表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

赤い馬のサプライズ



…恐い。



今、坂田真樹の目の前にある箱の中身は、

お店に飾る為に買って来たモノだった。

新装開店前の、最後の仕上げで買ってきたモノを早速、飾るつもりだったのに。


さっき買って来て置いていた箱を、自分のお店のフロア席で開けようとしたら、

何やらガタガタと音が聞こえて来て、

あまりの恐怖に開けようとしていた手を止め、その場から離れた。

あまりにも突然な事だった為、思わず仕事用に着けていたパティシェの服の裾で

危うくコケそうになる。


クリスマスの月に…こんな怖いサプライズなんて、

ハッキリ言ってサンタクロースから貰ったとしても

こんな感じのサプライズは心臓にキツイ…めちゃくちゃ悪すぎる。


(俺…何買ったんだっけ?)


本当に何を買ったか、本気で頭の中をグルグル検索してみる。

確か…家の近くの駅前の、友人の店から勧められて買ったんだっけ?

否、あの店はオモチャ屋だ。こんなに動く…そうじゃなくて!

生きものを買った記憶は本当に無いに等しい。


それに買った箱の中身は、小さい子がお馬さんゴッコとかで遊ぶような


ゴム製のやや大きな馬のオモチャな筈で。

そう悩む坂田が買ったモノは、丸っこい形と原色の色に愛くるしい顔に人気があるらしく、

大人でもインテリアで買う人も居て、自分のお店の飾りモノに良いと思った坂田も…

赤色の馬のオモチャを購入したその一人だった。


(これ、確か中に空気を入れて遊ぶものだったような…もしかして電動式のヤツもあるのか?)


考えれば考える程、こんがらがう記憶に坂田が頭を抱えていたその時…

さっきまでうるさかった箱がピタっと大人しくなった。

いきなり静かになった箱を、震える手で坂田は恐る恐る…箱を開いて見る。と…


「…どうしてスグに出さねーんだよ」


赤い馬のオモチャの代わりに、箱に入っていたのは。

赤い馬ようなのきぐるみを着た幼い2.3歳位の男の子が坂田を睨んでいた。

怒ってプくっと膨らませたその頬にはピエロが描くような大きい赤いハートが一つ。

怒っている(らしい)が、迫力もないその表情が

逆に余計に可愛さを増している気がするのは坂田の気の所為か。


(…誰だ?この子??)


男の子の姿に目が点になる坂田をよそに、その子供は続けて喋る。


「あのなぁー。買ったら早く自由にさせてあげるのが飼い主ってもんだろ?以外と暑いんだよこの中」


首に黄色いスカーフを巻いた子供はムスッと不機嫌そうな顔で驚き顔の坂田を見ている。


(飼い…主…?)


幼い子供にしては、喋り方がやや子供っぽくない口調だった。


そんな驚いている坂田の視線を不思議そうに思ったのか、目の前の坂田に問う。


「そんな驚いてる顔してるって…ひょっとして、俺の事…見えてる?」

「見えてるも何も…一体いつの間に、この箱に入ったんだ…?」


そんな坂田の問いに、赤い着ぐるみの男の子は唐突に話す。


「ああ…たぶん驚くかもしれないけど…俺、オモチャの精な訳。さっき買ってくれた赤い馬、あれ俺なんだ」

「…へ?」


急に分けの分からない事を言い出し始めた男の子に、坂田は間の抜けるように問うた。


「だーかーらぁ!!…じゃあ、俺の耳と頬っぺた触ってみて」


子供がそう、頭のフードについている馬の耳を自分の頬を指して坂田に触る事を勧めた。


「耳…って、ここってフードじゃ?」

「良いから、これ触ってみて」


子供の言うとおりに試しに軽―く、きぐるみの耳部分を摘んでみる。


むに。むに。


(…あれ?)


フードの耳部分は厚めの布地だと思っていたのが、

触ってみると意外と硬くて掴んだ感触がゴムみたいだった。

どうしてだろう。見た目は繊維があって布地みたいなのに。

訳の分からないまま…次に、頬っぺたをおもむろに突っついてみる。


むに。


見た目は人の肌なのに頬はまるで…ゴムみたいな弾力感。


(…あれ?これって、まるで…)


…触った耳部分と感触が全く同じ。


ん?チョット待て。

こいつ、人間じゃ…ない?


坂田の頭の中でその疑問が過ぎった数秒の間の後。



「うわぁぁぁ!離れろっ!!」


背中が一瞬で寒くなり、青ざめた坂田はそのまま投げ飛ばしたものの、

投げた勢いが良かったのか、体がゴム状だからそうなのか。

そのまま跳ね返った反動で男の子に頭から頭突きを食らって、坂田はそのまま顔面から激突を食らった。


「痛って!投げ飛ばすなって!」


意外と硬い部分に当ったらしく、激痛を堪え、真っ赤になった鼻をさすりながら坂田はその子供を見た。


「って、だって…お前」


慌てて口調が早くなる坂田に、子供は不思議そうに首を傾げる。



「でも珍しいなぁ。俺が見えるヤツって殆ど子供な筈なんだけど…」

「じゃあ、大人な俺は何故俺は見えるの?」

「さー?」


そう、オモチャのらしいの子供も首を傾げたままだ。


…どうしたら良いものか。


変なモノを買ってしまった事に混乱する坂田の頭の中に、

突然、あの…一軒のお店が浮かんできた。


(…あ…もしかしたら、あの店なら!!)


何を思ったのか…坂田は突然男の子を腕に抱え、何も考えないまま慌てて家を飛び出すと

暴れるその子を連れ、仕事着のまま、店に止めていた自転車にも乗らずに、

自称・オモチャの精を買った(?)おもちゃ屋へ走って行った。


その同時刻。別のお店の時計はお昼頃を回っていた。


「ありがとうございましたー!」


一組の親子連れが帰って行き、一段落付いてお店の店員が時計を見上げると…


(…あ。)


予想以上に時間が過ぎていた事に客の対応をしていた男が気付く。


(今日は午後から新しいオモチャの入荷だし。うーん…しょうがない…か)


ご飯を食べに行こうと考えていたものの、予定の時間に間に合いそうにもない…と、

レジの横にあった出前用のチラシを取り出して眺めていたその時

突然、勢いもプラスしてか、いつもより騒がしく開いたドアのベルが大きく鳴った。


「な…永野っ!!」


血相を変えた目の前の友人の形相に、オモチャ店の店長・永野がレジの前で不思議そうに傾げた。


「どうしたの?そんなに慌てて。もしかしてさっき買った物に何か…」


「お、お前…これ、見える?」


抱き上げて目の前に差し出されたその子をまじまじと見つめ…

次に確認するかのように坂田を見た永野は、分かったかのように微笑んだ。


「あぁ。坂田さんにも見えるんだ。この子」


そう、予想もしない言葉が帰って来て、坂田は拍子抜けた。


「え?…この子って?コイツの事?」

「うん。俺も見えるよ。そんなに慌てないでも大丈夫。それに……出ておいで?」


そう、店の向こうから声を掛けた永野に呼ばれて出てきたのは…

黄色の馬の着ぐるみを来た小さい男の子が一人、ひょっこり顔だけ覗かせてコッチをみていた。


「あ……」


その男の子と目が合って、坂田は思わず口が開く。


「…じゅき、おいで。大丈夫。この人も、じゅきの事チャント動いて見えてるから」


その永野の声に安心したかのように男の子…じゅきは、トコトコと二人の所へやって来たかと思えば、

近くまで来ると恥ずかしそうに永野の後ろに隠れ、坂田を見上げているその仕草が

本当に人間子供みたいだった。


「こら。隠れてちゃ駄目でしょ?挨拶しなきゃ。ね?」


恥ずかしがっている様子に永野は優しく声を掛ける。


「…こ、こんにちはぁ…」


坂田に挨拶をしているつもりなのだろう。

ますます照れて赤いリンゴのようなホッペになる頬に坂田はしゃがんでそのじゅきに微笑んだ。


「こんにちは。」


その坂田の笑みに安心したらしく…照れているも、じゅきは坂田に笑み返う後ろで、永野が言葉を付け足す。


「じゅき、この人の名前は…まーくんって言うんだよ」

「ばっ…お前、そんな名前で教えるなよ!」

「え?あだ名も名前でしょ?その方がこの子も覚えやすいかなって思って……ん?じゅき、この子と遊びたいの?」


ふと。じゅきはレジ台に居た、自分と同じ子に気付いたのか…

永野のズボンを引っ張り目で訴えかけていた。


「分かった。向こうで遊んでおいで?」

「…おん。」


永野にそう頷くや、坂田にレジから降ろされたその赤い子を連れて、

じゅきは向こうの部屋に向かって言った。


「あの子…じゅきって言うんだ?」

「そうみたい。あの子が自分でね、そう言ってた」


永野そう、思い出すように言葉を続ける。


「俺も、最初じゅきに見えた時は、正直驚いたよ。だってオモチャの姿が変わっててオマケに喋ってるんだもの。

多分、この子達は他の人達から見たら、普通の馬のオモチャに見えるみたいだね。

他の馬のオモチャ達には何も起きないのに、まれに居るんだろうね。こういう子みたいなの」

「…見える俺達も良くわかんないけどな」


おもちゃ屋で小さい時から過ごしている永野が

あの小さい2人を見えるだろうと言うのは少し納得が行くが、

ここ数十年オモチャを買った事の無い自分が見える事が坂田には未だに理由が分からなかった。


「そう言えば、坂田さんが連れて来たあの赤い子の名前って聞いた?コウって言うんだけど」

「あいつ、コウ…って言うのか」

「うん。あの子ずっと前からこの店に居るんだけどね、なかなか買って貰える人が居なくってさ…」


赤色なら子供なら好きってコ、結構居そうなんだけどね…と、永野がそう溜息付く。


「そしたら、今日坂田さんがこのお店で、あの馬のオモチャコーナーにずっと見てたでしょ?」

「あぁ。店の飾りに遠くからでも見える目立つ奴が欲しかったんだよ。ケーキ屋って意外と似たような店って多いからさ」

「その時に、コウも坂田さんの様子を見ててさ、気付いて欲しくてわざと坂田さんの所で棚から落ちたんだよ」

「そうか…あの時か…」


何の色を買おうか選んでいた時に、

近くの棚から赤い馬のオモチャが落ちたのを坂田は、ふと思い出す。

落ちたその赤い馬を拾った時から…何故か分からないが、

こいつが良いかな…?と、そのまま購入したのだった。


「でもどうして…俺はアイツが見えるんだ?」

「分からない。俺も最初、坂田さんが…コウを見えるなんて思ってなかったし。

…あれかな?動物に好かれ易い人みたいに、坂田さんはオモチャに好かれる人なんじゃないの?」

「それって…生き物とオモチャじゃ違うんじゃ…?」


坂田がそう永野に呟く所に、突然、お店の電話が一件鳴り、

永野は店長モードで電話の応対を始める。


「はい、トイ・サリーNAGANOです…あ。井原?何?」


永野の応対に名前を聞いた坂田もその声の主に気付く。

そんな電話の向こうの井原の声は、そのおもむろに確認するかのように永野に聞いていた。


「ねぇ…こう言うの、自分でもおかしいと思うんだけど…

永野君の所で買ったオレンジの馬のオモチャってさ…あれってもしかして動いたり喋ったり…する?」


その声の主に永野は苦笑して受話器口を塞ぎ、「…もう一人、居たみたい」と、坂田に微笑む。


「井原、その子連れてココに来て。うん。大丈夫、皆にはその子の事分からないから。

…うん、じゃあ詳しい事は後でね」


「井原も…もしかして俺と同じ奴、買って行った…とか?」

「そう。井原も、昨日じゅき達と同じ子を買って行ったんだ。

多分、さっきの坂田さん見たいに急いでコッチの向かって来ると思うよ?」


苦笑混じりに話す永野の言葉に、急いで掛けてくる井原が想像出来て、坂田もつられて笑った。


「…そうだ!坂田さん、丁度良かった。昼ご飯…作ってくれない?丁度エプロン着てるし」

「ええっ!?何で俺が…」


突然、永野からご飯の依頼を受け、坂田は戸惑う。

そう言えば、仕事着のままでココへ来ていたのをスッカリと忘れていた。


「だって坂田さんの所為で、ランチタイムの限定の出前時間とっくに終わっちゃったし、

…材料は少ししか無いけど数人分のオムライス位は作れる筈だから」


さらり。と、そう坂田に注文する永野に、

いつの間にか向こうの部屋で遊んでいた…コウとじゅきが戻って来ていた。


「オムライスって、なぁに?」


単語の意味が分からず、じゅきが永野に問いかける。


「美味しいものだよ。特に坂田さんが作るのはとびきりね♪今から作ってくれるんだ。

…あ。オムライスは子供用に2つもね?」

「子供用って…こいつ等ゴムだろ?それにおもちゃは人の食べ物なんか食わないだろ?」


坂田がそんなツッコミをするも、永野からオムライスの意味を知った2人の目はキラキラ輝いている。


「オムライスたべたいー!!!」

「じゅきも…まーくんの、オムライスたべたいー!!!」


駄々をこねられ…足元でしがみ付くようにひっつき虫をしている2人のオモチャの精に

いつの間にか、じゅきには可愛らしい呼び名に言われている坂田に永野が続けて問うた。


「あ。この子達は例外。食べる事が出来るみたいだから、あげるなら一応ゴムだから出来るだけ冷ましてあげてね」


もう、永野の中でのお昼ご飯は“坂田のオムライス”で、決定事項らしく、

オマケに小さい2人にもせがまれ、トドメのコレはもうお手上げだ。


「しょうがねぇなー。もう店の準備は一応出来てるしな。んじゃあ奥のキッチン借りるぞ」


「わーぃ!!まーくん、ありがとっ!!」

「やったぁ~!!!オムライスだぁ!!」


オムライス♪オムライス♪と、両手を繋いで回る2人のオムライスコールがお店に流れていると、


お店のドアのベルが鳴るのと同時に、また一人おもちゃ屋にやって来ていた。


「なっ、永野くん居る~?大変なのっ!…って、あれ?」


走って来たのか、早口の口調になっていたものの…


店内に居る坂田と2人の小さい子を見た声の主…井原は目が驚いてやや大きくなる。


「坂田さん?今日って開店の準備じゃ…?それに…この子達って…もしかして…」


その井原が抱いていた腕の中には…コウと、じゅきと同じ姿のオレンジ色の小さい着ぐるみの男の子が一人。


最初に来た坂田と同じ表情をしているそんな井原に永野が答えた。





「多分…井原が今思ってる事って、100%当ってると思うよ?」





これから……賑やかな事になりそうだ。


今から調理に使う卵の数と今後の事を少しだけ心配しながら、坂田はキッチンへ入って行った。





おわり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ