ケンプファー(1/22)縦書き表示RDF


ケンプファー
作:弐番



プロローグ


空を、雲ひとつない青空を眺めている青年が一人。
都会の真ん中、代々木公園でただひたすら空を見る。
7月、夏であった。
寝転がりながら、飽きることもなく。
雲を見るのが仕事―そう言わんばかりの青年であった。
青年の名は古谷藤四郎。
優しい顔に、たくましい体つきがなんともアンバランスであった。
しかし、それこそが彼の魅力である、そうとも思えてしまうのであった。


「いけね。空ばかり見てたら日が暮れちまった。」
藤四郎はそう呟くと、起き上がり、小走りで公園の出口へ向かった。
「教授、怒ってるかな。いや、どうだろう。」
独り言ばかり呟く。呟きながらも走る。その姿は少し、滑稽であった。
しかし、その行為には相当の肺活量を要した。
藤四郎の肉体は、そこまで鍛え抜かれていたのだった。

どれくらい走った頃か。不意にどこからか、
「助けて!」
という女性の叫び声が聞こえた。
藤四郎は声の方向に全力で駆けた。
「助けて!」と、再び悲鳴がする。
なんて面倒な―と、悠長に考えながらも足だけはすさまじく動いていた。

声の方向に着いた。
街頭の下で男が女と揉めあっている―としか分からない。
藤四郎の存在に気がついたのか、女は駆け寄り、潤んだ声で
「お願いです、助けて下さい。」
と言った。
はっとするような美しい顔立ちの女であった。
長い黒髪に白い肌。
グランドピアノのような美しさであった。
旋律の奏でのような美しさ。

しかしその旋律はたった今出来たばかりであろう痣が崩した。
「大丈夫ですか。」
藤四郎が女に向かって話しかけると、
「誰だてめえは!すっこんでろ!」
と、男は怒鳴った。

藤四郎は渾身の『優しい声』で
「どういうワケか知らないが、殴ることは無いだろ。」
と、語りかけた。
だが、藤四郎の苦労も虚しく
「関係ねえっつってんだろ!」
と男が叫んだ。
「ぶっ殺してやる!」
間髪居れず、男は藤四郎に殴りかかった。

女は両手で目をおおった。
音が聞こえた。
ゴツン−という固いもの同士がぶつかる音。
恐る恐る手をずらしてみる。
男が一人立っていた。
藤四郎が立っていた。
息も切らさずに、平然と藤四郎が立っていた。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




TOP | NEXT


小説家になろう