挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫ 作者:Wiz Craft

〆 第三章 『変わり行く世界』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

96/242

 S26 トロイの森前キャンプ場

 パーティへの参加希望を書き込んだエルツはその一時間後、一人東エイビス平原を歩いていた。眩しげな陽光に手を翳しながら、方位磁石を確認するエルツ。
 集合は何故か東門ではなく現地集合との事だった。スティアルーフを基点とするこの大陸構造を考えると、いまいち現地までバラバラに向かう意図は読めないが、即席のパーティで馴れ合いながらの道中を懸念しての事だろうか、それとも目的地までの長い移動についてはそれぞれのペース配分があるだろうとの配慮からかもしれない。どちらにせよこの長い遠征において、一人旅というのは少し心寂しい気もする。幸いな事に、一度ユミル達の案内を受けたおかげで、その移動ルートについては問題は無かった。
 今回の集合地点となる場所は、ツァーレンウッド森林地帯の丁度真西の平野に存在する通称「トロイの森前キャンプ場」と呼ばれる場所だった。本来ならば、あの日あの事故が無ければ仲間達と泊まっていたかもしれない場所だ。

――できれば正午前には到着して少しゆっくり休みたいな――

 目的に向かって、小休憩を取る事も少なく、ただひたすら歩き続けるエルツ。
 それから約三時間半の道程を経て、エルツは目的地へと到着するのだった。


 目的地トロイの森前キャンプ場に到着したエルツは我が目を擦っていた。そこにはポツポツと僅かにテントが存在するだけで、とても寂しげな光景が広がっていた。

「キャンプ場……ってここでいいのかな」

 想像では、もっとこうテントが隙間無く密集して、冒険者達に満ち溢れたイメージを持っていたのだが、昼前という時間帯のせいだろうか。人の気配があまり感じられない。キャンプ場を囲うただ木の棒を交差させて作られた簡易な柵を横目に、素っ気なく開かれた入り口へと足を踏み入れるエルツ。一見随分と味気無い造りのキャンプ地に見えるのだが、それもそのはずだった。
 実は、このキャンプ場は当初は正式にサーバー側で用意されたものではない。元々、ここはただの平原だったらしいのだ。
 トロイの森を目指して集まってくる冒険者達が、次第に比較的安全である森の西側へ多くキャンプを張るようになり、その数も次第に増えてきた事から、サーバー側が試験的に、ここをキャンプ地として柵で囲ったのだという。故に、ここは冒険者の手によって作られたキャンプ地と言えるのだ。

「冒険者が造ったキャンプ場か。興味深いけど、こう人が少ないんじゃな。また夜になったら景色も変わるのかもしれないな」

 エルツはそんな事を呟きながら、キャンプ場内部へと歩を進めた。
 両脇には色鮮やかな紅花の咲く花壇が、そんな花々を横目に歩きやすいように整地されたその砂地を渡り、エルツは手ごろな場所へとテントを広げる。

Realizeリアライズ

 ボイスコマンドのおかげで、この世界でのテントの出し入れは実に簡単だ。
 エルツは具現化された三角テントの中へと身を埋める。

「ふぅ、少し休もう。それにしても、本当に集合場所ここでいいのかなぁ」

 エルツは仰向けに横になり、オレンジ色のテントの垂れ幕を視界に映しながらふと呟く。
 確かに、初めて訪れる土地が集合場所として指定されると少ながらずの不安を抱く事はある。
 加えて、ここではCITY BBSも使えない。最初にギルドの女性に説明された通り、CITY BBSとはその名の通り、スティアルーフの街でのみ機能する掲示板なのだ。

「これで、会えなかったとかいうオチだったら最悪だよな」

 一人で物々と呟くエルツは、ふとその身体を起こした。

「折角来たんだし、やっぱりちょっと見て回るか。サーバー側が正式にここをキャンプ地として認めたんだったらショップの一つや二つはあるかもしれないし」

 そうして、テントから出たエルツは辺りを見渡す。キャンプ場はそこそこ広い。
 大体縦横百メートルとして一万平方メートル程の面積はあるだろう。一人がテントを張るのに、大目に見積もって五×五の二十五平方メートル程の面積を使ったとして、少なくとも大体四百人以上の冒険者を収容できるだろう。
 同型の三角テントがまばらに辺りに散らばる中、エルツはキャンプ場中央に存在する丸屋根の建物を目に留めた。
 明らかに、通常テントとは異風の建築物、ペンタロンで見たコテージとも造形が違う。

「あれかな」

 近くまで寄ってみると、それは食事処のようだった。ドーナッツ型の素朴の木のカウンターを切り株の椅子が円状に囲み、そこで食事が取れるようだ。看板には『STUMP SPOT』と書かれていた。

「そういや、まだ昼食べてなかったし、折角だからここで食べるか」

 エルツは切り株に腰掛けると、看板に掲げられたメニューに目を通し、そこでマッシュドポテトと無難にポークカレーを注文した。メニューにはホットケーキなる表示もあった。

――キャンプがてらウィル達でも連れてきたら喜んでくれるだろうか――

 そんな事を考えながら、カウンター前の木製の台座に現れた料理をエルツは手に取ると、一人ゆっくりと食事を始める。いくつか席を離れた場所では二人の冒険者が食事を取りながら言葉を交していた。

「大分、変わったよな。この辺りも」

 そう呟く長身痩躯の男に小柄な少年がカレーライスを頬張りながら尋ね返す。

「昔ってこの辺りって何にもないただの平原だったって本当ですか?」
「ああ、昔はだから大変だったんだぜ。夜にテント張って寝てるとな、よく野性のプターが突っ込んで来て叩き起こされたもんだ」
「うわ……」

 男の話にカレーライスをすくっていた手を止め、苦笑いを見せる少年。ちなみにプターというのは、この辺り、つまりツァーレンウッド森林地帯の西側に主に生息している全身に緑の苔を生え渡らせた豚の事だ。

「でも、そう考えると本当に色々変わってるんですね。オープンαの時なんて、初めはLv10制限だったんですよね?」
「ああ、正確にはLv13まで上げる事は可能だったけどな。まああくまで理論値で、常人にはLv10まで上げる事さえ、夢のような話だった」

 エルツは彼らの話に聞き耳を立てるわけではないが、何となく話の内容が気になり耳を傾けていた。

「今でこそ探索可能なエリアも増えて、この大陸もほぼ解明されてきたが、それこそオープンαの初期なんざ皆あのトロイにすらヒィヒィ言ってたもんだ。Lv10の冒険者が七人パーティで全滅なんてよく聞く話だった」
「七人パーティで全滅……」

 Lv10の冒険者が七人パーティで全滅というならば、いかにあの時の状況が危機迫っていたのかがよく理解できる。本当に一歩間違えれば全滅していたかもしれない。

「まあ、それでも当時、そんな化け物相手に楽々と攻略しちまう奴等は居たんだがな。ほら、お前が憧れてる連中さ」
Masterマスター Guardianガーディアンですか!?」

 少年が興奮した様子で声を張り上げる。

「今じゃ神とまで謳われる連中だが、当時からそのプレーヤースキルは抜きん出てた。特にその中でも団長のShallnerkシャルナークって奴は別格だったな」

 男はそう言って木彫りのコップを手に取る。

「一度だけ、俺も一度だけ奴の狩りを見た事がある。正直震えたよ……次元の違いというか、世の中にはこんな奴が存在するのかと思い知らされた」

 その言葉に少年は、開きっ放しだった口を閉じて中のモノを飲み込んだ。
 男はそんな少年の様子にふっと笑ってコップの中の赤い果実液を飲み干した。

「だが、こうして世界が変わった今、こんな俺でもこうしてお前のトロイ狩りを手伝ってやる事ができる。トロイは手強いぞ、覚悟しとけよ」
「はい!」

 男の言葉に笑顔を見せる少年。

――そうか、この人達はトロイ狩りに来てるんだ――

 よく見れば、見慣れない装備に身を包んだ二人。
 今のエルツにとってはトロイを倒すなんて夢のような話だった。思い出しただけで鳥肌が立つ。あの深緑の化け物の咆哮が、少しでも思い返せば耳に纏わりついて離れなくなる。
 だが、この二人はその敵に立ち向かおうとしている。

「じゃ、そろそろ行くか」
「はい!」

 そうして、彼らは席を立ちキャンプ場の外へと消えて行った。

――格好いいな――

 それが、純粋なエルツの感想だった。
 自分には到底及ばない、今だ見えぬ世界が広がっている。
 いつかは自分も、彼らのような後姿を持ちたいものだと、エルツは切にそう願っていた。
 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ