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イチゴ大福隠滅大作戦

作者:黒燕
「だいたいなんで僕が……」
 わがままな姉にこれ買ってきてと言われ、イチゴ大福「夢いちご」の売っている「杏杏堂」に向かっている僕は一人で愚痴をこぼしていた。
「自分が食べたいなら自分で行けばいいじゃないか全く……」
 姉いわく「史上最強のイチゴ大福」と呼ばれる「夢いちご」は「春絶対に食べなきゃいけないスイーツ」だそうだ。もともと和菓子が好きではない僕にとってはただの大福にしか過ぎないが。
 「杏杏堂」は僕の家から歩いて15分ほどのところにある老舗和菓子店だ。母さんがたまにヨウカンを買ってくるがさきほども言ったとおり僕は和菓子で好きではない。姉もどちらかと言えば洋菓子派だが「夢いちご」は特別だそうだ。
 商店街を抜け二つ目の角を右に曲がる。そうすると「杏杏堂」といった古びた看板が見える。
 中に入ると客は一人もいなかった。奥に60代の前半くらいのおばあさんが一人ちょこんと座っていた。
 僕はおばあさんに
「夢いちご4つ下さい」
 と言い姉からもらった千円を渡した。
 するとおばあさんは困ったような顔をして、
「ごめんね。3つしか残ってないのよ」
 と言った。
 まだ時刻は2時前。姉から「杏杏堂」の開店時間は10時と聞いている。最初に何個あったのかは知らないがよほど人気なのだろう。
「そうですか、じゃあ3つでいいです」
「ごめんね。かわりに200円にしたげるからね」
 そういうとおばあさんは丁寧な手つきで「夢いちご」を箱に詰め始めた。
 お釣りの400円をもらい僕は店を出た。
 これで150円の儲けだ。その150円でジュースを買い家に戻った。


 家では姉が玄関で仁王立ちで待っていた。
「ちゃんと買ってきた?」
「うん」
 姉の威圧感に僕は3つしか買えなかったと言えなかった。
「そ、じゃあ食べよ」
 姉がリビングから皿を二つ持ってきて階段を上り僕の部屋へと向かった。
「なんで僕の部屋なんだよ」
「だって汚れたら困るじゃん」
 この馬鹿姉め……。
「さ、食べよ食べよ」
 姉が箱に手を伸ばしたと同時に下から声が聞こえた。
「佳代〜電話よ」
「は〜い。郁人用意しといて。先に食べててもいいから」
 姉はそう言うと足早に去っていった。
 ドタドタという足音が響く。 
 さて、じゃあ頂くとするかな。
 箱を開けると「夢いちご」はプラスチックのトレーのようなものにのっていて隙間なく3つ並んでいた。僕は箱から「夢いちご」を取り出し姉の皿に二つ、僕の皿に一つ置いた。何も聞いていないが普通に考えてこうなのだろう。聞いてないというか姉が3つだとは知らないのだから何も言えないだろうが。まあどちらにしろ二つ食べたいとは思わないけど。
 そしてかぶりつく。
「う、うまい……」
 思わず感嘆の声が出た。
 まず一番最初に生クリームが飛び出しその後にイチゴの酸味と甘味、そしてケーキのスポンジのようなものの食感。これこそは「史上最強のイチゴ大福」だ。
 僕はあっという間に「夢いちご」をたいらげた。
 さて、問題はここからである。僕はどうしてももう一つ食べたくなってしまった。そして目の前には二つの「夢イチゴ」。
 本来の僕なら姉の仕打ちが怖く我慢するところだか今日は違った。いつまでも姉に振り回されてたまるか! 僕は姉の皿にのった「夢いちご」を手に取り自分の皿の上にのせた。
 そう「夢いちご」は最初から二つしかなかったという事にすればいいのだ。相手は馬鹿姉。僕の頭脳が勝るに決まっている。
 さてこの状況でどうすればよいか。
 まずはお釣りである。今僕のポケットの中には250円しかないこれでは一瞬でばれてしまう。ケチな姉がお釣りを請求しないわけがない。僕は机の中から財布を取り出し500円玉を取り出し250円を中に入れた。結果的に少し損してしまったがそれはしかたない。
 これでお釣りはよしと。まさか姉がレシートを求めることはないだろう。いやあり得るかもしれない。そのときは貰わなかったことにしてと。
 次は大福の下にあったプラスチックのトレーのようなものだ。これはゴミ箱に捨ててしまえばいい。まさか姉がゴミ箱を見ることはないだろう。いや、ここは念には念を入れて机の中だ。
 口の周りについた生クリームは舐めて服で唾液をふき取った。
 生クリームの飛び散ったところはない。
 よし完璧だ。
 下から足音が聞こえてきた。姉の電話が終わって階段を上がってきているのだ。
 僕はもう一度辺りを見た。「夢いちご」が3つだったと思わせるものはない。
 足音はどんどん大きくなる。
 しまったぁ!! 粉だ。僕の手には大福の周りについてた白い粉がついている。皿の上にはプラスチックのトレーごと大福がのっている。プラスチックごと取り出すのに手に粉がつくわけがない。服でふき取っても粉は服に残ってしまう。甘いもの関係の姉が気づかないわけがない。今日は学校もないのでハンカチは持ってないし、本来ならあるティッシュもこの季節は花粉症の姉にとられてしまう。足音が終わった。姉が階段を上り終えたのだ。後数秒で姉は僕の部屋に入ってくる。そうか!
 僕が「夢いちご」を手に取りくわえたのと同時にドアが開いた。
「おまたせ〜あれ? 2個しかなかったの?」
 こういうことになると姉はものすごく敏感になる。
 少し間を空けて僕は「うん、売り切れてたんだ」と答える。
「そっかあ、やっぱ人気なんだな〜あれ。今度からはもう少し早めに行かなきゃね」
 残念そうな顔を見せて姉は床に座った。よしばれていない。
「いったっだっきま〜す」
 そういうと姉は大福を手に取り嬉しそうに眺めてからかぶりついた。 
 何事もなかったかのように僕も「夢いちご」を口に含んだ。やっぱりおいしい。
「う、うまい……」
「でしょ」
 うまいことなどもう分っているがここは言っとかなきゃと思いさっきと同じ言葉を言う。
 それからはどちらも口を開くことなく黙々と食べ進めた。
 全て食べてから姉が口を開いた。
「ねぇ」
「ん?」
「3つだったんだよね?」


 なぜだ。たしかに十分な時間はなかったが姉が三つだったと気づくようなものは何もなかったはずだ。まさかさっきの電話が「杏杏堂」からだったとか?
「うん」
 ここは負けを認めよう。言い訳したらもっと格好が悪い。
「やっぱり……。じゃあこれは郁人のおごりね。千円返して」
 僕はしぶしぶ立ち上がり机の中から財布を取り出す。
 そのとき先程隠したプラスチックのトレーも出てきた。
「ふ〜ん。このことまでして隠したんだ。自分が2つ食べたいなら素直にそういえばあげたのに」
 嘘だ。ケチな姉がくれる訳がない。
「なあ教えてくれよ。なんでわかったんだよ」
 姉はしばらく困ったような顔をしてから口を開いた。
「郁人は初めてだから分んないだろうけど杏杏堂のおばちゃんはいつも隙間なくきちんと詰めるの」
 ……そうだったっけ?
「そこでこの箱よ。この箱のサイズは3このときのもの。だから」
 僕は苦笑した。
 なるほど。これはおそらく時間のせいじゃない。あと1時間あろうが2時間あろうが僕は気づかなかっただろう。というか気づいたところで何もできない。完敗だ。
 僕は財布から千円札を取り出し姉に渡した。
 姉は「かっかっかっ」と僕を嘲笑うかのような声を発した。
「佳代〜また電話」
 下から母さんの声が聞こえた
「は〜い。というわけでごちそうさん」
 そういうと姉は嵐のように去っていった。
 机の上にはプラスッチックのトレー二つと問題の箱、皿。
「あ〜あこれで千円いや750円の損か」
 一人呟いてからベットに倒れこむ。
 遠くで鶯が鳴いた気がした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
じつはこれノンフィクションだったりして……。
『犯罪が出てこないミステリー企画』 には、他にも面白い作品がたくさんあります。


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