14話「『散炎弾』『散炎弾』『散炎弾』『散炎弾』」
「『散炎弾』!」
試しに1発と思ったら、すごい威力だ。
鎧武者の肩の部分、肩上だっけか?そこを吹き飛ばすことができた。
「それは、気炎と同じ術!なぜそれを使える!?」
「企業秘密だ!」
実際に使ってみたからこそわかるが、この術は結構難しい。「さっき覚えた!」と言っても信じてもらえないだろう。つくづく、神様の習得能力はチートだと実感させられる。
「左腕の術式、先ほどはありませんでしたね。半紙に描くと見せかけ、腕に術式を刻んだのですか」
そのとおりだ。インクでベトベトにされた右手でな!
にしても、タトゥーだと思っていた模様が術式だったとは……お陰で気づくのが遅れたぜ。
「気炎よりも強力な一撃……火の適性があるようですね」
火の適性?火の陰陽術の才能があるってことかな?そうだったのか、俺も知らなかった。
「本気を出さなければ、気炎が来るまで持ち堪えられそうにありませんね。接続」
そう言うと、三鶴城の左手と武者が霊力の糸で繋がった。
あの武者、今まで自動操縦だったのか。
「いきますよ」
「ちょっ、まっ、おわっ!」
先ほどよりも遥かに速く、鋭い。だが、ギリギリ避けられる。
飛ぶ斬撃は霊力を刀身に纏わせる必要があるため、事前に予測できる。それにーーー
「『散炎弾』!」
ーーーこちらにも攻撃手段ができた。威力も上々だ。避けられたが、武者の脇腹を少しだけ削り飛ばせた。
「お互い、ジリ貧だな」
「そうでもありませんよ」
ふと違和感を感じて脇腹に触れると、衣服が薄く裂かれていた。
いつの間に斬られたんだ!?
「斬り裂いたのは私です」
なっ!言われてから気づいた。いつの間にか、眼鏡スーツの太刀が抜かれている。
僅かだが、霊力を纏わせた形跡があるな。武者とやり合っている隙をついて、あの刀で斬撃を飛ばしていたのか。
「それだけではありませんよ」
そう言うと、武者が右足を上げてムエタイ選手のような構えをとった。なんだ?一体どう……まずい、まずいまずいまずい!なんかやばい!!
「うおおおっ!!!」
直感で慌てて伏せると、頭上を何かが通過した気がした。
その直後、ガラスの割れるような音が鳴り響き、会場がどよめく。振り向くと、三重になっている結界の一番内側にある1枚に、大きく切り裂かれた跡があった。
「ざ、斬撃!?」
蹴りで、斬撃を飛ばしたのか?にしても、威力やばすぎるだろ!
「2本の大太刀と右足から繰り出される斬撃。これこそが、『三刀像』本来の姿です」
エグすぎるだろ!眼鏡スーツの攻撃も合わせると、単純に相手の手数が倍になったわけか。躱すのはさっきまででギリギリだった。このままだと、確実に負ける。
「こっちも手を打たないとダメか……」
思い付いた手は1つだけあるが、正直、上手くいくかはわからない。
でもまぁ、守りに入ってても負けるだけだし、悔いの無いようやってみるかな!
「いくぞ!『散炎弾』『散炎弾』『散炎弾』『散炎弾』!!!!」
「なんとデタラメなっ!」
ふはははは!攻撃は最大の防御なり!
今のうちに、ウエストポーチから半紙と筆ペンを取り出しておく。
「させません!行け、三刀像!」
身をボロボロにしながらも、武者が炎の散弾の中を突っ込んできた。連射しているせいで威力が落ちてるな、このままだと辿り着かれる。
「『散炎弾』!!」
最後の一発は武者ではなく、床を狙って煙幕を生み出す。
「無駄です、位置は掴めていますよ!」
煙幕の中を、なおも武者が突き進んでくる。だが、俺の狙いは目くらましでは無い。
「なにっ!?」
最後の散弾はできるだけ収束させながら、気合を入れて放った。そのため、床には1メートルほどの落とし穴が出来上がっている。
武者の体格なら一瞬の足止めにしかならないだろうが、充分だ。
「よし、術式描き終えた!」
「馬鹿な!?式神の術式をそんなにはやく描ける筈はありません!」
「知ってるよ。だから、描いたのは普通のお札の術式だ」
札の術式は簡単だ。「火」のような模様を中心に描き、四つ角をちょこっとデコれば完成である。
通常の陰陽術は、この札を媒介にして使用するらしいな。たしか呪文はーーー
「ーーー炎、残、燃、壁、『炎焼燃壁』!」
「なっ、その術までも使えるのですか!?」
いやいや。お札使う術は、この術くらいしか使えないのですよ。
札が燃え上がり、巨大な炎の球が現れた。詠唱は成功したらしい。
「ここに壁作るように、飛んでけ!」
炎の球は、ある程度なら飛ぶ軌道を操作できるようだ。弧を描くようにして飛ばし、俺と眼鏡スーツを隔てるように炎の壁を発生させる。もちろん、武者も壁の向こうだ。バイバイ。
この隙に式神の術式を描く。壁を破られる前に完成させられれば、少しは状況が良くなるはずだ。
震える手を抑えながら、半紙に筆ペンを走らせる。
◇
「ってぇなぁ」
2本の槍に貫かれた気炎は、何事もなかったかのように立ち上がる。
身代り札も効力を失っていない。ダメージは蓄積されたが、死に至るほどでは無かったのである。
「お前が放った水の槍は、3本とも迎撃したはず……なるほど、本当は5本あったって事か」
気炎はすぐに、答えへと辿り着いた。
初めに迎撃された、潤奈の巨大な水槍。潤叶は、その際に飛び散った水分を用いて槍を生成し、気炎の背後から放ったのだ。
「飛び散った水分にはお前の妹の霊力が残っているが……それも利用したのか?」
「その通りです。姉妹だから、霊力の波長が近いんです」
潤叶はそれだけ伝えたが、この技を真に支えているのは別の要素だ。
10メートル近く離れた位置にある水を、槍へと作り変えるほどの並外れた霊力操作。彼女の持つその技こそが、この術を実現させているのである。
気炎はそれ以上何も聞かなかったが、直感でその事実にも気が付いていた。そして、笑みを深める。
「お前も面白れえやつだったんだな。楽しくなってきたぜ!炎、放、多、弾、『連焼炎壁』!」
「ディーネ!『ウォール』!」
迫り来る炎の壁と水の壁が衝突し、激しい水蒸気が発生する。
「潤奈!右よ!」
「っ!?『ウォール』!」
「散炎弾!」
気炎が至近距離で放った散弾を、潤奈はギリギリで防ぐ。
「この距離を、一瞬で!?」
「散炎弾とかいう術を、足の裏から撃っているんだわ。それを推進剤にして進んできたのよ」
潤叶は一瞬で気炎の技を暴き、焦る潤奈を落ち着かせる。
「正解だ!俺は四肢に『散炎弾』の術式を刻んでいる。その気になれば空も飛べるぜ!」
「全然羨ましくないわよ!ディーネ、『ブレード』!」
水で作られた無数の刃が、気炎へと迫る。しかし、加速した気炎には掠りもしない。
その後は、気炎の圧倒的機動力の前に、防戦一方の状況が続く。
潤叶が霊力の網を張り、気炎の攻撃を予測。それを頼りに潤奈が防ぐが、反撃の暇は一切無い。
「一瞬でも隙ができれば……」
防戦一方という状況の中、潤叶はとある術の詠唱を終えていた。しかし、発動の瞬間は霊力の網が貼れない。その隙を突かれれば、術が発動する前に2人は負けてしまうだろう。
「お姉ちゃん。ごめん、『ウォール』は、あと数回が限界かも……」
「潤奈、ありがとう。よく頑張ってくれたわ」
潤叶は覚悟を決めた。次の攻撃を潤奈が防いだあと、術を発動させると。
「『ウォール』!」
「ちっ!またかよ!」
霊力の網を消し、術の発動に集中する。しかしーーー
「……あ?舐めてんのか?」
ーーー気炎はその隙を見逃さない。
「お姉ちゃんには近づけさせない!ディーネ!『ブレード』!『ランス』!」
「あめぇんだよ!『散炎弾』!!」
迫り来る刃と槍を撃ち落とし、潤奈の横を抜ける。
そして、術の発動が完了する前に、気炎は潤叶の眼前まで辿り着いた。
「じゃあな」
「お姉ちゃん!」
次の瞬間、結界の割れる音が響き渡る。
音の方へ顔を向けた気炎の隙を、潤叶は逃さなかった。
「『無上・龍王顕現』!」
潤叶が纏う全ての霊力を吸収し、とぐろを巻く龍が姿を現したのだった。
『転生』に関わる文章を『蘇生』に変更しました。
今後もミスがあるとは思いますが、遠慮なく指摘していただけると助かります。