表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おしっこ売りの幼女

作者: 糞虫

「おしっこ、おしっこは要りませんか?」


夏は過ぎ、秋も半ばが過ぎどちらかと言えば、冬の季節になっている街角で幼女が

悲痛な声を上げています。

しかし、誰も彼女の声に耳を傾ける人はいません


「おじさんおしっこはいかがでしょうか?」


会社帰りでしょうか、襟をピンと立てて寒さに耐えて帰る初老の男の人は幼女の声が聞こえないかの

ように通り過ぎます

おしっこ売りの幼女の話を聞いていたら家に帰るのが遅れるからです

それを知ってまた幼女は悲しそうな顔をします

「誰か、誰かおしっこを買ってくれないですか?」

幼女の声は吸い込まれていくように街の中に消えていきます

「寒いなあ、でも頑張らないと」


誰に言うわけでもなく、幼女は自分を励まします

そうでもしないと気が滅入ってしまうからです

しかし、この日は不景気と言うのが関係あるのでしょうか、朝から

おしっこを売っていても、誰一人買ってくれる人はいません

幼女は、難しい字を読めませんけど世間は不景気と言うのを身をもって

理解をしています


「そろそろ、水分補給の時間かあ」


幼女は可愛らしいキャラクターのついている時計を見ました


「寒いけど頑張らないと」


おしっこを売るためには水分がないといけません

なのでおしっこ売りは50分に一度の水分補給が必要なのです


「あったかい紅茶が飲みたいな」


幼女はおばあちゃんが入れてくれる紅茶が大好きでした

しかし、幼女の取り出した水筒には冷たい水しか入っていません

コクリと喉を鳴らして、幼女は水を飲みました


冷たい水を飲むと、体がブルリと震えました

しかし、これは仕事なのです。我慢しないといけません


「おしっこ、おしっこはいりませんか?今ならすぐに出せますよ」


幼女の声は誰も聞こえないように見えます

ですがこれも仕方がない話なのです


なぜかって?それは人々の家にはもう全自動でおしっこをしてくれる幼女が

各家に一人は設置されているからです


金髪ツインテールの幼女が罵りながらおしっこをしたり、内気な本をよむのが好きな

幼女が恥ずかしがりながらおしっこを飲ませてくれるなど、調整できる世の中になった今

ポキャブラリーも貧困でおしっこが出るのが遅い幼女から誰もおしっこを買おうとは

しないのです


世の中は産業化が進んでわざわざ、水を飲んでからおしっこが出るのを待ってくれる酔狂な人は

いなくなったのです

寂しいことですね


人は効率良く自分の欲望を消費させることしか考えていないのです

効率が悪いことを続ける人をあいつは馬鹿だと馬鹿にしてます

ですが、幼女はそんなことは分からないのでおしっこが売れないのは

自分のせいだと思って、頑張ります


「誰か買ってくれませんか?」


幼女は必死です

なぜならおしっこ売りにはノルマがあって、一定の金額に達しなければ、幼女を管理する

親方からひどくぶたれるからです

幼女は殴られるのが嫌いです、ご飯をもらえないことも嫌いです、でも毎回毎回折檻を受けてしまう

自分のことも嫌いなのです


「寒くなってきたな~」


もみじのように小さい手と手を擦り合わせて、幼女は手に息を吐きかけます

息はとても白くて、夜にでもはっきりと見えます

今日はとてもとても寒い晩でした


体が冷えてきました

すると、幼女はおしっこをしたくなってきたのです

先程から我慢していましたが、幼女の小さい膀胱は悲鳴を上げています

幼女はできるだけ人目につかない公園に行っておしっこをすることに決めました


この街ではトイレに入るのにも有料なのです

もちろんお店から借りることもできません

おしっこ売りの幼女が店に入ることは店のイメージダウンにつながるからです


そのためいけないことと知りながら幼女はこっそりと公園の隅で

おしっこをすることにしました


「せっかくの売り物なのに」


幼女はため息をつきました

以前、古いおしっこを飲んだお客さんが食中毒をおこして、保健所から

おしっこ売りの業界に苦情が来て、おしっこは幼女が直接出すものしか販売してはいけない

と決められたのです

世知辛い世の中ですよね


でも社会はこうしないと上手く回らないのです

それが正しいかは別として


隅っこで幼女はゆっくりと無地の白いぱんつを脱ぎます

たって脱ぐとバランスを崩して転んでしまうため幼女は地面にお尻をつけて

寝転がるようにしておパンツを脱ぎました

地面にお尻が触れた瞬間冷たくて、おしっこが出そうになりましたが、幼女の

履いてるパンツは借り物なので汚れたら怒られてしまうのです


幼女の持っているものといったら、昔おばあちゃんが誕生日にくれた時計と水筒

だけなのです

他は何も持っていません

でも幼女は自分はおばあちゃんがくれた時計と水筒があるだけで幸せだと思っていました

しかし、他の裕福な子が見るとあんなばっちいのを良く身につけてるなと笑うかもしれません

それでも、幼女はおばあちゃんがくれたものだから大事に扱っているのです

きっと彼女の心は誰よりも綺麗だと思います


おっと少し話がずれましたね

今ようやく幼女はおぱんつを脱いでしゃがみました

そして、少し震えて、我慢していたのでしょう、黄色のおしっこが大量に地面を叩きます


「ふう、間に合った」


今日はじめて見る幼女の笑顔です

でもそんな笑顔もすぐに消え去ります


「君、こんなところで何をしてるんだ?」


青い帽子を被って暖かそうな外套を着ているお巡りさんです

生真面目そうな顔の上にはきらりと光るワッペンがついています

幼女にとってお巡りさんは怖い存在です


「ご、ごめんなさい!が、がまんできなかったの!」


幼女は謝ります

しかし、おしっこのほうはまだ止まらなく、幼女の声とは裏腹に大きな音を立てて

おしっこをしています

幼女は恥ずかしく思いましたが、これは生理現象なので

幼女の意志では止めることができません


「ここでおしっこをしてはいけないのは知ってるかい?」


お巡りさんは不躾に幼女がおしっこをしているところを睨みながら聞きました


「ごめんなさい!ごめんなさい!許してください!」


悪いことをしたら牢屋に入れられると幼女は知っているので、必死に謝りました


厳しい顔をしたお巡りさんは幼女が必死に謝る姿に胸を打たれたのでしょうか


「もうここでおしっこしちゃダメだよ」


と、優しく言って立ち去りました

お巡りさんも立場の弱い幼女のことを可哀想に思ったのでしょう


「ほっ、たすかったぁ」


幼女は胸を撫で下ろしました

ちょうどおしっこも止まったので幼女はまたおしっこを売ることを決めました


「おしっこいりませんか~?」


幼女は再び声を張り上げます

すると、一人の若いメガネをかけた男の人がやってきました


「おしっこを一つ売ってくれないか?」


メガネをかけた男の人は貧乏だったので、家に全自動でおしっこをしてくれる幼女がいないのです

だから彼は少しでも安い、外にいる幼女からおしっこを買っているクズだったのです


「あ、ありがとうございます!じゃあ6千円です!」


6千円

高いと思う人もいるでしょう

ですが、この場合幼女の手元に残るお金はほんの僅かばかりのものなのです

幼女が帰ったら親方に一度売上金をすべて取られてしまいます

その上で幼女に渡されるのは一日の食費だけ

そう考えたらこの金額設定はけして高いものじゃありません


「6千円か、はい」


手馴れた様子で男は黒い財布からお金を取り出します


「ありがとうございます!じゃ、じゃあちょっと待って下さいね」


そう言うと幼女は水筒から水を飲み始めました

そうです、おしっこはさっきしたばっかりなのでまたおしっこをするのは時間が

かかるのです


「おいおい、まさか今からおしっこを作るんじゃないだろうな」


メガネの男の人は驚いたように声を出しました


「ご、ごめんなさい。さっきおしっこしたばっかりなの……」


幼女は申し訳なさそうに謝りました


「こっちにもいろいろと予定があるんだよ。早くしてくれないと!」


嘘です

本当はこのメガネの男の人は家にかえってインターネットを使ってオナニーをするくらいしか

予定がありません

なのに、幼女が自分よりも弱い立場だと分かると強気に出る、なかなか

香ばしい屑なのです


「……で、でも」


幼女は男の人に怒られて悲しい顔を浮かべました


「そんなことなら他の幼女から買うよ!」


そう言うとメガネの男の人は先程幼女に渡したお金を奪いました


「あっ、そ、そんな……」


「ふん、売買不履行だ」


男の人は偉そうに幼女には良く分からない言葉を言いましたが

男が幼女からお金をとるときどさくさに紛れて幼女のない胸を揉んだ

ひどいやつなのです


「こんなことならさっきおしっこしなかったら良かった」


幼女はけして悪くないのに、自分を責めます

空を見上げると、もうお星様が輝き始めました

お星様は綺麗なのに、幼女の心を明るく灯すことはできませんでした


クリスマスが近いからか街には色とりどりのイルミネーションが輝いています

しかし、どれも幼女にとっては空虚な現実感のないものにしか見えませんでした


そろそろ親方のところに帰らなければなりません

ですが、今帰っても幼女はただぶたれるだけでしょう

そう考えると幼女は帰りたくありませんでした


「誰か買ってくれませんか?」


暗くなり人がだんだんと少なくなってきている中、幼女は悲痛な声を張り上げました

ふと、幼女は歩道を見ると、幼女と同じくらいの年の女の子が

大きな箱を抱えて親と嬉しそうに歩いています

クリスマスプレゼントでしょうか


「良いなあ」


ぼそりと幼女は白い息とともにつぶやきました

しかし、当たり前ですが、誰も幼女の声は聞こえません


ふと冷たいものが幼女の頭に当たったので空を見上げます、雪です

雪が降ってきました


幼女は半分売ることを諦め、ふらふらと街を歩いていました

綺麗な服屋のガラス越しにため息をつき、美味しそうなパン屋さんのガラス越しに

幼女がけして口にすることのできない暖かいパンを想像して口の中によだれを溜めました

街頭のテレビでは何かの法案が可決されたとか幼女には良く分からないニュースが

流れていました


幼女は街の人はみんな幸せそうなのに何故自分だけが不幸なのだろうと

目に涙を浮かべました

ですが、泣いても誰も助けてくれる人はいないので幼女は頑張って目の辺りを

若干古くなった袖でふきました


ふと幼女の肩を叩く人がいました

振り向くとさっきのクズ、いえメガネをかけた男の人でした


「まだ売れてないのか?可哀相だから買ってやるよ」


本当は他に街中にいるおしっこ売りの幼女がいないからですが、男は偉そうに

言いました


「あ、ありがとうございます」


このようなクズに礼を言う事などないのですが、健気な幼女はこれで助かると思って嬉しそうに笑みを

浮かべました


「さっきのことがあるから4千円な」


男はさらりと値下げを要求します。本当は幼女も嫌ですがこのまま何も無いまま帰るよりマシです

そうして、お金を受け取ろうとしたら誰かが声をかけました


「君。そんなところで何をしてるんだ?」


声の方向を見ると先程のお巡りさんでした

メガネをかけた男の人の顔がひきつります


「こ、これは、その、いえ、ただ幼女から尿を買おううとしただけですよ。ドゥフフ」


男はあわてふためきます

一応幼女の尿の売買はグレーゾーンですが、辛うじて認められていました

しかし、お巡りさんの言った言葉は思いもよらない一言でした


「先程、児ポ法が本格的に可決された。たとえ両者が合意していてもこのような取引は違法だ。

だから逮捕させてもらう」


そういえば、幼女は思い出しました

親方が児ポ法のせいでこの業界もやっていけなくなるかもと


男の人はお巡りさんに言われた一言でヒイッと動物が泣くようなか細い声を上げて気絶しました

メガネの男の人はかなり気が弱いようです


「おまわりさん、わたしも逮捕されるの?」

幼女はビクビクしながら聞きました

ですが、お巡りさんはニコリと笑って答えます


「これは君のような立場の弱い子を守るための法律なんだ。だからそんなに怯えなくて良い」


そう言うと気絶した男の人を抱えてお巡りさんはどこかに行きました

きっとあの男の人は牢屋に入れられるのでしょう


「あ、そういえばお金をもらっていない……」


幼女は悲しくつぶやきました

先程お巡りさんが幼女のような立場の弱い子を守ってくれる法律ができたと言いましたが、幼女にとっては

大きなお世話です

むしろ商売ができなくなる、いえ、クビになるかもしれません

幼女は明日からどうしようかと悩みました


ですが、答えは出ませんふと幼女は街頭のテレビを見るとアグネスとかいう女が偉そうに

子供の権利について語っていました

そして、この法案が可決されると子供は幸せになるとも言っていました


ですが、幼女はこれっぽっちも幸せではありませんでした


雪がだんだん強くなってきました

幼女の体が冷えてきます

どうやらさっき飲んだ水が効いたのでしょうか、再びおしっこをしたくなりました


「どうせ、売れないからもう良いや」


幼女は裏路地のあたりでゆっくりとしゃがみました

そして、おしっこを手にかけて凍えていた手を温めたのです


「あったかいな……」


幼女はふと昔、おばあちゃんが手を握ってくれたのを思い出しました

おばあちゃんは暖かく、幼女が寒いと言うといつも手で温めてくれたのです


「……あのころに戻れたらいいのに」


雪がますます吹雪いてきます

幼女は眠くなってきました

動くのも億劫になったのでそばにあったゴミ箱に頭を傾け、目をつぶりました


ふと、どこからかクリスマスのメロディーが流れてきます

今度目を開けたら、幸せだったあの頃に戻れますようにと幼女はこころの中でお願いをしました

その願いが叶えられるかは知りませんが、これ以上幼女に辛い現実はないでしょう

なぜならもう幼女は目覚めることがないのですから


翌日レストランの仕出しの人がゴミ箱にゴミを捨てようとしたら、幼女が眠っているように死んでいるのを

見つけました

この時期は浮浪者が良く死んでいるので、仕出しの人はあまり驚きませんでした

ですが、仕出しの人が不思議に思ったのは幼女にはうっすらと雪が積もっているのに、幼女の足元には

雪が一つもないことでした


そういえば昨日はクリスマスだったからもしかしてクリスマスの奇跡と言うやつなのかな?

と、仕出しの人はロマンチックなことを考えましたが、そういえばまだ朝の仕出しが終わっていないことに

気づいて、慌てて店の中に入りました

別にこの人が冷たいということじゃないのです、人はいつも自分のことで精一杯なのですから

ある意味しょうがないのです


幼女はうっすらと微笑んでいて、まるで幸せな夢を見ているように見えました

きっと幼女は最後は少しだけ幸せだったのでしょう


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 祁答院さんについて調べてたら出たので読んだのですが、なんでこんなにどうしようもないんですか……。どうしようもなく酷いものなのに、内容が元並みに暗く冷たくどうしようもないんですが。
[一言] 切ねぇ………
[良い点] 社会の問題を取り上げた良作です。 誰かが正しいと思ったことが、誰かを救うとはかぎらない。そんなことを考えさせられました。
2015/11/13 04:46 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ