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ケンプファー
作:弐番



藤四郎


渋谷センター街。
古谷藤四郎はそこで買い物をしていた。
自分にピッタリのサイズを探す。
胸囲が110cmを超えると、さすがに入る服を探すのも一苦労だ。
気に入った柄の服を見つけると
「このXLってありますかね?」
と尋ねる。
たいてい、「すいません、置いてないです。」と言われてしまう。
そしたら、潔くあきらめ、また気に入る柄を探す。
それを繰り返す。
単純な動作、でもそれが好きだった。

買い物を終え、店を出た。
ふと、背中に視線を感じる。
誰かが後ろから着けてくる―そんな気がした。
藤四郎はいくらか試す。
早歩きしてみる―後ろの人物も早歩きする
右に曲がってみる―後ろの人物も右に曲がる
間違いない。だれかが着けてきている。
一体だれが、何のために―そう考えていたら
「おい」
と声がかかった。
そこには見たことのある顔がいた。

「てめえ、この間はよくもやってくれたな。」
それは、藤四郎がこの間倒した男だった。
状況的には「倒さざるを得ない」だったのだが、
男にしてみればそんなのは関係ない。
「藤四郎に倒された」という事実だけが残るからだ。
相変わらず、男はヒップホップファッションである。
全く、脳がないのか―藤四郎は考えた。
考えながら、状況を把握する。
人が大勢いる。
大勢が見ている中での戦闘は好ましくない。
いつ警察がやってくるか解からないからである。
つまり、ここは戦闘を避けるべき―そういう結論に達した。

「それは申し訳ない。しかし、自業自得だろ。だから今日は退け。」
藤四郎は落ち着いた声で言った。
なんとか戦闘を避けたかった。
「うっせえ!」
男は怒鳴った。
通りすがりの数人が振り向いた。
あっという間に、見物人のリングが出来上がった。
「今日はな、お前のカラテなんか通じないようにしてやるよ!」
そう言うと、人ごみから出て来た数人が藤四郎を囲んだ。
「どうやら、避けることは出来なさそうだな。」
藤四郎はため息混じりに呟いた。
「やっちまえ!」
それが合図となった。


藤四郎の頭は動いた―

前に一人、後ろに二人。
いずれも体格は中の下くらいか。
しかし、多勢に無勢だな。
まあ、多数対1なら、やることは只一つ。
全員ぶちのめす。
もう二度と僕に歯向かって来ないように、
完膚なきまでに、ぶちのめす。

―考え終わるまでに一秒もかからなかったろう。

前に居た男がパンチの予備動作、いわゆる弓引きをする。
それに合わせて、
「しゃっ!」
と潰した息を吐きながら、藤四郎は前蹴りを繰り出す。
靴の先が、相手の水月にめり込んだ。
水月は、一般に言う「みぞおち」である。
「げぇっ!」
前の男は胃の内容物をぶちまけながら、地面に倒れた。
藤四郎は脚をすばやく引き戻す。
その勢いで、逆脚で後方の一人にローキックを入れる。
強烈なローキックであった。
相手の膝に藤四郎の足首の付け根の部分があたった。
「〜〜〜!!!!!!」
声にならない叫びを上げ、倒れる。
脚が、ありえない方向へ曲がっている。
地面でのたうちまわりながら
「がっ、がっ!」
と激しく息を吐く。熱い息を。
藤四郎は目もくれず、最後の一人を見つた。
男は悲鳴のような叫びを上げながら、藤四郎の腕をとった。
「おきゃぁ!」
背負い投げをしようとする。
柔道の心得でもあるのか―藤四郎は思った。
しかし、投げさせない。
腰を落とし、こらえる。
空いているほうの腕で男の首を絞めた。
変形のチョークスリーパー。
落ちた。
男は膝から崩れ落ちた。

藤四郎は最後の一人、この間の男の方へ歩いていった。
「他愛も無いね。」
藤四郎は笑みを浮かべた。
男が懐から何かを取り出す。
光り物、ナイフだ。
「きぇええええええ」
恐怖で頭がいかれたのか。
男はナイフを腰に構え、藤四郎に向かって走った。
刺し殺すつもりである。
藤四郎は眼を見開き、吼えた。
「この、愚か者がァ!」
藤四郎の脚が天高くあがる。
そして、有り得ない速度で落ちた。
脚は男の顔面を容赦なく叩いた。

踵落とし

通常は頭部を叩く技である。
しかし、藤四郎の場合は自慢の長脚で相手の顔面を叩く。
男は血を吹いて倒れた。
気が静まった藤四郎は辺りを見回す。
見物人が唖然とした顔で見ている。
中には口を手で被っている女性も居た。
皆が藤四郎を見つめていた。
悶絶している男たちを見つめていた。

人ごみから誰かが出て来た。
女。
藤四郎はその女の顔に見覚えがあった。
この間助けた女。
「さすがね、古谷さん。」
女が話しかける。
「立ち話も何ですし、行きましょう?」
藤四郎は笑った。
「そういう事か。」












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