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写真と月

作者:ピノ
月が綺麗ですね。
よろしくお願いします。
頭の上の方で携帯のアラームがけたたましく鳴る。
まだ、半分眠っている意識をなんとか稼働させて、携帯をとりアラームを切る。
時刻は午前0時。
部屋は暗く、近くのものもよく目をこらさなければ見えない。
こんな時間になんで、アラームなんてセットしたんだっけ?
そう思っていると、携帯がまた鳴り出す。
画面には、「朝霞葉月」とでている。
葉月は、隣の家に住む幼なじみで、まだ記憶が曖昧な頃からつき合いのある妹のようなやつだ。
だけど、こんな時間に電話があるのは一度もない。
そういえばなにか忘れているような、まだ寝ぼけた頭のまま電話にでる。
「佑樹、今どこにいるの?」
「今?部屋だけど、どうかしたか?なにかあったのか?」
「なにかあったのか?じゃないでしょう!!あんたが、今日の放課後に手伝ってくれって、呼び出したでしょうが!早くこい!」
そう言って電話が切れた。
放課後?約束?
寝ぼけていた頭が、ようやく目が覚めて思い出す。
そういえば、今月念願の一眼レフを買って、そのカメラで月をバックに人物を撮りたいから葉月にモデルを頼んでいたのだ。
僕は急いで、支度をして机の上に置いってあったカメラと折り畳み式の脚立、文庫本、オーディオを鞄に詰めて家をでた。
家の庭に置いてある自転車を引っ張りだして、学校へ向けて走り出すと秋の冷たい風が僕にうちつける。
学校へ野道のりは普段は車や人にあふれてにぎやかだけど、この時間になるとまったく人の気配がない。
自分が、経験したことない世界
それは、少しの不安はあるけれど、新しいものにあふれていて少し気分が高まってきた。
そんな新しい世界を堪能しながら20分間自転車を漕ぎ、ようやく学校につくと、正門の前には、葉月がいた。
小動物のような小さい体に厚手のコートとピンクのマフラーと手袋、頭には茶色い帽子をかぶっている。
葉月は、僕をみつけると満面の笑みを浮かべ出迎えてくれた。
ただその笑顔には、僕に会えたうれしさとかじゃなくて「よくもこんな寒い中ずっと待たせてくれたわね」という怒りがひしひしと伝わってくる笑みだ。
「や、やあ、葉月」
「ゆ~う~き?なにか言うことがあるよね?」
やばい、これは相当怒っている。
葉月のおじいちゃんは、柔術の道場を経営していて、葉月もその道場に通っている。
その腕前はそのおじいちゃんをしのぐほどで、先月もバイト先の喫茶店で、態度の悪いチンピラ3人を絞めあげて、街の新聞に載ったほどだ。
このままだと明日の朝僕の机には、水差しに差さった一輪の花が置かれかねない。
僕は、自転車止め土下座した。
「申し訳ございません!葉月様!!」
「き~こ~え~な~い~な~」
屈辱だ。
だが、悪いのは自分だ。
今月は厳しいのだが、仕方ない。
「お詫びに堂のいちごパフェおごるから!許してください!」
「堂のジャンボイチゴパフェが食べたいなぁ~」
くそ、足下みやがって!ジャンボパフェってたしか千円近くするやつじゃないか!
しかも葉月のやつクラスの女子とダイエットがどうのこうのって話してなかったか?
だが、ここで嫌なんていったら、写真は撮れないどころか命の危険性がある。
「わかった!ジャンボパフェおごらせていただきます!」
「本当?やったー!」
命の危機は回避できたものの子供ように喜ぶ葉月をみながら、今月の痛い失費に軽い絶望を味あう僕だった。

「で、なんでこんな時間に写真を撮るの?」
なぜか開いていた正門から学校に進入した僕らは校庭の真ん中にいた。
僕は、写真の準備ため鞄からいろいろ出し準備していて、葉月はそれを眺めていた。
「今回の写真は、月をバックに人を撮りたかったんだけど、うちの学校って9時頃まで野球部とかサッカー部が練習してるじゃん?そうなると校庭をまるまる使えるのは誰もいないこの時間ってわけ。あと、夜中だと空気が澄んでるから綺麗にとれるんだよね。」
「ふーん」
葉月が関心なさそうに相槌をうち会話が途切れる。
微妙な雰囲気が流れる。
しばらく僕は、もくもくと作業をして、葉月はそれを眺めたけど、やがてその空気に耐えられなくなったのかまた葉月が僕に話しかけた。
「ねぇじゃあなんで月をバックに人を撮るなんて考えたの?しかもモデルが私って?佑樹の部活にも女の子の後輩だっているじゃん?」
「うーん、こないだインターネットで、この街出身の画家で九条幸っていう人が描いた絵をみたんだけどそれが月夜の海を白いワンピースを着た女性が眺めてる光景だったんだ。それがすごく綺麗で、写真でもこんな光景とれないかなって思ってさ。ただ、後輩にこんな遅くの時間にモデルになってくれなんて頼めないし、葉月なら何度もモデルになってくれたし、昔からのつき合いだから受けてくれるかなって思ってさ」
僕は、カメラをのぞきながら葉月の質問に答えた。
ただ、その答えには半分嘘がある。
遅刻した理由も実はそれが原因だったりするけど、まだいえない。
そんな僕の嘘を知らない葉月はやっぱり関心無さそうに相槌をうち、「ねぇ暇だからそこにある文庫本でも読んでいい?」といって僕が持ってきた文庫本を読み始めた。
それから十数分たって、ようやく準備ができた。
「じゃあ葉月。帽子取って、月をバックにそこに立って」
そういうと葉月は、文庫本を閉じて、僕が指示した場所に立つ。
校庭の東側。校舎と平行の位置に立つ葉月。
学校の東側は駐車場になっていて、バックにはなにもない。
上空には綺麗な満月が、まるで太陽のように白く輝いていた。
一枚目のシャッターを切る。
デジタルだからすぐ撮ったものを見られる。
やっぱり夜の撮影となると難しい。
光がほとんどないためなにが写っているのかわかりにくい。
光のはいり具合を調節して二枚目、三枚目とシャッターを切っていく。
なかなか納得いく。
写真が撮れない。
やっぱりあの絵のような写真は撮れないのか?
写真じゃあ、あの感覚は出せないのか?
僕じゃあ無理なのか?
そう思ったとき、葉月が僕をみて綺麗な笑みを浮かべ言った。
「月が綺麗ですね」
そのときの葉月はすごく綺麗だった。
僕の心の中のなか深くにずっと奥にゆっくりと刻み込まれるようなそんな数秒だった。
僕の意識は一瞬止まって、やがてゆっくりとひく波のように戻っていき、慌ててシャッターを切った。
そのときの写真はすぐに確認はしなかったけど、僕はその写真がうまくとれているそう不思議と感じた。

「ふー、疲れたーねぇ、佑樹帰りコンビニでも行こう」
午前一時。
葉月が、歩いて学校に来たので僕もそれにあわて自転車をひいて学校から自宅へむかう。
隣を歩く葉月はいつもの葉月だ。
そして、僕もいつもの僕。
だけど、二人の距離は少し変わった気がした。
「なぁ葉月」
「なに佑樹」
僕は、心の奥にあった思いを口にした。
「月、綺麗だな」
僕がそういうと、葉月は、僕の腕に抱きついた。
腕から葉月の体温が伝わる
「うん、綺麗だね。」
葉月は笑いながら言った。
僕らの上には白い月が暗い夜空を優しく照らしていた。

その次の日。
「こら、佑樹早くしないと遅刻するよ」
朝起きて、ゆっくり支度をしていると葉月が僕を迎えに来た。
こんなことは小学校以来のことだったと思う。
「昨日は、遅かったし・・・・・・今日はゆっくりしたっていいじゃないかよ
「じゃあ、まずは小指からいってみる?」
「・・・すぐに着替えます」
朝から物騒な会話をしながら学校へ行く支度をして家を出る。
「ねぇ昨日のことだけど。」
自宅から数分歩くとそれまで無言だった葉月が口を開く。
「実言うと私も佑樹が言った九条幸さんの絵みたことあるんだよね。私と幸さん遠い親戚で展覧会とかチケットもたまにもらうし」
なんだって?
じゃああの絵のタイトルも知っているのか?
一気に体中の体温が上がる。
「佑樹が昨日持っていた本も夏目漱石の解説本だし気づかない方がおかしいよ」
葉月はおかしそうに笑う。
なんだよ。全部ばれていたのかよ。
それじゃあ俺が、葉月に片思いしていたこともばれだったのか・・・・・・
埋まりたい、穴があったら埋まりたい。
「モデルがよかったから昨日の写真よくとれたと思うし、ご褒美どうしようかなー」
葉月は、おもちゃを見つけた猫のように笑みを浮かべる。
あーもうばれているならどうにでもなれだ。
「葉月!」
僕は足を止め、隣にいる葉月にいった
「大好きだ!」
そういうと葉月は昨日月を背に浮かべた笑みで僕に言った。
「私もだよ。佑樹!」
お久しぶりです。
今回で、5作目です。
よろしくお願いします。

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