霊感0
「やだー、こわ~い」
とある廃墟にて、懐中電灯を片手にいちゃついているカップルが一組いた。
彼女の方は肩まである髪を茶色に染め上げ、これでもかという程つけまつげを装着している。
更に訳のわからない英語をプリントされた黒いノースリーブにホットパンツ、という露出度の高い服を着ていて「ギャル」と言う言葉がピッタリ当てはまる女だ。
きゃあきゃあと黄色い声をあげて騒ぐ彼女と比べて、彼氏の方は無表情で淡々は廃墟の中を進んでいた。
邪魔にならないぐらいに切られた焦げ茶色の髪、一重の大きくも小さくもない目、少し筋の通った鼻、極普通の青年だ。
両者は正に正反対な容姿をしている。
「何もでないなあ…」
「恭平~何か後ろから聞こえるんだけど…」
「?」
彼女にぐいぐいと服の袖を引っ張られて後ろを振り返ると、鎌を持った髪の長い女が荒い息をしながら、廊下を這ってカップルの方へと近づいていた。
『憎い……リア充めが…』
ざかざかと女郎ぐもの様な動きで近づく女は、眼球の無くなった黒い空洞から血の涙を流し、憎々しそうに呟いた。
「ギッ、ギャアアアアァアァア!!」
彼女は彼氏にしがみついて、化粧で塗装された顔を思いっきり歪ませて叫んだ。
「ななな何あれ! 早く逃げよ!」
「ラップ音か」
「えっ」
『えっ』
彼氏は後ろに迫ってくる女の地縛霊を無視して、再び長い廊下を歩き始めた。
女の地縛霊は『リア充爆発しろ…』と言いながら、空中へ霧のように霧散し、彼女は二回程後ろを振り返ってから彼氏を追いかけた。
「ここら辺で鎌持った霊がでるはず…」
「いや、もう出たよ…」
スマフォを取り出して、呑気に心霊スポット情報を見る彼氏に呆れたように言った。
『恨めしや……恨めしや…』
「ひっ!」
二人でスマフォを覗き見ていると、すぐ横の壁から人間の顔がいくつも浮かび上がってきた。
どれも苦しそうに眉を寄せたり、口を大きく開けて何か唸ったりしている。
更に廊下の扉という扉からゆらゆらと揺れながら、青白い人魂が大量に出てきた。
「イヤアアァアアア!」
彼女は化粧が剥げ落ちんばかりに口を大きく開け、顔を青くさせて廃墟の外にまで聞こえる位の叫び声をあげた。
人魂が二人の周りをぐるぐる回っているうちに、床の廃材の隙間からいくつもの手がすぅっと出てきて、彼氏の足を掴もうとした。
しかし、彼氏は気づく事なくおもむろにポケットから直径10センチ位のカメラを取り出して、足元の手達を撮った。
ピピッと高い機械音が鳴ると共に、一瞬白い光が辺りに包まれる。
すると叫ぶ彼女の足を掴む手は、海辺にいるフナムシに似た早さで廃材の中に消え、人魂はフラフラしながら四方八方へと消えた。
「え?え?」と狼狽する彼女の前を通って彼氏は壁へ近づき、またシャッターを押した。
壁にいた顔の群れはなぜかニカッと満面の笑みを浮かべ、写真を撮り終えると満足したようにすうっと消えていった。
「写んないなあ」
撮った写真を確認する彼氏にもう何も言えないらしく、彼女は黙ってついていく事にした。
それから出口につくまで、顔の半分ない男や身体中真っ黒の人の様なものなど、様々な霊が出たが彼氏は一向に気づかないまま、無事に廃墟の外へ脱出することに成功した。
「霊感ないって言ってたけどここまでとは…」
彼女が行くときよりも大分元気のない顔をして言った。
しかしその時、二人の後方の藪からガサガサという音が響いた。
「ま、またぁ?」
いい加減にしてくれと言わんばかりの彼女が苦笑いで彼氏の側へと後ずさった。
一体何が出てくるんだと藪を見ていると、若い青年が二人出てきた。
一方は髪の黒い爽やかな青年、もう一方は眼鏡をかけた茶髪の青年だ。
二人を見て驚いた顔をしている。
「こ、こんばんわ」
爽やかな青年が驚いた顔のまま挨拶をした。つられて彼氏もこんばんわと言ってしまった。
「えーっあのですね、僕ら廃墟探検してて…あの廃墟って何か出ましたか?」
「いや全然出ませんでしたね」
彼氏は質問に対して自信満々で答えた。それを横にいた彼女が聞いて不満な表情になる。
「めちゃめちゃ出ましたよ。この人霊感全く無いんで気づかないんです」
じろりと恨めしそうに彼氏を睨み付けながら青年二人に言った。
「そうなんですか……あれ? もしかしてデートの途中でしたか?」
「え?」
青年が気をきかせて去ろうとしながら言うと、彼氏は不思議そうな顔で青年二人を見た。
「…僕一人で来てるんですけど。」