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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫ 作者:Wiz Craft

〆 第七章 『夢・絆』

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 S2 再・水仙の滝 with Franc

 コミュニティ対抗試合まで着々と準備を進める中、洸玉 土刻 13、この日エルツはちょっとした息抜きも兼ねてフランクと共にあるクエストを請け負っていた。氷刻の末日に行われたバージョンアップで追加されてからCITY BBSで話題を集めていた拡張クエスト「Coolerd Clerkの行方」。このクエストの成功による拡張要素が現状装備を限定されているソルジャーというクラスにとって画期的な内容だった。その内容というのが「ソルジャーの両手剣装備の追加」である。現状、片手剣・槍・片手斧しか装備出来ないソルジャーにとってこの装備種の追加は貴重だった。
 スティアルーフ東門からセントクリス川に沿って北上した二人は、あの採掘場を目指していた。草原を抜け、木立や森を抜け、次第に景観の変化を見せる砂岩の河原を抜け、上流に沿った苔の生えた泥地を抜け、そして約二時間の道程を越え、二人の前には目的地を示すあの美しい滝が見えてきた。

「水仙の滝か……懐かしいな」

 崖上から舞い落ちる美しいその清流の粒子が霧と化し、視界を白く染め上げていた。

「来た事あるんですか?」
「前にソロのLv上げで使った事あるんだ」

 エルツは以前ここへ一人で訪れた時の事を思い出していた。あの晴れた日には舞い落ちる美しいその清流の全貌がはっきりと映し出されていた。
 今、考えれば運が良かったのかもしれない。そんな事を考えながら、エルツは崖下を伝い滝の裏手へと回って行く。霧を巻き立てる滝の裏側には、薄暗い巨大な洞穴がその口を開けている。
 かつてはここラクトン採掘場にはトンネラー狩りにやってきたが、その時は地下二層部への足掛けの位置で探索を止めていた。だが今回のクエストではさらにその深層である三層部まで足を進める必要がある。
 このクエストの目的はラクトン採掘場で行方不明になったと言われる冒険者Coolerd(クーラード Clerkクラークを探し出す事。CITY BBSの情報によると、何でもこのクエストにはマジシャンが一人不可欠らしいが、コミュニティメンバー内に該当する者が居なかったため、Lvの高いフランクが居れば大丈夫だろうと二人でやってきたのだった。
 滝から巻き起こる白霧に煽られた洞窟の口へと足を運んだ二人は肌を包むその冷気に思わず口元を引き締める。水滴のしたたる洞窟へと踏み込むと、岩壁に取り付けられた錆まみれのランプの灯りを頼りに慎重に奥へとその足を進めて行く。

「以前ここ来た時ってソロ狩りって事は一人で来たんですか?」
「うん、一人だったかな」

 暗い洞窟の闇の中で頷いたエルツの様子にフランクは驚きを隠さずに呟く。

「トンネラー狩りって事はコウモリ部屋通ったんですよね。よく一人で抜けられましたね」

 フランクの言葉にあの時の恐怖心が甦る。

「いや、あの時は行く前によく調べてIxionの香水持って行ったから」
「流石ですね。香水で回避したんですか」

 納得したフランクにエルツは首を振りながら嫌でも鮮明に思い起こされるかつての記憶を払うように足を進める。

――正直あの絵はトラウマになる――

 それから五十メートル程進んだ二人は天井が低くなるポイントに差し掛かりふとその足を止める。PBを開き香水を用意するエルツを見てフランクはふと声を掛ける。

「香水無くてもうちらのLvなら走り抜ければ大丈夫ですよ」
「いや、大丈夫かもしれないけど使わなければあの大群に襲われるんでしょ。身体は無事でも精神的に死亡フラグだよそれ」

 エルツの言葉にフランクはふっと微笑すると自らもまたPBから香水を取り出す。
 Ixionの香りを身に纏った二人は、静かにあの広間へと歩を進め始める。部屋が近づくにつれて僅かに聞こえていたゴムキューブを擦り合わせるような騒音ノイズが明確になる。
 騒音から想像される蝙蝠の大群。予想される地獄絵図に備え、二人は今一度確認をし合う。

「来ましたね」とフランク。
「ちょっと待って。今のうちに覚悟決めとかないと」と深呼吸を始めるエルツ。

 そうして深呼吸をした二人がゆっくりと蝙蝠部屋へと踏み込んだその時だった。
 空間の中央の人影、それを見たその瞬間、二人の耳に微かな呟きが響いた。

Explosion(エクスプロージョン)

 微かな発音が聞き取れず二人が首を傾げたその直後、突然二人の視界に閃光が迸る。

「な……何だ!?」

 耳をつんざく爆発音と、激しい熱風に煽られながら、二人は爆風に手を翳しその先に佇むその人影に必至に目を凝らしていた。爆煙の中に見えてきたのは二人の冒険者の姿、そこには見慣れない高位のローブを纏った青年に必至の表情で訴えかける一人の少女の姿があった。
 爆風が収まり辺りが静まりを取り戻す中、爆発に巻き込まれた洞窟内の天井を覆いつくしていた凡そ百匹近くに及ぶであろう蝙蝠達は大量のLEを立ち昇らせ消えて行く。

「ちょっと団長! やるならやるって言って下さい! びっくりするじゃないですか!」

 食って掛かる少女を見据えながら冷静な表情を見せているその青年。十七、八といったところだろうか。フランクとそう年は変わらないようにも見える。

「人生多少のサプライズがあった方が人として豊かになる。そうは思わないのか?」

 青年の返しに肩を落とす少女。

「何訳わかんない事言ってるんですか。もう、パピィといい団長といい何でうちのコミュニティはこう変な人ばかりなの!」

 激昂する少女をなおも冷静に見つめる青年。話を聞いていた限り彼がこの爆発の張本人なのか。

「ククリ……自覚しろ。そして自重しろ。お前も一皮向けば同じ穴の狢だ」
「あーあーあー! 聞こえません」

 耳を押さえながら首を振るククリと呼ばれた少女。そんなやり取りを見つめながら立ち尽くしていたエルツとフランクの姿にここでようやく彼女が気づいた。

「あ! すみません、冒険者の方ですよね。お怪我ありませんか!?」
「あ、大丈夫。お気にせず、無傷だから」

 エルツの返答に少女は胸を撫で下ろすと、深く頭を下げて謝罪する。

「本当にすみませんでした。コラ、団長も腕組んで突っ立ってないでこっち来て謝って下さい!」

 少女の言葉に青年はエルツ達をじっと見つめながら、ふと右手でサインを示してきた。おそらくそれが彼なりの謝罪の仕方なのだろう。

「もうクラスランク上げしたいから手伝って下さいって言ったら、とんでもない事になっちゃって」

 少女のCR上げという言葉に顔を見合わせるエルツとフランク。
 さっきの爆発には見覚えがある。そう、あれはスニーピィさんが得意としていた炎属性の爆発魔法「Explosion(エクスプロージョン」だ。確かLv15から装備が可能になるファイアロッドIIで使用が解放される魔法である。
 この狭い空間で、あんな大爆発を起こして蝙蝠を一掃するという発想は恐ろしいが、高Lv者が低Lv者とパーティを組んで手助けすれば低ランクでのCR上げでは恐ろしい効率を発揮するだろう。

「成果はどう?」
「はい。えっと……うわ。今のでCR3からCR5に上がりました」

 彼女の言葉に声を上げて驚き笑うエルツとフランク。

「マジで」
「十秒で2Rank Upですか。スニーピィさん連れてここ来れば良かったな」

 フランクの言葉にエルツが頷くと、ククリもまたそんな二人の会話を微笑みながら聞いていた。そんな中、そそくさと洞窟の入口の方向へ向って歩き出す青年。

「引き上げるよククリ」
「あ、待って下さいシグマさん」

 少女の言葉に首を傾げるエルツ。

――シグマ? どっかで聞いた事ある名前だな――

 そして、ククリが二人に「それでは、またどこかで」と言って丁寧な礼をして背を向けたその時だった。
 突然天井から一筋の黒い軌跡がククリ目掛けて飛び掛る。

「……危ない!」
「え?」

 エルツの掛け声にククリが振り返るや否や、一筋の剣閃が彼女の眼前で振り抜かれる。
 ペタンと腰を着くククリの隣に落下する一匹の黒蝙蝠。

「ごめん、余計なお世話だったか。蝙蝠が飛び掛ったから反射的に剣振っちゃったんだけど。怪我ない?」
「あ……大丈夫です。ありがとうございます」

 そうして、エルツはククリの手を取り引き起こすと、そこでエルツは彼女に謝罪して洞窟の奥へと姿を消して行く。
 立ち上がったククリは、その様子を黙って無言で見つめていた青年の元へと駆け寄って行く。

「すいません、でもいい人達でしたね。あれ……団長聞いてます?」

 ククリの呼び掛けに黙ってPBを片手に開く青年。

「反射的に……か」
「……団長?」

 当惑するククリに視線を投げずに青年はこんな質問を投げ掛けた。

「アタッカーのお前に聞いておきたいんだけど、飛んでる蝙蝠を空中で叩き落すなんて芸当は当たり前なのか?」
「そんなの無理です。蝙蝠相手に近接武器で戦うなんて考えられませんよ」

 ククリの返答に表情一つ変えず頷く青年。

「プレイヤーネーム……エルツか。一応覚えとくか。それからククリ」
「何ですか団長?」

 見上げるククリに青年はPBを閉じて呟く。

「先帰れ。一人でも帰れるだろ」
「帰れますけど、団長は?」

 首を傾げるククリ。

「少し用事が出来た」

 そうして、青年と少女は別れると静かにその場から姿を消した。
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