25話「オ邪魔、シマス」
前回のお話の最後、潤叶が恋心を抱いている部分を、まだ気になっている程度?に修正しました。申し訳ありません。
それでは、本編をお楽しみください。
「トウリートウリー」
「ん?ユイ、どうした?」
「昨日、結城幸助くんにメール送ったのね」
「例の高校生か、それで?」
「返信こないから、気になって調べたのね」
「ああ、それで?」
「そしたらね、メール消されてたの」
「……」
言い終わると同時に、ユイはうな垂れるようにして落ち込んだ。そんなユイを他所に、トウリは深く考え込む。
(俺たちとは手を組まないという意思表示なのか?それとも、ユイが用意した報酬が気に入らなかったのか……ん?)
考えを巡らせた後、ユイが送ったというメールの内容を知らない事に気づき、トウリはユイへと問いかける。
「その高校生には、なんて送ったんだ?」
「え?普通に、『初めまして!ユイでーす。ちょっとお願いしたい事があるんですけど、よろしいでしょーか?』っていう始まりで送ったけど……」
「ユイ、それはお前が悪い」
迷惑メールだと勘違いされたのではないかという事を、トウリは簡潔に説明した。
「……さてと、どうする?もう一度メールを送るか?」
「やめとくー、また勘違いされちゃいそうだもん」
「そしたら、どうするんだ?」
「スマホハッキングして、画面いっぱいにメッセージ映し出す!」
「ユイ……」
トウリがあきれた直後、ユイはものすごい勢いでキーボードを叩き始めた。
「ちょっ、ユイ待っ……」
「ハッキング、せいこー!……あれ?」
トウリが止める間も無くハッキングを仕掛けたユイは、気の抜けた声を漏らす。
アドレスを確認するためにハッキングを仕掛けた際とは、異なる違和感を感じたためだ。
「なんだろ?侵入したというより、招かれたような……」
次の瞬間、ユイが操作していたPC画面いっぱいにメッセージが映し出される。
『コンニチハ。オ邪魔、シマス』
「!!??」
そのメッセージを見たユイは、戦慄を覚えた。
ユイの持つ『電脳』は、意識を電脳空間へと接続し、オンライン状態のあらゆる機器へ侵入、操作できるという異能である。
しかし、同じ異能を所有している者は、『ディヴァイン』にも多く存在する。ランクAの『電脳』を持つユイには遠く及ばないが、彼らも意識を電脳空間へと接続できるのだ。
そんな彼らの侵入を阻む対策を、ユイはPCに施している。自らの異能とプログラム技術を駆使した特別製の防壁を、PCに張り巡らせているのだ。
たとえランクBにハッキングを仕掛けられようとも、数時間は持ちこたえられるほど強固な防壁である。
だが、画面いっぱいにメッセージが映し出された事実は、その防壁が破られた事を意味していた。
「防壁が、一瞬で突破された!トウリ、手伝って!ハッキングされてる!」
「なんだと!?」
ユイと同じく『電脳』を使用できるトウリは、PCに張られた防壁の性能を理解している。そのため、「一瞬で突破された」というユイの言葉の意味を、考える間も無く理解したのである。
(あっちにも、ランクAの『電脳』がいるのか!?)
トウリはPCに触れ、ユイと共に電脳空間へアクセスする。
『私が侵入者を追い払うから、トウリはその間に防壁を修復して!』
『わかった。周囲の警戒は中断して、ランクB相当の『電脳』でサポートする』
現実との体感時間のズレに体を慣らしつつ、侵入者が潜んでいる空間へと2人はたどり着いた。
そして、その場にいる人型の電脳体を目にし、ユイは確信する。
『やっぱり……『電脳』の異能者みたいね』
2人の目の前には、三頭身の人型電脳体が立っていたのだ。全身が真っ白で、黒い点のような目が2つだけついた姿をしている。
そんな電脳体をトウリが睨みつける中、ユイはある疑問を感じたのだった。
『あなたの、目的はなに?』
ユイは、白い電脳体へと問いかける。
その疑問を真っ先に感じた理由は、白い電脳体がPC内で何もしていなかったためである。
ユイ達がいる位置情報を探るわけでも、何かを探しているわけでもなく、ただ周囲のアイコンを眺めているだけなのだ。
『モク、テキ?』
電脳体は、首を傾げる。
『なるほど、目的を話すつもりは無いわけね。あなたは、組織の異能者なの?』
『組織ハ、ワカリマセン。異能者モ、ワカリマセン』
『そう。トウリ、防壁はお願い』
『まかせろ』
何も話すつもりが無いのだと判断したユイは、白い電脳体への攻撃を開始した。
◇
「リンさんや、俺が作業してる時は、いきなり抱きついてきちゃダメですよ」
「……ごめんなさい」
昨日習得した『玩具』の実験中、突然リンが抱きついてきたのである。おかげで、力加減を間違えてしまった。
「わかってくれたなら良いんだ、今度から気をつけてな」
「はい……」
あまり強く叱ったわけでは無いのだが、結構落ち込んでいるようだ。反省はしてくれたみたいだな。
「それじゃ、おやつにするか」
「おやつ!」
まるで何事もなかったかのように、リンは居間へと駆けていく。
「本当にわかってくれたのか?」
そんな疑問を抱きつつ、おやつタイムにする事にした。
「おっと、それよりも……」
こいつは大丈夫なのだろうか?先ほどまで周囲をキョロキョロしていたのだが、今は全く動いていない。
もうしばらくこのままだったら、電気屋さんにでも見せに行くかな。
◇
『くっ!』
『パズル解クノ、楽シイデス』
接続を断とうとする攻勢プログラムは全て、パズルを解くように解体されていく。
『処理能力は私以上ってわけね。でも!』
侵入者の実力に驚愕しながらも、ユイはさらなる手を打つ。
攻勢プログラムと同時に、電脳戦に備えてハッキングしておいた各地のスーパーコンピュータを使い、大容量の不要データを送りつけたのだ。
『頭ガ、重イデス。パズル解クノ、難シイ……』
大量に送りつけられる不要データによって、侵入者に多くの負荷がかかる。
そして、ユイが放つ攻勢プログラムの数が侵入者の処理能力を上回った。
『最後に1つ聞くわ、あなたの名前は?』
白い電脳体のアクセスが切れる刹那、ユイは最後の質問を投げかける。
『名前……マダ、ナイデス……』
『そう』
白い電脳体からのアクセスが切れると同時に、トウリが防壁を展開した。
『お疲れ。流石だな』
『全然流石じゃないよ。処理能力も解析技術も、相手の方が遥かに上だったもん。用意しておいた攻勢プログラムとスパコンでなんとか対処できたけど……次来たら、絶対負けると思う』
ユイの真剣な言葉に、トウリは息を飲む。
電脳戦においてユイに太刀打ち出来る相手など、聞いたことすらなかったためだ。
『相手は、『ディヴァイン』の異能者なのか?』
『わかんない、攻勢プログラムの残骸のせいで、ログも消えちゃったみたいだし。ただ……』
『ただ?』
『……ううん、何でもない』
「悪い人だとは思えない」そう言いかけ、ユイは言葉を噤んだ。
自分のカンに自信があるとはいえ、あまりにも根拠のない推測であるためだ。
『とりあえず、これからどうする?また来られたら不味いんだろ?』
『私がサポートしている限り防壁が突破されることはないから、今は大丈夫かな。でも、私が『電脳』を解除したらまずいから、今の内にIPアドレスとか書き換えなきゃ。トウリ、お手伝いよろしくねー』
戦いを終え、いつもの調子を取り戻したユイの姿に、トウリは安堵する。
『周辺警戒を再開するから、ランクC相当の『電脳』になるが、手伝うよ』
『うわぁ、時間かかりそー』
現実時間にして僅か1分。ランクAの『電脳』使いと白い電脳体との戦いは、静かに幕を閉じたのだった。
◇
先ほどまでフリーズしていたのだが、今はなんとも無いようだ。よかったよかった、壊れてはいないらしいな。
「そういえば、お前は何を食べるんだ?」
おやつを食べている最中ふと疑問に思ったので、スマートフォンに聞いてみた。
「食ベ物ハ、イリマセン。充電シテ頂ケレバ、問題ナイデス。適正電圧ダト、嬉シイデス」
「なるほど。それが味みたいなもんなのか」
スマホの会話機能とお話ししてるわけじゃないぞ?本当に意思を持っているのだ。
なぜスマホが意思を持っているかというと、スマホに『玩具』を試そうとした際に、力加減を誤ったのである。他の物で実験をしていた際は成功したので、つい調子に乗ってしまった。
スマホに試した時は、シロやリンを生み出した時と同じ感覚がしたので、多分ずっとこのままだろう。
要約すると、新しい家族が増えました。
「ま、巨大ロボットとかじゃないから、よしとするか」
今は普通のスマホ形態だが、トランスフォームすると手のひらサイズのロボットになる。
三頭身で、胴体と顔がディスプレイになっており、色は白とシルバーを基調としている。そして、顔には黒い点のような目が2つだけ付いた姿だ。
「マスター」
「ん?どうした?」
スマホの方から話しかけてきた。
「僕ハ、何トイウ名前ナノデショウカ?」
「名前?」
そういえば、決めてなかったな。
スマホの機種の名前にするのも味気ないし、名前……機械、スマホ、コンピュータ……よし、決めた!
「スマホだから、いつも近くにあって欲しいっていう意味を込めて、『ニア』でどうだ?あと、そんな名前の有名なコンピュータがあった気がする」
「ニア。僕ハ、『ニア』デス!」
おお、喜んでくれているようで何よりだ。
「ニアか、儂はクロだ。よろしくな」
「カー!」
「……シロと、リン!」
「クロさん、シロさん、リンさん。ヨロシクオ願イシマス」
ニアに絡むみんなの姿を見ながら、思わず笑みがこぼれる。
少し騒がしいが、とても心地良い気分だ。
「それにしても……」
巨大ロボットじゃなくて本当によかった。
更新頻度…上げます!