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無幻真天楼
作:島原あゆむ



第五回番外編:六 まきょう


【ギョヒヒー!ギョヒヒー!!】

という何とも爽やかとは程遠い何かの鳴き声で京助は目を覚ました
体を起し伸びをして異変に気づく

「…何処だここ…」
そこは見慣れた自分の部屋ではなくピンクや黄色、よくわからないものや見たことあるもの小さいもの大きいものがまるで幼稚園児の絵画の様になっている空間

「…悠?」
悠助の名前を呼んでみる
「…緊那羅?」
次に緊那羅を呼んでみた

「なんだっちゃ?」

「うおぉ!?;」

いつからそこにいたのか返事をした緊那羅に驚いた京助が後ろに数メートルずり下がる
「…京助?」
緊那羅がきょとんとして京助を見た
京助も緊那羅を見て緊那羅の格好の異変に気がつく

「…なんだその格好…;」
【なんだ】と指摘されて緊那羅が自分の格好をぐるりと見る
「いつもと変わりないっちゃよ?」
立ち上がりくるっと一回転して緊那羅が首をかしげた

「なんなんだよ!そのトラビキニはッ!!;」

頭に角の代わりにウサギの耳がついていたがその格好はまるでそう某宇宙ギャグラブコメディのヒロインそのものだった
「なんなんだよっていわれても…コレが私のいつもの格好だっちゃ」
緊那羅がしゃがんで京助と目の高さをあわせた
「着替えろ;」
そう言って京助が緊那羅を軽く押した

ふにっ

「……」
掌全体で感じたのはかたすぎずも柔らかすぎずのさわり心地
「……」
ゆっくりとその感触の正体を確かめるべく京助が目を向けた

ふにっ

そしてもう一度その感触を確かめる
「緊那羅さん」
それはたぶん男のロマンの要素に数えられるもので
「なんだっちゃ?」
本来なら緊那羅にあっていいものなのかと悩むもので
「…何ですかね?コレは」
「何でもできる証拠だっちゃよ?」
その感触の正体は二つの胸の膨らみの片方の物だった

「乳-----------!?;」

京助が叫んで立ち上がった
サイズにしてC弱といったところだろう的緊那羅の何でもできる証拠である胸を上から見下ろして京助が止まる
「京助?」
緊那羅が京助を見上げる
京助は自分の目線が何でもできる証拠でできた谷間に行ってしまう辺りで若さを実感する
さっき感じた感触を思い出しつつ何がどうなっているのか考え始める

「…ナイス感触」

しかしさっきの感触のインパクトが強かったのか感触のことしか考えられないらしい
「早く追いかけろよ変態」
心地よかった感触を思い返ししみじみしている京助に掛けられた少年の声

「誰が変態だ!誰が!」

そう言いながら振り返った京助の鼻先に香ばしく焼けたフランスパンが突きつけられた
「変態は変態だろう」
フランスパンから視線を上げていくと青い瞳に黒い短髪の少年が見えた

「君は…」
緊那羅が立ち上がって少年に近づく

「俺はノエルだ」
そう言ってフランスパンを腰に差す

「じゃぁやっぱり【時】がきてしまったんだっちゃね?」
緊那羅が言うとノエルと名乗った少年が頷いた
「だからこそ俺が導きにきた早く追いかけないと手遅れになってしまうからな…早く…アイツのところまで」
ノエルが京助の腕を引っ張って歩き出した
ノエルと名乗った少年に手を引かれてただその後ろをついて歩いていた京助が足を止めて目の前に現れたものを見上げた

「…豆腐?;」
白くそれでいて微かに香るは昔懐かし大豆の香り
桁外れの大きさ意外はそれは紛れもなく豆腐だった
「でけェ…;」
空高く豆腐そびえ立つ森(?)の中
「行くぞ。もたもたしてられないんだ」
ノエルが躊躇いもなくその巨大な豆腐の中に足を進める

「ちょ…な…おぉお!?;」

「早く入るっちゃ」
入るのを足を踏ん張って拒絶していた京助を緊那羅が思い切り押すとメヌンという感触と共に京助の体が巨大豆腐の中に消えた
そして京助に続いて緊那羅も巨大豆腐の中に入っていった


「だっ!;」

緊那羅に押されて中に入った京助が顔面から倒れた
「何してるんだっちゃ;」
その京助を緊那羅が引っ張って起す

「お前が押したからだろうに!;お前がッ!!;」

緊那羅の手を振り払って京助が怒鳴る

「静かにせんか!たわけッ!!」

聞き覚えのある声が頭の上から聞こえた

「…鳥類?」
迦楼羅の声だと気づいた京助が上を見上げたがそこに迦楼羅の姿はなくあるのは見覚えのある蛍光灯と天井
「…ってかここ教室じゃん;」
ぐるり見渡すと結構余計なものがあったがそこは自分の通っている正月中学校2-3の教室だった
「何してるんだよこっちこいよ!」
ノエルが教壇のすぐ近くから京助に向かって叫んだ
「あ…あぁ…」
京助が首を傾げつつもノエルの元まで小走りでやってきた

「…なんてことだ…俺がフランスパン真剣を習得しているうちにここまでやられてしまったらしい…」
ノエルが腰に差してあったフランスパンを悔しそうに握り締めた
「そんな…」
緊那羅もそんなノエルをみて俯いた
「…なぁ…何がどうなってるんだ?;」
ただ一人何がどうなってるのかさっぱりわからない京助が何がどうなっているのかを二人に聞いた
「【時】がきたのだ」
頭の上から迦楼羅の声がまた聞こえ京助が上を見上げた

「…鳥類…?どっかにいるのか?」
蛍光灯の並ぶ天井を見上げ京助がどこかにいるらしい迦楼羅に声を掛ける

「…何寝ぼけているのだ!たわけッ!!」

その声と共に京助の目の前に迦楼羅の顔が逆さまになって現れた
「…ちょ…うるい?;…何だか…かっなり小さくなられて…」
大きさ約10センチ(推定)
「前々からワシはここにいるだろうが!まったく…」
背中に生えている金色の羽根を動かして飛んでいるミニ迦楼羅が溜息をついて言った
「ここって…」
京助が聞き返すと迦楼羅が京助の頭を指差した
「…目玉のオヤジかよ…;」
京助が口の端をあげて言う
「…ノエル?」
掃除用具入れの中からノエルを呼ぶ声が聞こえた


「誰だッ!!」


すかさずノエルが腰のフランスパンを抜いて構える
緊那羅も京助を庇うように前に出て構えるとその肩に迦楼羅が止まり小さいながらも戦闘体勢に入った
「…ストップ!」

ガコン!

という音と共に掃除用具入れの戸が開いて中から出てきたのは赤い髪が前髪の一部だけ白い少年
手には何故かホットケーキミックス

「晶!」

ノエルが【晶】と叫んで掃除用具入れから出てきた少年の元に駆け寄った
緊那羅も晶に駆け寄る
「アイツはどこだ!」
ノエルが晶に聞く
「わからない…俺が醤油をキャサリンから作っているうちにアイツの声が聞こえて…気付いたらPS2の電源が切れていたんだ…」
晶がホットケーキミックスを握り締めた
「な…じゃあ!!」
ノエルが晶の腕を掴んだ
「ブレーカが落ちたとしか考えられないな」
迦楼羅が緊那羅の肩の上から言うと晶が頷く
「…本格的にきたんだっちゃね…【時】が…早く追いつかないと…」
緊那羅が難しそうな顔で言った
「…醤油…ってキャサリンって誰;」
いよいよ話がわけわからなくなってきた京助がボソリと呟いた

「…でこれがキャサリンだ」

晶が手に持っていたホットケーキミックスを京助の前に出した
晶の後ろの黒板には絵やら字やらがごちゃごちゃ書いてあり京助に何やら説明をしたということがうかがえる
「様は何?【時】って言うのが来て…」
京助が黒板に書いてある【時】とう文字を指で指した

「ロ…デュオが」「聖眞が」
ノエルと晶が同時に互いが【アイツ】といっていた人物の名前を言った

「…いなくなったと」
それに京助がシメの一言をつけると二人が頷いた

「で…俺は何を追いかければいいんだ?」
京助が溜息混じりに聞いた

「まずは【3ケンジャー】に会って詳しく話を聞くことだ」
ノエルが黒板の【時】の字から伸びている矢印の先に書いてあった【3ケンジャー】という文字をコンコンと小突いた
「3ケンジャーは全て知っているようで知らない凄いのかよくわからないが凄い方達だ」
晶がキャサリンという醤油が作れるらしいホットケーキミックスを腰のバックに入れながら言った
「いや…なんかソイツら駄目なんじゃ…;」
晶の3ケンジャーの説明に京助が突っ込んだ
「3ケンジャーはここから東の正月町に住んでいるはずだ」
迦楼羅が京助の頭によじ登り髪の毛を引っ張って言った
「正月…ってじゃぁここは何処なんだ?」
京助が聞くと


「正月町」


一同が声をそろえて返した
「…あ・そ;」
京助が口の端をあげた

晶が出てきた掃除用具入れの中に入るとそこは見覚えのある風景
「公園…」
ブランコがあり回転塔がある正月町の公園だった
「ここのどこかに3ケンジャーの一人が隠れているはずだっちゃ。京助早く言うっちゃ」
緊那羅が京助に言う
「言うっちゃって…何を言えばいいんだっちゃよコレ;」
京助が緊那羅(の胸の谷間)を見て言った

「たわけ!決まっているだろう!隠れている物に尋ねる言葉だ!!」

迦楼羅が頭の上から怒鳴った

「その言葉はお前にしか言えないんだ。早く言えよ」
晶が京助に言う
「隠れているものに…って…;」
京助がしばらく黙って考え込んだ後ゆっくり口を開いた

「も…もーいーかーい?」

京助がそう言った途端に公園中の遊具が光った

「な…ッ;」

まぶしさで目が開けていられない京助達の耳に聞こえた言葉

「もーいーよー」

ようやく目を開けられるようになった京助が恐る恐る目を開けるとそこは公園ではなくコンビニの店内らしい場所で陳列棚には弁当をはじめ色々なものが並べられていた

「デュオ!」「聖眞!」

ノエルと晶の声に京助が振り返ると丁度レジのところに立っていた二人の少年が目に入った
一人はノエルの兄弟なのか容姿がノエルにそっくりで目だけがノエルとは違い赤い色をした少年
もう一人はもみあげ部分が長い銀髪に近しい髪の色をした少年

「だっめじゃーん大事ならしっかり守ってやらないとさぁ」

ジャーっと水の流れる音がして声がした
「…この声…」
京助が水の流れる音がした方向に目を向けた
「…れ?;」
声はすれどもなんとやらでその声の主の姿がない
「…なか…じまだよな?;」
聞いたことのあった声の主の名前を京助が言った


「そうだぞ?3ケンジャーが一人!中島様だ!!」

【W.C】と書かれた戸がキィキィと開け閉めを繰り返しているがそこにはやはり人の姿はない
「中島様は影が薄すぎて見えないんだよねー」
晶にかぶさるようにしながら晶に【聖眞せいま】と呼ばれていた少年がケラケラと笑った

「だから僕達がこうしていられるのです」
ノエルの横に立っていたノエルとそっくりの顔立ちの少年が言う

「そーそー!俺が影が薄いのをいいことに連れて行かれる途中だった二人を救出したわけよ」
中島(の声)が崇めよ!という感じに言った
「さすが3ケンジャーの一人だっちゃ」
緊那羅が尊敬の眼差しを中島(がいるらしき場所)に向けた
「でも何でデュオが…」
ノエルが自分とソックリの顔をした【デュオ】というらしい少年を見上げた
「ソレを言うんなら何で聖眞も…だな」
晶がうざったそうに聖眞を払った
「特にコレといって共通点もないしねー…」
聖眞が今度は晶の頭に顎を乗せて言った

「なぁ…中島」
京助が中島(がいるらしい場所)に向かって言う
「俺は何を追いかければいんだ?」
そういうと京助は肩をポンと軽く叩かれた
「悠だろ?悠」
「は…?」
中島の言葉に京助が目を丸くした
「お前は今悠を追いかけていたはずだろう?」
中島(の声)が言った

「…悠…?…そうか…俺…緊那羅!」

京助が緊那羅を振り返る

「…でも待てよ…確かに俺は緊那羅と阿部と…悠を迎えに行くって家を出たけど…」
そして考え込む
「…ここ何処だ?」
そんでもって顔を上げてぐるり見渡して京助が聞いた


「正月町」


「あ・そ;」
ハモって返ってきた答えは同じだった

「…そういや阿部は…」
京助が緊那羅に聞いた
「阿部さん?知らないちゃよ?」
緊那羅が返す
「どこいったんだ…?」
京助がボソッと呟いた
「とにかく早く悠助を追わないとだな」
ノエルが言うとデュオが頷いた
「ここから一路正月町を目指します海の上では僕の指示に従ってください」
「はーい」
デュオが言うと聖眞が元気よく返事をした

「そだ!コレ連れて行け」

中島がそういうと指を弾く音が聞こえジュース類が入った冷蔵庫が勝手に開いた
「…コレとはなんですか」
出てきて速攻中島(がいるらしい場所)に向かって歩き中島の頬(らしき場所)を思い切りつねり始めたのは乾闥婆
「け…」
京助が乾闥婆の名前の最初の一文字を口にした瞬間何処からともなく歌声が聞こえてきた

「歌が聞こえる」
京助が言うと一同が頷いた
「何処から聞こえてくるんだ?」
晶が窓を開けると波の音が聞こえた
「…海?;」

京助が晶を押しのけて窓の外を見るとそこは太陽の光を受けてキラキラと輝く大海原のド真ん中だった

「そこ!身を乗り出さないで下さい!」

いつの間にか【航海士】と書かれた腕章をつけたデュオが陳列棚に並べてあった即席ラーメンを京助に投げつけた
「言ったでしょう?海の上では僕の指示に従ってくださいって」
腰に手を当ててデュオが少し眉を吊り上げる
「いつの間に…;」
「さっきの間vV」
京助が即席ラーメンの直撃した箇所をさすりながら呟くと耳元に吐息がかかった

「っだぁああッ!?;」

耳を押さえ京助が飛びのく

「いゃあんvV京助かっわいー!」
そこにいたのは南…もとい【アサクラ・南】

「おっ!南ヒッサー!」

中島(声だけ)が南に声を掛ける
「ひさー!相変わらず影薄すぎて見えないなぁお前」
自慢の長いヅラを海風に靡かせて南が笑う
「3ケンジャーが二人もいっぺんに拝めるなんてね−。あ、一人は拝めてないけどね」
聖眞がケラケラ笑った
「ラムちゃんもひさー!相変わらずだねぇ」

「っうわっ!;」

南が振り向くと同時に緊那羅の胸を掴んだ
「うんうん成長期」
そのままふにふにと揉み始める
「…羨ましい?」

聖眞が晶の目を手で隠してボソッと言うとそれぞれの反応が返ってくる
京助と中島(見えない)は大きく頷き、デュオは顔を赤くしてそっぽを向きノエルと乾闥婆は黙ってその光景を見たままで迦楼羅は京助の髪の中から出てこない
「ん…っや…」
顔を赤くして緊那羅が力なく床に座り込んだ

「…ってか…コレ本当はしょっぱい光景なんだよな…」
頭ではわかっていてもついつい目が離せなくなってしまう辺り僕達男の子
「そこから先はバリトンで」
スパァーンという軽快な音で京助はハッと我に返った

「いってーッ!!;」

乾闥婆が丸めた雑誌で南の頭を叩いたらしい
「こちらは表ですのであくまで健全…なのかはわかりませんがそういう行為はきちんとバリトンという場所でして下さい」
トントンと丸めた雑誌で手を打ち乾闥婆が南を睨んだ
「ちょっとしたスキンシップじゃんー;」
南が頭をさすって口を尖らせた

「そのスキンシップで興奮している方々がいるんですから」
乾闥婆がチラっと京助と中島(見えない)に目を向けた
「だって男の子だもーんって?」
聖眞が京助の頭をポフポフ叩いて笑う
「だってラムちゃん相変わらずなんだもん」
紺色のプリーツスカートを靡かせて南がアイスの入ったフリーザーの上に腰掛けた
「緊那羅も緊那羅です…まったく」
乾闥婆が溜息をつく

「やかましいわ!たわけッ!!ゆっくり竜田揚げも食えないではないかっ!!」

迦楼羅が京助の頭の上から怒鳴った

「おンまえは人の頭の上で食うなっつーの!!」

京助が迦楼羅を掴んで投げた

「あ」

一同がそろって声を上げた
京助が投げた迦楼羅が綺麗に弧を描き窓の外、海にトポン
「…やっちゃった…?」
振り向いた京助の顔は不二家のペコちゃん風に舌を出してウインクをしたオチャメな顔だった
「…まぁいっか−」
聖眞が笑っていうと一同が頷いた

「では改めて正月町を目指します!」
さっきまでそっぽを向いていたデュオが声を上げた
「それにしても何でこの二人が狙われたんだ?」
京助がデュオと聖眞を見た
「何か共通点…とか心辺りとか…」
京助の言葉に聖眞とデュオが顔を見合わせて首を横に振った
「ぜんっぜん?」
聖眞が晶の頭に顎を乗せ晶の手を掴んで晶の手を横に振った

「人で遊ぶなッ!」

晶が聖眞の手を振り払って怒鳴る
「僕も特に…」
デュオも小さく言った
「でも狙われたって言うからには…」

「ばーーーーーーか」

京助の質問を遮って南と中島(の声)がハモった
「まだわかんないのかお前」

南がゆっくり歩いて京助の前まで来ると鼻の頭に指を突きつけた
「この二人とそこの二人ぱっと見どんな関係に見える?」
中島(の声)が京助に聞いた
「どんな…?」
京助が晶と聖眞、ノエルとデュオを見る
「…兄弟みたいだっちゃね」
緊那羅が京助の横で呟いた

「兄弟?」
晶と聖眞が顔を見合わせると晶は何処となく嫌そうな顔をして聖眞は嬉しそうに笑った
ノエルとデュオが顔を見合わせると数回瞬きしてそのままお互いの顔を黙ってみる

「ピンポン!さっすがキンナラムちゃん!」

南が緊那羅を指差して言った

「聖眞さんと晶君はじゃれ合いが兄弟っぽいですしデュオ君、ノエル君は容姿がソックリですからね…傍から見れば兄弟…でも通じますし」
乾闥婆が言う
「つまり…悠はお前が恋しいんだ」
南が京助に言った
「そ、お兄ちゃんッ子だしな」
中島(の声)も言う
「わかんだろ?大好きなものを横取りされるカンジ…俺にも話してたじゃん【悠が生まれたときハルミさんをとられたような感じがした】ってさ」
付け加えた中島(の声)に京助が動きを止めた
「確かに…沙織ちゃんが来てから悠助の様子がおかしかったっちゃ…私…全然気がつかなかったっちゃ…」
緊那羅が俯いた

「悠はお前を待っているんだ」
中島(の声)が強く言った
「だから追いかけてつかまえてやってくれ」
南がにっこり笑って言う
「…俺コイツと兄弟に本当に見えるのか…?」
晶が聖眞を見上げた
「…兄弟…ですか…」
デュオがノエルを見下ろした

「あっ!駄目だよ!!お母さんっ!そんなもの食べちゃっ!!」

窓の外から聞こえた少年らしき人の声に一同窓の外を見る

「だーっ!!;喰うな!!離さんか!!たわけッ!!;…というかそんなものとはなんだそんなものとはっ!!;だーーーーっ!!;」

さっき海に落ちた(正確には投げられた)迦楼羅の怒鳴り声と共に迦楼羅が窓に四角い枠内に姿を見せた

「…何アレ」
そしてその迦楼羅の服の裾を齧って(?)いる何だかよくわからない生き物(?)
「駄目だってば!お母さん!そんなもの食べちゃおなか壊すよぅ!!」
ザッパァーンという水しぶきを立ててその生き物が太陽の光を浴びながら迦楼羅に向かって大きく口(?)を開けた

「だーーーッ!!;」

ピィーーーーーーーッ!
まさに迦楼羅が食われようとしたときに乾闥婆が何処から取り出したのか笛を吹いた
「ここはあなたの来るべき場所じゃないハズですおとなしく森へお帰り?」
乾闥婆がその生き物(?)に向かって声を掛けると何処からともなく聞こえ始めた曲
…ランランララランランラン♪ランランラララン♪

「…ナウシカ…」
京助と南、中島(の声)がハモって言った

乾闥婆の声が聞こえたのかその生き物(?)は乾闥婆の近くにやってきた
「いい子ですね」
乾闥婆がその生き物を撫でると

「お母さんに触らないで!!」


少年の声が聞こえた

「お母さん〜?」
一同がその生き物(?)を見、そしてその生き物(?)を【お母さん】とする息子の姿を想像する

「お母さんは僕のなんだっ!」
その声と共にその【お母さん】という生き物(?)が大きく口を開けると中から出てきたのは黒髪のおとなしそうな少年だった
「あ…君は…」
デュオはその少年に心当たりがあるのか小さく言った
「何?お前知り合い?」
京助がデュオに聞くとデュオが小さく頷いた
「僕を…連れて行こうとした…」
デュオがそういうとノエルが腰のフランスパンを掴んだ
「コイツが…?」
そしてそのままノエルがその少年を睨む
「…あなたの名前は?」
乾闥婆が黒髪の少年に聞いた

「…サキト…サキト・シキワラ」

【サキト】を名乗った少年が【お母さん】と呼んでいる生き物(?)に擦り寄った
「ねーねーさきっちょー…何でデュオを連れて行こうとしたわけ?」
聖眞が手を上げてサキトに聞く
「…【時】が来たから…悠助が寂しがってるから」
サキトが【お母さん】に顔をくっつけて小さく言った
「悠助はね…もう京助は自分が要らないと思ってるんだ…だから新しい【京助】を僕が見つけてあげるって約束したんだ」
京助が止まった

「寂しさが【時】を早めたんだよ」
サキトが京助を見た
「二つの心離れれば離れていくだけ【時】は早く近くなる…」
サキトの髪がだんだんと伸びて床についた

「嫉妬に駆られ孤独になれば誰だって甘い声にすがりたくなるでしょう?」

声がだんだんと変わってきていつしか少年の声から女性の声になっていた

「寂しかったの…寂しくて…抱きしめて欲しかったのに!!」

何かがはじけてサキトだけどサキトではない誰かがあげた悲鳴にも似た声に京助は耳を塞いで目を閉じた

「…どうして…【私】じゃなく………」

小さく消えていく声が京助の頭に残った




ツンツン…
ツンツン…

何かに何かで突付かれている感じがする

「…ぅ…」
重いまぶたを開けると覗き込んでいる二つの同じ顔
「気付きましたか?」
そして聞こえたのは少女の声

「オイ妃偉…コイツ…」
すこし茶色の濃い髪の少年が後ろを振り返った
「ほらどいてください」
その少年を押しのけて【妃偉きい】というらしい少女が京助の視界に入った
「京助じゃん?」
黒い色が濃い髪の少年が京助を指差す
「人を指差すものじゃないですよ佐茶君」
妃偉が【佐茶ささ】と呼んだ少年の指をペシっと叩いた
「…ここ…は?」
京助が体を起すとそれを支えるように妃偉が背中に手を添えた


「正月町」


佐茶じゃないもう一人の少年が答える
「…あ・そ;」
何度聞いても変わらない質問の答えに京助も変わらない言葉が出る
「…あいつ等は…?」
さっきまでうじゃうじゃといた仲間(?)が一人もいないことに気付き京助が三人に向かって聞いた

「知らないよ」
佐茶が答えた
「僕達が見つけたのは君だけだよ京助」
佐茶じゃないもう一人の少年が手を差し出した
「僕は一茶いっさ
そして京助の手を引っ張って立たせると
「コイツとは双子ってことになる」
【コイツ】といって佐茶を親指でクィっとさす
「私は妃偉…綿飴妃偉と申します」
妃偉が京助に向かって頭を下げるとつられて京助も頭を下げた

「こっちが佐茶?」
京助が指差すと
「ハズレ。僕は一茶」
一茶が答える
「何回目?いい加減覚えてよね」
一茶ではない方つまり佐茶が京助に突っ込む
「わかるか!;こんだけそっくりじゃ;」
京助が怒鳴る

「だって双子ですから」
そんな京助を見て佐茶と一茶が楽しそうにハモって言った
「あんまり京助君をいじめるものではないですよ佐茶君も一茶君も」
妃偉が言うと佐茶と一茶が首をすくめた
「とにかくご案内しますのでついてきてくださいますか?」
妃偉が京助に向かって微笑んだ
「ご案内…ってどこに?」
京助が聞くと佐茶が京助の背中を押して歩き始める
「まぁ案内するって言ってるんだから気にしない気にしない」
一茶が言った
「気にするって;えー…佐茶?」
「僕は一茶」
やはり見分けがつかないらしく京助はまたも突っ込まれた

「名札つけようか?」
佐茶が京助をからかうと妃偉が佐茶を肘で軽く突付いた
「なん…」
【なんだよ】と言いながら妃偉を見た佐茶が妃偉の顔を見て妃偉の視線の方に目をやった
「…矜羯羅?;」
木の枝の上にいたのはたぶんおそらく間違いなく矜羯羅
「何?」
京助に名前を呼ばれ矜羯羅が返事をして微笑んだ
「…矜羯羅で…いんだよな?」
京助が木の枝の下まで来て矜羯羅を見上げる
「そうだけど?」
そう言った矜羯羅の腰辺りには紫と白の縞模様の長い紐のようなものがついていた
そして耳に当たる部分には紫色の獣耳

「チシャねこんがらだ!」

一茶が叫んだ
「京助君!離れてください!惑わされます!」
妃偉が京助に向かって叫ぶ
「…チシャ…猫…んがらぁ?;」
京助が一茶の言った名前を繰り返す

「そう。【チシャ猫】の【矜羯羅】でチシャねこんがら」
そういって京助の目の前に降りてきた矜羯羅…もといチシャねこんがらの首には鈴がついており降りてきた時にチリリと鳴った
「誰かを探しているんでしょ?」
にっこり笑いながらチシャねこんがらが京助に言った
「僕の相方ならきっと見つけられると思うよ?なんたって魔法猫だから」
長い尻尾が京助の体に巻きついた
「離れてください!京助君!」
妃偉が再度叫ぶ

「モーニングティーはっ!!」

佐茶と一茶が同時に叫んだ
「…僕は濃い目が好きだけどね」

ガァン!!

という音と共に火薬の匂いがして京助の目の前からチシャねこんがらが消えた
「…逃がした」
佐茶が手にした拳銃を下ろして呟いた
「誰が逃げたって?」
はっとして振り返ると妃偉の後ろにチシャねこんがらがいた
「妃偉!!」
一茶が再び拳銃を構える


「ストーーーーーーーップ!!」

京助が声を上げた
その声に一同が京助をみて一時停止した
「矜羯羅」
京助が矜羯羅に目を向けると矜羯羅が微笑んだ
「…みんなは何処にいる?」

「京助!」「京助!」「京助君!」


佐茶、一茶、妃偉が同時に京助に向かって叫んだ
「大丈夫きっと見つけられるよ?そう…僕の相方なら…ね」
妃偉から離れたチシャねこんがらの鈴がいつの間にか京助のすぐ隣で鳴った
「だって魔法猫だから」
チシャねこんがらがそういうと辺りが暗くなった
「な…?;」
京助が辺りを見渡すと一本の木がライトアップして暗闇に浮き出てきた

「…っほー」
独特の最初の一言が聞き取れないという話し方がスピーカーを通したときのように大きく響いた
「何?何?」
佐茶がライトアップされている木に注目する


「最高の天才児!」

何処からともなく聞こえた坂田の声
「坂田…?」
京助がその声を元に坂田を探す

「誰もが驚いたもんだ!素晴らしいヤツさ!!俺------!!」

カッ!!とライトの光が濃くなり照らされた一本の木の上に二つの人影


「3ケンジャー坂田さん!」

妃偉が目をキラキラさせて叫んだ
「隣にいるのアレだ!もしかして奇跡の魔法猫の…」
一茶が佐茶の肩を掴んでゆすって言う
「そうアレが僕の相方」
チシャねこんがらがくるっと宙返りをするとふっとその姿が消えそして今度は木の上に現れた

「小さくはないけど可愛い黒猫」
チリンとチシャねこんがらの首の鈴が鳴った

「とぅ!!」

坂田がジャンプして木の枝から離れた


「ばっ!;お前高すぎ…ッ!!;」

ゆうに5mはある高さから坂田が飛んだのを見て京助が叫んだ

「心配後無用!」

坂田のその声に制多迦も飛び降りて坂田を小脇に抱えて着地した


「はぃッ!!」

右掌に坂田が立ちソレを高らかに掲げて制多迦と坂田がキメのポーズを取る
「…阿呆か…;」
呆れている京助とは反対に目をキラキラさせている妃偉と
「すげー…」
佐茶の声に頷いている一茶
どうやら痛く感動しているらしい

「やーやー!有難う有難う」
坂田が佐茶、一茶、妃偉の間を通って京助の前に来た
「南と中島には会ったんだろ?」
何故か夏服の坂田が京助に聞いた
「あ…あぁ…はぐれちまったけどな…」
「不安だったろ?」
京助がしどろもどろ答えを返すと間髪いれずに坂田が次の質問をしてきた

「いきなり一人になるってのは」
坂田が言うと一同が京助に注目した
「中学生の俺らだって不安で寂しいだろ?小学生の悠は?」
坂田がまた付け足す




「俺は昔お前が大嫌いだった」
坂田の言葉に京助が目を大きくして驚いた
「お前が羨ましくて大嫌いだった」
辺りが静まり返ったかと思うと京助は一人白い空間に立っていた
目に入ったのは真っ白な人
髪は長く銀に近しい青い色で腕と手に宝石の埋め込まれた腕輪と指輪

「坂田…?佐茶!一茶!妃偉!!制多迦!!矜羯羅…ッ!;」

辺りを見渡し叫んでもただ白いその空間に声が吸い込まれていく

『…あぁ…また…』

頭に響いた声に京助が振り向く

『こないで…来ては駄目なの…ごめんなさい…ごめんなさい…』

どこかで聞いたことのある少女の声

『私は…私はただ抱きしめて…抱きしめてほしかっただけなの…ッ!!』




だんだんと大きくなってくるその声に京助は耳を塞いだ
どれくらい耳を塞いでいたのか手を離した京助の耳に聞こえたのは微かな歌声
「…この歌…さっき…」

海の上で窓の外から聞こえた歌が聞こえた
顔を上げると目の前には大きな鳥かごがあり中には一人、人がいた

「あの…」
京助がその人物に声を掛けると歌が止んだ
「…ここは…?」
京助の質問が聞こえたのかその人物がゆっくりと京助の方を向いた

「正月町」

「あ…そ;」
やはり変わらない質問への回答に京助が溜息で苦笑いする

「アンタは京助だね。待っていたよ」
その人物が鳥かごの柵に手をついてにっこり笑った
「三人に会わなかった?案内するように頼んだんだけど…」
毛先だけがオレンジ色の髪の間から見えた紫色の瞳が京助を見る
「三人…って」
京助が佐茶と一茶と妃偉を思い出した

「僕はフェニア。フェニア=ハコク…この檻の中で闇を歌っている」
キィと音を立てた鳥かごを京助が見上げた
一体何処から下がっているのかそれは【アルプスの少女ハイジ】のOPのブランコ並の謎だった

「待ってたって…いったよな?」
京助がフェニアと名乗った少年に聞いた
京助が聞くとフェニアは頷いて口を開いた
「子守…歌?」
昔よく母ハルミが歌っていたものではないのだけどどこかで聞いたことのあるような歌
【子守唄】ではないのかもしれないけれど京助には【子守唄】に思えた
何を歌っているのかわからないが妙に頭に残るその旋律
フェニアの歌声が響く中京助は頭の中で一瞬誰かの声を聞いた

『ごめんな』

若い男の声
ハッとして辺りを見渡すとフェニアの歌がいつの間にか止んでいた
「何…」
京助が呆然としたままフェニアを見るとそこにフェニアの姿はなく大きな鳥かごの中には

【上を見ろ】と書かれた布が一枚ヒラヒラと風に靡いていた

「…上?」

京助が上を見上げると今度は空一面に【下を見ろ】という言葉が書かれていた

「…下?」

そして書かれてあるがまま下を向いた京助の目に入った次なる言葉

【ざまぁみろ】


「……」
沈黙してその【ざまぁみろ】という言葉を見つめる京助


「ひーっかかかった!」

ガサッという音とともに現れたのは微妙なおかっぱから後ろのみ長い髪を三つ編みをしたひょろっとした少年
「…は?;」
ザカザカパキパキ音をさせて藪中を京助に向かってきた少年が後一歩で藪を抜けるというところで派手にこけた

「あーーー!もうッ!なんなのサ!!」


喚きながら立ち上がって髪や服についた葉や小枝、土を払う少年を京助はただ黙って見ている
「引っかかったな京助」
まだ頬に葉を一枚くっつけたまま少年が腰に手を当てて軽く後ろにふんぞり返って京助に言った

「…誰だお前;」
妙にテンションの高いその少年に京助が聞く
「僕は虹虎。青崎虹虎あおさき・きとら
【虹虎】と名乗った少年が京助の腕を掴んだ

「…って」
今度は上からガサッという音が聞こえて同じく京助は腕を掴まれた
「…なんなのサ。アンタ」
虹虎が京助の腕を掴んでいるもう一人を睨んだ
「制多迦…」
髪に虹虎と同じく葉やら小枝をつけた制多迦が京助の腕を掴んでいた
「ついて行っちゃ駄目だよ京助」
後ろから声が聞こえて振り向くとそこにいたのはチシャ猫の格好をした通称【チシャねこんがら】
よくよく見ると制多迦にも黒い猫のような耳を尻尾があった
「他のみんなは?」
腕を二人につかまれたまま京助が矜羯羅に聞いた
「あの三人のと3ケンジャー坂田なら大丈夫…」
フッとチシャねこんがらが笑った

「あーーーーーー!!もうッ!!」

いきなり虹虎が大声を上げた


「僕が先に見つけたんだからねッ!放してよ!!」

そう言いながら虹虎が京助の腕を思い切り引っ張った
「だッ!;」
京助がよろけて虹虎の方に傾くと今度は制多迦が京助の腕を引っ張る

「だッ!;」

そして今度は制?迦の方に傾いた京助をまた虹虎が引っ張る

「はーなーしーてってバっ!!」

虹虎が喚きながら引っ張るのに対して制多迦は無言のまま引っ張る

「いてーって!!;いてーってッ!!;」

綱引きのごとく両腕をひぱられて京助が声を上げる

「ハイそこまで」
(ス)パパーン!!という軽快な音がして京助の両腕が解放された

「い…痛いじゃないのサっ!」

虹虎が頭を押さえて怒鳴った
どうやら誰かに頭を叩かれたらしく制多迦も頭をさすっている

「…誰も呼んでないんだけど?」
矜羯羅がそう言うとパチパチッと何か電気のようなものが小さくはじける音がした
「ええ。少なくとも貴方には呼ばれていませんよ?むしろ呼ばれても来ませんけど」
薄い水色の布が風に靡いて座り込んでいる京助の顔に当たった

「誰が君を呼ぶって?」
パチパチッという音が今度は少し大きくなって聞こえた
「さぁ誰でしょう?」
手に握られていたのは何処から持ってきたのか【正月中】と書かれた来客用のスリッパ
「そんなので叩いたら汚いじゃないのサッ!!」
虹虎がスリッパを指差して喚くとその人物が手に握っているスリッパをもう片方の手にポンポン叩きつけゆっくりと振り返る

「乾闥婆…;」
にっこりと微笑んでいるにもかかわらずその笑顔は何故か怖い
「少し黙っててください」
虹虎に向かって乾闥婆が微笑んで言うと虹虎にもその怖さが伝わったのか後ずさりして頷いた
「何しに来たの?」
チシャねこんがらが微笑んで乾闥婆に聞いた
しかしその後ろでカミナリが落ちそうな勢いで鳴いているように思える
「貴方には関係ないでしょう?」
乾闥婆も笑顔で返した
しかその後ろでは同じくかカミナリが落ちそうな勢いで鳴いているように思える
「そう…」
チシャねこんがらの眉毛がピクッと動いた
「ええ関係ないですので口挟まないで下さい」
乾闥婆が眉をピクピクさせて微笑んだ
「…ょうすけ;」
制多迦が京助の肩を叩くと京助が頷き虹虎の手を取って木の後ろに隠れるとまもなく特大のカミナリが落ち(たように思え)た

「…どうするよ;」
ゴロゴロという雷の音が聞こえてきそうな背後を気にしつつ京助が制多迦に聞いた

「…うしよっか;」
ソレに対して制多迦が苦笑いを返す

「本当なんなのサ;」
京助に引きずられてきた虹虎が顔を上げるなり悪態をついた
「アンタ魔法猫とかいうのなんでしょ?何とかできないの?」
虹虎が制多迦に指を突きつけて言う
「…うだけどコレばっかりは僕にはなんとも…;」
そう言って制多迦がチラリと横目で背後を見た

物々しい空気の中に恐ろしい笑顔の二人
デロデロという効果音が聞こえてきそうなそんな光景に制多迦が目を逸らした
「…手上げ;」
両手を挙げて制多迦が苦笑いする
「僕は早く京助を連れて行かないといけないんだってば!」
虹虎が怒鳴るとチシャねこんがらと乾闥婆が同時に虹虎をキッと刃物のような目つきで睨んだ

「うるさいですよ!」「うるさいよ!!」

二人同時に怒鳴られ睨まれた虹虎がそのまま固まった
「ハモらないでいただけますか?」
乾闥婆がにっこり笑ってチシャねこんがらに言った
「そっちこそ。今のは僕のほうが早かったんだから」
チシャねこんがらも負けじと笑顔で言い返す
「…触らぬ神にたたりなしだ;」
京助が固まったままの虹虎の肩を掴んで木陰に入れる
「…悠助か?」
ボソッと京助が言うとハッとして我に返った虹虎が頷いた

「そう。ただ同じ三つ編みで同じ髪の色をしてるからってだけで向かいの兄さんがサキトに連れて行かれたんだよ」
虹虎が溜息をついて話し始めた
「サキトは何処となく悠助と似てるところがあってサ。だから力かしてるんだと思うんだけど…見境ナシに一部が同じとか仲がいいってだけで年上の人連れて行かれちゃたまったもんじゃないでしょ?だから僕は考えたわけなのサ」
虹虎が京助を指差した

「京助本人を連れて行けばいいんじゃないのかって」
ソレを聞いた京助は頭を掻いて鼻から息を出して虹虎を見た
「わかった行く」
京助が立ち上がった

「…ょうすけ;」
制多迦が京助の服を引っ張った
「悪ぃ制多迦。俺行くわ。俺何だかんだ言ったって悠の兄貴だし悠は俺の弟だし」
服についた土を払いながら京助が言う
「元は俺が原因だしな」
そして苦笑いを制多迦に向けた

「…かった…じゃぁちょっと待って」
【よいしょ】と小さく言って制多迦が立ち上がり左足についている小さな鞄のようなものをゴソゴソ漁りだした
「…ったあった」
そして何かを見つけた制多迦がにっこり笑って京助を見る
「…割り箸?;」
制多迦の手にあったのは【おてもと】とミミズののったくったような達筆でかかれた袋に入った割り箸が一膳
「…れは魔法のステッキ」
制多迦がそう言いながら割り箸…魔法のステッキを振ると【ピロリロピロリン♪】というよく玩具から聞こえる音が鳴った

「今から京助を悠助の元へ」
いつの間にか手にハエ叩きを持った南が制多迦の隣にいた
「しっかり謝ってこい」
後ろから坂田の声が聞こえ京助が振り返ると手に箒を持った坂田に肩を叩かれた
「やっぱり俺見えてない?」
中島の声が聞こえ辺りを見渡すと靴べらが宙に浮かんでいた

「京助」
京助が名前を呼ばれて振り返るとそこにはフェニアと佐茶、一茶と妃偉が立っていた
「自分の存在理由から逃げちゃいけないよ」
フェニアが京助を真っ直ぐ見ていった
「…ソレ前に迦楼羅にも言われた」
京助が言うとフェニアが小さく歌った
さっきも聞いた妙に頭に残る旋律
「ちゃっちゃといきますか」
坂田が言うと南と制多迦と中島…というか靴べらが京助を囲んだ

「ピ〜リカピリララ〜…」

「ちょっと待て」

坂田が呪文(かも知れない言葉)を唱えだすと京助がソレを止めた

「なんだよ」
坂田が言う

「何の呪文だ何の!!;」

京助が怒鳴る

「うるさい!!!!!!!」

ゴゥっという強風とともに乾闥婆とチシャねこんがらの声が響き全員が固まった
「…っかり忘れてた;」
制多迦が苦笑いを浮かべて割り箸を振ると今度は【ユ(ゥ)アッシャーー!!】という某北斗七星拳の使い手の声がして京助を光が包んだ

「おぉお!!?;」

自分を包んでいる光に驚いて京助が自分の全身を見る

「ドッキリドッキリドンドン!不思議な力がわいたらどーする♪」

南がハエ叩きを掲げながらウィンクしつつ歌った

「…どうもしねぇよ;」

ソレに対し京助が裏手拳を交えて突っ込む

「何だかとっても素敵ねいーでしょ♪」

南に続いて中島(の声)も靴べらを掲げて歌う
「よくねぇって;」

そしてその中島(の声)に対しても京助が突っ込む
「まぁいいってことにしておけよ」
坂田がハッハと笑いながら箒を掲げた
「ちょ…僕をおいていかないでよ!;」
虹虎が京助の腕に掴まった

「…ジカルステージ!」

制多迦が叫ぶと京助の足元だけぽっかり穴が開いた

「…マジ?」
その穴を指差して京助が周りを見ると一同がさわやかな笑顔で手を振り頷いた
「…ってらっしゃい」
制多迦がパチンと指を鳴らすと無重力が京助に押し寄せた

「どこまで落ちるのサ」
虹虎が長い三つ編みを上に靡かせて京助に聞いた
「俺が知るか;」
京助が答える
「栄野弟がいるところまでに決まっているだろう」
いつの間にそこにいたのか京助の頭の上から迦楼羅の声がした
「鳥類?;おま…」
「話は後だ」
京助の言葉を途中で止めると迦楼羅が京助の頭から離れ京助の目の前にやってきた

「なんなのサこれ」
虹虎が珍しそうに迦楼羅を見て迦楼羅の服の裾を捲った

「なッ!;やめんかたわけッ!!;」

服の裾を押さえて迦楼羅が怒鳴ると虹虎が頬を膨らませた
「…悠はこの下にいるのか?」
京助が話を元に戻した
「下にいるか上にいるか何処にいるかはわからんがコレは絶対に栄野弟の所まで続いている」
迦楼羅が言った
「なんでそんなことわかるのサ」
虹虎が迦楼羅に聞いた
「これは栄野弟の心だからな。暗いのは寂しさの表れだ」
迦楼羅が答えると京助はまだ終わりの見えない出口を見つめた
「わかる?どれだけ悠助が寂しかったか」
声がしてその方向を見るといたのはサキトそして

「白銀さん!」

虹虎と同じくらいの長い三つ編みをした青年が一人サキトに手を繋がれていた
「虹虎君こんにちは」
白銀しろがね】と呼ばれた青年がにっこりと微笑んで手を振った
「…連れ攫われたわりにはずいぶんほのぼのしてんじゃん;」
京助が突っ込んだ
「私は連れ攫われてなどいないのですが?」
白銀が言うと京助が虹虎を見た

「で…っでもっ!」

白銀の言葉に虹虎が身を乗り出して声を上げる
「大切なものをなくす…ということが悲しいことだというのは私もよく知っています…」
白銀が静かに言った

「私では京助君の代わりなどになれるわけがないということも」
京助を見て白銀が微笑む
「じゃぁ…なんでサキトについてきたのサ!」
虹虎が言うと白銀はサキトを見てそして虹虎を見た
「代わりにはなれませんが少しでもお役に立てればいいと思いまして」
サキトを撫でながら白銀が目を細めた

「…お兄さんは」
頭を撫でられてるサキトが口を開いた
「お母さんが怖くなかったの?」
白銀を見上げサキトが聞く
「お母さんって…アレか?;」
迦楼羅が何かを思い出したらしく顔を引きつらせて呟いた
「素敵なお母さんですね」
そう答えた白銀の言葉に嘘がないことは根拠はないが何故かそう受け取れた
「…うん」
まるで自分が褒められたかのようにサキトが嬉しそうに頷くとそのままサキトがすぅっと消えていった

「…消え…だぁッ!?」

そしてサキトが消えたとほぼ同じに無重力が終わった

「大丈夫ですか?」
思いっきり顎を強打して無言のままの京助に白銀が心配そうに声を掛けた


「…ってぇ;」
顎をさすりながら差し伸べられた白銀の手を掴んで立ち上がった京助が辺りを見渡した
「ここ…俺ン家じゃん…」
畳が敷き詰められた和室に積み上げられたダンボール箱目の前には室内灯の電気の紐がゆらゆらと揺れている

「とーさんっ俺も俺もー」
外からは子供の声が聞こえてきた
確か冬だったはずの外の景色は何故か緑がざわざわと風に鳴かされその風はついでに軒下に下げられた風鈴もチリリと鳴かせる
「…どうして…」
一歩後ろに下がった京助の足が何かを蹴った
【コロリンコロリン♪】という音がしたそれは赤ちゃん用の玩具でよく見る起き上がりこぼしだった

「…これ…」
京助がその起き上がりこぼしを持ち上げると【ころりん♪】と再び音がした
「とーさんてばっ!!」
風の入ってくる窓から風と一緒に入って来た子供の声に京助が顔を上げると周りには誰もいなくなっていた
「悠助ばっかりずっるいよー!!」
【悠助】という言葉に京助は急いで窓辺に駆け寄って身を乗り出して外を見た

「悠!」

京助は身を乗り出しながら悠助の名前を呼んだがそこに悠助の姿はなかった
悠助の代わりにそこにいたのは額に絆創膏を貼ってミッキーマウスのTシャツを汚したまま着ている少年と後姿の男が一人そしてその男が両腕を上げると両手足をばたつかせて笑う赤ちゃんだった
「おーれーもー!!」
少年が地団駄を踏んで男を見上げ男の服を掴んでブンブン振っている

「こーら京助!あんたまた服汚してきて!」
青いワンピースを着た女性が少年の頭を小突いて男から赤ちゃんを受けとる

「…かあ…さん…?」

その女性は少し幼いが間違いなく母ハルミでその母ハルミが名前を呼んだということはその少年は間違いなく京助で母ハルミが抱いている赤ちゃんは悠助ということになるだろう
「じゃぁ…」
後ろ向きのまま母ハルミと会話している男
「…父さん…?」
母ハルミから悠助が生まれてからすぐに他界したと聞いていた父親のこと
計算したら7年は一緒にいたのに姿も声も全くといっていいほど覚えていない父親の面影
悠助より少し濃い目の髪を襟足だけ少し長めにした髪型
母ハルミより背が高く中年太りには程遠い体型
履いていたのは下駄
その足元にはコマとイヌが尻尾を振って男を見上げている
頭の上で風鈴が【チリリ】と鳴る
幼い京助が男に抱き上げられ高い高いをされて嬉しそうに笑っていた
そしてそれを見て優しく笑ったまま悠助をあやす母ハルミ
「……」
記憶にない父親の姿をどうして今こうして見てどうしてその男が父親だと思えるのか少し混乱しつつも京助は黙ったまま幸せそうな家族の図を見つめていた

「父さん…」
京助が小さく呟くと辺りが急に暗くなり何も見えなくなった

「な…」
突然のことに京助が慌てて周りを見渡すと歌が微かながら聞こえてきた
「この歌…」
声は違えどその歌は確かにフェニアと名乗った少年が鳥かごの中で歌っていた旋律だった


「…この声…は…」
よくよく聞いているとその声は緊那羅の声だった

「緊那羅!!」

京助が緊那羅の名前を呼ぶと目の前に緊那羅の代わりに黄金の玉が現れた

「…キンタマ…」
京助がボソッと呟く

「じゃない!!;緊那羅!!いるんだろ!?歌ってんだろ!?」

気を取り直して歌声の主を探す京助の耳に歌声に混じってふと聞こえた言葉

『ごめんな』

パァン!


と音を立てて黄金の玉が砕けると途端に止んだ歌声と聞こえ始めた赤ちゃんの鳴き声

「ふぇえええ!!ふぇえええええ!!」

その声がだんだんと大きくなって


「京助!!京助ッ!!」

泣き声に混じって聞こえ始めた自分を呼ぶ声

「…っ;」
背中に感じた冷たさと後頭部に感じた鈍い痛み
そして何故か醤油の匂い

「ふぇええええ!!」

泣き声が最大ボリュームで京助の耳に届いた
「京助!!」
緊那羅が呼ぶ声がして京助はその声のしたほうに顔を向けると泣きそうな顔をしていた緊那羅の顔がほころんだ
「…何…」


「馬鹿ーーーーーッ!!」


突然阿部に抱きつかれて京助が目をぱちくりさせた

「心配したんだから馬鹿ッ!!阿呆ッ!!」

「ふえぇえええええ!!ふぇええええ!」

阿部の喚き声と沙織の鳴き声のコラボが響いた

「一体…;」
わけがわからず呆然としている京助がボソッと呟く
「アンタ石段から落ちて気を失ってたのよ?」
母ハルミが呆れ顔で京助を見下ろした

「ごめんねぇ京助;ウチのキャサリンが飛び掛ったからビックリしたんでしょ?」
何だかどこかで聞いたことのあるような声で謝られ京助がその方向に目をやるとピンクの服を着たシーズーっぽいを抱いた恰幅のいいおばさんが買い物袋を腕にかけて苦笑いしていた
「…あ…いや;」
京助が阿部をつけたまま起き上がろうとするのを緊那羅が手伝い京助は身を起した

「ほらほらお兄ちゃん大丈夫でよかったでちゅねー」
泣き止まない沙織を女性があやして泣き止ませようとしている
「大丈夫だっちゃ?」
緊那羅が京助の背中の雪をを軽く払った
「あ?…あぁ…」
身を起し辺りを見るとたぶんおばさんの買い物袋から飛び出したらしき袋が破れたホットケーキミックスと割れた醤油のビン(小)が散乱している
「悪運つっよいわねぇアンタ…」
悪態をつくのは安堵からなのか母ハルミが微笑んだ

「…母さん…」
そんな母ハルミを見て京助の頭にさっき気を失っている中で見た光景が浮かんできた

「そうだ母さん!!キンタマ!!」

京助が母ハルミに向かって大声で言う

「…潰れたの?」
母ハルミの一言で一同の視線が京助の股間に集中した

「ちっが…!;金色の玉が割れて…俺…父さん見た」

「アンタ頭打った?」
京助が言うと間髪いれずに母ハルミがそう言って京助の頭に手を置いた
「割れたのは醤油のビンだけだよ?」
おばさんが言うとキャサリンという犬が吠えた
「そうじゃなく…ッ…」
頭ではまとまっているはずなのにいざ言葉で伝えようとすると言葉が上手く出てこないという事態に陥って京助が頭を掻いた

「ふぇえええ!ふぇえええ!!」

その苛立ちに追い討ちをかける沙織の鳴き声

「だーーーっ!!;」

抱きついてた阿部を引き離して京助が意味もなく声を上げる

「沙織ちゃんが余計泣くでしょう!」
母ハルミが京助の頭を叩いた
「んなこといったってよッ!!」
それに対して京助が反論すると小さく聞こえてきた歌
「…ラムちゃん…?」
半べそのまま阿部が緊那羅を見ると呟くように緊那羅が歌い始めていた
「…緊那羅…」
緊那羅が歌う歌を聞いているとどうしてか凄くホッとする
泣いていた沙織もいつの間にか泣き止んで眠そうに欠伸をしている

「そうだ…歌!緊那羅!!」

突然京助は緊那羅の両肩を掴んだ
「な…んだっちゃ?;」
ビックリして歌うのをやめた緊那羅が京助を見る

「えーっと…〜〜〜〜…♪…って曲知らねぇか?」
京助が気を失っているときに何度か聞いた旋律を鼻歌で緊那羅に伝える
「何その曲」
阿部が突っ込んだ

「いいから!知ってるか?」
緊那羅が何かを思い出そうと考えていると母ハルミが京助の歌った旋律を鼻歌で歌った
「母さん…それ…」
京助が母ハルミを見ると母ハルミが微笑んでこう言った

「これはねアンタの父さんがよく歌ってた子守歌」
その母ハルミの言葉で京助の頭の中に蘇ったさっき気を失っている中で見た光景
幼い自分と悠助と母ハルミとそして父親らしき人物と

「ごめん…私はわからないっちゃ;」
緊那羅が申し訳なさそうに言う
「よく覚えてたわねぇ…懐かしいわ」
母ハルミがどこか寂しそうに笑った
「アンタはこの歌沢山聴いたからかしら?悠ちゃんは覚えてないでしょうねぇ…」
母ハルミが言うとハッとして京助は緊那羅を見た
「…京助?」
そしておもむろに緊那羅の胸の辺りに手を置いた

「な…何してンのよッ!!」

阿部の怒鳴り声とともにパァンという小気味いい音が京助の左頬から生まれた

「痛てぇッ!;」

左頬を押さえて京助が叫ぶ
「…京助…何がしたかったんだっちゃ?;」
緊那羅がわけがわからず京助に聞く

「こんなヤツ放っといていこ!ラムちゃん!!」
阿部が立ち上がり緊那羅の腕を引っ張った
「あ…う…ん?;」
阿部に引っ張られて緊那羅が立ち上がりそのまま阿部についていく

「あ!;コラ!ちょいまちっ!!;」
左頬を押さえつつ京助も立ち上がり二人の後を追うように駆け出した
「晩御飯までには悠ちゃん連れて帰ってくるのよ−!?」
母ハルミが叫ぶと京助が後ろ向きのまま手を振った












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