22話「トラ◯スフォーマー」
「うーむ……」
帰り道。歩きながら今日の出来事を思い返してみたが、考えれば考えるほど謎だ。
その出来事とは、委員長の態度についてである。自意識過剰かもしれないが、委員長は……俺に好意を寄せているような雰囲気だった。
「でも、委員長に惚れられるような事をした覚えは無いんだよなぁ」
クロえもんが用意してくれたひみつ道具のお陰で、神前試合の仮面術師が俺だとは知らないはずである。なので、神前試合が理由である可能性は低い。
委員長は人気者なので、学校では事務的な会話以外に話した事はない。そのため、学校での出来事が理由である可能性も低い。
「となると、俺以外に好意を寄せている相手がいるのか?」
結城くん達の班に入れて……と言っていた。だとすると、滝川!?
「な訳ないな。石田狙い、かな?」
その可能性のほうが高いな。少し残念な気持ちになるが、気にしない事にしよう。うん、気にしちゃダメだ。
変に期待して落ち込むよりかは、断然マシである。中庭での出来事は、なかった事になっているのだ。
「それよりも、今日は寄り道を満喫するかな!」
気を取り直し、JRタワーを見上げる。今俺は、札幌駅へ来ているのだ。
何故ここに来ているのかというと、せっかくの都会生活を満喫できていない事に気づいたためである。
札幌に住み始めてから3週間。電車に撥ねられ、神様と出会い、生き返り、クロと出会い、シロと出会い、陰陽術師の試合に出て、リンと出会い……本当に色々なことがあった。
そんな中も、学校に通いつつ勉強にも追われていたので、札幌の街を感じる機会が無かったのだ。
「今日は思う存分楽しんでやる」
札幌駅はスタートに過ぎない。入学してからずっと行きたかった目的地。今日こそは、何としてもそこへ向かうつもりなのだ!
「札幌地下道、凄っ!」
札幌駅から地下歩道、通称『ちかほ』へと入る。
なにここ?地下なのに、路上パフォーマンスとか行われてる!うわっ、バザーとかも開かれてる!え、なに?異世界?異世界なのか!?
「お、落ち着け俺、目的地はここじゃない」
そう、目的地はまだ先だ。ここは通り道でしかない。
あちこちに気を取られながらも大通駅まで進み、35番出口を探す。
「あ、あった!」
ここが、噂の35番出口か。
「よし!」
気合を入れ、その階段を登る。すると、そこにはーーー
「ーーーア◯メイト、メ◯ンブックス、とら◯あな!」
それだけではない。あらゆるオタクショップの数々が、35番出口の先に固まって存在しているのだ!こここそが、俺の目指していた真の目的地なのである。
「夢みたいだ……ん?」
感動で胸が熱くなる中、周囲の人達が空を見上げている事に気付く。
「えっ、何これ?超ヤバイじゃん」
「世界の終わり……か?」
「すげぇ……」
俺もその方向を見上げると、周辺に建つビルの屋上や電線の上を埋めつくすほどの……カラスの大群がいた。怖っ!何だこれ!?
「……ん?んん!?」
そのカラスの群れの中、一際高い位置に、見覚えのある白いカラスがとまっている。
「……うん、きっと気のせいだ。カラスの空似だろう」
そう思いつつ、35番出口から少しだけ横に移動する。
すると、俺と一定の間隔を保つように、その白いカラスも移動した。
そして、その白いカラスに付き従うように、カラスの大群も移動する。
「やだ、怖い」
「ちょっ、これヤバイんじゃね?」
周囲では、ちょっとしたパニックが巻き起こっている。
「……まずは、アニ◯イトに入ろうかな」
そんな中俺は、◯大ビルの2階へと、静かに向かう事にした。
◇
「うおおおおぉぉ!」
気を取り直し、アニメ◯トを楽しむことにする。
そこそこ広い店内。目がチカチカするほどのオタクグッズ。壁中に貼られた告知の貼り紙。
中学時代も祖父母の家に挨拶に行くついでに来た事はあったが……。
「今は、来ようと思えば毎日来られるんだな」
感慨に浸りながら、まずは漫画コーナーへと向かう。
旬の作品達が前面に押し出された店内を、さっそく物色だ!
「これ、こんなに巻数でてたのか。うおっ!この作品もアニメ化してたのか……あ、すみません」
独り言を呟きながら夢中で物色していたせいで、隣にいる人に気づかずぶつかってしまった。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。私の方こそ……あっ」
「あ!」
ぶつかった人は、ショートの青髪にメガネが特徴的な女の子だった。というか、このまえ繁華街で助けたメガネっ娘さんだ。
「えっと、偶然だね」
「そ、そうですねっ」
学校帰りにここへ来る強者は、俺だけじゃなかったのか。嬉しい偶然だ。
「そ、そういえば。この前は名乗りもせずに帰って、すみません」
「いやいや、こちらこそだよ」
久しぶりの再開だったため、少しぎこちない会話が続いたが、改めてよろしくという事でお互いに自己紹介をした。
メガネっ娘さんの名前は、月野雫さんというらしい。
ん?月野?
「しずく〜。あ、居た」
月野さんを探していたのだろう。赤髪ショートの女子が、こちらへ歩いてくる。
ん?どこかで……あ!ツンツン不良から助けてくれた、月野燈さんだ!
「あっ、お姉ちゃん」
お姉ちゃん!?
「あれ?君は、スーパー高校生くんじゃない!たしか、結城くんだよね。久しぶり」
「ひ、久しぶり」
スーパー高校生の噂、まだ消えてなかったのかよ。
「あれ?雫と結城くんって、知り合いだったの?」
「うん。この人が、この前助けてくれた人」
「あ!繁華街で会ったって人ね!」
繁華街で助けた件について、アカリさんからもお礼を言われた。2人が姉妹だという事をまだ処理できていないが、とりあえず、お礼の言葉は受け取っておく。
「なんだ、こっちにいたのか」
月野姉妹と雑談を繰り広げていると、ツンツンした髪型の男が近づいてきた。
「あ、ソージ!こっちこっち」
ソージって……つ、ツンツン不良か!
◇
「ソージ、今度会ったらちゃんと結城くんに謝りなよ?」
「なんでだよ。あいつが勝手にビビってるだけだろ」
アニメイ◯からの帰り道。3人の男女が、楽しげな会話を繰り広げていた。
「結城くんは、いい人。勇敢な人」
「そうだよ。雫のこと助けてくれたんだから、仲良くしなさいよ」
「ちっ、わがったよ。謝りゃいんだろ、謝りゃ。仲良くする気は無いけどな!」
葛西蒼司は月野姉妹に責められ、謝ることには納得した。だが、仲良くする事だけは頑なに拒む。
そんな中、雫のスマートフォンから音が鳴った。
「あっ。ユイさんから、メール」
「えっ、ユイさんから!?」
「しずく、見せてくれ!」
2人は食い気味で雫のスマートフォンを覗き込む。
『通ってる学校に、結城幸助くんっているよね?その子とは、仲良くしといたほうがいいよん』
相変わらずの簡潔な文面に、3人は顔を見合わせた。
「あの人、今はトウリさんと京都巡りしてるはずだよな?一体どこまで知ってるんだよ……」
あまりにもタイミングの良いメールの内容に、蒼司は怪訝な表情を浮かべた。
「ユイさんも、ソージには他の人と仲良くしてほしいと思ってるんだよ」
「結城くんは、いい人。仲良く、してほしい」
「わがったよ。仲良くすりゃいんだろ仲良くすりゃ!」
自分と同じ境遇を持つ2人と、今の自由を与えてくれた恩人からの願いを断れず。蒼司は無愛想に頷くのだった。
◇
「にしても、驚いたなぁ。公園の帰りに待ち合わせしてた人って、アカリさんとツンツン不良だったのか」
あの後、ツンツン不良が合流してからは驚くほど会話が弾まなかった。なので、用事があるフリをして、俺だけ帰路についたのだ。
今なら喧嘩を売られても勝てると思うが、登校初日に植えつけられたトラウマはまだ拭えていない。月野姉妹と話しているときの俺を睨みつける目といったら……ううっ、怖い怖い。
ちなみに、カラスの大群を引き連れていた白いカラスは、やっぱりシロだった。
どうやら、俺の護衛をしてくれていたらしい。ジェスチャーだったので、カラスのボスになっている理由や護衛をしてくれている理由は分からなかったが、騒ぎが大きくなるので帰らせた。
「あれ?あの道、工事中なのか」
そんな事を考えながら歩いていると、工事中の看板が立っているのが見えた。朝は何も無かったのだが、工事が始まったらしいな。
「工事中ですけど通れますよ、どうぞ」
「あ、そうなんですか。失礼します」
看板の前まで行くと、工事のおっちゃんが通してくれた。遠回りする必要が無くなったので、ありがたい。
普段はひと気の無い寂しい道なのだが、今は何台もとまっている工事用車両のエンジン音で少し騒がしいな。
「あれ?工事の人、いないのか?」
無人で動いてる?そんな訳ないか。
「すみませんなのである。貴方が、結城幸助なのである?」
「え?はい、そうですけど……」
さっさと通り抜けようと思ったら、前方から歩いてきた怪しい男に絡まれた。燕尾服を纏い、シルクハットを被っている。なぜにその格好?というか、なんで俺の名前知ってるんだ?
「ふむ。それでは、さようならなのである」
シルクハットの男が持っているステッキで地面を叩くと、とめられていたショベルカーが人型ロボットにトランスフォームした。
「……え?」
状況を飲み込むこともできずに、俺はトラン◯フォーマーの鉄拳に押しつぶされた。