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ARCADIA ver.openβ≪Playing by Elz≫ 作者:Wiz Craft

〆 第五章 『双華祭』

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【エピソード】Artistic Player Elz

 長い双華の月も末へと近づいていた。明るい夜空は色を失い、一夜が明けるとそこにはまた次の刻がやってくる。
 そう、暗の刻である。夜が明け時刻が正午を迎えても辺りは薄暗く空はくすんだ灰色に覆われていた。灰色に覆われた世界、大地に生え立つ草木も、流れ揺らぐ水も、そして地表を照らす光さえも暗色に包まれたそんな世界の姿から冒険者達はこの期間の事を灰刻とも呼ぶようになった。
 そんな灰色の空を見上げながらエルツ達は広場へと集まっていた。

「昼だってのに何でこんな薄暗いんだよ」
「二十四日間、これが続くのかな」

 ケヴィンとエルツのそんな会話にユミルが弓の張力を指先で確かめながら笑顔を見せる。

「でも、次の闇刻はもっと暗いですよ。これから四十八日間は暗闇が支配する世界です。二人共、もう光刻の明るい空が恋しくなってきてるんじゃないですか」
「なんか乙女チックですね」とペルシア。

 その言葉に脊髄反射するケヴィン。

「誰が乙女チックだ……でも闇刻か。俺苦手なんだよなあの刻。ハロウィンあるだろ」

 珍しく弱気な発言をするケヴィンにポンキチが横でせせら笑う。

「ふっ……まさかいい年こいてお化けが怖いなんて兄貴そりゃないですぜ」
「お前この後容赦なくぶっ潰すから覚悟しとけよ」

 ポンキチにそう告げるケヴィン。ケヴィンの言ったこの後とは。
 そうエルツ達は今日、刻初めの景気付けのためにPvPをしようと集まったのだった。残念ながらアリエスとトマは不参加だったが、残りのエルツ、ケヴィン、ユミル、ミサ、ペルシア、ポンキチの六名が広場へと集まった。

「組み分けどうする。それとも個人戦?」とエルツ。
「折角男女三名ずつだからな。男と女でペア組んで三チームでいいんじゃね」

 ケヴィンの言葉に一同は頷くと男女それぞれ別れて、それぞれグー・チョキ・パーを始める。

「抽選方法がアナログな件について」と呟くポンキチ。
「確かにこういう時にPBで抽選とか出来たら便利なんだけどな。指定した数値範囲の中で自動的に数振り分けてくれるとか」

 エルツもまたそんな事を呟きながら、男性陣三人は勢い良く拳を振り上げそれぞれサインを決定する。女性陣三人もそれなりに古典的な方法に盛り上がっているようだった。
 そんな女性陣に早くしろと言わんばかりに捲し立てるような口調で声を掛けるケヴィン。

「決まったか?」
「決まりました!」

 ユミルの言葉に女性陣が顔を見合わせて微笑む。
 さりげない和やかな企画の中に生まれる一瞬の緊張感。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 §抽選結果§

 ▼一組目 エルツ×ペルシア ペア
 ▼二組目 ケヴィン×ユミル ペア
 ▼三組目 ポンキチ×ミサ ペア

 §試合ルール§

 降参を宣言、または場外に出た場合アウト。
 基本的にルール無用でただ純粋にPvPを心行くまで楽しむ事を目的とする。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 抽選結果に笑顔を輝かせてエルツの元へ近づいてくるペルシア。

「エルツさん、よろしくお願いします」
「よろしく、ペルシア」

 ペルシアの表情はにこやかだった

「その格好、やっぱり改めてみると普段は恥ずかしいですね」
「まぁ、使いどころは限られるよね」

 エルツは道化の格好で照れくさそうに苦笑した。
 そうして、各組それぞれ分かれるとそこでは話し合いが始められる。

「ペルシア武器何使う?」
「私は弓をメインに使おうかなと思ってるんですけど」

 その言葉に頷くエルツ。

「弓か。了解。それじゃ、自分も適当に使おうかな。作戦立てたいところだけど、向こうのチームの出方によるし。その辺りは臨機応変に行こうか」
「はい、わかりました」

 初めから臨機応変という戦術を採るならば、別段ペルシアに使用武器を聞く必要も無かったのだが、だが敢えてエルツはそこに触れずに自分を戒めた。

――どうも最近弛んでるな――

 ここらで気持ちを少し引き締めねばなるまい。Master of Magicianのあの一件からどうも自分自信のたがが緩んでいる。
 エルツはそうして自らの頬を両手で叩くと気を引き締めるのだった。

 灰色の空の下、一同は三角を結ぶように距離を取って位置取りそれぞれの姿を確認する。

「それじゃ始めるか」

 振り上げられるケヴィンの剣。そして今ゆっくりとその剣が振り下ろされ、それが試合開始の合図となる。
 試合開始と同時に一斉に動き始める一同。まず動き始めたのはケヴィン×ユミル組だった。
 最初からエルツ達に目を付けていたのか真正面から特攻を仕掛けるケヴィンに対してエルツが迎え撃つ。エルツがケヴィンに対して一歩前に出て迎撃体制を整えようとしたその時だった。空から舞い降りた一筋の光に慌てて身を引くエルツ。

「ユミルか……弓で後方援助。王道だな」

 その様子に慌てて駆け寄ってくるペルシア。

「ペルシア、ユミルの対応を頼む。ケヴィンはこっちで引き付けるから迂回して死角からユミルに仕掛けてくれ」
「わかりました。エルツさんでもその武器で大丈夫なんですか?」

 ペルシアの言葉にエルツは微笑する。

「実験をしたいんだ。成果が表れれば、今から十数秒後にはケヴィンは脱落するよ」

 その言葉に驚きの表情を見せるペルシア。

「わかりました。でもエルツさん無茶しないで下さいね」

 そして、弓を抱えて大きく迂回しながらユミルへと駆け始める。
 その十秒間、エルツはユミルとケヴィンの二人の攻撃を一人で請け負う事になる。
 走り込んでくるケヴィンの姿を見つめながらエルツはワンダーロッドを片手に構える。
 空から舞い降りる矢弾、そして眼前には剣を構え走りこむケヴィンの姿。

――それはまさに培われた経験が活かされる時――

「Master of Magicianとやらを倒した実力、見せてもらおうか」

 走りこんだケヴィンの剣撃をエルツは大きく横へ身体を流して避けると、そこにはユミルが放った矢が迫っていた。
 このまま身体を流せばエルツは矢弾の餌食に、身体を止めればケヴィンの剣撃をロッドで防ぐ手立ては無い。
 だが、エルツは全く慌てる事無く事態を冷静に把握していた。
 身体を流し切ったエルツは眼前に迫る矢に対してすっと手を振り翳す。そこには絶妙のタイミングで生成され膨張し行く水球の姿があった。
 放たれた矢弾はその勢いを消され水球へと飲み込まれる。

「Water Sphereか。いつの間に……?」

 その存在に気づいたケヴィンが慌ててエルツから距離を取ろうとしたその時だった。

「残念だけど……もう逃げられないよ」

 ケヴィンの剣を握った手首をしっかりと掴み身体に引き寄せるように固定するエルツ。
 剣を持った腕を固定されたケヴィンは為す術無く水球へと飲み込まれて行く。

「実験段階だったんだけど、充分に実用的だな」

 驚愕の表情でエルツを見つめるケヴィンを前にエルツは振り翳したロッドを片手にケヴィンに微笑み掛ける。

「さよならケヴィン」

 水球に閉じ込められケヴィンが場外へと放たれる様子を見て驚愕する一同。
 水球は場外へと飛び出した瞬間四散し地表にケヴィンの身体が投げ出される。
 その状況にユミルが当惑していたその時。背後から首元に突きつけられる鋭い眼差しにユミルは硬直する。

「動かないで、チェックメイトです。ユミルさん」

 ペルシアの突きつけられた矢先を前に、ユミルは静かに状況を把握し降参を宣言する。
 それは開始から僅か十数秒の出来事だった。その展開を遠目から見つめていたポンキチ×ミサペアはただ茫然自失としていた。

「嘘……こんなに早くあの二人が脱落するなんて」
「しかもあれMagician of Blueの戦術では……これだからお兄様はぁぁ!」

 苦言を漏らしながら今向けられるエルツ×ペルシアの視線に戸惑う二人。

「近づくのは危険でしょうか」
「とりあえず爆笑してる暇は無さそうだ。ここはひとまず距離取って様子見るのが安全でし」

 ポンキチがそう言葉を漏らしたその時、彼らの視界にはロッドを片手に勢い良く走り込んでくるエルツの姿が映った。同時に後方から仕掛けられるペルシアの矢弾攻撃。

「ロッド片手に突っ込んでくるお兄様を確認しました。理解不能」
「私はペルシアさんの対処をします。ポンキチさんはエルツさんをお願いします」

 ミサの言葉にポンキチは短剣を引き抜くと、視界の中にエルツを捉える。

「自分から突っ込んでくるとは手間が省けましたぜ。僕はケヴィンの兄貴とは一味違いますぜお兄様」

 そうして迎え撃ち今飛び出すポンキチ。そして走り込んできた二人の距離が三メートルに近づいたその時だった。突如背後にロッドを回し、そこから石弾を現すエルツ。

「あれは、ストーンブリッツ。背中でフロートを隠してたのか」

 咄嗟に身の危険を感じたポンキチが走りこみを止めエルツに対して身構える。

――右か左か……果たしてどっちに撃ちこんでくる――

「こっちでし」

 ポンキチが咄嗟に左に身を流すとエルツは正確にポンキチを目掛けて石弾を発射する。

「しまっ…うぁぁ!」

 石弾の直撃を受けたポンキチはその場に転がりながら必至にエルツと距離を取ろうと起き上がる。

「ポンキチさん!」

 慌てて駆け寄ろうとするミサだが、弓で狙いを定めているペルシアを前に身動きが取れない。
 衝撃を堪えながら必至に身を起こしたポンキチは向けられた視線に思わず身体を硬直させる。眼前に佇むは掌に真っ赤な火球を生み出しその不敵な眼差しを向けるエルツ。
 身の危険を感じると同時に大きく後方へ向けて走り出すポンキチの背中に直撃する火球。
 かつてないエルツのプレッシャーにポンキチは炎上する背中の火を消そうと転げ回る。

――なんだこの戦術……これはまるで――

 相対するプレッシャーを前にポンキチはふとある感覚を思い返していた。

――オートマタ戦みたいだ――

 前方では緑色の鉱石のついたロッドを手にするエルツの姿が。
 だが、Magician of Green戦を体験していないポンキチにとってエルツのその攻撃方法を予測する事は難しい。

「くそ……ただでは負けないでし」

 必至に身体を奮い立たせエルツへと特攻を仕掛けるポンキチ。
 遠距離から放たれる真空刃、だが近づけばまるで柳のような身のこなしでポンキチから逃げるエルツを捉える事は至難だった。
 背を向け逃げるエルツを必至に追い掛け近距離戦を望むポンキチ。
 そしてゆっくりと減速するエルツの姿を前に、ポンキチが今エルツを捉えようとしたその時だった。
 突然、振り向いたエルツのその姿にポンキチは短剣を構えた腕を振り下ろす。だが同時に視界に映るは青色の鉱石が光るロッド。
 変幻自在に戦闘中に装備を変更するエルツ。そう、今もエルツは逃げながらその手元を自らの身体で背後のポンキチに対し隠し装備を変更していたのだった。
 そしてウォーターロッドを手にしたエルツが取る戦術はここで確定する。
 振り下ろされたポンキチの腕をひらりと流し、そしてその腕を自らの脇で固定するエルツ。

「……しまった!」

 ポンキチの眼前で膨れ上がる水球。そして今ポンキチはケヴィンと同様、その水球の中へと閉じ込められてゆく。
 そしてポンキチの身体が場外へと放たれるのを確認した時、残されたミサもまた降参を宣言した。
 その光景を場外から見守っていたケヴィンとユミルが呆然とした表情で呟く。

「あいつどうなってんだ……あいつほんとにエルツか」

 明らかに変化を遂げたエルツの立ち回りを前に驚きの色を隠せない二人。
 そこにはワイルドファング戦を共に戦ってきたエルツの姿は無かった。
 そんな周囲の視線を受けながらエルツは広場で一人立ち尽くしていた。

――オートマタ戦……すべては自分の血肉になっている――
――人が経験して蓄えた知識には無駄なことなんて、何一つないんだ――

 あの時、刻んできた一瞬一瞬の軌跡は全てエルツの力となっていたのだ。
 それは誰の目にも明白な『進化』だった。
 だが、エルツは同時に自らの問題点を認識する。

――それは……自らのプレイスタイルにある――

 今までエルツがこの世界で培ってきたほぼ全ての行動は今までの経験、または決められた攻略情報に従ってそれを忠実に再現したものに過ぎない。
 そこがエルツが抱える重要な問題の一つだった。廃人とは呼ばれながらも自らがそんな肩書きを持つ者に相応しくない事は自身が一番理解している。頂点に憧れながらも今一歩及ばない。中途半端なグレイゾーンでくすぶる自らのそんな立ち位置は揺るがない。
 エルツが今まで憧れてきたトッププレイヤーにあって自分には無いもの。それは……

――オリジナリティ――

 様々な苦難の局面を自らの力で切り開いていく力。オリジナリティとはそうした局面に対しての自らの試行錯誤の積み重ねによって生まれる一つの芸術だ。
 だが、エルツにはそうした困難な局面を自ら打開する力は見られない。今まで自ら経験した事、または入手した情報を組み合わせる事でしか状況を打開する事は出来ない。
 それゆえに今までに経験した事の無い困難な状況への対応が極端に弱い。
 与えられた情報をなぞる事で生まれるスタイル、そう言わばエルツのスタイルは

――Copy Style[コピースタイル]なのだ――

エルツ自身はそう思っていた。
だが、周囲を見てみると、今や大拍手が巻き起こっていた。

「おい、見ろよ。あれワンダーロッドだぜ。すげぇ」
「あの人の立ち回り、超かっこいい。魔法ってあんな、使い方できるの初めて知った」

――道化を最後まで演じるか――

エルツは観衆に向かって深く一礼を行う
その場には大観衆によるさらなる拍手が巻き起こっていた。

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