。


「謝るだけなら、廊下とかでええやん」

「ソージくん、不器用だから……」


 俺の呟きに、雫さんが苦笑しながら返す。

 ツンツン不良を追ってアカリさんも校舎へ戻っていったので、今は雫さんと2人きりだ。


「あ、そういえば。ツン……葛西くんとは、どういう関係なの?」


 地味に気になっていた疑問を、雫さんに聞いてみた。

 見た目的に兄妹ではないだろうし、性格的に雫さんが一緒にいるのは、何か違和感を感じる。


「ソージくんとは、幼馴染、かな。血は繋がってないけど、兄妹みたいな、感じ」


 なるほど、そうだったのか。

 とりあえず、こんなに可愛い幼馴染いるのはムカつくな。ちゃんと誠心誠意謝ってもらえばよかった。


「それじゃあ、俺たちも戻ろっか」

「うん」


 そのあとは、雫さんと雑談を交わしながら、2人で校舎へと戻るのだった。













「雫、どうかしたの?」


 帰宅途中、落ち込む雫を気にかけ、アカリが声を掛ける。


「お姉ちゃん。私たちってやっぱり、普通じゃないんだよね……」

「普通じゃ、ない?」

「うん。体育館裏から戻るとき、結城くんと親御さんの話になったの。でも、私からはなにも話せなかった……」

「雫……」


 雫のその言葉通り、彼らには親との思い出がない。そもそも、親という存在がいないのである。


「大丈夫だ雫。親はいねぇが、俺たちがいるだろ。俺たち3人は、家族だ」

「そうだよ。私たちはこれからもずっと一緒なんだから」


 2人の言葉を聞き、雫の気持ちは少しだけ晴れていく。


「2人とも、ありがとう」

「……なんか、照れるな」

「えっ、ソージって照れたりするの?」

「うるせぇよ!っていうか、アカリだって照れてるじゃねぇか」


 帰宅途中の河川敷では、3人の楽しげな笑い声が響きわたるのだった……。






「あー。いい雰囲気のところ、申し訳ないんすけど……」


 しかし、その声を聞くまで誰も気づく事が出来なかったのである。


「捕まえさせてもらいますね」


 そんな何気ない平穏を奪いさろうとしている者が、背後まで迫っていた事実に……。











「はぁ……失敗した」


 雫さんと校舎へ戻る途中で親の話になったのだが、雫さんの表情が明らかに曇っていたのだ。

 すぐに話題を変えたが、不快な思いをさせてしまったかもしれない。


「きっと、複雑な家庭事情があったんだろうな……」

「マスター、大丈夫デスカ?」


 落ち込んでいる俺を心配して、ニアが話しかけてくれた。

 抱えててもモヤモヤするだけなので、ニアにも事情を話してみる。


「マスターガ良クナイト思ッテイルノデアレバ、一言謝ル事ヲオススメシマス」

「だよな。でも、もう放課後だし、謝るのは明日になりそうだ」

「問題アリマセン、私ガゴ案内シマス」

「えっ?」


 ゴ案内シマス?


「今、市内ノ防犯カメラヲ確認シマシタ。雫サンハ、アチラデス」

「……」


 変形したニアが腕を突き出し、雫さんがいるらしい方向を指差した。


「ありがとうニア。でも、防犯カメラ勝手に見たりするのは、ダメだぞ」

「了解シマシタ」


 いけない事だが、もう見てしまったものは仕方ない。とりあえず、ニアの指示に従って雫さんに会いに行く事にした。













 3人が驚いて振り返ると、そこには屈強な大男が立っていた。


「いやぁ、申し訳ないっす。なんか、いい雰囲気ぶち壊しちゃって」


 気持ちのこもっていない謝罪を口にしながら、大男は3人へと近づく。


「ディエス……どうしてここに!?」


 ソージはアカリと雫を背後に隠しながら、迫り来る大男、ディエスへと疑問を投げかける。


「お、名前知ってくれてるんすね。そういう君は、葛西君でしたっけ?」

「そんな事はどうでもいい、どうしてテメェがここにいるんだ!?」

「どうしてって、君たちを捕まえに来たんすよ。組織から逃げ出して、いつまでも平穏に生きられると本気で思ってたんですか?」


 その言葉を聞いた瞬間、ソージは自身の持つ異能を全力で発動した。

 その異能の名は、『寒熱』。熱量を吸収、放出する事で、温度を操ることができる異能である。

 

「あつっ!」


 ディエスは慌てて距離をとる。

 ソージが水たまりを蒸発させたことで、多量の水蒸気が発生したためだ。


「アカリ!頼む!」

「わかってるわ、『付与』!」


 その隙をつき、アカリはソージへと付与を施す。

 彼女の持つ異能『付与』は、他者の身体能力を強化する事が可能なのだ。


「おっ、それが噂の『付与』ですか。俺には出来ないんで、羨ましいっすね」


 そう呟きながら、ディエスは水蒸気を抜けて接近を試みる。だが、すぐさま足元の違和感に気がついた。


「うわっ、滑る!」


 ディエスの進行を阻むため、ソージは地面を凍らせていたのである。


「もう、面倒っすね」


 しかし、ディエスはその脚力で地面を踏みつけ、氷ごと地面を砕きながら強引に進む。


「ちっ、化け物が」

「まぁ、こう見えてもランクAなんで、ランクCの小技程度じゃなんともないんすよ。だから、大人しく降参してくれないっすかね?」

「断る!」


 ソージの力強い返事に、アカリと雫も頷く。


「組織にいることの何が不満なんすか?三食ちゃんと食事は出ますし、暖かい布団で眠れるじゃないですか」

「でも、自由はないだろ。俺たちは、自分の意思で自分らしく生きていきたいんだ!」

「……そういえば、君たちは施設内で生まれ育ったんすもんね。外から組織に入った俺とは、見える世界が違いますか」


 先ほどとは一転して冷たい目となったディエスの眼光に、3人は背筋を凍らせる。


「殺しちゃうとまずいんで、手加減はします。でも、骨は何本か折れると思うんで、そこは覚悟してくださいね」

「今の俺はランクB相当の異能者だ。ただじゃやられねぇぞ!」


 『付与』の力は、腕力や脚力といった身体機能以外にも、所有する異能すら強化することが可能なのである。

 そのため、本来ならばランクCであるソージの『寒熱』は、ランクB相当まで強化されていた。

 

「あ、言っておきますけど、助けは来ませんから」

「なに?」

「周辺には工作員配置してるんで、多少暴れても目撃する人は誰もいないっす」

「なっ!」


 帰宅時間で賑わっているはずの河川敷に人気ひとけが無いことを、3人は今になって気づく。


「それじゃあ、せいぜい足掻いてくださいね」


 『付与』を施され、ランクB相当となった『寒熱』と、ランクAの異能を持つディエスとの戦いが幕を開けたのだった。




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