後編
ドタドタドタ・・・・
ガサガサガサ・・・・
早朝、家の中を響き渡る物音。
発生源は俺の部屋。
現在プレゼントの捜索中。
ドタドタドタ・・・・・
ガサガサガサ・・・・・
「カズキ!朝からうるさいわよ。何してるの!」
母の怒りが、家の中に響き渡った。
「プレゼント探してるんだよ!」
母の面倒な行為によって生まれた怒りが呼応した。
「こんな朝っぱらから探さなくてもいいでしょ。それよりご飯できてるから、食べに来なさい」
「ああ。すぐ行く」
1階の居間。焼き魚と味噌汁、ご飯が並んだ我が家の食卓。
昨日のクリスマスを微塵も感じさせない、いつもの姿である。
「いただきま〜す」
嬉しそうに涼香が言う。
その姿が今の俺には腹立たしく思えた。
昨日のプレゼントでウキウキしているのはわかるが、こっちも事も考えろ!
俺はまだプレゼントとご対面できずに、イライラしてきてるんだぞ!
ぶすっとした表情で俺は魚を頬張った。
食後お茶をすすっていると、涼香が俺に話しかけてきた。
「アニキ、今日どこか行かない?」
「ん?何でだよ」
「昨日もらったプレゼントを使いたいの?」
おれのイライラに油を注ぎやがった。
「別に俺じゃないくてもいいだろ?友達でも誘えよ」
「え〜!?だって友達と撮っても面白くないもん。アニキならどんな姿でも絵になるし」
「そりゃ〜モデル並みのスタイルだからな」
「ううん、違うよ」
キッパリ否定。
「アニキを撮ればどの絵も面白おかしくなるから、ネタになるの。みんなに見せたら話題なくなる心配ないしね」
油1トン追加しま〜す。
「ふざけるな!そんな事なら尚更行かん。もともと行くつもりないし」
「行こうよ。絶対楽しいから」
おまえがな。
「今日俺には予定があるの。先約が入っているから涼香とどこか行くのは無理」
というか、嫌!
「う〜む。アニキのケチ」
というか、バカ、アホ、マヌケ、ブサイク。お前の母ちゃん、で〜べそ。
自分の母親をけなすな。
むむむ〜、まだお尻青いくせに!
・・・・・。
・・・・。
・・・。
言葉にならない暴力は止めましょう。結構傷つくから・・・
◇
涼香との口論を終えた俺は、自分の部屋に戻っていた。
「よし!宝さがし、再開!!」
気合いを入れなおして、捜索を開始した。
『か・ず・き・く〜ん』
ん?
今俺を呼ぶ声が聞こえたような・・・
『か・ず・き・く〜ん』
聞こえる、俺を呼ぶ声が。
プレゼントが俺を呼んでいる。
「待ってろ!今見つけてやるから」
俺は声が聞こえてくる方へと向かった。
向かった先は、部屋の中にある唯一の窓。声はこの向こう側から聞こえてくる。
期待に膨らむ思いを押さえて、俺は窓を開けた。
ガラガラガラ・・・・
窓の向こうに現れたのは、迷彩柄のクマ?
あれ?俺のほしいプレゼントじゃないような・・・
「か・ず・き・く〜ん」
迷彩柄のクマが喋りかけてくる。
おお・・なんとも恐ろしい光景だ。
「おはよう!かずき君」
「おはよう・・・」
「ねぇ〜私かわいいでしょ?」
「はぁ・・・かわいいですね」
「ウフ。かずき君ならそう思ってくれると信じてた」
このクマ、今ウフっとか抜かしたぞ。
口調も女の子だし。ちょっとキモイ・・・。
「かずき君さぁ―」
「その気持ち悪いしゃべり方やめろ!キヨミ」
「あら〜、バレた?」
クマの横からキヨミが顔を出した。
「ばれるも何も、始めからわかってたし」
「なんだ〜、つまらないなぁ」
キヨミは頬を膨らまして拗ねたような顔をした。
俺の家とキヨミの家は横に並んで建っていて、俺の部屋からキヨミの部屋が見えるような造りになっている。
女の子の部屋が見える、普通の男ならうれしく思える環境だろう。しかし、相手がキヨミとなれば話は別である。
この窓はいつしか俺とキヨミの電話代わりとなっていて、重要な事からくだらない事までここを通して話が行われる。ほとんどくだらない話だが・・・。
よって、俺のプライバシーはご近所さんに筒抜け。キヨミの爆弾発言により、俺の素性はこの地域に住む人はもちろん、偶然通った人にまでバレている。
「ねぇ、カズキ」
「なんだ?」
「これ・・・良くない?」
迷彩柄のクマの縫いぐるみを指して、キヨミが訊ねてくる。
「ああ、いいと思う」
キヨミにしては珍しく女の子らしいアイテムだ。
「だよね。やっぱりカズキは私のよき理解者だ」
「ん?別におかしいところなんて、ないよな・・・。何かそいつにおかしなところでもあるのか?」
「ううん。それがね、私がこのクマかわいいって言ったら、お父さんとお母さんがおかしいって言うの」
「普通にかわいいと思うが・・・」
「だよね。だって迷彩柄だよ!自然の中で迷彩のクマがいたら絶対最強だと思うよね。そんな最強のクマちゃんを可愛いと思わないなんておかしいと思わない?」
さすがに現実を交えられると可愛いとは思えん。
最強の捕食動物となったクマなら尚更・・・。
「カズキは私と同じだね」
ごめんなさい。どうやら間違いでした。
「このクマの何が良いって・・・」
俺の思いとは裏腹に、その後迷彩クマの話は続いた。
「カズキはプレゼント何貰ったの?」
クマの話が終わり、痛い所を突いてくるキヨミ。
「実はまだ貰ってないんだよ。で、今探しているところ」
「そうなんだぁ〜。それならさ、私が探すの協力してあげようか?」
「別にいいよ。たぶんすぐに見つかるだろうし」
「私に任せなさいって。今すぐそっちに行くね」
俺の言葉を無視して、キヨミはこっちにやって来ようとしている。
窓枠に足を置いて、こっちに飛び込んでくるつもりらしい。
「行くよ!」
キヨミが掛け声を上げる。
・・・・。
って、ちょっと待った!
「待て、キヨミ!」
「ん?」
「おまえそこからここに来るつもりか」
「そうだけど」
「アホだろ!お前の部屋から俺の部屋まで何メートルあると思ってるんだ!!」
「へぇ?」
「へぇ?じゃねぇーよ。3メートル以上ある所を飛べるわけないだろう」
「私魔法使いだから・・・てへ」
「・・・」
キヨミのバカさ加減に呆れたものの、何とか飛んでくることだけは阻止出来た。
残念そうな顔をするキヨミを見て、飛ばせておけばよかったかもなんて思った事は内緒だが。
結局捜索の協力は断れず、キヨミが家へ来る事になった。
最強の助っ人を連れてくるとか言っていたけど、誰を連れてくるつもりだよ。
「カズキ!ちわっす」
ドアを勢いよく開けて、キヨミが部屋へ飛び込んできた。
「ちわっす、キヨミ」
「プレゼント捜索隊、只今参上しました」
「ご苦労さん。で、助っ人って誰連れてきたんだ」
「よっ!アニキ」
わが妹が仲間に加わった。
最強の助っ人って・・・コイツかぁ。
「なんで涼香が最強の助っ人なんだよ」
俺は露骨に嫌な顔をした。
「違うよ。ここに来る道中で、偶然捕まえたの」
「そうですか・・・」
「で、最強の助っ人はこっち」
キヨミの背中から2つの物体が姿を現す。
・・・。
それ・・・さっきのクマでは?
「この子たちが居れば、見つからないものはないよ」
そういうキヨミの左肩には、もう一人の助っ人が乗っかっている。
迷彩柄の・・・何?
「あ、自己紹介がまだだったね。この子がテディーベアのファルコン!で、こっちの子がピンクパンサーのランちゃん!」
おお〜、ピンクパンサー殿でしたか・・・
もはやピンクじゃないけれど。
「で、そいつらが俺のプレゼントを見つけてくれると?」
「うん」
どうやら捜索は難航しそうです。
3人と2匹?は俺の部屋へ何とか入った。
そんなに広くない部屋に、この人数は正直きつい。
動きづらくなった現状に、一人で探し物をした方が良かったとしみじみ思った。
「カズキ」
「なんだ?キヨミ」
「プレゼントってどんな物?」
「見てないからわからん」
「匂いは?」
「そんなことはわからん。ただ匂いはしないと思う」
「それじゃあ・・・この子たちの役目は無いんだね」
残念ながら、もともと役には立たないぞ。
キヨミ、もっと現実を見ろ。
残念そうなキヨミを他所に、涼香は黙々と探し物をしていた。
「あっ!」
突然、涼香が声を上げる。
「どうした!何か見つかったか?」
「これ・・・」
俺とキヨミは涼香の手にのっている物体を見つめた。
・・・・。
・・・・。
「うわあぁぁぁぁぁ」
「キャーー」
俺とキヨミの叫びが部屋中に広がった。
涼香の手の上にいるもの。
黒い胴体に無数の毛が生えている物体。
6本の足、体に描かれた黄色の紋章。
間違いない!
テレビでお馴染みの奴だ。
「タ、タ、タランチュラ」
なんで俺の部屋にそんな危険な生き物がいるんだよ!
そんなモノ飼った覚えはないぞ!
「ここにいたんだね」
涼しい顔で涼香はやつを見つめている。
「涼香!早く捨てろ!」
「大丈夫。だってこいつ生きてないもん」
「へぇ?」
「すっかり忘れてたけど、こんな所にいたんだ。アニキを驚かせようと思って仕掛けていた事忘れてたよ」
「涼香?おまえ・・・」
ようやく状況が整理できてきたぜ。
「何しとんじゃー!!」 「カワイイーーー!!!!」
俺の怒りはキヨミの声にかき消された。
「これ可愛いね」
「やっぱり。キヨミさん、こういうの好きだもんね」
女の子がエライ発言をしてますぞ。
「アニキ、これ可愛いよね?」
「・・・」
どうやらこの空気にのれていないのは俺だけのようです。
キヨミと涼香がタランチュラについて熱く語り合っている間、俺は一人捜索を再開した。
机と壁の間、ベッドの下、絨毯の下。
すべてにおいて涼香の仕掛けが見つかった。
俺の部屋はいつの間にかデンジャラスなサファリパークへと変貌していたようだ。
もしも知らずに大掃除を迎えていたら、
・・・・
恐ろしくて想像したくない。
たぶんショックで死んでいただろう。
『妹の仕掛けに兄死にかけ』
今年最後のニュースをこんな記事で飾りたくはないな。
しばらく一人で作業していると、途中でキヨミと涼香も作業を加わった。
10分間もよく語り合えたものだ。
部屋の大半は調べたが、依然プレゼントは発見できず。
もしかしてこの部屋にないのか?
不安を抱えながら、残った押入れの捜索に踏み入った。
「やっぱり隠すとなると、ここしかないよね」
「そうだよね。でも、ここアニキがよく目にする場所なのかな?」
同感だ、妹よ。押入れなんて頻繁に開ける場所じゃない。
「まあ、探してみればわかるよ」
キヨミが押入れの扉を開いた。
ガサ、ゴソ、ガソ、ゴソ、・・・・
キヨミと涼香が押入れの隅々を探索する。
二人分の幅しかない押入れの入口。
俺は二人の探索風景を後ろで見守っている。
「案外キレイにしてるんだね〜」
「まあな」
「よし、今度はココにドッキリを・・・」
「変な事を考えるな!」
ふざけ合いながらも、調査は真剣に行われた。
「やっぱりないね・・・」
「ホント」
結局押入れからも見つからなかった。
それじゃあ、俺のプレゼントはどこに?
次の探索ポイントを考えている俺の前で、キヨミが押入れの扉を閉めようとした。
その時だった。
「あれ?押入れの天井に・・・」
「ああ〜。あれは屋根裏部屋へ繋がる扉だよ」
涼香が答える。
「あそこ・・・怪しいね!」
キヨミの目が光る。
屋根裏部屋。
普段は使われないため、いつしか家族みんなの記憶から除外された場所だ。
・・・・。
って、ちょっと待った。
心の声を無視してキヨミが扉を開ける。
そこは、
俺の・・・俺の・・・
シークレットプレイスじゃねぇかよ!
<シークレットプレイス>
俺の大切なシークレットアイテムを保管している場所である。
シークレットアイテム、それは・・・男の宝である。
「ちょっと待った!」
俺は大きな声でキヨミを止めようとした。
しかし、キヨミはそれを無視して屋根裏部屋へ顔を突っ込んでしまった。
終わった・・・。
俺のテンションは最低のラインまで落ちて行った。
「あっ!あったよ」
「え?」
キヨミが屋根裏部屋から綺麗に包装された物体を取り出してきた。
「キヨミさん、すご〜い」
涼香がキヨミを褒めたたえる。
キヨミの手には確かにプレゼントらしき物があった。
でもどうしてココに?
『和樹がいつも目にする場所に置いているから』
母の言葉が頭をよぎる。
いつも目にする場所=シークレットプレイス
なるほど!敵ながらあっぱれ。
って、もうシークレットじゃなくなってるし。
一体いつから知っていたんだマイ・マザーは・・・。
プレゼントが見つかって嬉しい反面、母への恐ろしさに震えた。
「ねぇ、カズキ。プレゼント開けてみてよ!」
「そうだよ。アニキがどんな物願ったのか気になるし」
「わかった、わかった」
急かす二人を前にして、俺は包装を取り外していく。
「いくぞ!」
最後の包装を破り捨てて、プレゼントがその姿を現した。
「・・・」
「・・・」
「・・・はぁ?」
姿を現したプレゼント。それは予想に反するモノだった。
サンタがくれたプレゼント。
それは、シークレットアイテム×3。
どういう事だ?
高校生になってレベルアップしたはずのプレゼントが、なんでこんなモノなんだ。
ロレックスは?高級なプレゼントは?
変な方向にレベルアップしてしまったアイテムに、俺たちはただ黙っているしかなかった。
「カズキ・・・」
「アニキ・・・」
冷たい視線が俺に突き刺さる。
俺だってこんなモノ望んでないぞ!
反論したいが、そんな状況ではない。
「最低」
キヨミの一言に、部屋の気温が一気に下げられた。
◇
ドタドタドタ・・・
「母さん!」
俺はプレゼントを抱えて、居間で寝ころんでいる母を怒鳴りつけた。
「なんだよ、これ!!」
プレゼントを母に突き付ける。
「あ、プレゼント見つけたのね」
母は冷静に言葉を返してきた。
「見つけたのね、じゃねーだろう。何だよ、このプレゼントは!」
「あら?カズ君の欲しかったものじゃなかった?」
「なんで俺が、こんなモノをクリスマスプレゼントとして欲しがるんだよ!」
「だって先月燃やしちゃった時、すごく落ち込んでたじゃない。俺の宝が、青春が・・・なんて言って」
うん。確かに言いました。
「だからって、こんなモノを欲しがるわけないだろ!」
「そんな大声あげないでよ!もうプレゼントしてしまったんだから、仕方ないでしょ」
俺は泣きそうになりながらも、母をじっと睨みつけていた。
「それいいじゃない。クリスマスのプレゼントとしては最適よ」
「なんでだよ」
「聖なるプレゼントが性なるプレゼントなんて」
下ネタでキレイなオチをつけようとするな!クソババァ!!
俺は母が枕に使っていた座布団を、引きぬいてやった。
「はぁ〜」
ナーバスな気持ちを隠しきれない俺はトボトボと階段を上がっていた。
期待を込め過ぎた俺が悪いのだろうか・・・。
昨日夢の中で膨れ上がったプレゼントは、跡形もなく消え去った。
手には現実のプレゼントが抱えられている。
これでどうしろって言うんだよ!
俺はプレゼントに目を向けた。
聖なるプレゼント・・・性なるプレゼント・・・。
どんどん気持ちが落ち込んでいく。
俺は頭を振って、気持ちを前向きに切り替えた。
こいつらに罪はない。そうだよな?
俺が夢を見たのが悪いんだ。
こいつらだって俺を落ち込ませたくて存在しているわけではないんだから。
落ち込んでいた気持ちが、少しずつ上がっていく。
俺が悪かった。
心の中でプレゼントに謝った。
聖なるプレゼントは、精が出る(やる気を出す)プレゼントへと変わっていった。
俺の顔にも笑顔が戻ってくる。
平凡なクリスマスは、最後に笑顔をプレゼントしてくれた。
パシャ
階段の上から光が飛んでくる。
そこにはデジカメをもった涼香がいた。
「へ・ん・た・い」
嬉しそうに涼香がつぶやく。
・・・。
やっぱり最低のプレゼントだ、バカヤロー!!
後日。
エロ本を持ってニヤつく俺の写真が近所にふりまかれたのは言うまでもない。
―消えたクリスマスプレゼント(完)―
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