15話「怖いから。それ捨ててっ」
「くそっ!」
気炎は『散炎弾』を放ち、とぐろを巻く龍から全力で距離をとる。
「時間がない……龍王!」
「グオァアアアアア!」
龍は咆哮を上げながら、気炎へと迫る。
『無上・龍王顕現』。それは、水上家に伝わる術の中でも最高位の秘術である。
式神術の要素を持つこの術は、龍王を一時的に顕現し、使役することができる。しかし、その持続時間はあまりにも短い。
潤叶の並外れた霊力操作と、保有霊力の全てを持ってしても、顕現できる時間は1分が限界である。だがーーー
「おいおい、とんでもねぇな……」
ーーーその破壊力はまさに、一撃必殺と呼ぶに相応しい。
気炎が先ほどまで立っていた場所は、龍の突進で跡形もなく消し飛んだ。その衝撃は、結界全体を震わせる。
「はーい。火野山ちゃん、アウト〜」
緊張感の無い声が会場に響くが、それを聞いている者は誰1人として居ない。龍王の圧倒的な存在感によって、誰もが意識をそらせずにいるためだ。
「そいつは今の俺じゃ倒せねぇが、術者がやられりゃ消えるだろ!」
気炎は潤叶へと接近を試みるが、龍王は主人を守るようにとぐろを巻き、それを阻む。
「くそっ。だが、長くは持たねぇはずだ。かかって来いよ!全て避けきってやるぜ!」
「言われなくても、龍王!」
「グォアアアアアアアアア!」
すでに、龍の尾は消えかかっている。潤叶に残された時間は、あと僅かもない。
だが、龍王を十全に操ることのできない潤叶には、気炎を捉えることはできなかった。
「もう、限界……」
「ごめんね、お姉ちゃん。私の霊力が渡せれば……」
潤叶と潤奈は霊力の波長が似ているため、互いの霊力を共有することができる。しかし、それは姉である潤叶の霊力操作があってこそ可能な技であり、霊力操作の苦手な潤奈では渡すことができない。
もちろん、龍王を操作している潤叶には、そんな余裕などないのだ。
「大丈夫よ……次の一撃で……状況を変えてみせる!」
歯を食いしばりながら必死に意識を保ち、半透明の龍王に最後の命令を与える。
「グォアアアアアアアアアアアア!!!!」
その覚悟に応えるかのように、龍王も消えつつある体で最後の突撃を行なった。
「あ?声がでかくなっただけじゃねぇか」
気炎はつまらなそうな表情を浮かべ、龍王の突進を難なく躱す。しかし、目標を失ったにも関わらず進むのをやめない龍王の姿に、気炎は気づいた。
「爆鬼!避けろ!!」
「ガ!?グガアッ!!」
爆鬼は場外へと吹き飛ばされ、身代り札が崩れ去る。
「はーい。爆鬼ちゃんもアウト〜」
そして、炎の壁とともに龍王の姿は消えていった。
「チッ、最初から炎壁と爆鬼を狙ってたのか。やられたぜ」
そうは言いながらも満足げな表情を浮かべる気炎は、さらに言葉を続ける。
「もうお前らは戦えねぇだろ。そこで大人しくしてろ。俺は三鶴城のところへ行く」
そう言い終え、さらなる異変に気炎は気づいた。龍王の姿に意識を奪われていた観客も、その異変に気づく。
「あれは……誰?」
その言葉を発したのは、霊力を使い果たしながらも辛うじて意識を保つ潤叶だった。
炎の壁が消えた先には、尻餅をついている仮面の術師と膝をつく三鶴城幽炎。そして、切り落とされた三刀像の首を持つ、白髪の幼女が立っていた。
◇
「君は……俺の式神なのか?」
「……」
腰に短刀を携えた幼女は、黙ったままコクリと頷き、可愛く駆け寄ってくる……武者の首を持ちながら。
「ちょっ、怖いから。それ捨ててっ」
「……」
残念そうな表情を浮かべながら、幼女は首を放り投げた……怖っ。
「あ、消えた」
武者の胴体と首が、光の粒子みたいなのを放ちながら消えていった。式神って、倒されるとああいう風に消えるのか。
「私の三刀像が……一瞬で?その式神は、その式神は一体何なのですか!?」
眼鏡スーツが叫ぶが、俺にもわからん。
そもそも、武者の術式を真似て生まれたんだ、こっちが聞きたいわ。
「あ、炎の壁も消えてる」
いつの間にか、俺と水上姉妹を隔てていた炎の壁が消えている。
そして、散炎弾の人と水上姉妹が、驚愕の表情でこちらを見ていた。
「驚愕してるのは、俺の方だけどな……」
炎の壁を発生させた後、俺は震える手で術式を完成させた。しかし、召喚の寸前に壁を突破され、大太刀が迫ってきたのだ。その時はビビって尻餅をついてしまった。
だが、突然響き渡った大音量の咆哮によって眼鏡スーツの意識が逸れ、その隙に式神を召喚できたのである。
誰の咆哮かは知らないが、感謝だな。
そのあとは、姿が現れる前の式神に「武者を倒してくれ!」と叫び、気がつくと……武者の首と胴体がお別れしていたのだ。
「三鶴城!!」
「はっ、私としたことが……術者を直接狙います!気炎、あなたは空中から攻めてください!」
「了解だ!」
散炎弾の人の声でフリーズ状態の眼鏡スーツが目を覚まし、2人で突っ込んできた。
っていうか、散炎弾の人、空飛んでる!?あんな使い方もあるんだな。いつかやってみよう。
「はっ、そんな事考えてる場合じゃない!し、式神!あいつらを倒してくれ!」
「……」
幼女はコクリと頷き、腰の短刀に手を添える。そしてーーー
「キャー!」
「みんな逃げろ!退避だ!」
「非常口はこちらです!はやくっ!」
ーーー鈴のような音色が響き渡り、つどーむの屋根が崩れ落ちた。
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