怨憎
手が、震えていた。
椿参賀の手は震えていた。
震えは止まらなかった。
腕が自分のものでないかのような、感覚。
その感覚を抑えながら、兄、参賀の遺書を手に取る。
出来ることなら開きたくは無かった。
夢であって欲しかった。
そっと、開いた。
弟よ。
兄は敗れた。
闘って敗れたのだ。
杉式空手、杉田に敗れた。
天童流のせいではない。
俺の認識の甘さである。
弟よ、堅吾よ。
兄は生き恥を晒したくはない。
このまま自決する。
弟よ。
師匠の言うことだけは守って生きろ。
天童流と共にあれ。
呼吸が激しくなる。
息が出来ない。
出来ない、というよりも呼吸の仕方を忘れてしまった。
眼の前が見えなくなった。
ただ、涙だけが流れていた。
警官に一礼すると、道場に向かった。
泣きながら。
泣いてどうにかなるものではない。
だが、
泣くしかなかった。
門をくぐると、いつものメンツが自主稽古に励んでいた。
堅吾の顔を見るなり、
「どうしたの!?」
と近寄ってきた。
堅吾は泣きながら手紙を差し出した。
内容を読んだものは、そこに立ってなど居られなかった。
地面に突っ伏しながら泣いていた。
声を殺すが、嗚咽は漏れていた。
拳を地面に打ち続けた。
おうおう、
とも
うぅ、
とも取れる声であった。
それは人の出せる最も悲しい声だったのであろうか。
ただ、深い悲しみだけがそこにはあった。
すくり、と堅吾は立ち上がった。
涙はもう出なかった。
師匠の部屋に走った。
「師匠、失礼します。」
「堅吾、どうしたというのだ。」
「師匠、コレをご覧下さい。」
「これは...」
数回読み直した。
「...」
「師匠...俺は...俺は...」
「堅吾、落ち着け。」
「俺は...倒したいです。」
「誰をだ。」
「杉田...杉式空手の杉田を。」
「何故だ。敵討ちか。」
「違います。」
「じゃあ何故だ。」
「...。」
「何故だ。」
堅吾は大きく息を吸った。
吐いた。
もう一回吸う。
「それが俺の運命だからです。」
「堅吾...」
「兄貴は杉式空手に殺されました。それとは関係ないのです。
ただ、天童流を試したいのです。」
「杉式空手はその相手に過ぎないと?」
「はい。」
「分かった。」
「師匠、俺を鍛えなおしてください。」
「そうか。ならお前に授けるものがある。」
「はい。」
「奥義、彼岸花。」
「彼岸花...」 |